王都を出て半日。
宮本武蔵は街道をゆっくり歩いていた。
行き先はない。
ただ足の向くまま。
風を受け、
土を踏み、
空を見る。
それだけでよかった。
夕方。
空が赤く染まり始める頃。
「ん?」
ふと足を止める。
いつも後ろにまとわりつく気配。
あのシャドウデーモン。
だが今日は違う。
ぴたりと止まっている。
武蔵は振り返る。
当然、
姿は見えぬ。
だが気配だけはわかる。
ぶるぶる震えている。
行こうか行かないか迷っている
まるで何かを恐れているように。
「なんじゃ」
武蔵は眉をひそめる。
「腹でも痛いのか」
デーモンはぶるぶる。
違う。
もっと切迫している。
武蔵は少し考える。
「なにかあるのか?」
気配が動く。
王都の方向へ。
すっと戻っていく。そして止まる
何度も振り返るような気配。
まるで
「来い」
そう言っているようだった。
武蔵は笑った。
「ほう」
「そういうことか」
王都で何か起きた。起きるのか
しかも、
このデーモンが震えるほどの何か。
つまり――
強者の匂い。
武蔵の口元が歪む。
「まだ行くなと言うことか」
踵を返す。
赤く染まる夕日の中。
再び王都へ。
風が変わる。
空気が変わる。
遠くから漂う、
鉄と血と殺気の匂い。
武蔵は鼻を鳴らした。
「面白い」
そして歩みを速める。
王都で、
新たな騒乱が始まろうとしていた。
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武蔵は王都に向かって駆ける
シャドウデーモンは追い抜いてはるか後方
王都が見えてくるとそこには炎の壁 そのまま突破する
武蔵は王都の中を疾走していた。
火の粉が舞う。
悲鳴。
剣戟。
血の匂い。
あちこちで戦いが起きている。
だが武蔵にとって重要なのは一つ。
強者の匂い。
それだけだった。
「あちらか」
最も近い濃い気配。
一直線に進む。
壁を蹴り、
屋根を飛び、
地を走る。
その速度は人の域を超えていた。
そして辿り着く。
八本指の密輸品倉庫だった館の前。
そこにいたのは、
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。
大量の密輸品をまとめ、
ナザリックへ送る準備をしていた。
その前に立ちふさがる者たち。
王国最強級冒険者パーティー、
蒼の薔薇。
先頭に立つのは
ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。
横に
ガガーラン。
ティア。
ティナ。
そして――
イビルアイ。
両者、殺気をぶつけ合う。
緊迫するその時。
「……!」
ラキュースの顔色が変わる。
後ろから、
とてつもない何かが近づいてくる
敵の増援。
そう判断し、
全員が振り向く。
ガガーランが構える。
イビルアイも魔力を練る。
そして――
現れた。
土煙を巻き上げ、
笑みを浮かべる武蔵。
「間に合った」
嬉しそうだった。
まるで祭りに遅れず来れた子供のように。
エントマは仮面の奥で固まる。
(な、なんでこの人間がここに)
シャドウデーモンがようやく追いつき、
武蔵の影に潜る。
震えている。
イビルアイが低く言う。
「……何者だ」
武蔵は蒼の薔薇を見る。
一人一人。
品定めするように。
そして。
最後にエントマを見る。
「ほう」
「お主もおるか」
エントマは一歩下がる。
嫌な予感しかしない。
武蔵は笑う。
「さて」
「誰からやる?」
蒼の薔薇全員が本能で理解した。
目の前の男は
危険。
極めて危険。
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館の前。
炎が揺れる。
殺気が満ちる。
だが妙に空気がおかしい。
ラキュースは剣を構えながら、目の前の男を見る
異様な圧。
立ち姿。
呼吸。
纏う気配。
すべてが強者。
(こ、この人……)
頬が赤くなる。
(強そうで……なんだか素敵……)
完全に始まっていた。
横で
ガガーランが頭を抱える。
「またかよ……」
ティアと
ティナも呆れる。
「出た」
「ラキュースの悪い癖」
イビルアイだけは冷静。
「馬鹿をやるな」
その視線の先。
エントマもまた武蔵を見ていた。
警戒を最大級にあげる。
この男。
ナザリック内では有名だった。
ナーべに口づけをした男。
プレアデス内で話題になった。
(この人間……危険)
そう理解している。
だが同時に。
じゅるり。
よだれが垂れる。
「あの腕の筋肉……」
「おいしそう……」
食欲が勝ち始める。
武蔵はエントマを見て首をかしげる。
「?」
鼻をひくひく。
匂いを嗅ぐ。
「お主」
「ナーべやソリュシャンの知り合いか?」
エントマの体が硬直する。
「……!」
「においがする」
武蔵は断言した。
同じ匂い。
ナザリック特有の濃い気配。
エントマは思わず後ろを見る。
影。
シャドウデーモン。
「しゃべった?」
デーモンはぶるぶる。
全力で首を振る。
(知らない。何も言ってない。ただ匂いでバレた。)
エントマは混乱する。
(なんで匂いだけでわかるの!?)
ラキュースたちは置いてけぼりだった。
「え?」
ガガーランが眉をひそめる。
「知り合い?」
イビルアイの目が細くなる。
「……妙だな」
武蔵は笑う。
「なるほど」
「アインズ殿の仲間か」
エントマの殺気が膨れ上がる。
蒼の薔薇の警戒もさらに増す。
三つ巴。
その均衡を破るのは、
もう時間の問題だった。