わたしがラキュースならこうだろうなぁと考えた創作です
館前の緊張が――妙な方向へ崩れた。
宮本武蔵はじっと
エントマを見つめる。
鼻をひくひく。
「お主……」
一歩近づく。
「うまそうだな」
場が凍る。
「食べてみたいな」
「!?」
エントマの複眼が見開く。
「!?」
ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラも固まる。
二人の脳内で同じ言葉が駆け巡る。
(うまそう!?)
(食べてみたい!?)
(こ、この男……変態だ!!)
だが武蔵にそんな意図はない。
武蔵は看破していた。
エントマの正体。
蜘蛛。
人型に化けた異形。
昔、
山で修行していた頃、
飢えをしのぐため何度も蜘蛛を食った。
炙れば香ばしく、
意外と乙な味。
その記憶が蘇っただけだった。
だが誤解は止まらない。
ラキュースは顔面蒼白。
頬を赤らめていた顔が一瞬で青ざめる。
「終わった……」
「私の恋……」
がくりと膝をつく。
横でガガーランがため息。
「これで何回目だ?」
ティアが即答。
「百回目」
ティナが肩をすくめる。
「まあ次があるさ」
「ないわよ!」
ラキュースが絶叫。
イビルアイだけは冷静だった。
「そこじゃない」
「問題は」
「この男、本当に食う気かもしれん」
武蔵は首をかしげる。
「ん?」
「何を騒いでおる」
エントマはじりっと下がる。
完全警戒。
(怖い)
(この人間、怖い)
(食べる側の目をしてる)
影の中のシャドウデーモンはぶるぶる震える。
(また変な誤解が……)
そして。
この妙な空気の中でも、
戦いだけは避けられそうになかった。
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突然、空気が変わった。
ぴたり、と。
武蔵の表情が変わる。
さっきまでの飄々とした顔が消え、
全身がわずかに沈む。
「んん……」
筋肉が軋む。
骨が鳴る。
武蔵は笑った。
「ほお」
「くるのか」
その瞬間。
エントマの背後。
空間が歪む。
黒い裂け目。
そこからゆっくり現れる影。
巨大な体躯。
禍々しい仮面。
炎のような魔力。
その場の全員が息を呑む。
蒼の薔薇の面々も即座に理解した。
格が違う。
圧倒的。
ラキュースの顔色が変わる。
イビルアイも警戒を最大まで上げる。
その正体はデミウルゴス。
ゲヘナ作戦遂行のため、
わざわざ変装していた。
だが。
目の前の男を見て、
内心が凍る。
(な、なんで)
(なんでこんなところに武蔵が!?)
完全に想定外だった。
それでも表情は崩さない。
仮面越しに一礼する。
「私の名はヤルダバオト」
「よろしく」
慇懃無礼な挨拶。
そのまま芝居を続ける。
武蔵は目を細める。
じっと見る。
匂いを嗅ぐように鼻を鳴らす。
「お主」
「アインズ殿の家来であろう」
デミウルゴスの肩がわずかに揺れる。
「……」
「たしか守護者と聞いたぞ」
「!?」
エントマが焦る。
蒼の薔薇も「守護者?」と困惑する。
ヤルダバオトは即座に芝居を続ける。
「アインズ……?」
「なんのことでしょう」
セバスと同じで知らぬふり。
だが内心。
(誤魔化せるのかこれ!?)
冷や汗。
そして宣言する。
「私の目的はこの世界征服」
「手始めがここ」
「挨拶代わりということです」
炎が揺れる。
悪魔らしい言葉。
だが内心は別。
(武蔵がいるなんて作戦に齟齬が……!)
武蔵は一歩前へ出た。
ずい。
地面が沈む。
笑う。
「まあいいわ」
「ワシと立ち会え」
その笑み。
純粋にして歓喜。
強敵を前にした剣鬼の顔。
蒼の薔薇は絶句。
エントマは固まる。
ヤルダバオト――デミウルゴスは。
(は、はやく)
(モモン……いやアインズ様!!)
心の底から救援を待っていた。
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デミウルゴスの内心は焦燥で焼けていた。
(もう王都を出たと聞いていたのに……!)
その視線は
宮本武蔵の背後――影へ向く。
潜む
シャドウデーモン。
(あいつ! 王都へ戻したのか!)
シャドウデーモンはぶるぶると首を振る。
(違います違います! 勝手に戻ってきました!)
もちろん伝わらない。
デミウルゴスは覚悟を決めた。
「ぐ……」
「あなたと一戦は避けられなさそうですね」
目の前の男。
セバスを奇襲とはいえ落とした化け物。
まともにやれば、
相打ちもありうる。
それはまずい。
ゲヘナ作戦が狂う。
ならば短期決着。
「悪魔の諸相――」
「豪魔の巨椀!」
右腕が肥大化する。
筋肉が膨張し、
骨が軋み、
建物を砕けるほどの質量となる。
そのまま振り下ろす。
轟音。
空気が爆ぜる。
だが。
武蔵は笑っていた。
「ほお」
「試してみるか」
ふっと腰を落とす。
かつて立ち会った烈海王の技。
消力。
巨大な拳が触れた瞬間、
武蔵の身体はまるで布。
力を逃がし、
ふわりと流れる。
「ぬう!?」
デミウルゴスの目が開く。
「消力……使えるな」
武蔵が感心した瞬間。
ヤルダバオトは追撃。
「悪魔の諸相――」
「鋭利の断爪!」
爪が一メートル以上伸びる。
刃。
槍。
斬撃と刺突の混合。
武蔵の首を狙う。
避ける。
髪一本。
掠る。
切れた髪が宙を舞う。
その瞬間。
武蔵の足が爆ぜた。
一瞬で間合いゼロ。
「!?」
組み付く。
崩す。
倒す。
そのまま馬乗り。
セバスの時と同じ。
デミウルゴスは即応する。
「だが!」
「悪魔の諸相――」
「蝕椀の翼!」
背中の翼が裂け、
無数の触手へ変形。
槍のように武蔵を貫く。
だが。
武蔵は片手で掴んだ。
ぐしゃ。
力で止める。
デミウルゴスの瞳が揺れる。
(止めた!?)
武蔵はそのまま――
ゴン!!
頭突き。
仮面が砕ける。
「ぐう!」
二発。
三発。
四発。
建物が震える。
地面が沈む。
蒼の薔薇は絶句。
エントマは硬直。
ラキュースは顔を青くする。
イビルアイだけが低く呟く。
「……化け物同士だ」
武蔵は笑う。
額から血を流しながら。
「おまえは」
「何発持つかな」