王国との交渉を終えたアルベドは、そのままナザリックへ戻り、玉座の間で報告を行っていた。
玉座にはアインズ・ウール・ゴウン。
左右にはデミウルゴスをはじめ、各階層守護者が並んでいる。
アルベドは一礼し、静かに報告を始めた。
「以上。」
「我が魔導国とリ・エスティーゼ王国との間で友好条約を締結する運びとなりました。」
「国境も正式に画定され、エ・ランテルおよびカルネ村の統治体制も合意しております。」
「これもひとえに、アインズ陛下のお力によるものでございます。」
守護者たちが一斉に頭を垂れる。
「アインズ様、万歳!!」
「アインズ様のお導きあればこそ。」
その様子を見ながらアインズは内心で頭を抱えていた。
(いや、本当に何もしてないんだけど……。)
(交渉したのはアルベドだし、まとめたのはエンリさんじゃないか……。)
もちろん、そんな本音を口に出せるはずもない。
威厳を崩さぬよう、ゆっくりとうなずく。
「……うむ。」
「ご苦労であった。」
アルベドは嬉しそうに頭を下げた。
「ありがたき幸せ。」
アインズは少し考える。
「さて。」
「カルネ村共同執政の件だが。」
「魔導国側の代理を決めねばならぬ。」
「ルプスレギナなら村の事情にも詳しいが……。」
一瞬考えたあと、首を横に振る。
「……いや。」
「少々自由奔放すぎるか。」
ルプスレギナは口を尖らせる。
「えー。」
「ひどいっす。」
「ナーちゃんだって暴走したことあるっす。」
ナーベラルは冷たい視線を送る。
「あなたと一緒にしないで。」
「……まあ、一度だけですけど。」
小さく付け加えたその一言に、シャルティアが思わず吹き出した。
アインズは苦笑をこらえながら続ける。
「皆の意見を聞きたい。」
アルベドがすぐに一歩前へ出る。
「それでは。」
「アインズ様の代理として、ユリ・アルファを推薦いたします。」
「ユリはプレアデスの長として冷静沈着。」
「住民との折衝能力にも優れております。」
デミウルゴスも静かにうなずく。
「異論ございません。」
「カルネ村は人間との接触も多く、感情に流されぬ判断力が必要です。」
「ユリ・アルファが最適任でしょう。」
セバスも口を開く。
「私も賛成です。」
「ユリならば住民の信頼も得られましょう。」
他の守護者たちも異議はなかった。
アインズは満足そうにうなずく。
「それでは決定する。」
「ユリ・アルファ。」
「我が代理としてカルネ村共同執政に当たれ。」
ユリは深々と跪いた。
「はっ。」
「この身に代えましても、アインズ様のお役目を全ういたします。」
「うむ。」
「期待している。」
「ありがとうございます。」
こうしてカルネ村共同執政は、
アインズ・ウール・ゴウン(代理:ユリ・アルファ)
宮本武蔵
ガゼフ・ストロノーフ
の三者体制で進められることとなった。
そして誰も気付かなかった。
その決定を聞いたルプスレギナだけが、小さく肩をすくめながら笑っていた。
「まあ……。」
「ユリ姉が行くなら安心っすね。」
「でも、そのうちカルネ村でまた面白いことが起きそうっす。」
--------------------------------------------------------------------------------
カルネ村の人事が決まると、アインズは続けて次の案件を口にした。
「では。」
「エ・ランテルはどうする。」
視線はデミウルゴスへ向けられる。
デミウルゴスは少し考えた後、静かに眼鏡を押し上げた。
「そうですね。」
「私としては、セバスチャンを推薦いたします。」
セバスは少し驚いたように目を開く。
「私、ですか。」
アインズも興味深そうに尋ねる。
「理由を聞こう。」
「はい。」
デミウルゴスは淡々と説明を始めた。
「エ・ランテルはカルネ村とは異なり、一つの都市です。」
「住民も多く、人間社会との折衝が日常的に発生します。」
「その点、セバスチャンは人間との付き合いに最も慣れております。」
「さらに。」
「ツアレを同行させれば、人間側との橋渡し役としても大いに役立つでしょう。」
「彼女自身が人間であり、市民の生活感覚も理解しております。」
アルベドもうなずく。
「確かに。」
「セバスならば都市行政も円滑に進められるでしょう。」
アインズは納得したように頷いた。
「なるほどな。」
「セバス。」
「どうかな。」
セバスは一歩前へ進み、深々と跪く。
