「ぐううう……!」
グレルネは歯噛みした。
焼けない。
倒れない。
目の前の男は常識が通じない。
「くそう!」
両手を突き出す。
「マジックアロー!」
青白い光弾が飛ぶ。
「ライトニング!」
雷撃が甲板を裂く。
「スケアー!」
恐怖の呪詛が武蔵を包む。
間髪入れず、さらに叫ぶ。
「これでどうだ!」
魔力を絞り尽くす勢いで叩き込む。
爆音。
閃光。
紫電。
霧を裂き、甲板を焦がす。
その中心に武蔵がいる。
グレルネはさらに追撃した。
「おまけだ!」
足元に巨大な魔法陣。
「サモンアンデッド!」
黒い霧の中から現れた。
四体。
全身を重装甲で固めたスケルトンウォリアー。
普通のスケルトンとは違う。
骨の密度も、魔力も段違い。
「行け!」
グレルネが指を突きつける。
「突っ込め!」
四体は躊躇なく爆煙の中心へ飛び込んだ。
ガシャア!!
四本の剣が同時に突き出される。
肉を裂く感触。
骨に伝わる確かな手応え。
グレルネは口元を歪めた。
「終わったな」
肩を落とし、荒い息を吐く。
「手間かけさせやがって」
だが。
「ほお」
その声。
煙の中から。
「お前の種はこれで終わりか」
グレルネの赤い目が見開かれる。
「なっ――」
次の瞬間。
ズバン!!
四体のスケルトンウォリアーが同時に崩れた。
胴。
首。
腕。
斬断面が滑らかすぎる。
まるで紙を切ったようだった。
煙が晴れる。
そこに立っていた。
武蔵。
その手には。
甲板に刺さっていたはずのグレルネのシミター。
武蔵は軽く振って血ならぬ骨粉を払う。
「悪くない剣じゃ」
グレルネの背筋に冷たいものが走った。
「ば……ばかな」
いつ取った。
いつ斬った。
見えなかった。
武蔵は剣先をグレルネに向ける。
「おぬし」
静かな声。
「魔法は強い」
一歩。
「じゃが」
二歩。
「間合いを詰められた時の工夫が足りん」
グレルネは初めて恐怖した。
死者である自分が。
恐怖を。
「さあ」
武蔵が笑う。
「次はどう出る」
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「ぐぬぬ……!」
グレルネは歯噛みした。
魔術も通じぬ。
剣も通じぬ。
ならば――。
グレルネは背後のアンデッドたちに怒鳴る。
「お前たち! あれを出せ!」
ガシャガシャと慌ただしく動き出す手下たち。
武蔵は首をかしげる。
「?」
しばらくして。
船倉から巨大な兵器が引き出された。
鉄で補強された長大な砲身。
先端には巨大な銛。
縄が何重にも巻かれている。
捕鯨砲だった。
武蔵は眉を上げる。
「ほう」
グレルネが胸を張る。
「聞いて驚け!」
赤い目がギラギラ光る。
「これはスケリトルドラゴン狩りで使う砲!」
武蔵を指さす。
「お前のどてっぱらをぶち抜いてやる!」
武蔵はつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ふーん」
肩を回す。
「やってみせい」
その余裕。
それがグレルネには我慢ならない。
「ふははは!」
引き金に骨の指をかける。
「お前の腹に穴が開くのが楽しみじゃ!」
バァンッ!!
轟音。
捕龍砲が火を吹いた。
巨大な銛が一直線に飛ぶ。
武蔵はその銛を避けることなく目の前にまで飛んできたそれを
横から叩く
ドゴォン!!
常識外れの一撃。
銛の軌道がねじ曲がった。
武蔵の腹をかすめることすらなく逸れる。
そのまま。
ズガァァン!!
帆柱へ突き刺さった。
船全体が揺れる。
沈黙。
「え?」
グレルネは固まった。
何が起きたのかわからない。
武蔵は拳をぷらぷら振る。
「なるほど」
少し感心したように言う。
「重いな」
グレルネの声が震える。
「な……」
一歩、後ずさる。
「なんだお前は」
武蔵は笑った。
「人間じゃ」
その笑みは獣だった。
「さて」
グレルネのシミターを肩に担ぐ。
「もう終わりか?」
グレルネの額から黒い汗が流れた。
初めて。
船長グレルネは悟った。
この男は――化け物だ
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「さて」
そのまま。
武蔵は縄を持ったまま走り出した。
ぐるり。
帆柱に縄を巻き付ける ぐるんぐるん 何回も巻く
そして縄をひいた
ぐるり。
ぐるり。
ぐるるるるるる!!
帆柱を中心に、船全体が回転し始めた。
「お、おおおお!?」
グレルネが甲板を転がる。
手下のスケルトンたちも壁に叩きつけられ、骨が砕ける。
「おい! やめろぉ!!」
武蔵は楽しそうだ。
「おお、これはよく回る」
さらに加速。
ゴウウウウ!!
幽霊船がまるで独楽のように回る。
グレルネは泣きそうになりながら叫んだ。
「やめろ 止めてくれ いまのままでは 我が妻 鋼の戦乙女号が壊れる!」
グレルネはその場で土下座した。
額を甲板に擦りつける。
「お願いだ!」
声が裏返る。
「やめてください!」
「許して!」
「もう逆らいません!」
「あなたが船長です!」
「いや船神です!」
「いやもう主です!」
必死だった。
武蔵は縄をぽいと捨てた。
幽霊船の回転が止まり、霧の海に静寂が戻る。
武蔵は残念そうにため息をついた。
「なんじゃ」
肩をすくめる。
「もう終わりか」
「これからがいいところなのに」
グレルネは震えながら顔を上げた。
この男は。
本当に。
戦いを楽しんでいる。
勝ち負けでも、生死でもない。
純粋に。
立ち会いそのものを。
(化け物じゃ……)
グレルネは悟った。
この船の主は。
今、この瞬間から変わったのだと。