武蔵転生記   作:masasoukoku

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第四十二話

ラキュースは意を決して、

 

宮本武蔵へ近づいた。

 

「あ、あの!」

 

「もしかして……」

 

「モモンさんとヤルダバオトの関係を知ってらっしゃるのでは?」

 

武蔵なら知っている。

 

あの意味深な言葉。

 

あの場慣れした感じ。

 

聞けば何かわかる。

 

だが。

 

武蔵は答えない。

 

ふっと顔を上げた。

 

鼻を鳴らす。

 

「ん」

 

空気が変わる。

 

風の流れ。

 

魔力。

 

血の匂い。

 

遥か上空。

 

「強者がおる」

 

その一言で、

 

イビルアイの背筋が凍る。

 

彼女も感じた。

 

上空にある異常な魔力反応。

 

武蔵の目が細まる。

 

笑う。

 

「なるほど」

 

「こっちのほうが面白そうじゃ」

 

ラキュースが慌てる。

 

「え!?ちょ、ちょっと待って!」

 

聞きたいことが山ほどある。

 

だが遅い。

 

ドン!!

 

地面が爆ぜた。

 

石畳が陥没。

 

次の瞬間。

 

武蔵の姿は消えていた。

 

「は、早い……」

 

ガガーランが呆然。

 

ティアとティナも絶句。

 

視認すらできなかった。

 

ラキュースは悔しそうに拳を握る。

 

「また会えば……何か聞ける……!」

 

イビルアイはぼそりと呟く。

 

「いや」

 

「モモン殿に聞けばいい」

 

その名を口にしただけで、

 

頬が少し赤い。

 

「モモン殿……」

 

「またお会いしたい……」

 

完全に恋する乙女だった。

 

ガガーランがニヤニヤする。

 

「お前もか」

 

イビルアイは顔を背ける。

 

「ち、違う!」

 

だがその視線は、

 

モモンが消えた先をずっと追っていた。

 

-------------------------------------------------------------

薄暗い倉庫。

 

崩れた木箱。

 

積まれた密輸品。

 

その奥で、

 

モモン――いや

アインズ・ウール・ゴウンは大剣を肩に担ぎながら息を吐くふりをした。

 

「ふう」

 

追い詰めた――ように見せる演技。

 

その前には、

 

仮面を外したデミウルゴス。

 

顔には無残な打撲痕。

 

額は割れ、

 

鼻も曲がっている。

 

武蔵の頭突きの跡だった。

 

デミウルゴスは膝をつき報告する。

 

「現在、ゲヘナ作戦の進捗率は80%を超えております」

 

アインズは腕を組む。

 

「ふむ」

 

「なかなか順調」

 

内心では。

 

(80ってどれくらい順調なんだ?)

 

だが表情は完璧。

 

デミウルゴスは続ける。

 

「ただし……武蔵の出現により密輸品の一部は回収不能となりました」

 

アインズは即答する。

 

「よい」

 

「それもリスクだ」

 

(たぶん)

 

デミウルゴスは深く頭を下げた。

 

「寛大なお言葉」

 

「このデミウルゴス、感謝いたします」

 

アインズはふと顔を見る。

 

ひどく腫れている。

 

「ところで」

 

「顔の方はいいのか」

 

デミウルゴスの目に悔恨が宿る。

 

「……は」

 

「傷をつけられました」

 

拳が震える。

 

「このデミウルゴス」

 

「必ず武蔵に復讐を致します」

 

本気だった。

 

悪魔としての誇りが砕かれた。

 

アインズは静かに言う。

 

「よいよい」

 

「それで」

 

「武蔵をどう見る」

 

デミウルゴスは即答した。

 

「アルベドとの交戦報告を受けた時は」

 

「油断があったものと思いました」

 

「ですが」

 

「セバスとの一件」

 

「そして今回」

 

「この私が受けた件」

 

顔をしかめる。

 

「正面からでは厳しいかと」

 

「やはり策を弄したうえでかからねば」

 

アインズは唸る。

 

「うーむ……そうか」

 

(マジか)

 

(アルベド、セバス、デミウルゴス相手にこれか)

 

(しかもまだ本気じゃない感じだったぞあの人)

 

脳裏に浮かぶ。

 

笑いながら頭突きする

宮本武蔵。

 

アインズは初めて、

 

ナザリック外に「理解不能な例外」がいると実感していた。

 

そしてその頃。

 

その例外は――

 

