後世――
この戦いは**『バルブロの乱』**と呼ばれることになる。
だが、その実態は反乱というにはあまりにも短く、あっけないものだった。
カルネ村から急行した武蔵。
そして戦士長ガゼフ。
二人が王都へ到着した時点で、戦局は決していた。
王城を包囲していた貴族軍。
その背後へ武蔵とガゼフが突撃する。
「うおおおお!」
武蔵はただ一人。
敵陣の中央へ歩み入った。
「退かぬか。」
その一言だけだった。
武蔵の刀が閃く。
一人。
二人。
十人。
誰一人として彼を止められない。
「ば、化け物だ!」
「武蔵だ!」
「逃げろ!」
貴族軍は一気に動揺した。
その様子を城壁から見ていたザナックは叫ぶ。
「今だ!」
「城門を開けよ!」
ガガガガ……
重い城門が開く。
待機していたガゼフ直属の王国軍が一斉に打って出た。
前後から挟撃された貴族軍は完全に崩壊する。
「降伏だ!」
「助けてくれ!」
「もう終わりだ!」
兵たちは武器を捨て、四方八方へ逃げ出した。
その光景を一人見つめる男がいた。
ポウロロープ侯。
長く王国を支えてきた大貴族。
彼は静かに目を閉じる。
「……終わったか。」
苦笑した。
「結局。」
「バルブロ殿下を婿に迎えたこと。」
「それが、わしの最大の誤りであった。」
誰へ言うでもない独り言。
そして腰の剣を抜いた。
「最後くらいは。」
「武人らしく終わるとしよう。」
武蔵は戦場を歩いていた。
その前へ侯爵が進み出る。
「お主が武蔵か。」
「おう。」
短い返事。
「わしはポウロロープ。」
「この反乱の首謀者。」
武蔵は黙って聞いている。
侯爵は静かに笑った。
「バルブロ殿下は。」
「わしの策に乗せられたに過ぎぬ。」
「責はすべて、このわしにある。」
そして剣を構えた。
「最後の願いだ。」
「お主と立ち会いたい。」
武蔵も静かに刀を抜く。
「望みとあらば。」
風が吹いた。
戦場が静まり返る。
互いの間合いは十歩。
ポウロロープは深く息を吸う。
「いくぞ!」
侯爵は最後の力を振り絞り駆けた。
武蔵は動かない。
あと一歩。
あと半歩。
その瞬間。
――シュッ。
一筋の銀閃。
勝負は終わっていた。
ポウロロープは数歩進み、そのまま膝をつく。
胸から鮮血が流れる。
「み……。」
苦しそうに笑った。
「見事……。」
それだけ言い残し。
大貴族ポウロロープ侯は静かに倒れた。
武蔵は刀についた血を払い、静かに納刀する。
「よき覚悟であった。」
誰も言葉を発しなかった。
こうして――
王国を揺るがした**『バルブロの乱』**は、首謀者ポウロロープ侯の死とともに完全に終結した。
この乱により王国貴族派は大きく勢力を失い、ザナックを中心とする新たな体制が築かれることになる。
そして武蔵の名は、王国を救った剣豪として、人々の記憶にさらに深く刻まれていくのであった
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反乱の首謀者として捕らえられたバルブロは、まずエ・ランテルへ送られた。
頭髪、髭、眉をすべて剃り落とされた姿のまま、荷車に乗せられて市中を引き回される。
かつて王国第一王子として威張り散らしていた男の見る影はなかった。
道行く人々は口々に囁く。
「あれが第一王子か。」
「カルネ村を襲った張本人らしい。」
「なんという無様な……。」
その後、護送隊は王都へ到着した。
王城の大広間。
玉座には国王ランポッサ。
その左右にはザナック、レエブン卿、そして重臣たちが並んでいる。
鎖につながれたバルブロが連れてこられた。
「……父上。」
かすれた声で呼びかける。
「申し訳……ございませんでした。」
額を床へ擦りつける。
かつて決して頭を下げようとしなかった第一王子の、初めての謝罪だった。
しかし。
ランポッサは何も言わなかった。
しばらく息子を見つめると、ゆっくりと立ち上がり、そのまま奥の間へ姿を消したという。
その沈黙こそが、父としての深い失望を物語っていた。
やがて判決が下される。
ポウロロープ侯は最期に、
「反乱はすべて我が策によるもの。バルブロ殿下は愚かではあったが、わしに踊らされたに過ぎぬ。」
と証言していた。
その遺言は考慮され、王族であることも踏まえた結果、
死罪は一等減じられる。
だが恩赦ではない。
王族としての資格はすべて剥奪。
第一王子バルブロはその日をもって庶人となり、名も地位も失った。
その後は終生、王都近郊の修道院へ送られ、俗世から離れて罪を償うこととなる。
かつて王冠を夢見た男の人生は、静かな祈りの中で終わりを迎えることとなった
一方、反乱鎮圧の功績は大きかった。
王国を救った英雄として、
戦士長ガゼフ・ストロノーフ。
カルネ村村長エンリ・エモット。
そして剣豪・宮本武蔵。
三名には国王ランポッサより、一代限りであるが男爵位が授けられた。
授爵式の日。
ガゼフは深く頭を下げた。
「身に余る栄誉にございます。」
エンリは緊張で震えながら、
「わ、私なんかが男爵だなんて……。」
と戸惑うばかりだった。
そして武蔵。
「武蔵男爵殿。」
と呼ばれると、
「うむ。」
「武蔵でよい。」
と一言だけ答えた。
ザナックは苦笑し、
「爵位とは、そのようなものではないのですが。」
と言うと、武蔵は豪快に笑う。
「肩書きが増えても、わしはわしじゃ。」
その言葉に、居並ぶ貴族たちは思わず笑みを漏らした。
こうして『バルブロの乱』は完全に終結し、リ・エスティーゼ王国は新たな時代へと歩み始めるのであった