ンフィーレアに一言だけ告げる。
「奥へ行ってくる」
「えっ!?」
止める間もない。
武蔵。
モモン。
ナーベ。
三人はそのまま森の奥へ進んだ。
途中。
武蔵はついでのように薬草も摘んでいく。
モモンが思う。
(この人、本当に手慣れてるな)
やがて。
森の空気が変わった。
鳥が鳴かない。
風が止む。
静寂。
重い圧。
武蔵が足を止める。
「ここか」
モモンも立ち止まる。
感じる。
強い気配。
ナーベも身構える。
その時。
声。
森の奥から響く。
「お主たち」
「ここがわしの縄張りと知って入ってきたでござるか」
モモンの内心が高ぶる。
(喋る!?)
高位知性体。
魔獣か。
異種族か。
この世界の重要サンプルだ。
どんな姿か。
どんな種族か。
ワクワクしていた。
武蔵もまた笑っている。
(ようやくか)
久しぶりの強者。
血が騒ぐ。
茂みが揺れる。
ズシン。
ズシン。
大きい。
かなり大きい。
木々を押しのけて現れた。
モモンは目を見開いた。
武蔵も目を細める。
そこにいたのは――
ハムスター。
巨大だった。
2mほどもある。
ふわふわ。
丸い。
頬袋ぷっくり。
黒い目がつぶら。
沈黙。
武蔵。
モモン。
ナルベラル。
全員止まる。
(ジャンガリアンハムスター!?)
(……大鼠?)
(…ネズミね)
賢王は胸を張る。
「我こそは!森の賢王!」
「この森を統べる知恵の王!」
武蔵はしばらく見つめたあと。
ぼそり。
「……かわいいの」
ナーベが吹きそうになるのを堪える
モモンは真顔を維持するのに必死だった。
だが。
アインズの感知ではわかる。
この存在。
見た目に反して。
かなり強い。
そして武蔵もまた。
笑みを浮かべた。
「よい」
「見た目はどうあれ」
「強ければよい」
森の賢王――が鼻を鳴らした。
「無礼者」
「ならば試してやろう」
森の空気が張り詰める。
モモンは興奮していた。
(さて)
(武蔵さん、どう出る)
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森の奥。
対峙する二つの存在。
宮本武蔵と賢王。
武蔵はその丸い姿を見ながら。
ふと昔を思い出していた。
ピクル。
巨大で。
強く。
どこか無垢で。
そして孤独だった。
(そういえばあやつも……かわいかったの)
武蔵の中で奇妙に重なる。
(わしと同じで独りぼっち)
目の前の賢王もまた。
この森で独りなのだろうか。
だが。
情は情。
立ち合いは別だ。
「さて」
武蔵はモモンから借りた刀を抜く。
静かな抜刀。
狙いは明確。
ピクルと同じ。
角を取る。
急所を断つ。
その瞬間。
賢王が叫ぶ。
「わしを舐めるなでござる!」
巨大な身体を丸める。
圧縮。
回転。
突進。
ゴオオオオッ!!
地面をえぐりながら転がる。
武蔵の目が見開く。
「ほ、これは」
「ピクルにはなかった」
瞬間。
半歩。
たった半歩ずれる。
回転体がかすめる。
そのまま背後の巨木へ――
ドゴォン!!
粉砕。
木片が吹き飛ぶ。
ナーベも目を細める。
(あの威力……)
だが終わらない。
ハムスケが身体を戻し。
その勢いのまま尻尾を振るう。
鞭のような高速。
空気を裂く。
バシィィィン!!
武蔵の頬をかすめる。
わずかに血。
その瞬間。
武蔵の脳裏に蘇る。
本部以蔵に分銅で斬られた時の感覚。
「お」
口元が上がる。
「ん~」
「ピクルよりは強いの」
武蔵は即座に見抜いた。
筋力。
反応。
技術。
獣でありながら技を持つ。
ただの魔獣ではない。
そして。
武蔵は刀を納めた。
カチリ。
ハムスケが止まる。
「?」
警戒。
次の一撃を待つ。
だが武蔵は戦意を引いた。
横を見る。
モモンへ。
「モモン殿」
モモンが目を向ける。
武蔵は笑う。
「あの鼠」
「一度戦った方がいい」
「戦士としての技量が上がる」
ナーベが絶句した。
譲った。
こんな相手を。
モモンも内心驚く。
(……私に?)
武蔵は腕を組む。
「よい相手じゃ」
「斬るには惜しい」
賢王は怒る。
「鼠ではないでござる!」
「森の賢王でござる!」
武蔵は笑う。
「そう怒るな」
「強いぞ、おぬし」
その言葉。
賢王は少し嬉しそうだった。
モモンは前に出る。
双剣を抜く。
ギィン。
アインズの中の戦士としての興味が燃える。
武蔵が勧めるほどの相手。
なら。
試す価値はある。
賢王もモモンを見る。
「次はお主か」
武蔵は木にもたれて観戦態勢。
「よく見せてもらおう」
こうして。
戦いは次の局面へ移った。