ラキュースは意を決して、
宮本武蔵へ近づいた。
「あ、あの!」
「もしかして……」
「モモンさんとヤルダバオトの関係を知ってらっしゃるのでは?」
武蔵なら知っている。
あの意味深な言葉。
あの場慣れした感じ。
聞けば何かわかる。
だが。
武蔵は答えない。
ふっと顔を上げた。
鼻を鳴らす。
「ん」
空気が変わる。
風の流れ。
魔力。
血の匂い。
遥か上空。
「強者がおる」
その一言で、
イビルアイの背筋が凍る。
彼女も感じた。
上空にある異常な魔力反応。
武蔵の目が細まる。
笑う。
「なるほど」
「こっちのほうが面白そうじゃ」
ラキュースが慌てる。
「え!?ちょ、ちょっと待って!」
聞きたいことが山ほどある。
だが遅い。
ドン!!
地面が爆ぜた。
石畳が陥没。
次の瞬間。
武蔵の姿は消えていた。
「は、早い……」
ガガーランが呆然。
ティアとティナも絶句。
視認すらできなかった。
ラキュースは悔しそうに拳を握る。
「また会えば……何か聞ける……!」
イビルアイはぼそりと呟く。
「いや」
「モモン殿に聞けばいい」
その名を口にしただけで、
頬が少し赤い。
「モモン殿……」
「またお会いしたい……」
完全に恋する乙女だった。
ガガーランがニヤニヤする。
「お前もか」
イビルアイは顔を背ける。
「ち、違う!」
だがその視線は、
モモンが消えた先をずっと追っていた。
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薄暗い倉庫。
崩れた木箱。
積まれた密輸品。
その奥で、
モモン――いや
アインズ・ウール・ゴウンは大剣を肩に担ぎながら息を吐くふりをした。
「ふう」
追い詰めた――ように見せる演技。
その前には、
仮面を外したデミウルゴス。
顔には無残な打撲痕。
額は割れ、
鼻も曲がっている。
武蔵の頭突きの跡だった。
デミウルゴスは膝をつき報告する。
「現在、ゲヘナ作戦の進捗率は80%を超えております」
アインズは腕を組む。
「ふむ」
「なかなか順調」
内心では。
(80ってどれくらい順調なんだ?)
だが表情は完璧。
デミウルゴスは続ける。
「ただし……武蔵の出現により密輸品の一部は回収不能となりました」
アインズは即答する。
「よい」
「それもリスクだ」
(たぶん)
デミウルゴスは深く頭を下げた。
「寛大なお言葉」
「このデミウルゴス、感謝いたします」
アインズはふと顔を見る。
ひどく腫れている。
「ところで」
「顔の方はいいのか」
デミウルゴスの目に悔恨が宿る。
「……は」
「傷をつけられました」
拳が震える。
「このデミウルゴス」
「必ず武蔵に復讐を致します」
本気だった。
悪魔としての誇りが砕かれた。
アインズは静かに言う。
「よいよい」
「それで」
「武蔵をどう見る」
デミウルゴスは即答した。
「アルベドとの交戦報告を受けた時は」
「油断があったものと思いました」
「ですが」
「セバスとの一件」
「そして今回」
「この私が受けた件」
顔をしかめる。
「正面からでは厳しいかと」
「やはり策を弄したうえでかからねば」
アインズは唸る。
「うーむ……そうか」
(マジか)
(アルベド、セバス、デミウルゴス相手にこれか)
(しかもまだ本気じゃない感じだったぞあの人)
脳裏に浮かぶ。
笑いながら頭突きする
宮本武蔵。
アインズは初めて、
ナザリック外に「理解不能な例外」がいると実感していた。
そしてその頃。
その例外は――
別の強者の気配を追って、
王都上空へ駆けていた。
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別の倉庫。
外では王都が燃え、
悲鳴と戦闘音が響いている。
だが中は妙に平和だった。
ナザリックの戦闘メイドたちが円卓を囲み、
茶を飲んでいる。
仮面は外していた。
ユリ・アルファが肩を回す。
「戦いのふりも疲れますね」
「意外と神経を使います」
ルプスレギナ・ベータがにししと笑う。
「そっすねぇ」
「なんせナーちゃんが武蔵に本気出せないからっす」
ナーベラル・ガンマがぴくっと反応する。
「な、何言ってるの!?」
「わ、わたしが本気を出せば!」
「あんな人間――」
語尾が揺れる。
ルプスレギナがニヤニヤ。
「へぇ~?」
「本気出せば?」
ナーベは目を逸らす。
そこへ
ソリュシャン・イプシロンが冷静に言う。
「でも確かにヤバいわよ」
「あれ」
「人間の枠じゃない」
シズ・デルタが即座に補足。
「データ収集済み」
「人間種として異常」
「以上」
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータがぷくっと頬を膨らませる。
「でも」
「あいつ変態」
全員が見る。
「私を見て」
「食べたいって言った」
ナーベが固まる。
「え?」
エントマが真顔で続ける。
「気をつけたほうがいい」
「ナーベも」
ナーベの脳裏に記憶が蘇る。
昔――
ユグドラシル時代。
まだCGキャラだった頃
サーバーのデータにあった掲示板ログ
【雑談】エントマちゃんってかわいいって思わない?
1 :名無しの冒険者
エントマちゃんってかわいいと思わない?
あの無表情メイド最高なんだけど。
2 :名無しのギルマス
わかる。
最初は怖かったけど、慣れるとかわいい。
3 :名無しの昆虫好き
中身が虫なのがまたいい。
4 :名無しの人間派
いや待て。
虫だぞ?
5 :名無しの昆虫好き
そこがいいんだろ。
6 :名無しの攻略勢
戦闘能力も結構高いんだよな。
見た目とのギャップが好き。
7 :名無しのロールプレイヤー
「はい」
「承知しました」
みたいな淡々とした喋り方好き。
8 :名無しのメイド好き
プレアデス全員好きだけど、
エントマは癒やし担当。
9 :名無しの魔法職
仮面取ったらどうなってるんだろ。
10 :名無しの古参
9
見たらたぶん泣く。
11 :名無しの食通
蜘蛛って意外とうまいらしいぞ。
12 :名無しの冒険者
11
何の情報だよw
13 :名無しの職人
エントマのキャラデザ考えた人、
かなりセンスあると思う。
14 :名無しのプレアデス推し
ナーベ派とエントマ派は永遠に分かれる。
15 :名無しのエントマ推し
はぁ~エントマちゃんかわゆす。
16 :名無しの通りすがり
守ってあげたい。
17 :名無しの終末論者
でも近付いたら食われるぞ。
18 :名無しのギルド員
それでもいい。
19 :名無しの全裸戦士
むしろご褒美。
20 :管理人
虫食の話題はほどほどに。
次スレは>>980が立ててください。
そんな書き込み。
そして今。
武蔵がエントマを見て。
「うまそう」
「食べたい」
ナーベの顔色が変わる。
理解した。
「あ、あいつ……!」
歯ぎしり。
ギリギリギリ。
「わたしは……」
拳が震える。
「当て馬じゃないのよ!!」
ドゴォン!!
テーブル粉砕。
木片が吹き飛ぶ。
ルプスレギナ爆笑。
「うわははは!」
ユリが額を押さえる。
ソリュシャンがにやり。
シズが無表情で一言。
「嫉妬確認」
ナーベが真っ赤になる。
「ち、違う!!」
その否定は、
この場の誰にも信じてもらえなかった。