「はっ。」
「アインズ様の仰せとあらば、このセバス。」
「一命を賭して、その任を果たします。」
「うむ。」
アインズは静かに頷いた。
「期待している。」
「ただし!」
その声音が少しだけ真剣になる。
「エ・ランテルはカルネ村より遥かに規模が大きい。」
「行政、人事、治安、商業……判断を要する案件も多いだろう。」
「独断は避けよ。」
「連絡は密にするように。」
アインズの脳裏には、王都でセバスがツアレを保護した一件が浮かんでいた。
あの時は結果的に良かったものの、ナザリック全体を巻き込む事態にもなり得た。
だからこその忠告だった。
セバスはその意味を理解したように、深く頭を下げる。
「承知いたしました。」
「今後は逐一ご報告し、ご裁可を仰ぎます。」
「それでよい。」
デミウルゴスも満足そうに微笑む。
「これでエ・ランテルの統治体制も盤石でしょう。」
アルベドが最後に確認する。
「では、魔導国代表はセバスチャン。」
「都市行政の実務は都市長パナソレイと共同。」
「必要に応じてツアレも補佐役として同行。」
「以上の体制で進めます。」
「異議なし。」
守護者たちが一斉に応じた。
こうして魔導国側の新たな統治体制は定まった。
カルネ村
アインズ・ウール・ゴウン(代理:ユリ・アルファ)
宮本武蔵
ガゼフ・ストロノーフ
村長:エンリ・エモット
エ・ランテル
魔導国代表:セバスチャン
王国代表:レエブン侯が選任する代表者
都市長:パナソレイ
補佐:ツアレ・イミーナ
武力だけではなく、互いの信頼を基盤とする、新しい統治が静かに始まろうとしていた
---------------------------------------------------------------------------
カルネ村
村の広場。
出発の支度を整える武蔵は、クレマンティーヌへ声を掛けた。
「クレマン。」
「わしの代理、お主がやってくれ。」
「えぇ~。」
クレマンティーヌは露骨に嫌そうな顔をする。
「めんどくさい。」
「なるべく早く帰ってきてよ。」
「先生だけじゃなく、代理までやるなんて聞いてないんだから。」
武蔵は豪快に笑う。
「はっはっは。」
「頼んだぞ。」
そのやり取りを見ていたエンリも笑みを浮かべる。
「クレマン先生なら安心ですね。」
「子どもたちにも人気ですし。」
クレマンは少し照れくさそうに鼻を鳴らした。
「まあね。」
「教えるのは嫌いじゃないし。」
こうして武蔵不在時のカルネ村共同執政代理は、クレマンティーヌが務めることとなった。
---------------------------------------------------------------------------
一方その頃。
王城ではガゼフ・ストロノーフが国王の前に立っていた。
「わ、私が……ですか。」
驚くガゼフに、レエブン侯が静かに頷く。
「うむ。」
「カルネ村では住民から大きな信頼を得られたそうですね。」
「その実績は大きい。」
ガゼフは腕を組む。
「しかし。」
「私は王国戦士長です。」
「本来の業務もございます。」
ランポッサ三世が穏やかに微笑んだ。
「ガゼフよ。」
「これもまた経験だ。」
「国を治めるとはどういうことか。」
「武だけではなく政も学ぶよい機会となろう。」
ガゼフはしばらく考えた後、静かに跪く。
「……承知いたしました。」
「それでは、お受けいたします。」
「ありがとうございます。」
国王は満足そうに頷いた。
レエブン侯も続ける。
「なお。」
「エ・ランテル共同執政については、王国側代表に適任者が決まるまで。」
「ひとまず私が務めさせていただきます。」
「王都との連絡も私が担当いたします。」
ザナックも頷く。
「それが最も無難だろう。」「国を治めるとはどういうことか。」
「武だけではなく政も学ぶよい機会となろう。」
ガゼフはしばらく考えた後、静かに跪く。
「……承知いたしました。」
「それでは、お受けいたします。」
「ありがとうございます。」
国王は満足そうに頷いた。
レエブン侯も続ける。
「なお。」
「エ・ランテル共同執政については、王国側代表に適任者が決まるまで。」
「ひとまず私が務めさせていただきます。」
「王都との連絡も私が担当いたします。」
ザナックも頷く。
「それが最も無難だろう。」
こうして双方の代理人も定まり、新たな統治体制はゆっくりと動き始めた