神殿の外は、戦闘の余韻だけが残っていた。
血の匂い。崩れた石材。沈黙する墓地。
モモンとナーベが神殿から出ると、そこには一人の男が立っていた。
宮本武蔵。
先ほどまでの狂騒が嘘のように、ただ風に立っている。
どこか――満たされていない顔。
戦いの後に残る、いつもの静けさ。
「終わったか」
武蔵は短く言った。
その声には興奮も余韻もない。
ただ事実だけ。
モモンは少しだけ間を置き、それから口を開く。
「武蔵さん」
「ナザリックに来ませんか」
戦力として、ではない。
危険人物として、でもない。
“同類”として。
その瞬間だった。
空気が割れるように伝言が入る。
ナザリックからの強制リンク。
アルベドの声は、明らかに焦っていた。
「アインズ様!!」
「緊急事態です!!」
「シャルティア・ブラッドフォールンが――反逆しました!!」
一瞬。
完全に時間が止まる。
モモンの思考が空白になる。
「は?」
それだけが、漏れた。
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ナーベも固まる。
武蔵は首をかしげる。
意味を測っている顔。
だがモモンの中では、すでに別の回路が走り出していた。
(シャルティアが反逆?)
(いや、ありえない)
(制御……いや、精神干渉?洗脳?)
視線が一気に遠くなる。
墓地の静寂が、別世界の音になる。
モモンはゆっくり息を吐いた。
そして短く言う。
「……すぐ戻る」
武蔵を見る。
一瞬だけ。
その目は、さっきまでの“戦士の顔”ではなかった。
“王の顔”だった。
「武蔵さん」
「すみませんが、これは少し厄介なことになりました」
そして転移の魔力が広がる。
ナザリックへ。
戦いの舞台は変わる。
武蔵はその背中を見送る。
「……忙しい男じゃな」
ぽつり。
そして少しだけ笑う。
「まあいい」
「次の面白い戦いは、向こうにあるかもしれん」
墓地には再び静寂。
だがこの夜はまだ終わっていない。
ナザリックでは“反逆”が始まり。
地上では“剣鬼”が残る。
そしてそれぞれの戦場が、次の段階へ動き出していた。
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エ・ランテル墓地アンデッド大量発生事件は、その夜のうちに終息した。
遅れて駆けつけた冒険者たちが、残っていたアンデッドを掃討。
街は救われた。
だが真相を知る者は少ない。
神殿の奥で何があったのか。
知るのは――
モモン、
ナーベ、
そして
宮本武蔵だけ。
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ハムスケとナーベは、そのままナザリックへ。
ンフィーレア・バレアレも保護され、アインズの中でその価値は大きく跳ね上がった。
「マジックアイテム全てを扱える才能……」
「これは大きい」
さらに。
カジット・デイル・バダンテールの傍らに落ちていた
死の宝珠も回収。
アインズにとっては収穫の多い夜だった。
だが。
奇妙なこともあった。
クレマンティーヌとカジットの死体。
遺体保管庫からいつの間にか消えていた。
「……回収されたか」
アインズはそう判断した。
裏にまだ何かある。
そう確信する。
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数日後。
冒険者ギルドにて。
今回の功績が正式に認められた。
モモンには――
ミスリル級プレート。
ギルド中がざわめく。
「異例の昇格だ……」
「黒の戦士、化け物か」
一方。
武蔵にも呼び出しがかかる。
ギルドマスターが少し困った顔で言う。
「あなたにも功績があります」
差し出されたのは。
ゴールド級プレート。
武蔵はしげしげ見る。
「ほう」
「小判か」
「いや違います、階級です」
「金じゃないのか」
周囲が苦笑する。
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その夜。
エ・ランテルの門前。
武蔵はひとり立っていた。
腰にはモモンから借りた刀。
風が吹く。
街道は遠くへ続く。
「この街も終いか」
強者はいた。
モモン。
ナーベ。
賢王。
クレマンティーヌ
だが。
まだ足りぬ。
もっと上。
もっと強いものがいるはず。
その匂いが、この世界にはある。
武蔵は笑う。
「さて」
「次はどこじゃ」
そして歩き出す。
エ・ランテルを後にして。
その背を、遠くから見ている影があった。
黒い影。
シャドウデーモン。
デミウルゴスの命で監視を続ける存在。
武蔵は振り返らない。
だが知っている。
「ついて来るなら来い」
「そのうち斬るかもしれんがな」
影が揺れる。
そして旅が始まる。
――次なる舞台へ。
ノベル第2巻 エ・ランテル編をもとにしたお話は終了
次回から 第3~7巻をもとに王都編を始めます