武蔵転生記   作:masasoukoku

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第三十八話

屋敷の夜。

 

宮本武蔵は酒場でしこたま酒を飲み、ふらりと帰ってきた。

 

だが。

 

門をくぐった瞬間。

 

空気が重い。

 

張りつめている。

 

殺気ではない。

 

もっと冷たい、

 

統制された圧。

 

武蔵は鼻を鳴らした。

 

「ふむ」

 

「これはアインズ・ウール・ゴウン殿かの」

 

屋敷へ入る。

 

広間には

ソリュシャン・イプシロンが腕を組んでいた。

 

不機嫌そうだ。

 

「おや、セバスは?」

 

武蔵が聞く。

 

ソリュシャンはじろりと睨む。

 

「セバス様は裏切ったかどうか、今アインズ様直々のお調べを受けているわ」

 

「ほう」

 

武蔵は興味深そうにうなずく。

 

「おやそうかい」

 

そのまま奥へ歩く。

 

ソリュシャンが慌てる。

 

「ちょっと! あなた無礼な!」

 

武蔵は手をひらひら。

 

「挨拶するだけじゃ」

 

バン。

 

扉を開ける。

 

中には、

 

セバス・チャン。

 

脇にツアレ。

 

そして。

 

玉座のように椅子へ座る“アインズ”。

 

左右に3人の守護者 デミウルゴス コキュートス そしてヴィクティム

 

だが。

 

入った瞬間、

 

武蔵の眉が動いた。

 

じっと見つめる。

 

沈黙。

 

そして一言。

 

「お主、何者じゃ」

 

空気が凍る。

 

セバスが目を見開く。

 

“アインズ”も固まった。守護者たちも固まった

 

武蔵は首をかしげる。

 

「いつものアインズ殿と違う」

 

その正体――

 

パンドラズ・アクター。

 

内心、冷や汗。

 

(ま、まずい)

 

慌てて芝居を続ける。

 

「な、何を言っているのですかー!」

 

「わたしこそ死の王!」

 

「アインズ・ウール・ゴウンなのですよー!」

 

武蔵は即答。

 

「うそじゃ」

 

「匂いが違う」

 

「え、えええ!?」

 

パンドラズ・アクターは動揺した。

 

セバスや守護者たちも心の中で驚愕した。

 

(見抜いた……!?)

 

この男。

 

強さだけではない。

 

感覚そのものが異常だった。

 

-------------------------------------------------------------

突然、部屋の空気が凍った。

 

本物の

アインズ・ウール・ゴウンが転移して現れる。

 

黒い法衣。

 

死の王の威圧。

 

「もういい、パンドラズ・アクター」

 

パンドラズ・アクターは即座に変身を解いた。

 

ナチス風の軍服姿。

 

ピシッと敬礼。

 

「申し訳ありません、父上!」

 

アインズは軽くうなずく。

 

そして武蔵へ向き直り、

 

珍しく頭を下げた。

 

「すまんな、武蔵殿」

 

「これはセバスの忠誠を試すためなのだ」

 

武蔵は腕を組み、

 

「ほお」

 

とだけ言った。

 

アインズは視線を

セバス・チャンへ向ける。

 

「セバス」

 

「お前がこの女を気にかけていることは分かっている」

 

ツアレは震えている。

 

アインズの声は冷たい。

 

「だからこそ試す」

 

「ナザリックか」「女か」

 

武蔵が横から口を挟む。

 

「するとアインズ殿は、セバス殿がこの女を好いておるのも承知か」

 

「承知の上だ」

 

アインズは即答。

 

「忠義とは何か」

 

「それを見極める」

 

沈黙。

 

そして命令。

 

「さあ、セバスよ」

 

「どちらを取る」

 

「ナザリックを取るなら――」

 

アインズの赤い眼光が光る。

 

「この女を殺せ」

 

ツアレが息を呑む。

 

パンドラズ・アクターも固唾を呑む。

 

武蔵は静かに見ている。

 

セバスは。

 

長く、深く息を吐いた。

 

そして――

 

膝をついた。

 

額を床につける。

 

「アインズ様」

 

「このセバス、命を賭してナザリックに忠義を尽くします」

 

アインズの目が細まる。

 

だがセバスは顔を上げる。

 

真っ直ぐに。

 

「ですが」

 

「この娘を殺せという命令だけは」

 

「お受けできません」

 

空気が張り裂けた。

 

パンドラズ・アクターが凍る。

 

守護者たちは緊張する

 

ツアレは青ざめる。

 

武蔵だけが、

 

ニヤリと笑った。

 

「ほう」

 

セバスは続ける。

 

「この娘を見捨てることは、我が創造主――たっち・みー様の教えに背きます」

 

「それは」

 

「私にとってナザリックへの忠義と同じ重みです」

 

「ゆえに」

 

「罰ならお受けします」

 

「ですがこの娘だけは守ります」

 

沈黙。

 

重い。

 

