武蔵転生記   作:masasoukoku

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第百十五回 【二つの戦場】

王都。

 

城壁の見える丘一帯を埋め尽くす軍勢。

 

貴族派の旗が風にはためく。

 

その総数、およそ八千。

 

中央には、苦渋の表情を浮かべるポウロロープ侯爵がいた。

 

侯爵は深くため息をつく。

 

(……ここまで来てしまった。)

 

(今さら私だけ軍を退けば、殿下は他の者に担がれ暴走する。)

 

(ならば私が側にいて、少しでも被害を抑えるしかない。)

 

諦めにも似た決意だった。

 

ポウロロープは剣を掲げる。

 

「諸君!」

 

「我らは王国を正すため立った!」

 

「暴君ではない!」

 

「ザナック王子の専横を止めるためだ!」

 

兵たちが歓声を上げる。

 

だが侯爵だけは、その歓声を重苦しく聞いていた。

 

(これは正義ではない。)

 

(ただの内乱だ。)

 

王城。

 

「何!」

 

国王ランポッサは立ち上がった。

 

「ポウロロープが兵を率いているだと!」

 

ザナックも顔色を変える。

 

伝令が叫ぶ。

 

「はい!」

 

「貴族派の兵、およそ八千!」

 

「現在、王都を包囲しております!」

 

その知らせはカルネ村にも届いた。

 

伝令の馬が村へ飛び込む。

 

「王都で反乱!」

 

「ポウロロープ挙兵!」

 

会議中だったガゼフは立ち上がった。

 

「戦士長として行かねばならぬ。」

 

ユリも冷静に頷く。

 

「当然です。」

 

「王都防衛はあなたの本来の任務。」

 

武蔵は嬉しそうに笑った。

 

「戦か。」

 

「久しぶりに大きな戦じゃ。」

 

クレマンが呆れる。

 

「うれしそうねぇ。」

 

「戦は命の取り合いよ?」

 

武蔵は笑う。

 

「だからこそじゃ。」

 

「剣が最も輝く。」

 

ユリが静かに言う。

 

「武蔵殿。」

 

「王都へ同行されるのですか。」

 

「もちろん。」

 

「ガゼフ殿一人では荷が重い。」

 

「わしも行こう。」

 

エンリは心配そうに二人を見る。

 

「気を付けてください。」

 

「村は私たちが守ります。」

 

武蔵は軽く笑った。

 

「うむ。」

 

「任せたぞ。」

 

こうして。

 

ガゼフと武蔵は王都へ向けて出発した。

 

その様子を。

 

誰かが見ていた。

 

トブの大森林。

 

深い木々の陰。

 

粗末な鎧を着た男が、木の上から街道を見下ろしている。

 

「行ったぞ。」

 

「武蔵。」

 

「ガゼフ。」

 

男は笛を吹いた。

 

短く二回。

 

森の奥から次々と人影が現れる。

 

傭兵。

 

盗賊。

 

ならず者。

 

総勢およそ千。

 

そして。

 

黒馬に乗る一人の男。

 

第一王子バルブロだった。

 

彼は王都へ向かったはずだった。

 

しかし密かに軍を分け、自らはこちらへ来ていたのである。

 

傍らには、例の法国の使者。

 

「殿下。」

 

「計画通りです。」

 

「共同執政は二人とも離れました。」

 

「村には女子供と少数の護衛しかおりません。」

 

バルブロは満足そうに笑う。

 

「見事だ。」

 

「侯には悪いが。」

 

「戦は正面からだけではない。」

 

「カルネ村を押さえれば。」

 

「魔導国との交渉も共同統治も終わる。」

 

使者は静かに頷く。

 

「その通り。」

 

「では。」

 

「始めましょう。」

 

バルブロは剣を抜いた。

 

「全軍!」

 

「カルネ村へ進め!」

 

「この村を占領する!」

 

「これよりカルネ村攻略戦を開始する!」

 

森の奥から千を超える傭兵たちが一斉に動き始める。

 

しかし彼らは知らない。

 

カルネ村にはまだ――

 

アインズ代理のユリ・アルファ。

 

武蔵代理のクレマンティーヌ。

 

ゴブリンたち。

 

そしてトブの大森林そのものが、村の味方であることを

 

----------------------------------------------------------------------------

カルネ村。

 

見張り台。

 

望遠鏡代わりの筒を覗いていたゴブリン哨戒兵が目を見開いた。

 

「……ん?」

 

地平線の向こう。

 

土煙。

 

一本ではない。

 

何十本もの旗。

 

無数の人影。

 

「敵だ!」

 

「おい!」

 

「姉さんに知らせろ!」

 

部下のゴブリンが全力で村へ駆け下りる。

 

哨戒兵は鐘楼へ飛び乗った。

 

ゴォォォン!!

