受付嬢は咳払いをして気を取り直した。
笑いは止んだが、まだ肩を震わせている冒険者もいる。
だが仕事は仕事。
「文字が書けない場合は、口頭でも大丈夫です」
武蔵はうなずく。
「名は」
「宮本武蔵」
受付嬢が代筆する。
「職歴、技能は?」
武蔵は少し考える。
「剣」
受付嬢が首をかしげる。
「剣士、ということですね?」
「まあそんなものだ」
「特技は?」
武蔵は平然と言う。
「斬ること」
後ろでまた笑いが漏れた。
だが受付嬢は真面目に書き込む。
こういう変わり者は珍しくない。
一通り終えると、小さな銅色のタグを差し出した。
「これが冒険者タグです」
冒険者ギルドの身分証。
「最初はカッパーランクから」
「上にはアイアン、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトがあります」
武蔵は聞きながら、周囲を見ていた。
興味が半分。
もう半分は別。
奥の席。
黒鎧の戦士。
妙に気配が気になる。
強い。
しかも隠している。
その隣には妙齢の美女。
色白の肌に黒の瞳・切れ長の眼・長い黒髪をポニーテールにしている
こちらは殺気を隠す気がない。
受付嬢の説明が終わる。
「以上です」
「ご武運を」
武蔵は登録料を払ってタグを受け取る。
ひっくり返す。
意味はわからん。
だがまあよい。
そのまま真っ直ぐ鎧の男の席へ向かう。
周囲の冒険者たちがざわつく。
「あいつ……新入りのとこ行くぞ」
「喧嘩か?」
「やめとけよ」
武蔵は椅子の前で止まった。
相手を見下ろす。
相手も見上げる。
しばし沈黙。
先に口を開いたのは武蔵。
「おぬし強いな」
女性の目が細まる。
無礼。
だが鎧の男は静かだった。
「あなたも」
武蔵は笑う。
「座ってよいか?」
女性が冷たく言う。
「無礼者」
「アイン……モモンさ、さーんの席だ」
だがモモンが手で制した。
「よい」
武蔵はどかっと座る。
三人の卓。
異様な空気。
周囲の冒険者たちは固唾を呑む。
武蔵はモモンを見ながら笑った。
「飯でも食いながら話そう」
兜の奥で、モモンもまた笑っていた。
(やはり面白い)
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冒険者ギルドの食堂。
昼時を少し過ぎた頃。
卓には簡素な食事が並んでいた。
黒パン。
煮込み肉。
豆のスープ。
安酒。
武蔵は黙々と食べている。
無駄がない。
箸ではなく木匙と手。
だが所作が妙に整っている。
食べ散らかさない。
汁もこぼさない。
皿の縁すら汚れない。
周囲の冒険者たちはパンくずを散らし、酒をこぼしながら騒いでいるのに対し、武蔵だけが静かだった。
その向かい。
モモンと女性
二人の前にもスープが置かれている。
だが手をつけない。
武蔵は肉を噛みながら聞いた。
「モモン殿」
「なぜ食わんのか」
モモンは一瞬止まる。
(まずい)
だがすぐに取り繕う。
「あ、いや」
「実は宗教上、一人で食べねばならないのです」
武蔵は「ふむ」とだけ答えた。
深く追及しない。
モモンは内心ほっとする。
(危なかった)
そして逆に武蔵を観察する。
(見事だ)
食べ方一つにも隙がない。
剣士の食事だ。
必要な分だけ。
静かに。
確実に。
まるで戦いのよう。
無意識にそうしている。
モモンは感心していた。
(こういう人間は珍しい)
やがて武蔵が食べ終える。
皿はきれいだった。
パンくず一つ残っていない。
モモンがウェイトレスを呼ぶ。
「片付けを」
皿が下げられる。
改めて向き合う。
モモンが頭を下げた。
「改めて」
「私の名はモモン、流れの戦士です」
武蔵もうなずく。
「宮本武蔵と申す」
「武蔵さんですか」
やはり妙だ。
どこか格式がある。
そして武蔵の目が横へ向く。
「その女性は」
女性は露骨に嫌そうな顔をしていた。
まるで汚物を見るような目。
「ナーベ様と言いなさい」
「このクソ虫」
ふん、とそっぽを向く。
空気が凍る。
周囲の冒険者たちも息を呑む。
武蔵は一瞬止まり――
「ほう」
少し笑った。
怒らない。
むしろ面白がっている。
モモンは慌てた。
「こ、こら!」
「すみません!」
「このナーべ、人見知りが強くて!」
ナーベがじろりと見る。(違います)
だが言わない。
主の顔を立てる。
武蔵は酒をあおる。
「よい」
「女はそういうものもおる」
ナーベの眉がぴくりと動く。
この男。
怒らない。
怯えない。
そして――
自分を見ても平然としている。
それが少し気に入らない。
モモンは話を戻した。
「武蔵さん」
「これからどうするおつもりで?」
武蔵は即答した。
「強い者を探す」
モモンは兜の奥で、笑みを浮かべた。
(やはりそう来るか)
一方 シャドウデーモンは影の中で震えていた
(え、どうして)
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モモンは懐からタグを出した。
銅色。
武蔵と同じ
冒険者ギルドのカッパーランク。
「実は私も冒険者になりたてで」
「ほう」
武蔵は少し意外そうだった。
この男の気配。
到底カッパーではない。
モモンは続ける。
「運よく依頼を頼まれていまして」
「今、その依頼人を待っていたのです」
武蔵は酒を飲みながら聞く。
「ふむ」
興味がある。
どういう依頼か。
この男がどう動くか。
それを見れば実力も少しはわかる。
モモンがギルド入口へ目を向ける。
「そろそろ……」
ちょうどその時。
扉が開いた。
入ってきたのは一人の少年。
まだ若い。
だが身なりは整っている。
きょろきょろと中を見回す。
そしてモモンを見つけると、ほっとした顔で駆け寄る。
「お待たせしました」
「遅れまして……」
モモンが穏やかに答える。
「いえいえ」
「詳しい話を二階で」
モモンは頷く。
立ち上がる。
武蔵も自然についていく。
ナーベが眉をひそめた。
「なぜついてくるのよ ゴミムシだましのくせに」
武蔵は平然と言う。
「面白そうだからだ」
ナーベのこめかみに青筋。
だがモモンは止めない。
むしろ都合がいい。
武蔵という未知の戦力を観察できる
二階の一室へ案内される。
扉を開く。
そこにはすでに別のパーティーがいた。
きりがいいところまで進めました