ガジットは恐れおののいていた もう逃げるしかない 逃げようそれしかない
刹那。
空気が止まった。
カジット・デイル・バダンテールは理解できなかった。
背を向けた瞬間。
“何かが来る”と気づいた時にはもう遅い。
武蔵の刃は、すでにそこにあった。
「え?」
その一言だけ残して。
世界が横に割れる。
どちゃ。
身体は崩れ落ちる。
思考より速い斬撃。
終わり方としてはあまりにも静かだった。
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残ったのは一瞬の沈黙。
そして。
クレマンティーヌの瞳がわずかに揺れる。
(……まずい)
直感ではない。
経験だ。
“これは遊びじゃない”
目の前の男――宮本武蔵。
自分より上。
そう理解した瞬間、思考は切り替わる。
逃げる。
ただし。
ただ逃げるだけでは終わらない。
彼女は笑った。
「いいねぇ……」
そして全力で“積む”。
身体能力強化。
疾風走破。
不落要塞。
能力向上。
超能力向上。
超回避。
流水加速。
限界まで重ねた“逃走兼奇襲ビルド”。
(あの黒い鎧はパワータイプ……あいつなら一撃入れて離脱できる)
標的を切り替える。
モモン。
彼の背後へ回り込む。
風のように消える。
地面を蹴るたびに残像が増える。
「もらった!」
刃が閃く。
全力の一撃。
それを“置き土産”にして、この場から離脱する――はずだった。
だが。
モモンは動かない。
いや。
“動く必要がない位置にいた”。
クレマンティーヌの刃が届く直前。
空気が重くなる。
(――なに、この圧)
声。
低く、静かに。
「ほう」
それだけ。
その瞬間。
彼女は理解した。
ここはもう、“逃げられる戦場”ではない。
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神殿前の空気が、完全に“死”の温度へ落ちた。
クレマンティーヌは確かに速かった。
最初の一撃は完璧だった。
マスクの隙間を狙い、スティレットを差し込む。
電撃。
普通ならそこで終わる。
だが――
相手が違った。
モモンは一歩も引かない。
むしろ。
抱きしめた。
「ぐっ……!」
拘束されたまま、クレマンティーヌの全力が叩き込まれる。
拳。
蹴り。
短剣。
すべてが入る。
それでも離れない。
「こ、この……離せ!」
だがモモンは静かに言う。
「すまないな」
「私は魔術師なんだ」
その言葉と同時に――力が変わる。
骨が軋む音。
「どうだ」
「魔術師に抱きしめられる気持ちは」
「ぐ……ぶふぉッ!」
血がこぼれる。
呼吸が潰れる。
関節が折れていく。
静かに、確実に。
終わりへ向かう圧。
そしてモモンは、ゆっくりと顔を見せる。
フェイスガードを上げる。
そこにあるのは。
アインズ・ウール・ゴウンの貌。
死そのもの。
「ひぃっ……!」
クレマンティーヌの理解が崩れる。
逃げ道が消える。
左右を見ても、もう無い。
そこにいるのは。
ただ“戦いを見ている男”。
宮本武蔵。
クレマンティーヌは必死に叫ぶ。
「助けて!」
「?」武蔵はわしかと言った顔
「こいつ アンデッドよ アンデッド!」
クレマンティーヌの必死の叫び
「アンデッドは敵でしょ!?人間の敵よ!」
武蔵は静かに見返す。
そして。
あまりにも淡々と答える。
「わしが人間だとしても」
「お前を助ける道理はないな」
一歩。
距離が詰まる。
クレマンティーヌの喉が鳴る。
「それに」
「そ、それに……?」
最後に見たのは。
刃。
そして静かな声。
「もう終わりじゃ」
――それが彼女の世界の終点だった。
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神殿前に、静寂だけが残る。
血の匂いと、圧倒的な“終わり”の気配。
そしてその中心に。
死の王と。
戦いを楽しむ男が立っていた。