王国と魔導国との国境画定を受け、その後の行政権を決める正式な交渉の日がやって来た。
会場となったのは、エ・ランテル冒険者ギルド二階の大会議室。
普段は各ギルドの会議に使われるその部屋も、この日ばかりは厳かな空気に包まれていた。
朝。
街の門前に黒い馬車が姿を現す。
馬車を引くのは、生者ではない。
巨大な二体のデスナイトが黙々と手綱を握り、その後ろにはデスウォーリアーたちが護衛として続いている。
その異様な光景に、街の住民は息をのんだ。
「魔導国の使者だ……。」
「本当にアンデッドが護衛してる。」
「逃げる必要はないんだよな?」
ざわめく住民たちをよそに、馬車はゆっくりと冒険者ギルド前で停止した。
扉が開く。
純白の礼装に身を包んだアルベドが優雅に降り立つ。
その圧倒的な美貌に、人々は思わず見とれた。
「魔導国宰相、アルベド。」
「本日、アインズ陛下の代理として参りました。」
その声には威厳と気品があった。
ギルド職員が恭しく頭を下げる。
「お待ちしておりました。」
「こちらへどうぞ。」
アルベドは静かにうなずき、会議室へ向かう。
すでに部屋には王国側の代表が集まっていた。
王国代表――レエブン侯。
エ・ランテル都市長パナソレイ。
冒険者ギルド長アインザック。
カルネ村代表エンリ・エモット。
そして見届け人として英雄モモン。
さらに、その隣には宮本武蔵が腕を組んで座っている。
アルベドは部屋を一瞥すると、美しく一礼した。
「皆様、本日はよろしくお願いいたします。」
レエブン侯も立ち上がる。
「こちらこそ。」
「本日は両国にとって実りある話し合いとなることを願っております。」
互いに席へ着く。
中央には長い机。
右側に魔導国。
左側に王国。
その中間に、エ・ランテルとカルネ村の代表者たち。
まさに、この地域の未来を決める者たちが一堂に会していた。
武蔵は腕を組みながら部屋を見回す。
「ふむ。」
「戦場よりも静かじゃの。」
モモンが小さく笑う。
「外交もまた、一つの戦いです。」
「なるほど。」
武蔵は感心したようにうなずいた。
「刀ではなく言葉で勝負するわけじゃな。」
その言葉に、レエブン侯もアルベドも思わず苦笑する。
やがて会場が静まり返る。
都市長パナソレイが立ち上がり、開会を宣言した。
「それでは。」
「王国と魔導国による、エ・ランテルおよびカルネ村行政権交渉を開始いたします。」
両陣営の視線が交差する。
剣ではなく言葉で決着をつける、一つの戦いが今、幕を開けた。
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会議は始まって二時間が過ぎていた。
しかし、結論はまったく見えない。
魔導国代表アルベドが静かに告げる。
「魔導国としては、行政権は当然我が国が持つべきと考えます。」
「エ・ランテルはすでに我が国の防衛圏であり、治安維持能力も十分に有しております。」
すぐにレエブン侯が反論する。
「しかし歴史的経緯から見れば、エ・ランテルもカルネ村もリ・エスティーゼ王国領です。」
「行政権まで放棄する理由はありません。」
都市長パナソレイも口を開く。
「であれば……。」
「双方が行政権を持つ『両属』という形はいかがでしょう。」
しかし今度はアルベドが首を横に振る。
「責任の所在が曖昧になります。」
「国家運営として望ましくありません。」
再びレエブン侯。
「王国としても全面的な譲歩はできません。」
議論は堂々巡りだった。
誰も一歩も引かない。
部屋には重苦しい空気だけが流れていく。
見届け人として座るモモン――アインズは腕を組んだまま黙っていた。
(こういう外交交渉なんて経験ないぞ……。)
(アルベド、頼む……。)
一方、武蔵も静かに会議を眺めている。
(大名同士の国境争いも、こんな具合じゃった。)
(刀を抜かぬだけで、本質は同じじゃの。)
時間だけが過ぎていく。
その沈黙を破ったのは、一番若い出席者だった。
「……あの。」
エンリが静かに立ち上がる。
全員の視線が集まった。
「私たちの村は。」
「今まで王国領として税を納めてきました。」
「でも、王国が村のためにしてくれたことは、それほど多くありません。」
レエブン侯は黙って聞いている。
エンリは続けた。
「村がここまで大きくなったのは。」
「私たち自身が働いたからです。」
「ゴブリンのみんなや村のみんなが頑張ったからです。」
部屋が静まり返る。
「そして。」
「この前カルネ村が襲われた時。」
「助けてくれたのは。」
「アインズ様。」
「武蔵さん。」
「そしてガゼフさんでした。」
武蔵は静かに目を閉じる。
エンリは拳を握った。
「だから。」
「私は、この三人になら村を任せても構いません。」
「ですが。」
その声には、村長としての覚悟が宿っていた。
「それ以外の方が村を支配しようとするなら。」
「カルネ村は、村人全員で抵抗します。」
その一言は、会議室の空気を一変させた。
アルベドはエンリを見つめる。
レエブン侯も黙り込む。
パナソレイも思わず息をのんだ。
武蔵は小さく笑う。
「……見事じゃ。」
モモンも心の中でうなずく。
(これ以上ない答えだ。)
しばらくの沈黙の後。
アルベドがゆっくりと口を開いた。
「魔導国は、その提案を受け入れましょう。」
レエブン侯も続く。
「王国も異存ありません。」
こうして最終合意が成立した。
合意内容
カルネ村
行政監督者は
アインズ・ウール・ゴウン
宮本武蔵
ガゼフ・ストロノーフ
の三名による共同執政とする。
村の日常行政および自治は、村長エンリ・エモットが担う。
エ・ランテル
魔導国代表一名。
リ・エスティーゼ王国代表一名。
両国代表による共同執政とし、都市行政の責任者は都市長パナソレイが務める。
国境地帯
新国境を基準として東西五キロメートルを中立地帯とする。
両国とも軍隊を駐留させない非武装地帯とする。
中立地帯内での商業・交易・往来は双方が自由に行えるものとする。
最後に両国代表が合意文書へ署名する。
アルベド。
レエブン侯。
互いに立ち上がり、静かに握手を交わした
こうして歴史上初めて、人間国家と異形種国家との間に、武力ではなく対話による国境と統治体制が築かれることとなった
本当の外交交渉はこんなスムーズにいくわけないですが
ダラダラやっても仕方ないのできれいごとでまとめました