エ・ランテル ― 行政会議
王国とナザリック魔導国との国境画定が決まった今、残る最大の問題は一つだった。
エ・ランテルとカルネ村の行政権をどうするのか。
そのための会議が、エ・ランテル行政庁で開かれていた。
出席者は都市長パナソレイをはじめ、
冒険者ギルド長アインザック、
商業ギルド長、
職人ギルド長、
魔術師組合代表など、市を代表する面々。
そして特別顧問として、英雄モモンも席についていた。
重苦しい空気の中、都市長パナソレイが口を開く。
「私としては……。」
「エ・ランテルはどちらにも属さない立場にしたい。」
その一言に室内が静まり返る。
アインザックが腕を組む。
「つまり、独立都市ということですかな。」
「それが理想です。」
パナソレイは静かにうなずく。
「王国にも魔導国にも属さず、中立都市として存続する。」
「住民にとっても、それが一番混乱は少ないでしょう。」
しばらく沈黙が流れる。
やがてモモンが落ち着いた声で言った。
「……それは難しい。」
全員の視線が英雄へ集まる。
「両国とも、この地を戦略上重要な都市と考えている。」
「完全な独立は、おそらく認められないだろう。」
「ここは両属と言う立場しかあるまい」
「行政はエ・ランテル自治政府が行う。」
「外交や防衛については、双方と協議する。」
商業ギルド長が目を丸くする。
「つまり……。」
「どちらにも良い顔をする、と。」
モモンは小さく笑った。
「まあ、そういうことだ。」
再び沈黙。
この案なら、少なくとも戦争の火種にはなりにくい。
誰もがその可能性を考え始める。
「うむ……。」
パナソレイは腕を組み、ゆっくりとうなずいた。
「悪くありませんな。」
「最初の交渉条件として持ち出す価値はありそうです。」
アインザックも同意する。
「もし双方が拒否したなら、その時に次の案を考えればよい。」
「まずは交渉。」
「それが先ですな。」
窓の外では、平穏なエ・ランテルの街並みが広がっていた。
だが数日後、この街は王国と魔導国の命運を左右する外交交渉の舞台となるのであった。
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カルネ村 ― 村人総会
武蔵がナザリックから戻った翌日。
カルネ村では、村人全員を集めた総会が開かれていた。
広場には村人たちだけでなく、ゴブリンたち、ンフィーレア、リイジー、クレマンティーヌの姿もある。
村の中央に立った武蔵が静かに口を開いた。
「さて。」
「王国と魔導国の国境は決まった。」
「じゃが、まだ一つ決まっておらぬことがある。」
全員が武蔵へ視線を向ける。
「この村を、誰が治めるかじゃ。」
ざわり、と広場が静まり返った。
武蔵はエンリを見る。
「エンリ。」
「お主はどう考える。」
突然名前を呼ばれたエンリは少し驚きながらも前へ出た。
「……私たちの立場、ですか。」
武蔵はうなずく。
「そうじゃ。」
「国境を引いた以上、この村がどちらに属するかは重要な話になる。」
エンリはゆっくりと周囲を見回した。
村人たち。
ゴブリンたち。
そしてンフィーレア。
みんな、自分の答えを待っている。
「私は……。」
少し考え、はっきりと言った。
「今まで、この村は私たち自身で守ってきました。」
「王国にも頼らず。」
「自分たちで畑を耕して、家を建てて、村を大きくしてきました。」
「だから、これからも。」
「できれば私たち自身で、この村を治めていきたいです。」
その言葉に、多くの村人がうなずく。
「そうだ。」
「エンリ村長についていく。」
「今までどおりが一番だ。」
賛同の声が広がった。
しかし、その空気に水を差したのはクレマンティーヌだった。
腕を組みながら、現実的な口調で言う。
「理想はそうだけどね。」
「魔導国はどうするの?」
一瞬で場が静かになる。
「村の実力は認めてくれるでしょうけど。」
「国として見れば、勝手に自治していいとは言わないかもしれない。」
エンリも言葉に詰まる。
「それは……。」
少し考えたあと、武蔵を見る。
「武蔵さんがいます。」
「武蔵さんなら、きっと……。」
だが武蔵は静かに首を横へ振った。
「それは無理じゃ。」
「わしは旅人。」
「これから先も、この村にずっとおるわけではない。」
「わし一人を当てにして物事を決めてはならん。」
その言葉は厳しかったが、優しさでもあった。
エンリはうつむく。
クレマンティーヌも真面目な表情になる。
「結局さ。」
「王国と魔導国。」
「その両方と、エンリさん自身が話し合って決めるしかないんじゃない?」
「武蔵さんは助言はできても、村長じゃない。」
「決めるのはエンリさん。」
エンリは黙ったまま拳を握る。
村長として。
一人の人間として。
この村の未来を左右する決断を迫られていた。
「……うーん。」
思わず漏れたその声には、村の命運を背負う重みがにじんでいた。
広場には誰も口を開く者はいない。
カルネ村の未来。
その答えは、まだ誰にも見えていなかった。