武蔵転生記   作:masasoukoku

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ポウロロープは原作より野心はあっても理性的な設定です


第百十四回 【暴走】

ポウロロープ侯爵邸。

 

応接室。

 

先ほど法国の使者が去ったばかりだった。

 

重苦しい沈黙を破ったのはバルブロだった。

 

「決めたぞ!」

 

勢いよく立ち上がる。

 

「カルネ村を攻める!」

 

ポウロロープは目を閉じ、小さく息を吐いた。

 

(やはりこうなるか。)

 

「殿下。」

 

「お待ちください。」

 

「待てぬ!」

 

「今しかない!」

 

「今なら魔導国も体制が整っておらぬ!」

 

「カルネ村を占領し、人質を取れば父上もザナックも動かざるを得ん!」

 

侯爵は静かに問い返した。

 

「その軍勢は、どなたが率いられるので?」

 

「もちろん私だ!」

 

「兵は?」

 

「貴族の兵を集めればよい!」

 

「何人ほどでしょう。」

 

「三千……いや五千は集まる!」

 

侯爵は首を横に振った。

 

「では、お聞きします。」

 

「その五千で誰と戦われます?」

 

「カルネ村のゴブリン程度だろう!」

 

「違います。」

 

侯爵はきっぱりと言い切った。

 

「まず武蔵。」

 

「……。」

 

「さらにガゼフ。」

 

「……。」

 

「加えてアインズの代理として派遣された魔導国のもの。」

 

「……。」

 

「そしてカルネ村のもの。」

 

「場合によっては魔導国本軍。」

 

「それらを相手に五千で勝てる、と?」

 

バルブロは言葉を失う。

 

侯爵は続けた。

 

「さらに。」

 

「カルネ村へ軍を進めるということは。」

 

「王命なく王家領へ侵攻することになります。」

 

「つまり。」

 

「反乱です。」

 

その一言に部屋が静まり返る。

 

「反……乱?」

 

「ええ。」

 

「国王陛下の許可もなく軍を動かせば。」

 

「王国法では反逆。」

 

「たとえ殿下であっても例外ではありません。」

 

バルブロは顔をしかめる。

 

「だが私は第一王子だぞ!」

 

「だからこそです。」

 

侯爵は静かに頭を下げた。

 

「殿下が兵を率いれば。」

 

「王国は二つに割れます。」

 

「国王派。」

 

「貴族派。」

 

「そこへ魔導国が介入すれば。」

 

「王国は滅びます。」

 

バルブロは拳を握ったまま黙っていた。

 

侯爵はさらに言葉を重ねる。

 

「そして法国。」

 

「彼らは協力すると申しました。」

 

「ですが。」

 

「一兵たりとも貸すとは言っておりません。」

 

「……。」

 

「殿下だけを前へ立たせ。」

 

「王国と魔導国が争えば。」

 

「最も利益を得るのは誰でしょう。」

 

バルブロの表情が曇る。

 

「……法国。」

 

「左様。」

 

「彼らは王国のためではなく、自国のために動いております。」

 

侯爵は椅子から立ち上がると、バルブロの正面へ歩み寄った。

 

「殿下。」

 

「勇気と無謀は違います。」

 

「武勇と政治も違います。」

 

「今カルネ村へ攻め込むことは。」

 

「王国を救うことではなく。」

 

「王国を滅ぼす第一歩となりましょう。」

 

長い沈黙。

 

やがてバルブロは悔しそうに歯を食いしばった。

 

「……ならば。」

 

「どうしろと言う。」

 

侯爵は静かに答える。

 

「待つことです。」

 

「カルネ村共同統治が失敗するなら、その時が好機。」

 

「成功するなら、その時はその時で王国も利益を得る。」

 

「どちらに転んでも、殿下が今動く必要はございません。」

 

バルブロはなお不満げだったが、ようやく椅子へ腰を下ろした。

 

「……わかった。」

 

「今回は侯の言葉に従おう。」

 

侯爵は胸をなで下ろした。

 

(危なかった。)

 

(あと一歩で王国は内乱へ転げ落ちるところだった。)

 

しかし侯爵には分かっていた。

 

一度燃え上がったバルブロの野心は、そう簡単に消えるものではないことを

 

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数日後。

 

夜。

 