 

ゴォォォン!!

 

警鐘が村中へ響き渡る。

 

「軍勢が来るぞーーっ!!」

 

「総員戦闘配置!!」

 

畑。

 

鍬を振るっていたエンリが顔を上げた。

 

「え?」

 

鐘の音。

 

尋常ではない。

 

そこへゴブリンが駆け込んでくる。

 

「姉さん!」

 

「南から軍勢!」

 

「千……いやもっといる!」

 

エンリは一瞬だけ息を呑む。

 

だが次の瞬間には村長の顔になっていた。

 

「みんな聞いて!」

 

「動ける者は武器を持って門前へ!」

 

「女子供とお年寄りは地下倉庫へ避難!」

 

「食料も持って!」

 

村人たちは慌てながらも動き始める。

 

誰も混乱しない。

 

何度も訓練してきた成果だった。

 

学校。

 

クレマンティーヌは黒板へ文字を書いていた。

 

外から鐘が響く。

 

「……。」

 

生徒たちも顔を見合わせる。

 

クレマンは窓から外を見る。

 

土煙。

 

「へぇ。」

 

「来たか。」

 

振り返る。

 

「はい。」

 

「授業終了。」

 

「先生と一緒に避難するよ。」

 

「泣くな。」

 

「走る。」

 

「転ぶな。」

 

子供たちは頷く。

 

「はい!」

 

クレマンは満足そうに笑う。

 

(まず生き残る。)

 

(それが一番。)

 

執政館。

 

ユリ・アルファは窓から敵軍を確認していた。

 

「……予想より早い。」

 

通信鏡を取り出す。

 

「ルプス。」

 

しばらくして陽気な声が返る。

 

「はーい。」

 

「ユリ姉、どうしたっす?」

 

「カルネ村。」

 

「敵襲。」

 

「今から来られる?」

 

少しの沈黙。

 

そして。

 

「トラブルっすか?」

 

「ええ。」

 

「戦になりそう。」

 

ルプスレギナの声が弾んだ。

 

「楽しみっす!」

 

ユリはため息をつく。

 

「……楽しむのは構いません。」

 

「ですが。」

 

「村人の被害は最小限に。」

 

「了解っす!」

 

「十分以内には着くっす!」

 

通信が切れる。

 

ユリは静かに微笑んだ。

 

(頼もしい妹です。)

 

(少し方向性は違いますが。)

 

村の南門。

 

ゴブリン軍が整列する。

 

歩兵

 

弓兵。

 

槍兵。

 

オーガ。

 

総勢100余。

 

エンリは深呼吸した。

 

「みんな。」

 

「カルネ村を守るよ。」

 

「はい!」

 

ゴブリンたちの返事が響く。

 

その頃。

 

街道の向こうでは。

 

バルブロが馬上から村を見下ろしていた。

 

「思ったより立派だな。」

 

傭兵隊長が笑う。

 

「所詮は村です。」

 

「一時間もあれば落ちます。」

 

法国の使者も頷く。

 

「武蔵もガゼフもおりません。」

 

「共同執政は形だけ。」

 

「今こそ好機。」

 

バルブロは剣を高く掲げた。

 

「全軍!」

 

「前進!」

 

「カルネ村を制圧せよ!」

 

大地を揺らしながら傭兵たちが進軍を開始する。

 

それを迎え撃つように。

 

カルネ村の門がゆっくりと開いた。

 

最前列へ歩み出たのは――

 

エンリ。

 

その隣にはユリ・アルファ。

 

そして、まだ誰も知らない。

 

笑顔でこちらへ駆けてくる、一人のプレアデスの姿があった。

 

 

 

 

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