二階の部屋。
空気が落ち着いたところで、依頼人が頭を下げた。
「改めまして、自己紹介を」
少し緊張した様子で胸に手を当てる。
「僕はンフィーレア・バレアレ」
「ここエ・ランテルで祖母と一緒に薬品を作っています」
武蔵は「ほう」とだけ返す。
薬師か。
金にはなりそうだ。
続いて、向かいに座る冒険者たちが名乗る。
中央の男が銀色のタグを見せた。
「それじゃ俺たちも」
「俺たちは漆黒の剣」
「クラスはシルバー」
武蔵はタグを見る。
銀。
自分の銅より上。
つまり少しは強いのだろう。
リーダー格の男が名乗る。
「リーダーのペテル・モーク 戦士です」
隣の軽装の男が笑う。
「レンジャーのルクルット・ボルブ」
そう言って
ナーベにウインクする。
ナーベは完全に無視。
視線すら向けない。
ルクルットが苦笑する。
短髪の少年がぺこりと頭を下げた。
「僕はニニャ」
「マジックキャスターです」
最後に大柄な男。
胸を張る。
「吾輩はドルイドの
ダイン・ウッドワンダー」
武蔵は一人ずつ目を見る。
技量を測るように。
モモンも続く。
「戦士のモモンです」
ナーベは腕を組んだまま言い放つ。
「ナーべよ」
そして冷たく周囲を見る。
「ナーベ様と言いなさい 糞虫たち」
空気が凍る。
「こ、こらナーべ!」
モモンが慌てる。
ルクルットが乾いた笑い。
「きっついなぁ」
最後に武蔵。
「宮本武蔵」
短い。
それだけ。
だが妙に重い。
ペテルがちらりと見る。
(この男も新入りか)
だがブレインを倒した噂はまだここまで届いていない。
ンフィーレアが咳払いした。
「それでは」
「具体的なクエストについて説明します」
机の上に地図を広げる。
武蔵はそれを見て。
(やはり読めん)
黙っていた。
ンフィーレアが指を差す。
「目的地はここ」
「トブの大森林の外縁です」
武蔵の目が少し光る。
森。
魔物。
戦いの匂い。
少しだけ退屈が晴れそうだった。
モモンも静かに笑っていた。
(さて)
(武蔵、あなたはどこまで見せてくれる)
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ンフィーレア・バレアレは机の地図を指でなぞりながら説明を続けた。
「ここ、エ・ランテルを出て」
「まずカルネ村へ向かいます」
「そこで装備を整え」
「その後、トブの大森林の外縁部で採取します」
説明は細かい。
日程。
野営地点。
採取地点。
撤退基準。
護衛の役割分担。
武蔵は黙って聞いていた。
いや。
半分くらいしか聞いていない。
地図は読めぬ。
だが流れはわかる。
森へ行く。
魔物が出る。
斬る。
それでよい。
その時、武蔵が口を開いた。
「して」
全員が見る。
「薬草には高価なものと安いものがあるのか」
ンフィーレアは少し驚いた。
戦いではなく、そこを聞くのか。
「え、ええ」
「あります」
「薬効によって違いますから」
武蔵は頷く。
「そうか」
(高い草を取れば金になる)
実に現実的だった。
ルクルットが小声で笑う。
「案外しっかりしてるな、この人」
ナーベが冷たく言う。
「俗物なだけよ」
武蔵は気にしない。
ンフィーレアは続ける。
「途中、モンスターが出た場合も」
「できれば退治してほしいです」
モモンが静かにうなずく。
「了解しました」
ペテルも腕を組む。
「護衛しながらの採取だな」
ニニャが補足する。
「トブの外縁なら比較的安全ですけど……油断は禁物です」
武蔵の目が少し細まる。
(安全)
その言葉が少しつまらない。
だが森なら何かいるかもしれぬ。
もっと強い何かが。
ンフィーレアが周囲を見渡す。
「他に質問は?」
沈黙。
誰もない。
武蔵ももう聞くことはない。
「なければ」
「明日、ここから出発ということでお願いします」
全員が立ち上がる。
依頼成立。
モモンも席を立つ。
武蔵も同時に立つ。
その瞬間。
武蔵がふとモモンに聞いた。
「モモン殿」
「森には強いものはおるか?」
モモンは一瞬考える。
そして答える。
「運が良ければいるかもしれません」
武蔵は笑った。
「それはよい」
その笑みを見て。
ナーベは内心思った。
(この男……)
薬草採取より戦いしか頭にない。
だがモモンは違うことを考えていた。
(明日、武蔵の実力をもっと見られる)
それだけで価値があった。
そして影の隅。
シャドウ・デーモンもまた、その出発を見届けていた。
報告先はもちろんナザリック。
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ギルドを出る。
夕暮れの石畳。
人通りも少し減っていた。
宮本武蔵がふいに口を開く。
「モモン殿」
隣を歩くモモンが顔を向ける。
「お願いがあるのだが」
「なんでしょう」
「私にできることなら」
武蔵は頭をかきながら言った。
「実はな」
「この前から、そう……カルネ村を出てしばらくしてからじゃ」
「わしの後ろをまといつくやつがおる」
モモンの足が止まる。
「うっとおしい」
武蔵はそう言って。
すっと後ろの影を見た。
「今もおる」
その瞬間。
モモンの思考が凍る。
(え?)
(気づいていた!?)
影の中に潜むのは
シャドウ・デーモン。
デミウルゴスの配下。
完全隠密。
普通の人間に察知できる存在ではない。
それを。
ずっと。
最初から。
武蔵は認識していた。
「ぶった斬ってやろうかと思ったが」
「弱いのでほっておいた」
武蔵は平然と言う。
「だが、いい加減付きまとうのをやめるよう」
「モモン殿から言ってくれんか」
モモンは一瞬考える。
(誤魔化すか?)
だが。
武蔵の目。
あれは確信している。
なら下手に誤魔化すより――
「いいですよ」
つい反射で答えてしまった。
そして。
武蔵の後ろの影に向かって。
「もういい」
言った瞬間。
(しまった!!)
完全に油断した。
言った。
認めた。
武蔵は口元を吊り上げる。
ニヤリ。
獣のような笑み。
「やはりな」
「おぬし」
武蔵の眼光がモモンを貫く。
「アインズ・ウール・ゴウン殿だな」
沈黙。
ナーベの手がわずかに動く。
いつでも首を飛ばせる。
だがアインズは制した。
武蔵は笑う。
「食わぬ」
「宗教だの」
「流れの戦士だの」
「嘘が多い」
「だが別に構わん」
アインズは兜の奥で思う。
(どこまで見抜いている?)
武蔵は続ける。
「強ければよい、それだけじゃ」
その言葉に。
アインズは少し安心し、同時に警戒を深めた。
この男。
頭が悪いようでいて鋭すぎる。
武蔵は歩き出す。
「まあよい」
「明日の森で少しは楽しませてくれ」
そう言って去る。
アインズはその背を見送りながら思った。
(やはり危険だ)
(だが――)
(面白い)
影の中の
シャドウ・デーモンも震えていた。
自分の存在を見抜き。
主まで見抜いた。
ただの剣士ではない。
異物。
完全なる異物だった。
モモン=アインズ バレ回でした
ナーベ 武蔵は危険な下等生物と認識