バルブロ邸。

 

密かに一人の男がバルブロの寝室を訪れていた。

 

黒い外套。

 

スレイン法国の使者だった。

 

「殿下。」

 

「まだお悩みですかな。」

 

バルブロは苛立ったように答える。

 

「侯は待てと言う。」

 

「だが待っていてはザナックが王となる。」

 

使者は小さく笑った。

 

「侯爵のお考えは正しい。」

 

「ですが。」

 

「政治とは時に、勇気ある者だけが歴史を変えます。」

 

「……。」

 

「殿下が恐れているのは兵力でしょう。」

 

「資金ならば。」

 

「我々が用立ていたしましょう。」

 

バルブロは目を見開く。

 

「何。」

 

「傭兵を雇えばよいのです。」

 

「王国兵ではありません。」

 

「身元も問われぬ荒くれ者たち。」

 

「彼らならば命令一つで動きます。」

 

バルブロの胸が高鳴る。

 

「さらに。」

 

使者は地図を広げた。

 

「カルネ村を今攻める必要はありません。」

 

「共同執政が揃っている今は得策ではない。」

 

「では。」

 

「どうする。」

 

使者の指がトブの大森林をなぞる。

 

「ここです。」

 

「トブの大森林。」

 

「傭兵を森へ潜ませる。」

 

「共同執政の誰かが村を離れる。」

 

「その瞬間。」

 

「一気に村を制圧する。」

 

「なるほど……。」

 

「しかも。」

 

「魔導国は国境管理で兵を分散しております。」

 

「完全な好機は必ず訪れます。」

 

バルブロは拳を握る。

 

「そうだ。」

 

「私は第一王子。」

 

「この程度の決断ができずして何が王だ!」

 

使者は深々と頭を下げた。

 

「そのお言葉。」

 

「まことに王者の器。」

 

「我々も陰ながらお力添えいたします。」

 

そう言い残し、使者は夜の闇へ消えた。

 

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翌朝。

 

ポウロロープ侯爵は慌てて屋敷へ駆け込んできた家臣から報告を受ける。

 

「侯爵様!」

 

「大変です!」

 

「殿下が各地へ密使を!」

 

「傭兵を集めております!」

 

「何だと!」

 

侯爵は立ち上がった。

 

「さらに。」

 

「貴族にも檄文を送りました。」

 

『王家を正すため兵を挙げよ。』

 

「という内容です。」

 

侯爵は顔色を変える。

 

「馬鹿な……。」

 

「止めねば。」

 

すぐに馬を用意させ、バルブロの屋敷へ向かう。

 

しかし。

 

「申し訳ございません。」

 

「殿下は昨夜お発ちになられました。」

 

「どこへだ!」

 

「それが……。」

 

「各地の貴族領を回られております。」

 

侯爵は額を押さえた。

 

(最悪だ。)

 

(もう私一人では止められぬ。)

 

その頃。

 

バルブロは各地の貴族たちを訪ね歩いていた。

 

「ザナックに王位を奪われるぞ!」

 

「今こそ立ち上がれ!」

 

「王家を正すのだ!」

【挿絵表示】

 

 

ポウロロープ派であっても穏健な貴族は参加を断った。

 

だが。

 

不満を抱く過激な一部の貴族たちは応じ始める。

 

「殿下のためなら。」

 

「兵を二百。」

 

「こちらは三百。」

 

少しずつ。

 

少しずつ。

 

貴族派の兵が集まり始める。

 

ポウロロープは最後まで説得を続けた。

 

「殿下!」

 

「今ならまだ引き返せます!」

 

「これは反乱です!」

 

「王国が滅びますぞ!」

 

しかしバルブロは振り返らない。

 

「侯。」

 

「歴史は勇気ある者が作る。」

 

「私は王になる。」

 

「そのためなら。」

 

「多少の血は仕方あるまい。」

 

ポウロロープは絶望的な思いでその背を見送った。

 

(違う……。)

 

(殿下。)

 

(あなたは自ら歴史を作ろうとしているのではない。)

 

(誰かに歴史を利用されているのです。)

 

しかし、その声はもうバルブロには届かなかった。

 

そして王国では一つの火種が静かに燃え広がっていく。

 

その狙いは――

 

王都。

 

そして、その先にある王国そのものだった。

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