武蔵転生記   作:masasoukoku

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第百三十七回 【許さない】

街道に用意された豪華な馬車を見て、レメディオスは言った。

 

「武蔵殿、ターニャ殿。」

 

「王都までは距離があります。」

 

「馬車をご用意いたしますが。」

 

武蔵は首を横に振る。

 

「いや、いらん。」

 

「馬車は苦手じゃ。」

 

「揺られるより、自分の足で歩くほうが性に合う。」

 

ターニャも軽く敬礼して答えた。

 

「私も不要です。」

 

「行軍訓練だと思えば、楽なものです。」

 

「……楽?」

 

レメディオスは思わず聞き返した。

 

「はい。」

 

「帝国軍では、これより過酷な行軍は珍しくありません」

 

「そういうものです。」

 

レメディオスは半信半疑だった。

 

しかし。

 

歩き始めて一時間。

 

二時間。

 

三時間。

 

武蔵は息一つ乱さず歩き続ける。

 

ターニャも一定の歩幅を崩さず、淡々と進む。

 

聖騎士たちは途中で何度も休憩を挟むが、二人は平然としていた。

 

しかも速度が異常だった。

 

騎兵がゆっくり進む速度とほとんど変わらない。

 

「……。」

 

「なんだ、この二人は。」

 

レメディオスは思わず呟く。

 

(武蔵殿は人間離れしている。)

 

(だが、あの幼女も普通ではない。)

 

(歩き方に一切の無駄がない。)

 

(まるで長年訓練を積んだ歴戦の兵士……。)

 

数日後。

 

一行は聖王国の王都――ホバンスへ到着した。

 

巨大な城壁。

 

白亜の神殿。

 

無数の尖塔。

 

街中には神官や巡礼者が行き交い、至る所に神を讃える彫像が建っている。

 

ターニャは街並みを観察しながら呟いた。

 

「……どちらかと言えば。」

 

「宗教都市ですね。」

 

「軍事都市というより、信仰が街の中心になっている。」

 

視線は自然と人々へ向く。

 

人々の服装は質素。

 

市場は開いているが、商人たちの声にはどこか勢いがない。

 

武蔵も周囲を見渡した。

 

「ふむ。」

 

「活気は低いな。」

 

「皆、何かを恐れておるような顔じゃ。」

 

ターニャも同意する。

 

「ええ。」

 

「景気が悪いというより、社会全体に緊張感があります。」

 

「国境問題でしょうか。」

 

「それとも亜人との戦い。」

 

レメディオスは二人の観察眼に少し驚きながら答えた。

 

「その両方です。」

 

「アベリオン丘陵では亜人たちの活動が活発になっています。」

 

「国民も不安を抱えています。」

 

ターニャは心の中で考える。

 

(丘陵では悪魔が人間牧場を運営していた。)

 

(それを聖王国が把握していなかった。)

 

(つまり敵は相当深く潜り込んでいる。)

 

(……状況は想像以上に悪い。)

 

武蔵は王都を眺めながら静かに言った。

 

「町は立派じゃ。」

 

「じゃが、人の気が沈んでおる。」

 

「戦が近い町の空気じゃな。」

 

レメディオスはその言葉を否定できなかった。

 

彼女自身もまた、この国へ迫りつつある大きな災厄を感じ取っていたのである

 

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モモンとナーベは聖王都ホバンスへ到着した。

 

城門をくぐり、街並みを見渡す。

 

「ここが聖王国の王都か。」

 

モモンは静かに周囲を観察する。

 

白亜の神殿。

 

巡礼者。

 

整備された石畳。

 

活気はある。

 

しかし、その裏にはどこか重苦しい空気が漂っていた。

 

(……平和に見える。)

 

(だが、デミウルゴスが動けば容易く崩れる。)

 

アインズは内心でそう分析する。

 

その時。

 

ギギギ……

 

「?」

 

妙な音が聞こえた。

 

横を見る。

 

「…………」

 

ナーベがモモンの鎧を握り締めていた。

 

鋼鉄製の籠手に、指がめり込まんばかりの勢いである。

 

(なんだ?)

 

(敵か?)

 

モモンが視線の先を追う。

 

王宮へ向かう聖騎士の一団。

 

その中央に。

 

見慣れた侍姿。

 

(武蔵さん。)

 

そして、その隣には金髪碧眼の幼い少女。

 

「…………。」

 

ナーベの声が低くなる。

 

「幼女……。」

 

さらに低く。

 

「よりによって幼女……。」

 

その瞳には、妙な対抗心が宿っていた。

 

(武蔵の隣にいる。)

 

(しかも自然に歩いている。)

 

(許さない。)

 

一方のモモンは冷静に少女を観察していた。

 

(あれが。)

 

(デミウルゴスの牧場を消滅させた幼女か。)

 

魔力を探る。

 

(……大きい。)

 

(相当な魔力を持っている。)

 

(しかも武蔵さんと普通に行動している。)

 

(要注意人物だな。)

 

その頃。

 

武蔵たちは王宮へ向かって歩いていた。

 

突然。

 

ターニャの肩が小さく震える。

 

「……。」

 

「どうした、ターニャ殿。」

 

武蔵が尋ねる。

 

ターニャは後ろを振り返る。

 

「……。」

 

「誰かに見られています。」

 

「それも。」

 

「かなり感情のこもった視線です。」

 

武蔵も振り返るが、人混みしか見えない。

 

「敵か?」

 

「分かりません。」

 

「ですが。」

 

ターニャは苦笑した。

 

「誰かの恨みを買ってそうで。」

 

武蔵は豪快に笑う。

 

「はっはっは!」

 

「お主なら、それくらい普通じゃろ。」

 

「私、そんなに恨まれるようなことしましたかね。」

 

ターニャは首を傾げる。

 

(……いや。)

 

(前世も含めれば心当たりが多すぎる。)

 

(存在X、メアリー・スー、共和国、連邦……。)

 

(敵しかいない気もする。)

 

一方、ナーベは武蔵たちの後ろ姿をじっと見つめていた。

 

「モモン様。」

 

「どうしました、ナーベ。」

 

「……あの幼女。」

 

「気に入りません。」

 

モモンは思わず心の中でため息をつく。

 

(そこなのか……。)

 

(警戒する相手は武蔵さんの方だと思うんだが。)

 

しかし口には出さず、

 

「今は任務を優先する。」

 

とだけ静かに告げるのだった。

 

 

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