武蔵転生記   作:masasoukoku

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第百七回 【続 ラナーにお任せ】

帝都アーウィンタール。

 

謁見の間では、皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスと、帝国に滞在中のラナーが向かい合っていた。

 

ジルクニフはラナーの姿を見ると、少し目を丸くする。

 

「ラナー殿。」

 

「以前より、ふくよかになられましたな。」

 

妊娠してからというもの、ラナーは食欲も増え、頬には健康的な赤みが差していた。

 

肌には艶があり、以前にも増して穏やかな雰囲気をまとっている。

【挿絵表示】

 

 

ラナーはお腹にそっと手を添え、優雅に微笑んだ。

 

「ありがとうございます、陛下。」

 

「おかげさまで、母子ともに健康でございます。」

 

「……う、うむ。」

 

ジルクニフは軽く咳払いをして話題を変える。

 

「本日、そなたを呼んだ理由は分かっておろう。」

 

ラナーはにこりと笑う。

 

「リ・エスティーゼ王国と魔導国の件でございますね。」

 

「そうだ。」

 

皇帝の表情が苦くなる。

 

ラナーは扇子を口元へ当てながら続けた。

 

「本来であれば。」

 

「エ・ランテル割譲を理由として王国へ宣戦布告し、その戦争を利用して帝国が魔導国とより強い関係を築く。」

 

「そのようなお考えだったのでしょう?」

 

ジルクニフは肩を落とした。

 

「……まあ、その通りだ。」

 

「本来なら帝国が先に魔導国と友好を結び。」

 

「王国へ外交的圧力をかけるつもりだった。」

 

苦笑しながら付け加える。

 

「どこぞの人物に邪魔されてしまったがな。」

 

ラナーはくすくすと笑う。

 

「まあ、ご苦労なことですね。」

 

(……お前だ。)

 

心の中だけで全力で突っ込むジルクニフだった。

 

深呼吸を一つして本題へ戻る。

 

「王国に先を越された以上。」

 

「帝国も手をこまねいているわけにはいかぬ。」

 

「どうすればよいと思う。」

 

しかしラナーは、なぜか別の話を始めた。

 

「それはそうと。」

 

「実は最近、新しく家臣を雇い入れまして。」

 

「……ああ。」

 

「例の七人か。」

 

「はい。」

 

ラナーは優雅にうなずく。

 

「国境がエ・ランテルとカルネ村になれば。」

 

「その周辺は王室領。」

 

「当然、魔導国へ引き渡される可能性が高くなります。」

 

「家臣たちの生活もございますので……。」

 

ジルクニフは苦笑した。

 

「分かった。」

 

「七人とも帝国で面倒を見よう。」

 

「住居も領地も用意する。」

 

ラナーは満面の笑みになる。

 

「まあ。」

 

「なんと太っ腹なのでしょう。」

 

「さすが皇帝陛下。」

 

「……まだあるのか。」

 

皇帝は嫌な予感しかしなかった。

 

ラナーは申し訳なさそうな顔を作る。

 

「今日、帝城へ参る際。」

 

「クライムが門で止められてしまいました。」

 

「どうやら一介の騎士では、自由に入城できないようで。」

 

「……ああ。」

 

皇帝は額を押さえる。

 

「分かった。」

 

「クライムには帝国名誉爵位を授けよう。」

 

「これで正式な身分となり、そなたと共に城へ出入りできる。」

 

ラナーは嬉しそうに頭を下げた。

 

「さすが皇帝陛下。」

 

「話が早くて助かります。」

 

「……それで。」

 

ジルクニフは椅子にもたれ直した。

 

「今度こそ、本題だ。」

 

ラナーは優雅に微笑む。

 

「もちろん、承知しております。」

 

「帝国が魔導国と王国の間で後れを取らないためには――」

 

扇子を閉じる。

 

「こうなさればよろしいかと。」

 

そう言ってラナーは、自らの考えを静かに語り始めた。

 

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ラナーは静かに扇子を閉じた。

 

「私の考えは一つです。」

 

「同盟を結ぶこと。」

 

ジルクニフは眉をひそめる。

 

「同盟?」

 

「はい。」

 

「ただし、普通の同盟ではありません。」

 

ラナーは皇帝を真っ直ぐ見つめた。

 

「魔導国を兄。」

 

「帝国を弟とした同盟です。」

 

謁見の間が静まり返る。

 

ジルクニフは苦々しい表情を浮かべた。

 

「……つまり。」

 

「属国になれ、と。」

 

ラナーは小さく首を横に振る。

 

「完全な属国ではございません。」

 

「外交や内政は帝国が行う。」

 

「ですが、対外的には魔導国の庇護を受ける立場になります。」

 

「兄弟国という名目でございます。」

 

皇帝は腕を組み、しばらく考え込む。

 

「結局は頭を下げることになる。」

 

「そうですね。」

 

ラナーはあっさり認めた。

 

「歳費も毎年納めることになるでしょう。」

 

「ある意味では保護料でございます。」

 

「……。」

 

ジルクニフは苦笑した。

 

「プライドは傷つくな。」

 

「ですが。」

 

ラナーは静かに続ける。

 

「帝国は滅びません。」

 

「民も守れます。」

 

「国も残ります。」

 

「今の魔導国を敵に回す利益は、一つもございません。」

 

皇帝は長い沈黙の末、深く息を吐いた。

 

「……仕方ない、か。」

 

「ええ。」

 

「仕方ございません。」

 

ラナーは穏やかに微笑んだ。

 

「勝てぬ相手とは争わず。」

 

「勝てる形で生き残る。」

 

「それもまた、為政者の務めでございます。」

 

ジルクニフは苦笑しながら椅子にもたれた。

 

「まったく。」

 

「そなたと話していると、こちらが子供に思えてくる。」

 

ラナーは上品に笑うだけだった。

 

やがて皇帝は決意したように立ち上がる。

 

「分かった。」

 

「帝国は魔導国との同盟を目指す。」

 

「兄弟国という形で交渉を進めよう。」

 

ラナーは静かに一礼した。

 

「賢明なご判断かと存じます。」

 

「そこでだ。」

 

皇帝はラナーを指差した。

 

「使者はそなたに任せる。」

 

「魔導国へ赴き、この件を伝えてくれ。」

 

「……私が?」

 

珍しくラナーが目をぱちぱちと瞬かせる。

 

予想外だったらしい。

 

ジルクニフは意地悪そうに笑った。

 

「言い出しっぺだからな。」

 

「最後まで責任を持ってもらおう。」

 

ラナーは一瞬だけ考え込む。

 

やがて、くすりと笑った。

 

「承知いたしました。」

 

「それでは、今度は帝国のために一働きいたしましょう。」

 

その笑みを見たジルクニフは心の中でつぶやく。

 

(……やはり、この女は味方でいてくれる方が何倍も恐ろしいな。)

 

そして帝国は、魔導国との新たな外交へ向けて動き始めるのだった

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