カルネ村へ戻った時。
村人たちは仰天した。
「森の賢王だ!」
「なんで武蔵さんたちに懐いてるんだ!?」
だが。
レムたち子供たちは違った。
「ふわふわ!」
「乗りたい!」
賢王の毛に飛びつく。
賢王も満更でもない。
「や、やめるでござる」
と言いながら嬉しそうだった。
武蔵はその様子を見て笑う。
「人気者じゃの」
一泊し。
翌朝。
一行は再びエ・ランテルへ帰還した。
夕暮れのエ・ランテル。
今回の採取は大成功だった。
薬草は大量。
しかも質もいい。
さらに。
森の賢王という特大のおまけ付き。
ギルド前。
ンフィーレア・バレアレが深々と頭を下げる。
「ありがとうございました、皆さん」
「おかげで大量に……しかもこんないい品まで」
ペテルたち漆黒の剣も笑う。
「報酬が楽しみだな」
そのまま彼らはンフィーレアの家へ。
荷下ろしと整理のためだ。
一方。
モモンとナーベはギルドへ。
森の賢王の登録。
名前は――
「ハムスケ」として正式命名。
ハムスケ本人も気に入った。
「よい名でござる!」
その横で。
武蔵がンフィーレアへ手を差し出す。
「して」
「依頼料は?」
ンフィーレアが苦笑い。
「明日ギルドで精算します」
武蔵は頷く。
現金主義。
ナーベが冷たく言う。
「卑しいわね、クソ虫」
武蔵は肩をすくめる。
「飯を食うには金がいる」
正論だった。
そして。
武蔵はそのまま夕暮れの雑踏へ消えようとする。
だが。
ふと足を止める。
向きを変える。
ナーベの方へ。
彼女が警戒する。
「な、なによクソ虫」「何か用?」
武蔵は無言。
一歩。
また一歩。
ナーベが身構える。
モモンも見る。
その瞬間。
武蔵は――
すっと顔を寄せ。口付けた。
沈黙。
世界が止まる。
「え……?」
ペテル。
「ええええ!?」
ルクルット。
「えええええ!?」
ニニャ。
「なっ!?」
ハムスケ。
「でござる!?」
そして。
モモン。
「ええええええ!?」
だが直後。
アンデッドの感情抑制。
スン。
冷静に戻る。
(いやいやいや何をしてるんだこの人!?)
ナーベの顔が真っ赤になる。
怒り。
羞恥。
混乱。
そして何とも言えない感情。
ぐしゃぐしゃ。
「――ッ!!」
バチィィィィン!!
ビンタ。
普通の人間なら頭ごと吹き飛ぶ威力。
空気が裂ける。
だが。
武蔵の頬が赤くなるだけ。
ぴくりとも動かない。
ナーベが逆に震える。
(な……)
(硬い!?)
武蔵は頬をさすり。
ニヤッと笑った。
「また明日」
そのまま。
夕闇の雑踏へ消えていく。
ナーベはその場で固まった。
怒りながら。
赤面しながら。
拳を震わせる。
モモンは心の底から思った。
(本当に予測不能だ……)
だが。
ほんの少しだけ。
ナーベの胸の奥に。
これまで知らなかった感情が芽生え始めていた。
本人だけがまだ気づいていない。
シャドウデーモン 「緊急報告! 武蔵がナーベラル・ガンマさまへ口づけ」