武蔵転生記   作:masasoukoku

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第百三十回 【牧場】

武蔵とターニャは街道を南西へ進んでいた。

 

道中、とりとめもない話が続く。

 

「お主の帝国という国は強かったのか?」

 

「工業力では当時世界有数でした。」

 

「ですが、多数を相手にするには限界がありましたね。」

 

「ほう。」

 

「鉄砲ばかりの戦か。」

 

「ええ。」

 

「刀で斬り合う機会など、ほとんどありません。」

 

武蔵は少し残念そうな顔をした。

 

「それはつまらんな。」

 

「実に合理的でしたよ。」

 

「合理的すぎて、私は胃が痛くなることも多かったですが。」

 

そんな会話を続けながら歩いていたが――

 

武蔵が空を見上げる。

 

「ぬう。」

 

「町がないのう。」

 

一本道は続くものの、人の気配がまるでない。

 

ターニャは立ち止まった。

 

「それでは。」

 

「私が偵察してきます。」

 

「空から確認した方が早いでしょう。」

 

「町を見つけたら連絡します。」

 

「うむ。」

 

武蔵が頷く。

 

ターニャは演算宝珠を起動。

 

ふわり、と空へ舞い上がった。

 

高度を上げながら周囲を観察する。

 

「森。」

 

「丘。」

 

「街道。」

 

「……ん?」

 

遠方に広大な囲いが見えた。

 

「牧場らしきもの……。」

 

さらに高度を下げる。

 

「え?」

 

思わず息を呑む。

 

柵で囲まれた広い土地。

 

一見すると家畜牧場。

 

だが。

 

牛はいない。

 

馬もいない。

 

羊もいない。

 

放牧されているのは――

 

人間だった。

 

ぼろ布をまとった男女。

 

痩せ細った老人。

 

子供までいる。

 

全員が柵の中を力なく歩き回っている。

 

「……。」

 

ターニャの表情が凍りつく。

 

「なんだ……。」

 

「これは。」

 

前世の記憶がよみがえる。

 

「猿の惑星か……。」

 

子供の頃、テレビで見た古い映画。

 

立場が逆転した人類。

 

まさにそんな光景だった。

 

しかし。

 

これは映画ではない。

 

現実だ。

 

柵の外には、人型ではあるが異形の者たちが見張りについている。

 

「まずい。」

 

「関わるべきではない。」

 

「情報不足だ。」

 

軍人として即座に判断する。

 

ターニャはそのまま高度を上げ、武蔵の元へ戻った。

 

「どうだった。」

 

武蔵が尋ねる。

 

ターニャは真剣な表情で答える。

 

「この先に牧場があります。」

 

「ですが……。」

 

少し言葉を選ぶ。

 

「異様です。」

 

「牛や羊ではなく、人間を飼っています。」

 

武蔵の目が細くなる。

 

「ほう。」

 

「回避しましょう。」

 

「状況が分かりません。」

 

「敵の規模も戦力も不明。」

 

「情報がない状態で近づくのは愚策です。」

 

ターニャは軍人らしく冷静に分析した。

 

「別の道を探した方が安全です。」

 

武蔵はしばらく黙って牧場の方向を見つめる。

 

その眼差しは静かだったが、どこか険しさを帯び始めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アベリオン丘陵。

 

デミウルゴスが管理する牧場。

 

監視兼世話係の悪魔は大きく欠伸をした。

 

「ふぁぁ……。」

 

今日も変わらぬ一日。

 

柵の中では"羊"たちが黙々と動いている。

 

退屈だ。

 

その時だった。

 

「……ん?」

 

街道の向こうから小さな人影が近づいてくる。

 

「人間?」

 

目を凝らす。

 

まだ幼い少女だ。

 

悪魔は口元をゆがめた。

 

「向こうから来てくれるとは。」

 

「今日は運がいい。」

 

少女は柵の前まで来ると、不安そうな顔を浮かべて話しかけた。

 

「おじさん。」

 

「ここはどこですか?」

 

悪魔は優しい笑顔を作る。

 

「おや、お嬢ちゃん。」

 

「どうしたんだい?」

 

「ターニャ、道に迷ってしまって困ってるの。」

 

「町の行き方、教えてくれないかなぁ。」

 

「そうかそうか。」

 

悪魔は柵の扉を開く。

 

「ならこちらへお入り。」

 

「おじさんが親切に教えてあげよう。」

 

少女は少し俯き、小さく頷いた。

 

「そう……。」

 

「ありがとう。」

 

一歩。

 

また一歩。

 

悪魔との距離を詰める。

 

そして。

 

少女の表情から幼さが消えた。

 

冷たい軍人の眼。

 

「――目標確認。」

 

腰から短剣を抜く。

 

一閃。

【挿絵表示】

 

 

悪魔は反射的に身を引くが、首元を浅く切り裂かれる。

 

「ぐっ!」

 

「貴様!」

 

悪魔は飛び退きながら怒鳴る。

 

「何をしやがる、このガキ!」

 

傷は致命傷ではない。

 

しかし、その一撃だけで相手がただの子供ではないと悟った。

 

「軍人か!」

 

ターニャは短剣を構え直す。

 

「正解。」

 

「敵性存在を確認。」

 

「排除する。」

 

悪魔が爪を振り上げた、その瞬間。

 

「遅い。」

 

低い声。

 

悪魔が振り向く。

 

そこには、いつの間にか宮本武蔵が立っていた。

 

刀が静かに抜かれる。

 

「ふん。」

 

銀色の軌跡が一筋。

 

悪魔は何が起きたのか理解する間もなく、その場に崩れ落ちた。

 

武蔵は刀を静かに納める。

 

「お主。」

 

「囮になるとは大した胆力じゃ。」

 

ターニャは肩をすくめた。

 

「相手が油断すると分かっていましたから。」

 

「合理的な戦法です。」

 

武蔵は豪快に笑う。

 

「はっはっは!」

 

「合理的か。」

 

「面白い考えをする。」

 

しかし、二人の視線はすぐに牧場の奥へ向いた。

 

柵の中の人々は、突然の出来事に呆然と立ち尽くしている。

 

そして牧場の建物の奥では、異変に気付いた別の監視役たちが慌ただしく動き始めていた

 

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