「もう行きましょう」
「いやあともう少し」これで何回目だろう
街道の脇の野営地 火も小さくなっている
イミーナはため息をついた。
「それ、さっきも聞いた」
「……そうだったか?」
「五回目よ」
ロバーデイクが苦笑する。
アルシェは黙って霧の奥を見つめていた。
「それじゃ次で本当に行こう」
イミーナがぴしゃりと言う。
「うん……まあ、そうするか」
ヘッケランも観念したように肩をすくめた。
その時。
「あ」
アルシェが顔を上げた。
「音がします」
イミーナも耳を澄ませる。
「ほんとだ」
霧の向こう。
何かが近づいてくる。
重い足音。
ズシン。
ズシン。
「みんな、気をつけろ!」
ヘッケランが剣を抜く。
イミーナが弓を構え。
ロバーデイクが詠唱準備。
アルシェも杖を握る。
霧が揺れた。
そして。
ぬっと現れたのは――
「お前らか」
宮本武蔵だった。
肩には巨大な袋。
ずるずると引きずっている。
「待たんでもええのに」
どこか嬉しそうな顔だった。
「武蔵さん!」
アルシェが思わず駆け寄った。
ぴょんと飛びつく。
武蔵は片手で軽く受け止めた。
「おお」
ヘッケランたちも駆け寄る。
「無事だったか!」
「心配したのよ!」
イミーナが安堵したように息を吐く。
「それで……」
ヘッケランが霧の奥を見る。
「幽霊船は?」
武蔵はきょとんとした。
「幽霊船か?」
袋をどさっと地面に置く。
「船主になった」
「え?」
全員固まる。
「ええええええ!?」
ヘッケランの声が響いた。
「船主!?」
「倒したんじゃなく!?」
「乗っ取ったんですか!?」
ロバーデイクも驚く。
武蔵は頷いた。
「うむ」
当然のように。
「主が負けたからの」
袋を開く。
中には金貨、魔法道具、珍しい酒瓶etc
「土産じゃ」
イミーナが頭を抱えた。
「ちょっと待って」
「幽霊船ってそういうシステムなの?」
アルシェは目を輝かせていた。
「すごい……」
ヘッケランは笑った。
「いやもう、あんた何者なんだよ」
武蔵は豪快に笑った。
「ただの旅人じゃ」
その言葉に。
フォーサイト全員が同時に思った。
(絶対違う)
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「でも本当にいいんですか?」
ヘッケランが袋の中身を見て目を丸くした。
金貨。
宝石。
魔法道具。
見ただけで高価とわかる品々。
「こんなにもらって」
イミーナも驚いている。
「換金すれば、とんでもない額になるわよ」
ロバーデイクがひとつひとつ確認しながら言った。
ヘッケランは目を輝かせる。
「武蔵さんを入れて五人で割っても……」
唾を飲み込む。
「これ、俺たちが今まで稼いだ額の何倍になるんだよ」
「これだけあれば……借金が返せる」
アルシェの目に涙がにじむ。
「武蔵さん、本当にありがとうございます!」
深く頭を下げた。
ヘッケランが苦笑しながら武蔵に説明する。
「アルシェは」
焚火の火を見つめる。
「親の借金を返すために、俺たちの仲間になったんです」
「親の無駄遣いでな」
イミーナがため息混じりに付け加える。
「妹たちを守るためでもある」
武蔵は黙って聞いていた。
「そうか」
短く答える。
昔のことを思い出す。
日ノ本でも。
似たような話はいくらでもあった。
親に振り回される子。
貧しさに泣く者。
武の道に生きる中、何度も見てきた。
「まあ」
ぽつりと言う。
「ひとりくらい、いいじゃろ」
アルシェはその言葉の意味を考えた。
きっと。
救ってもいい、という意味なのだろう。
不器用だが優しい。
そんな男だ。
ヘッケランが話を戻す。
「それで、これからどうする?」
武蔵は空を見上げた。
霧が少し晴れてきている。
「おれたちは帝都に戻ります」
「任務完了の報告もいるし、アイテムも換金しなきゃならない」
「そうか」
武蔵は頷く。
しばし考えて。
にやりと笑った。
「では、わしも行くか」
「帝都に」
四人は顔を見合わせた。
ヘッケランが笑う。
「歓迎しますよ」
イミーナも肩をすくめる。
「これでまた厄介ごとが増えそうね」
ロバーデイクは静かに祈った。
(どうか平穏でありますように)
アルシェだけは少し嬉しそうだった。
こうして。
宮本武蔵はワーカー《フォーサイト》と共に帝都へ向かうことになった。
この出会いが。
後に帝国とナザリック、その運命すら大きく変えることになるとは。
まだ誰も知らない。
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帝都へ向かう道。
武蔵とフォーサイトの一行はゆっくり歩いていた。
いつの間にか。
また武蔵の後ろにはシャドウデーモンがついている。
影の中でぶるぶる震えながら。
「まだおるのか、お主」
武蔵が笑う。
シャドウデーモンは返事もできず震えるだけだった。
(帰りたい……)
だが帰れない。
ナザリックに戻れば何を言われるかわからない。
武蔵についていた方がまだ安全。
たぶん。
帝都に近づくにつれ、人通りが増えていく。
荷馬車。
商人。
兵士。
旅人。
活気が違う。
「ほお」
武蔵が足元を見る。
「道もきれいじゃな」
石畳が遠くまで続いている。
ヘッケランが少し誇らしげに笑った
「ええ。この世界でこれだけ舗装されてるのは、ここ帝都くらいでしょう」
「ふむ」
武蔵は感心する。
やがて。
巨大な城が街を見下ろしていた。
バハルス帝国の中心。
帝都アーウィンタール。
「まずはアイテム屋だな」
ヘッケランが言う。
「換金しないと」
一行はそのまま帝都でも有名な魔法道具店へ向かった。
店主は袋の中身を見て固まった。
「な……なんだこれは」
見たこともない魔法道具。
異様な加工。
古代級の術式。
汗が止まらない。
「す、すまん!」
店主が頭を下げる。
「今は手持ちがない!」
「明日以降来てくれ!」
預かり証を渡された。
ヘッケランは笑った。
「どれだけになるか楽しみだな」
イミーナもにやりとする。
「当分遊べそう」
次に向かったのは高利貸しの店だった。
アルシェの親が借りていた借金。
利息込み。
全額返済。
高利貸しは目を剥いた。
「ぜ、全額だと!?」
震える手で金を数える。
アルシェは深く息を吐いた。
「ああ……いい気分」
ぐっと伸びをする。
肩の荷が下りた。
ヘッケランが聞く。
「どうするんだ、その証文」
アルシェは紙をひらひらさせる。
「これ?」
にやりと笑う。
「妹を引き取って」
目が鋭くなる。
「親の前で思い切り破ってやるの」
「もうこれで親子の縁は終わりってね」
武蔵は頷いた。
「それがよい」
執着を断つ。
それもまた一つの道。
その時。
イミーナが武蔵を見た。
「ところで武蔵さん」
「ん?」
「その服」
武蔵の着物はぼろぼろだった。
幽霊船での戦い。
火球。
雷撃。
銛。
回転する船。
いろいろあった。
もはや布切れに近い。
アルシェが笑う。
「新調しませんか?」
武蔵は袖を見た。
「そうじゃな」
ヘッケランが指を立てる。
「なら知り合いの仕立て屋がいる」
「腕は確かだ」
武蔵はにやりと笑った。
「よし」
「なら任せる」
こうして一行は帝都の仕立て屋へ向かった。