圧倒的な沈黙。

 

武蔵は腕を組んだまま笑う。

 

「よい答えじゃ」

 

アインズは――

 

しばらく黙った後、

 

ふっと笑った。

 

「……合格だ、セバス」

 

-------------------------------------------------------------

部屋の空気が少し和らいだ。

 

アインズ・ウール・ゴウンは少女を見る。

 

赤い光を宿した眼窩。

 

静かに問いかける。

 

「女。名は?」

 

少女は震えながらも答えた。

 

「ツァレニーニャ・ペイロンと申します」

 

アインズの動きが止まる。

 

「ツアレ……か」

 

その名で思い出す。

 

かつて

ニニャが話していたこと。

 

姉のこと。

 

さらわれた姉。

 

貴族への憎しみ。

 

アインズの胸の奥に、

 

すでに失われた者の記憶がよぎる。

 

「お前」

 

「妹はいなかったか」

 

ツアレは目を見開く。

 

「は、はい」

 

「セリーといいます」

 

「もしかして……お知り合いですか?」

 

アインズは少し間を置く。

 

「……う、うむ」

 

嘘ではない。

 

直接ではないが、

 

確かに知っていた。

 

そして問う。

 

「ツアレよ」

 

「これからどうしたい」

 

「故郷に帰ってもよい」

 

「十分な金も与えよう」

 

ツアレは迷った。

 

だが。

 

横を見る。

 

セバス・チャン。

 

自分を救ってくれた男。

 

守ろうとしてくれた男。

 

その背中を見て。

 

決めた。

 

「わたしは……」

 

小さく、

 

だがはっきりと。

 

「セバス様と共に生きたいと思います」

 

セバスの目がわずかに揺れる。

 

アインズはうなずいた。

 

「わかった」

 

「これからお前はナザリックの庇護下に置く」

 

「セバス、わかったな」

 

セバスは深く頭を下げる。

 

「はっ! アインズ様!」

 

その忠誠に迷いはない。

 

武蔵が笑った。

 

「よかったの、セバス殿」

 

だがその笑みの奥に、

 

一瞬だけ影が差す。

 

昔。

 

好きだった女。

 

だが剣のために捨てた。

 

修行のため。

 

強さのため。

 

その後どうなったか知らない。

 

知ろうともしなかった。

 

武蔵はツアレを見る。

 

眩しい。

 

真っ直ぐな笑顔。

 

「ツァレとか申したか」

 

「は、はい」

 

武蔵は静かに言う。

 

「セバス殿から離れるでないぞ」

 

ツアレは力強くうなずいた。

 

「はい!」

 

そして笑った。

 

それはとても眩しく、

 

温かい笑みだった。

 

武蔵は目を細める。

 

(こういう道もあったかもしれんな)

 

だが。

 

それはもう、

 

自分の道ではない。

 

-------------------------------------------------------------

朝。

 

王都の空は薄く晴れていた。

 

屋敷の前。

 

荷を整えた

セバス・チャンが深く一礼する。

 

隣には

ソリュシャン・イプシロン。

 

そして少し後ろに

ツアレ・ニーニャ。

 

「それでは武蔵様」

 

武蔵は酒をあおっていた。

 

「うむ」

 

「お主たちもな」

 

セバスたちの任務は終わった。

 

王都での仕込み。

 

情報収集。

 

そしてツアレの保護。

 

すべて一区切り。

 

今日は食料の購入と最後の整理。

 

その後、

 

ナザリックへ戻る。

 

ツアレは留守番だ。

 

まだ表に出すには危険が多い。

 

武蔵は立ち上がる。

 

肩を鳴らす。

 

「さて」

 

「わしもそろそろ行くか」

 

王都は悪くなかった。

 

強者もいた。

 

セバス。

 

ブレイン。

 

クライム。

 

だがもう十分。

 

次は別の国へ。

 

もっと知らぬ土地へ。

 

もっと強い者を求めて。

 

昨夜、

 

アインズ・ウール・ゴウンも一度だけ戻ってきた。

 

だが慌ただしかった。

 

「今忙しいので、また今度」

 

そうだけ言って、

 

武蔵に軽く挨拶してナザリックへ帰った。

 

武蔵は笑った。

 

「相変わらず忙しい男じゃ」

 

ソリュシャンが小さく鼻を鳴らす。

 

「至高の御方はお前と違って暇じゃないのよ」

 

武蔵はカカと笑う。

 

「そうか」

 

セバスは苦笑。

 

ツアレは少し寂しそうに言った。

 

「武蔵様……お気をつけて」

 

武蔵は振り返らず手を振る。

 

「おう」

 

門を出る。

 

朝日を背に。

 

刀もなく。

 

荷も少ない。

 

ただ己の肉体一つ。

 

風のように。

 

ふらりと。

 

次なる国へ。

 

次なる強者へ。

 

武の道は、

 

まだ終わらない。




もうちょっと続きます
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