武蔵が再び振りかぶる。
額を引く。
次の頭突き。
これで決まる――
その瞬間。
背後から斬撃。
風を裂く音。
武蔵の首筋へ一直線。
「ぬ」
身体をひねる。
紙一重。
剣は武蔵を避けて地面へ突き刺さった。
轟音を立てて石畳が砕ける。
巨大な剣が突き刺さっている
その形。
その威圧感。
蒼の薔薇が目を見開く。
「こ、この剣は!」
土煙の向こうに黒き全身鎧。
一振りの大剣。
モモン。
その後ろに、
黒髪の美姫。
ナーベ。
モモンが低く告げる。
「ヤルダバオトォ!」
「見つけたぞお!――ぉ」
だが。
そこで止まった。
沈黙。
目の前の光景。
ヤルダバオトが、
地面に半分埋まっていた。
頭蓋にヒビ。
仮面半壊。
翼も折れかけ。
その上に馬乗りになっているのが、宮本武蔵
(なんで!?)
(武蔵さん、王都を出たと聞いてたぞ!?)
アインズの思考が止まる。
そして。
武蔵の後ろ。
影でぶるぶる震えるシャドウデーモン
(おまえかぁ!!)
アインズの怒りが飛ぶがすぐ感情抑制
シャドウデーモンは縮こまる。
(ち、違います! 勝手に戻ってきました!)
武蔵は振り返る。
にやり。
「おお モモン殿 久しいの」
気軽に挨拶する。
さっきまで魔王を地面に埋めていた男とは思えない。
モモンもなんとか平静を装う。
「ええ……お久しぶりです、武蔵さん」
汗をかかないはずのアンデッド。
だが今、
確かに汗をかいた気分だった。
武蔵の視線が横へ向く。
ナーベ。
「ナーベも相変わらず美しいのお」
ナーベはそっぽを向く。
「久しぶりね クソ虫」
冷たい。
だが耳だけ赤い。
蒼の薔薇の面々がざわつく。
ラキュースが小声。
「えっ」
「耳が赤い?」
ガガーランがにやにや。
「へぇ?」
イビルアイが目を細める。
(関係性が読めん……)
その間に、
地面に埋まったデミウルゴスが心の底から安堵していた。
(助かった……)
(本当に助かった……アインズ様……)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「くくく……」
瓦礫を押しのけ、
ヤルダバオトが立ち上がる。
ぐしゃ、と石片が落ちる。
半壊した仮面を片手で押さえながら、
血をぬぐう。
「久しぶりですね モモン」
芝居だ。
だが声に本音が混じる。
(本当に久しぶりで助かった)
モモンは大剣を構え、
びしっと決める。
「ヤルダバオト!」
「世界征服など、このモモンがいる限り出来はせんと知れ!」
完璧な登場。
完璧な台詞。
完璧なポーズ。
蒼の薔薇が息を呑む。
イビルアイの頬が赤くなる。
「かっこいい……」
完全に一目惚れだった。
その空気を、
ぶち壊す男が一人。武蔵
宮本武蔵が不思議そうに首をかしげる。
「何言っとる」
全員が止まる。
武蔵は続ける。
「お前たち いつもいっしょにいるんじゃろ」
「ナザリックで」
沈黙。
空気凍結。
蒼の薔薇一同。
「……え?」
エントマ。
「!?」
ヤルダバオト。
「!!?」
モモン。
「わぁ!!」
「わぁ!!」
「な、何を言ってるんですか!?」
「そんなわけないでしょう!!」
必死になって声が裏返る。
ナーベは額を押さえる。
(このクソ虫……!)
アインズの内心。
(武蔵さんから離れないと芝居が成立しない!!)
切実だった。
もう強いとか弱いとかじゃない。
存在が天敵。
モモンは即座に切り替える。
「ヤルダバオト!」
「覚悟!」
突進。
剣閃。
ヤルダバオトも合わせる。
「いきますよ」
ガギィン!!
大剣と悪魔の腕がぶつかる。
火花が散り 衝撃波が起きる。
その勢いのまま、
二人は奥の建物群へ飛び込む。
壁をぶち破り、
姿を消した。
武蔵はその背を見ながら腕を組む。
「……なんじゃ」
「仲良さそうじゃの」
ナーベが小声で吐き捨てる。
「もう黙ってなさい」
耳はまだ赤かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
モモンとヤルダバオトが消えた先を見て、
ラキュースが剣を抜く。
「追うわよ!」
蒼の薔薇が走り出そうとした――その瞬間。
前方の空間に、
音もなく影が降り立つ。
黒い仮面。
統一されたメイド服。
異様な殺気。
シズ・デルタ、
ユリ・アルファ、
ルプスレギナ・ベータら、
ナザリックの戦闘メイドたちだった。
だが当然、偽装中。
「そうはいきません」
先頭のメイドが冷たく言う。
「私たちはヤルダバオト様のメイド」
「あなたたちはここで死んでもらいます」
蒼の薔薇に緊張が走る。
その横で、
宮本武蔵が首をひねる。
「うーん」
嫌な予感。
ナーベの顔色が変わる。
武蔵が指をさす。
「お前たち」
「ナザリックのメイドたちじゃろ」
全員硬直。
「アインズ殿やナーベと同じ匂いが――」
「わぁぁぁ!!」
ナーベが絶叫。
遮る。
「わぁ!わぁ!わぁ!!」
仮面のメイドたちも叫ぶ。
「な、何を言ってるのよこのクソ虫!」
ナーベが無理やり前へ出る。
「こいつらは!メイド軍団!」
「モモン様の邪魔をさせないわ!」
完全に苦しい。
だが押し切るしかない。
蒼の薔薇は混乱。
ラキュース「メイド軍団?」
ガガーラン「そのまんまだな」
イビルアイは無言で考える。
(情報が多すぎる)
仮面のメイドたちもすぐ合わせる。
「受けて立ちましょう」
「ナーベ ここで決着を」
そのまま一斉に跳ぶ。
ナーベも追う。
轟音とともに奥へ消える。
残されたのは、
蒼の薔薇と武蔵。
しばし沈黙。
武蔵は腕を組む。
「……隠し事が下手じゃのう」
イビルアイがぽつり。
「今のでわかったことがある」
ラキュースが振り向く。
「何?」
「この男」
武蔵を見る。
「たぶん全部知ってる」