武蔵転生記   作:masasoukoku

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第百三十六回 【王都への招待】

「それでは。」

 

武蔵は笑みを浮かべ、右手を差し出した。

 

「仲直りの握手じゃ。」

 

レメディオスは少し戸惑ったものの、小さく頷く。

 

「あ、ああ。」

 

「私も非があった。」

 

彼女も右手を差し出す。

 

二人の手が触れ合う。

 

周囲の兵士たちは安堵したように顔を見合わせた。

 

「よかった……。」

 

「これで収まる。」

 

誰からともなく拍手が起こる。

 

パチ、パチ、パチ――。

 

その瞬間。

 

「くん。」

 

武蔵の身体がわずかに動いた。

 

「え?」

 

レメディオスが目を丸くする。

 

武蔵は握手した手を支点に、ごく小さく体勢を崩した。

 

レメディオスの重心が前へ流れる。

 

「なっ――」

 

次の瞬間には、彼女の膝が自然と石畳についていた。

 

ドサッ。

 

「……!」

 

周囲の兵士がどよめく。

 

「団長が!」

 

「一瞬で!」

 

レメディオス自身も何が起こったのか理解できない。

 

(力負けした……違う。)

 

(身体が勝手に……。)

 

武蔵は手を離し、苦笑した。

 

「とはいえ。」

 

「事情も聞かず、いきなり剣を抜くのは感心せんな。」

 

レメディオスは呆然と武蔵を見上げる。

 

武蔵は彼女の額へ向かって、軽く拳骨を落とした。

 

ゴツン。

 

「いたっ!」

 

思わず額を押さえるレメディオス。

 

武蔵は腕を組んで言った。

 

「これは罰じゃ。」

 

「命を懸ける前に、まず相手の話を聞け。」

 

「それがお主ほどの立場なら、なおさらじゃ。」

 

兵士たちは緊張しながら団長を見る。

 

レメディオスは額を押さえたまま数秒黙り込み、

 

やがて小さく笑った。

 

「……痛いな。」

 

「だが、その通りだ。」

 

彼女は立ち上がり、武蔵へ深く一礼する。

 

「改めて謝罪する。」

 

「事情を説明してほしい。」

 

武蔵は満足そうに頷いた。

 

「うむ。」

 

「今度こそ、話をしよう。」

 

ターニャはそのやり取りを見ながら、小さく息を吐く。

 

(……拳骨一発で済ませたか。)

 

(この人なりの説教なんだろうな。)

 

長城の兵士たちもようやく武器を下ろし、救助された人々へ水や毛布を運び始めた。

 

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レメディオスは深呼吸を一つすると、改めて二人へ向き直った。

 

「では。」

 

「もう一度、名乗っていただけますか。」

 

武蔵は軽く頷く。

 

「改めて。」

 

「わしは宮本武蔵。」

 

「リ・エスティーゼ王国男爵じゃ。」

 

レメディオスは思わず聞き返した。

 

「……本当ですか?」

 

「本当のことじゃ。」

 

「疑うならリ・エスティーゼ王国へ問い合わせればよい。」

 

武蔵は平然としている。

 

レメディオスは今度はターニャを見る。

 

「あなたは?」

 

ターニャは背筋を伸ばした。

 

「帝国サラマンダー戦闘団副団長。」

 

「ターニャ・デグレチャフ中佐です。」

 

「て、帝国?」

 

レメディオスが表情を強張らせる。

 

「バハルス帝国の軍人なのですか?」

 

「違います。」

 

ターニャは即座に否定した。

 

「私の帝国は、あなた方の知る帝国とは別です。」

 

「……?」

 

レメディオスには意味が分からなかった。

 

だが今は追及しないことにした。

 

「私は。」

 

「ローブル聖王国聖騎士団長。」

 

「レメディオス・カストディオです。」

 

互いに名乗りを終えると、レメディオスは真剣な表情になった。

 

「それでは。」

 

「ここへ来るまでの経緯を教えてください。」

 

武蔵は腕を組み、話し始めた。

 

「わしはカルネ村を出て、風任せに南西へ歩いておった。」

 

「すると空からこの幼女が降ってきた。」

 

「……。」

 

「その言い方は誤解を招きます。」

 

ターニャが小さく訂正する。

 

「私は突然この世界へ来てしまい、途方に暮れていたところで武蔵さんと出会いました。」

 

「どうしてこの世界へ来たのかは……。」

 

一瞬だけ言葉を止める。

 

(存在Xの話をしても信じられない。)

 

(余計な混乱を招くだけだ。)

 

「……私にも分かりません。」

 

「気が付いたら、この世界にいました。」

 

レメディオスは静かに頷いた。

 

「続けてください。」

 

武蔵が話を引き継ぐ。

 

「その後、二人で歩いておると、丘陵に奇妙な牧場を見つけた。」

 

