武蔵転生記   作:masasoukoku

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帝都に行く前の寄り道 カッツエ平野編です


第四十五話

霧は深かった。

 

 街道を覆う白い靄は、木々の輪郭さえ曖昧に溶かし、昼だというのに薄暮のような気配を漂わせている。

 

 宮本武蔵は、ナーベラルから渡された紙袋の中身を食い終えていた。

 

 干し肉に焼き菓子。妙に手が込んでいる。

 

干し肉を噛みしめる。

 

塩気が強い。保存食らしい無骨な味だ。

 

焼き菓子は意外と甘い。

 

「うむ、これはなかなか」

 

「毒と言うておったが……うむ、うまい」

 

もぐもぐと食う。

 

 最後の一欠片を口に放り込み、満足そうに頷く。

 

「これで酒でもあれば完璧じゃったが……まあよい」

 

 背後の影に潜むシャドウ・デーモンが、ぶるりと震えた。

(毒なんか入ってるわけないだろ……)

 

 

「おぬしも食うか?」

 

 当然返事はない。

 

「そうか。まあ、肉はやらん」

 

(なんで俺が旅のお供みたいになってるんだ……)

 

本人にしか聞こえない嘆きだった。

 

 武蔵は笑い、再び歩き出した。

 

 東へ。

 

 行き先などない。

 

 ただ強者を探して。

 

 ただ剣を交えるためだけに。

 

 そんな時だった。

 

「……うむ?」

 

 霧の奥から、かすかに音が届いた。

 

 カン――ッ!

 

 鉄と鉄がぶつかる甲高い音。

 

 続けて怒号。

 

 悲鳴。

 

武蔵の目が細くなる。

 

「これは……面白そうな」

 

 次の瞬間、地を蹴った。

 

 霧を裂くように駆ける。

 

 木々の間を抜け、斜面を飛び越え、数十秒で音源へ辿り着いた。

 

そこには四人組の冒険者がいた。

 

若い男の剣士。

 

鎧に傷が走り、息は荒い。

 

その後ろに神官の男。

 

必死に回復魔法を唱えている。

 

さらに女が二人。

 

一人は弓使い。

 

もう一人は魔法使い。

 

だが状況は最悪だった。

 

周囲を囲むアンデッドの群れ。

 

スケルトン十数体。

 

その奥にはゾンビ。

 

さらに黒いローブを着たレイスまでいる。

 

「くそっ!」

 

剣士が叫ぶ。

 

「数が多すぎる!」

 

弓使いの女が矢を放つが、骨の隙間を抜けて決定打にならない。

 

魔法使いも息切れしていた。

 

「もう魔力が……!」

 

神官が叫ぶ。

 

「退路がない!」

 

その時だった。

 

霧の中から、

 

ドゴッ!!

 

一体のスケルトンの頭が粉砕された。

 

拳だった。

 

「うははは!」

 

笑い声。

 

武蔵が現れた。

 

「な、なんだあんた!?」

 

剣士が目を見開く。

 

武蔵は答えない。

 

目の前のスケルトンの胸骨を掴み、

 

バキィ!!

 

引きちぎった。

 

さらにその骨を棍棒代わりに振るう。

 

ゴシャア!!

 

三体まとめて吹き飛ぶ。

 

「ふむ、軽いの」

 

ゾンビが飛びかかる。

 

武蔵は片手で顔面を掴み、そのまま地面に叩きつけた。

 

ズドン!!

 

頭が潰れる。

 

弓使いの女が呆然とする。

 

「な……素手で……?」

 

神官も震えていた。

 

「ば、化け物……」

 

武蔵はレイスを見る。

 

「ほう、こいつは触れぬか」

 

レイスが黒い腕を伸ばす。

 

武蔵は気で真っ二つにする

 

奥から重い足音。

 

ズシン。

 

ズシン。

 

霧の中から現れた。

 

三メートルを超える漆黒の甲冑。

 

巨大な剣。

 

兜の隙間から青白い炎。

 

デスナイト。

 

冒険者たちの顔色が変わる。

 

神官が震える。

 

「で、デスナイト……!」

 

剣士が青ざめる。

 

「終わった……」

 

だが武蔵だけが笑った。

 

「ほう」

 

目が輝く。

 

「こやつ、少しはやれそうじゃな」

 

空気が変わる。

 

デスナイトが武蔵を見る。

 

本能なきアンデッドですら警戒するほどの圧。

 

武蔵は構える。

 

「さて」

 

ニヤリと笑う。

 

「少し遊ぶか」

 

-------------------------------------------------------------

焚き火の火がぱちぱちと鳴る。

霧はまだ薄く漂い、倒したアンデッドの残骸が遠くに転がっていた。

 

ワーカー集団、フォーサイトの面々は、目の前の男を改めて見ていた。

 

デスナイトを骨一本で叩き潰した怪物。

 

その名は――宮本武蔵。

 

ヘッケランが顎をさすりながら言う。

 

「プレイヤーってのはな……昔この世界に現れたっていう、異界の英雄みたいなもんだ」

 

アルシェが続きを引き取る。

 

「六大神、八欲王、十三英雄……そういう伝説に名を残す者たちです。

強大な力を持ち、この世界の理を変えたとも」

 

武蔵は干し肉を噛みながら聞いていた。

 

「ほう」

 

イミーナがじっと武蔵を見る。

 

「あなた、ちょっと似てるのよ。そういう“外”の感じが」

 

「外か」

 

武蔵は空を見上げた。

 

異世界に来てからずっと感じていた違和感。

ここは自分の知る地ではない。

 

だが、それを深く考える性分でもない。

 

「つまり、そのぷれいやーとやらは強いのか」

 

その一言に、四人は苦笑した。

 

ヘッケランが笑う。

 

「あんたらしいな。そこしか興味ないのか」

 

「無論じゃ」

 

ロバーデイクが神妙に言う。

 

「ですが……今なお生きているプレイヤーがいるという話は聞きません」

 

その瞬間、武蔵の脳裏に浮かんだのはアインズ。

 

その奥に潜む底知れぬ死の気配。

アルシェが尋ねる。

 

「武蔵さんは、これからどこへ?」

 

「知らん」

 

「知らん?」

 

「強いやつがおるところへ行く。それだけじゃ」

 

ヘッケランが笑った。

 

「気に入ったよ、その生き方」

 

イミーナが呆れる。

 

「単純すぎるでしょ」

 

武蔵の背後で、影が震えた。

 

シャドウデーモンだ。

 

ぶるぶると、異様なほど激しく。

 

「ん?」

 

武蔵が振り返る。

 

「どうした」

 

街道の先――東方。

 

その先から、ぞわりと空気を裂くような巨大な魔力が流れてきていた。

 

アルシェが顔色を変える。

 

「こ、この魔力……!」

 

ロバーデイクも青ざめる。

 

「尋常ではありません」

 

武蔵は立ち上がる。

 

にやり、と笑った。

 

「なるほど。次が来たか」

 

ヘッケランが止める。

 

「待てよ! あっちはヤバいぞ!」

 

武蔵は振り返らない。

 

「ヤバいから行くんじゃ」

 

風が吹き、霧が流れる。

 

その向こうで、何か巨大な影が蠢いていた――。

 

 

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