村の広場。
カルネ村の村長が深々と頭を下げた。
「おお、武蔵さま」
「あの時は本当にありがとうございました」
武蔵は軽く手を振る。
「ん」
礼には興味がない。
だが村の様子は気になった。
武蔵は見張りについているゴブリンたちを見る。
「……あのゴブリンたち」
「役立っているようで何より」
村長は嬉しそうにうなずいた。
「はい」
「彼らには村の雑事、畑仕事、見廻り……なんでも手伝ってもらっています」
人口が減ったカルネ村にとって。
十九体のゴブリンは大きな労働力だった。
防衛力でもあり。
生産力でもある。
その様子を見ながら。
モモン――アインズは内心で考える。
(ここまで有効に使っているとは)
予想以上だった。
エンリの統率も悪くない。
今後さらに成長する可能性がある。
ンフィーレア・バレアレが村長へ説明した。
「朝にはトブの大森林へ入って薬草を採ってきます」
村長の顔が少し曇る。
「そうですか……」
「ですが気をつけてください」
「近頃――」
少し声を潜める。
「森の賢王の活動が盛んです」
漆黒の剣の面々が顔を見合わせた。
漆黒の剣のリーダー、ペテルが聞く。
「森の賢王?」
村長は真剣な顔で答える。
「森の奥深くに住む怪物です」
「この辺りでは誰も逆らえません」
「最近は森の外縁近くにも現れるとか……」
ニニャが青ざめる。
「それは危険ですね……」
その時。
武蔵が口を開いた。
「そやつは強いか?」
全員が武蔵を見る。
質問の方向が違う。
村長は戸惑いながら答える。
「え、ええ……そりゃ 誰も敵わないと……」
武蔵の口元が上がる。
ニヤリ。
久々だった。
強いという言葉に反応したのは。
そして。
モモンもまた聞き逃せなかった。
(森の賢王)
アインズの知識にはない存在。
未知。
この世界特有のモンスター。
つまり価値がある。
観察対象。
あるいは戦力化。
ナーベが小声で聞く。
「アイン……モモンさま」
「どうします?」
モモンは静かに答える。
「遭遇したら見極める」
武蔵はその横で笑っていた。
「よい」
「森へ行く楽しみができた」
ルクルットが呆れる。
「普通、怖がるとこだろ……」
だが武蔵とモモン。
この二人だけが森の賢王という名を聞いて。
期待していた。
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翌朝。
カルネ村の入口。
出発前。
エンリ・エモット ネム・エモットが見送りに来ていた。
ンフィーレア・バレアレに
「そ、それじゃ……いってらっしゃい」
エンリの顔は少し赤い。
ンフィーレアもどこか落ち着かない。
ネムがギシシと笑う
視線が合うたび逸らす。
武蔵はその様子を見て。
「若いの」
ぽつりと笑った。
察した、そういう仲だと。
エンリは顔を真っ赤にする。
「ち、違います!」
だが誰も信じない。
一行は森へ向かう。
道中。
ニニャが
モモンにいろいろ質問していた。
戦い方。
装備。
経験。
モモンも丁寧に答える。
かなり親しげだ。
その様子を横で見ていた
ナーベは露骨に不機嫌だった。
(馴れ馴れしい)
しかも。
ルクルット・ボルブが懲りずに話しかける。
「ナーべちゃんってさ――」
ゴッ。
一瞬で吹っ飛ぶ。
木にめり込む。
「ぐへっ」
「うるさい カマドウマ」
冷たい。
ペテルが頭を抱える。
「またか……」
やがて。
トブの大森林外縁へ到着。
ンフィーレアが全員へ説明する。
「それでは採取にかかります」
「くれぐれも一人で奥へ行かないように」
ペテルたちも散開。
警戒しつつ採取開始。
武蔵はしゃがみ込み。
しばらく地面を見る。
じっと。
草を見て。
土を見る。
匂いを嗅ぐ。
そして。
すっと手を伸ばす。
薬草を摘む。
無駄がない。
次。
また次。
次々と見つける。
ンフィーレアが驚く。
「は、早いですね!」
武蔵は平然と答える。
「まあな」
「昔、山では取っていたからな」
山籠もり。
修行。
野草。
薬草。
生き延びる知恵だった。
ニニャも感心する。
「剣だけじゃないんですね」
ルクルットが笑う。
「意外と万能だな、この人」
モモンとナーベは採取スキルがない。
なので護衛兼荷物持ち。
だがアインズは武蔵を観察していた。
(この人、本当に何者なんだ……)
戦闘。
察知能力。
生活技術。
知識。
全部が妙だ。
その時。
武蔵の手が止まる。
森の奥を見る。
何かを感じた。
風。
気配。
重い存在感。
武蔵がぽつりと呟く。
「奥へ行くか」
モモンが振り向く。
武蔵は笑って言う。
「モモン殿」
「奥へ行かぬか」
ナーベが即座に反応する。
「危険です」
だがモモンは理解した。
武蔵も感じている。
森の奥。
何か強いものがいる。
おそらく――
森の賢王。
アインズの興味も大きかった。
未知の存在。
見たい。
測りたい。
モモンは少し考え。
「……少しだけなら」
武蔵の口元が上がる。
二人の強者が。
森の奥へ足を向けようとしていた