朝。
冒険者ギルド・エ・ランテル支部の前。
薬草採取グループが揃っていた。
漆黒の剣。
モモン。
ナーベ。
ンフィーレア・バレアレ。
荷物の確認をしながら待っている。
だが。
一人足りない。
ニニャが不安そうに言う。
「遅いですね……武蔵さん」
ナーベは腕を組み、冷たく吐き捨てた。
「クソ虫は逃げたのよ」
ルクルット・ボルブが肩をすくめる。
「ありそうだな」
ンフィーレア・バレアレが困った顔で言った。
「もう少し待って、来なければ出発しましょう」
その時。
「すまんな」
後ろから声。
振り向くと。
宮本武蔵が歩いてきた。
だが。
昨日まで腰にあった刀がない。
ペテル・モークが気づく。
「刀は?」
武蔵は平然と答えた。
「壊れてしもうた」
一同沈黙。
「……は?」
武蔵は頭をかく。
「今日朝、振っていたらバラバラになってしもうた」
ルクルットが吹き出す。
「はは!」
「振っただけで壊れるって!」
呆れた顔。
だが武蔵は真顔。
本当にそうなのだ。
モモンは内心納得した。
(まあ、あの人の斬撃なら普通の武器じゃ保たない)
そしてモモンは懐から一本の剣を取り出した。
黒い鞘。
重厚な造り。
ただの剣ではない。
「武蔵さん」
「よければこれを」
差し出す。
ペテルが目を見開く。
「す、すごい……」
ただ置かれているだけで空気が違う。
武器としての格が違う。
モモンは内心で。
(まあ、ナザリックに転がってたレガシー級だけど)
本当に余り物だった。
だがこの世界では十分すぎる。
武蔵は受け取る。
ゆっくり鞘から抜く。
シャラン――
朝日を浴びて刀身が輝く。
異様なほど澄んだ刃。
武蔵の目が少し細まる。
「ほう」
そして。
ブン。
軽く振る。
その瞬間。
圧。
空気が裂けた。
斬撃の余波が野原を越え、遠くの山影にまで届いたかのようだった。
草がなぎ倒れる。
一同硬直。
「す、すげえ……!」
ルクルットが青ざめる。
ニニャも息を呑む。
ペテルは確信した。
(この男、化け物だ)
武蔵は刀身を見て。
「まずまずかの」
そう言って鞘に納める。
カチリ。
ナーベが眉を逆立てた。
「ア、アイン……モモーンさまから頂いた刀を!」
「その程度の評価!?」
武蔵は気にも留めず、モモンを見る。
「借りることにする」
モモンは頷いた。
「ええ」
(使いこなせるなら、むしろこっちが見たい)
アインズの興味は深まる。
レガシー級の刀。
それをこの剣鬼がどう振るうのか。
今回の遠征は。
薬草採取では終わらない予感がしていた。
「では」
ンフィーレアが声を上げる。
「出発しましょう」
こうして一行は
トブの大森林へ向けて歩き出した。
武蔵の腰には、新たな刃。
そして影の中には、なおも
シャドウ・デーモンがついていた。
武蔵も、気づいていて笑っていた。
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エ・ランテルを出た一行は、街道を南へ進んでいた。
目的地は
カルネ村。
そこを経由して
トブの大森林へ入る予定だ。
道中。
現れた魔物は――
ゴブリン。
オーク。
低級ばかり。
だが。
一瞬で終わる。
宮本武蔵が斬る。
一閃。
終わり。
モモンが斬る。
双剣の一振り。
終わり。
漆黒の剣の面々はほぼ出番なし。
ルクルットが苦笑した。
「俺たち、いらなくない?」
ペテルも同意した。
「正直そう思う」
ナーベは冷たく言う。
「当然」
ニニャだけは武蔵とモモンを交互に見ていた。
(この二人……異常だ)
やがて。
カルネ村を見下ろす丘へ到着する。
ンフィーレアが村を見て目を見開いた。
「あれ?」
「前と違う……」
武蔵も見る。
以前来た時とは様子が違う。
村の周囲。
木の柵。
見張り台。
簡易だが防衛設備が整っている。
「ふむう」
武蔵が鼻を鳴らす。
ずいぶん変わった。
そのまま村の入口へ向かう。
だが。
「待ちな!」
入口に武装したゴブリンたちが立ちはだかった。
しかも数が多い。
さらに周囲の草むらにも伏兵。
弓を構えている。
完全な警戒態勢。
「ここから先は姐さんの許可がない者は通さん!」
ルクルットたちが武器に手をかける。
「モモーン様」
思わずナーベがモモンを守るように出る。
その瞬間。
武蔵がずいと前へ出た。
ゴブリンたちが見る。
そして。
「あ!」
緊張が一気に解けた。
「武蔵さんじゃありませんか!」
武器を下ろす。
笑顔。
ルクルットたちが固まる。
「え?」
「知り合い?」
武蔵は平然としている。
「まあな」
その時。
村の奥から声。
「どうしたの?」
走ってきたのは
エンリ・エモット。
その後ろには
ネム・エモットもいる。
エンリは武蔵を見る。
「あ!」
「武蔵さん!」
そしてその横にいる少年を見る。
「ンフィーレアじゃない!」
ンフィーレアも驚いた。
「エンリ!?」
再会。
思わぬ場所で。
その様子を見て。
モモンは兜の奥で静かに思う。
(なるほど)
(ここまで村が発展しているのは……)
目の前のゴブリンたち。
そしてエンリ。
あの角笛の成果が、もうここまで出ている。
だが武蔵は別のことを見ていた。
ゴブリンたちの立ち方。
陣形。
視線。
(ほう)
ただの雑兵ではない。
ちゃんと鍛えられている。
エンリが笑顔で言う。
「皆さん、村へどうぞ!」
こうして一行は。
再びカルネ村へ足を踏み入れることになった。