別の強者の気配を追って、

 

王都上空へ駆けていた。

 

-------------------------------------------------------------

別の倉庫。

 

外では王都が燃え、

 

悲鳴と戦闘音が響いている。

 

だが中は妙に平和だった。

 

ナザリックの戦闘メイドたちが円卓を囲み、

 

茶を飲んでいる。

 

仮面は外していた。

 

ユリ・アルファが肩を回す。

 

「戦いのふりも疲れますね」

 

「意外と神経を使います」

 

ルプスレギナ・ベータがにししと笑う。

 

「そっすねぇ」

 

「なんせナーちゃんが武蔵に本気出せないからっす」

 

ナーベラル・ガンマがぴくっと反応する。

 

「な、何言ってるの!?」

 

「わ、わたしが本気を出せば!」

 

「あんな人間――」

 

語尾が揺れる。

 

ルプスレギナがニヤニヤ。

 

「へぇ~?」

 

「本気出せば?」

 

ナーベは目を逸らす。

 

そこへ

ソリュシャン・イプシロンが冷静に言う。

 

「でも確かにヤバいわよ」

 

「あれ」

 

「人間の枠じゃない」

 

シズ・デルタが即座に補足。

 

「データ収集済み」

 

「人間種として異常」

 

「以上」

 

エントマ・ヴァシリッサ・ゼータがぷくっと頬を膨らませる。

 

「でも」

 

「あいつ変態」

 

全員が見る。

 

「私を見て」

 

「食べたいって言った」

 

ナーベが固まる。

 

「え?」

 

エントマが真顔で続ける。

 

「気をつけたほうがいい」

 

「ナーベも」

 

ナーベの脳裏に記憶が蘇る。

 

昔――

 

ユグドラシル時代。

 

まだCGキャラだった頃

 

サーバーのデータにあった掲示板ログ

 

【雑談】エントマちゃんってかわいいって思わない?

 

1 :名無しの冒険者

エントマちゃんってかわいいと思わない?

あの無表情メイド最高なんだけど。

 

2 :名無しのギルマス

わかる。

最初は怖かったけど、慣れるとかわいい。

 

3 :名無しの昆虫好き

中身が虫なのがまたいい。

 

4 :名無しの人間派

いや待て。

虫だぞ?

 

5 :名無しの昆虫好き

そこがいいんだろ。

 

6 :名無しの攻略勢

戦闘能力も結構高いんだよな。

見た目とのギャップが好き。

 

7 :名無しのロールプレイヤー

「はい」

「承知しました」

みたいな淡々とした喋り方好き。

 

8 :名無しのメイド好き

プレアデス全員好きだけど、

エントマは癒やし担当。

 

9 :名無しの魔法職

仮面取ったらどうなってるんだろ。

 

10 :名無しの古参

 

 9

 見たらたぶん泣く。

 

11 :名無しの食通

蜘蛛って意外とうまいらしいぞ。

 

12 :名無しの冒険者

 

 11

 何の情報だよw

 

13 :名無しの職人

エントマのキャラデザ考えた人、

かなりセンスあると思う。

 

14 :名無しのプレアデス推し

ナーベ派とエントマ派は永遠に分かれる。

 

15 :名無しのエントマ推し

はぁ~エントマちゃんかわゆす。

 

16 :名無しの通りすがり

守ってあげたい。

 

17 :名無しの終末論者

でも近付いたら食われるぞ。

 

18 :名無しのギルド員

それでもいい。

 

19 :名無しの全裸戦士

むしろご褒美。

 

20 :管理人

虫食の話題はほどほどに。

次スレは>>980が立ててください。

 

そんな書き込み。

 

そして今。

 

武蔵がエントマを見て。

 

「うまそう」

 

「食べたい」

 

ナーベの顔色が変わる。

 

理解した。

 

「あ、あいつ……!」

 

歯ぎしり。

 

ギリギリギリ。

 

「わたしは……」

 

拳が震える。

 

「当て馬じゃないのよ!!」

 

ドゴォン!!

 

テーブル粉砕。

 

木片が吹き飛ぶ。

 

ルプスレギナ爆笑。

 

「うわははは!」

 

ユリが額を押さえる。

 

ソリュシャンがにやり。

 

シズが無表情で一言。

 

「嫉妬確認」

 

ナーベが真っ赤になる。

 

「ち、違う!!」

 

その否定は、

 

この場の誰にも信じてもらえなかった。

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