「人間が家畜のように飼われておった。」

 

レメディオスの顔色が変わる。

 

「……やはり。」

 

ターニャが続ける。

 

「悪魔が管理していました。」

 

「私は上空から攻撃を行い、牧場を壊滅させました。」

 

「武蔵さんは生存者を救出しました。」

 

武蔵は後ろにいる人々を指差す。

 

「この者たちじゃ。」

 

「連れて来たはよいが、入口まで歩かせるには遠すぎた。」

 

「皆、疲れ切っておったのでな。」

 

レメディオスは長城の穴を見る。

 

「だから……。」

 

武蔵はあっさり答えた。

 

「入口を作った。」

 

「壁を壊しただけじゃ。」

 

レメディオスは頭を押さえた。

 

「普通は……。」

 

「門を探します。」

 

武蔵は首を傾げる。

 

「探したぞ。」

 

「遠かった。」

 

「だから近道をした。」

 

そのあまりにも単純明快な理屈に、周囲の兵士たちは思わず苦笑した。

 

一方、救助された人々は震えながら前へ出る。

 

「聖騎士様……。」

 

「このお二人が本当に助けてくださったのです。」

 

「悪魔の牧場から救い出してくださいました。」

 

「嘘ではありません。」

 

次々と証言する彼らの姿を見て、レメディオスはようやく全てを理解した。

 

武蔵が壁を壊したことは問題だった。

 

しかし、それ以上に重大なのは――

 

目の前の二人が、アベリオン丘陵に存在する悪魔の牧場を一つ壊滅させ、多くの民を救い出したという事実だった

 

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レメディオスは救助された人々へ視線を向けた。

 

「この方々は。」

 

「我々聖王国が責任を持って保護し、それぞれの故郷へ送り届けます。」

 

救助された人々は安堵したように頭を下げた。

 

「ありがとうございます……。」

 

「ありがとうございます、団長様。」

 

レメディオスは改めて武蔵とターニャへ向き直る。

 

「武蔵殿。」

 

「ターニャ殿。」

 

「どうか私と共に王都へ来ていただけませんか。」

 

武蔵は腕を組み、珍しく返事に詰まった。

 

「それは構わぬが……。」

 

「……。」

 

「どうしたのです?」

 

レメディオスが尋ねる。

 

武蔵は苦笑した。

 

「わしは風の向くまま旅をする身じゃ。」

 

「一つ所に長居するのは性に合わぬ。」

 

ターニャも静かに口を開く。

 

「私としても。」

 

「元の世界へ帰る方法を探しています。」

 

「できるだけ情報を集めたいので、一か所に留まり続けるつもりはありません。」

 

レメディオスは二人の事情を聞き、しばらく黙った。

 

そして深々と頭を下げる。

 

「それでも。」

 

「お願いしたいのです。」

 

武蔵が少し驚く。

 

「騎士団長が頭を下げるとはの。」

 

レメディオスは顔を上げない。

 

「女王陛下には、大きな悩みがあります。」

 

「それは、この国の未来に関わる問題です。」

 

「私は剣を振るうことしかできません。」

 

「ですが、お二人なら……。」

 

「何か道を示してくださるかもしれない。」

 

ターニャは武蔵へ小声で囁いた。

 

「政治の相談でしょうか。」

 

「嫌な予感しかしません。」

 

武蔵も小声で返す。

 

「うむ。」

 

「わしもそう思う。」

 

「剣の話ならよいが、政は苦手じゃ。」

 

ターニャはため息をついた。

 

「私も軍人です。」

 

「内政や外交は専門外なんですが……。」

 

二人が顔を見合わせる。

 

その様子を見たレメディオスは続けた。

 

「無理にとは申しません。」

 

「ですが、お二人は我が国の民を救ってくださいました。」

 

「その恩に報いる機会をいただきたいのです。」

 

「せめて王都で歓待だけでも受けてください。」

 

武蔵はしばらく空を見上げた。

 

風がゆっくり南西から吹いてくる。

 

「……ふむ。」

 

「風も、もう少し先へ行けと言っておる。」

 

そう呟くと、武蔵は笑った。

 

「よかろう。」

 

「王都まで付き合おう。」

 

ターニャは肩をすくめる。

 

「武蔵さんが行くなら、私も同行します。」

 

「情報収集にもなりますし。」

 

レメディオスはようやく顔を上げ、安堵したように微笑んだ。

 

「ありがとうございます。」

 

「それでは聖王都へご案内いたします。」

 

こうして、宮本武蔵とターニャ・デグレチャフは、ローブル聖王国の王都へ向かうこととなった。

 

その頃、別の街道では――。

 

モモンとナーベを乗せた馬車もまた、同じ王都を目指して進んでいた。二組が再会するまで、あとわずかであった

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