武蔵転生記   作:masasoukoku

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今回から エ・ランテル編です


第十五話

数日後。

 

城塞都市

エ・ランテルの城門前。

 

高い石壁。

 

重厚な門。

 

人の列が長く伸び、商人や旅人が順番を待っていた。

 

その列の最後尾に、宮本武蔵が立っていた。

 

ここへ来るまでの道中。

 

森で狼型魔獣を斬り、

 

沼で巨大蛇を斬り、

 

盗賊まがいの連中も数人斬った。

 

だが――

 

どれも物足りない。

 

武蔵は鼻を鳴らす。

 

「つまらん」

 

この世界には強者がいる。

 

アインズ。

 

アルベド。

 

ガゼフ。

 

その気配は確かだった。

 

だが道端で出会うものは皆弱い。

 

腹も減るし、退屈もする。

 

そしてもう一つ。

 

この数日ずっと不愉快なことがあった。

 

後ろ。

 

付かず離れず。

 

影のように追ってくる気配。

 

シャドウ・デーモン。

 

武蔵はとっくに気づいていた。

 

気配は薄い。

 

だが完全ではない。

 

「……まだおるな」

 

斬ろうと思えば斬れる。

 

だが敵意はない。

 

襲ってもこない。

 

ただ見ているだけ。

 

それが逆に気持ち悪い。

 

「まあよい」

 

「そのうち飽きるだろう」

 

そう思って放っておいた。

 

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そして今。

 

エ・ランテルの門前。

 

門兵が順番に旅人から入城税を徴収している。

 

「次!」

 

武蔵の番が近づく。

 

武蔵は懐から財布を取り出した。

 

中を覗く。

 

村長からもらったわずかな金。

 

数える。

 

ちゃり。

 

ちゃり。

 

少ない。

 

どう見ても不足している。

 

門兵は無表情で手を差し出す。

 

「入城税だ」

 

武蔵は数枚の硬貨を見つめた。

 

足りぬかもしれん。

 

だが。

 

武蔵は平然としている。

 

「……まあいいか」

 

足りなければ何とかなる。

 

最悪、中に入ってから稼げばいい。

 

門兵が金を見て眉をひそめる。

 

武蔵は門兵の前からすっと離れた。

 

どう見ても金が足りない。

 

門兵も首を振った。

 

「足りん。次だ」

 

武蔵は財布をしまい、腕を組む。

 

「さて……どうする」

 

選択肢はいくつかある。

 

働く。

 

盗む。

 

斬る。

 

その中で一番早いのは――辻斬り。

 

昔、やったこともある。

 

道行く者を斬り、その持ち物を奪う。

 

戦国では珍しくもない。

 

だが。

 

武蔵は少し眉をひそめた。

 

「あれは後味が悪い」

 

金は手に入る。

 

だが、つまらぬ者を斬るだけ。

 

剣が濁る。

 

それは好かん。

 

考え込んでいた、その時。

 

門の横で騒ぎが起きた。

 

「当たっておいて謝らんのか!」

 

怒鳴り声。

 

武蔵が顔を向ける。

 

そこには二人の男。

 

一人は太った豪奢な服の男。

 

腹を揺らしながら、顔を真っ赤にしている。

 

もう一人は細身の男。

 

身なりは地味だが目が鋭い。

 

周囲には野次馬。

 

どうやら揉め事らしい。

 

太った男が叫ぶ。

 

「お前がわざと当たってきた!謝れ」

 

細身の男が冷たく返す。

 

「当たった証拠でもあるのか」

 

太った男は歯噛みする。

 

武蔵の目が細くなる。

 

「……金の匂いがする」

 

直感だった。

 

しかもただの金ではない。

 

揉め事。

 

争い。

 

場合によっては斬り合いになる。

 

それなら面白い。

 

武蔵は興味津々で野次馬の後ろに立った。

 

影の中では

シャドウ・デーモンが静かに見ている。

 

(面倒を起こしそうだな……)

 

ナザリックへの報告事項が増えた。

 

武蔵は笑う。

 

「さて、どう転ぶか」

 

退屈しのぎにはちょうどよかった。

 

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門の横の空き地。

 

いつの間にか、ただの口論は賭場になっていた。

 

野次馬たちが集まり、銅貨や銀貨を握りしめている。

 

「太っちょの旦那に三!」

 

「細いのに賭ける奴いるか!」

 

胴元役の男が声を張る。

 

太った男は見るからに力がある。

 

腕も太く、体重もある。

 

一方、細身の男は無駄肉がなく、静かに立っているだけ。

 

周囲の見立てはほぼ一致。

 

太った男が有利。

 

そこへ

武蔵が進み出た。

 

懐から財布を出す。

 

中に残った銅貨。

 

全部。

 

ちゃり、と胴元の前に置いた。

 

「全部」

 

「そっちだ」

 

指したのは細身の男。

 

一瞬、場が静まり――

 

次の瞬間、失笑が起こる。

 

「ははは!」

 

「正気かよ!」

 

「そんなヒョロいのが勝てるか!」

 

武蔵は笑わない。

 

確信していた。

 

(勝つ)

 

あの立ち方。

 

腰の落とし方。

 

重心の置き方。

 

無駄がない。

 

しかも視線が死んでいない。

 

人を斬った目だ。

 

ただの細男ではない。

 

やがて太った男が怒鳴る。

 

「なめるなぁ!」

 

拳を振り上げて突進。

 

大振り。

 

速さ任せ。

 

その瞬間。

 

細身の男がすっと体を低く沈めた。

 

武蔵の目が光る。

 

(よし)

 

一閃。

 

速い。

 

バシィッ!

 

太った男の首筋に峰打ち。

 

衝撃が脳を揺らす。

 

白目。

 

そのまま巨体が前のめりに倒れた。

 

ドサァッ!

 

静寂。

 

そして――

 

「うおおおっ!?」

 

「大穴だ!!」

 

「マジかよ!」

 

場が沸いた。

 

武蔵は胴元へ手を伸ばす。

 

「おい」

 

「勝ったぞ」

 

胴元は顔を引きつらせながら金を渡す。

 

予想外すぎた。

 

武蔵は無造作に受け取る。

 

これで入城税を払える。

 

その時。

 

細身の男が武蔵をちらりと見た。

 

一瞬だけ。

 

だが明確に。

 

「……」

 

気づいた。

 

この男だけが、自分の勝ちを最初から読んでいた。

 

それが気になる。

 

武蔵も目を返す。

 

(面白い)

 

門前の空気が、また少しだけ張り詰めた。

 

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