武蔵転生記   作:masasoukoku

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第四十九話

「どうです?」

 

 仕立て屋の前。

 

 アルシェが満足そうに笑った。

 

 新調した武蔵の服。

 

 和服そのものではない。

 

 だが帝国風に仕立てられた作務衣に近い形。

 

 動きやすく、丈夫。

 

 濃紺の布地が武蔵の身体によく合っていた。

 

 武蔵は袖を動かし、足を上げる。

 

「うむ」

 

 頷く。

 

「悪くない」

 

 ヘッケランが笑った。

 

「よかった」

 

「じゃあ歓迎会だ」

 

「黄金の林檎亭に行きます」

 

 武蔵の耳がぴくりと動く。

 

「酒か」

 

 嬉しそうだ。

 

一行は笑いながら歩き出した。

 

 帝都の大通り。

 

 夕方。

 

 灯りがつき始める。

 

 にぎやかな声。

 

 肉の焼ける匂い。

 

 酒場の笑い声。

 

その途中。

 

 ぴたり。

 

 武蔵が足を止めた。

 

「どうしたんです?」

 

 アルシェが振り返る。

 

 武蔵は上を指差した。

 

 看板。

 

 剣と盾。

 

 武器屋だった。

 

「武器を見たいな」

 

 ヘッケランが笑う。

 

「武蔵さん、丸腰ですもんね」

 

 確かに。

 

 今の武蔵は拳だけ。

 

「じゃ、少し寄りますか」

 

 一行は店へ入った。

 

 中には剣、槍、斧、盾。

 

 整然と並ぶ。

 

かなり質がいい。

 

 帝都らしい。

 

 奥から。

 

 ガン!

 

 ガン!

 

 鉄を打つ音。

 

 武蔵が目を細める。

 

「ほう」

 

 店の奥。

 

小柄な職人が槌を振るっていた。

 

 筋肉質な腕。

 

 赤い髭。

 

 ずんぐりした体。

 

 見た瞬間わかった。

 

「へえ」

 

 ヘッケランが笑う

 

「珍しい」

 

「ドワーフじゃないか」

 

 槌が止まる。

 

 職人がこちらを見た。

 

 ぎろり。

 

「ヴィトゥル」

 

「?」

 

「看板にある」

 

確かに看板の下にドワーフ語でヴィトゥルと書いてある

 

「ヴィトゥルさん この人に合う武器を探してるんだ」

 

「勝手に見な」

 

不愛想なドワーフらしい態度

 

武蔵は棚に飾ってある剣を一振り見ると軽く振った

 

「!?」

 

ヴィトゥルの反応が変わった

 

「あんた見る目はある」

 

「だがそいつぁ量産品だ」

 

 奥を指差した。

 

「本物を見せてやる」

 

武蔵の目が光った。

 

「ほう」

 

 面白そうに笑う。

 

 その時。

 

 武蔵の後ろの影。

 

 シャドウデーモンがぶるぶる震える。

 

(また変なフラグ立った……)

 

 嫌な予感しかしなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヴィトゥルは無言で工房の奥へ消えた。

 

 しばらくして。

 

 布に包まれた一本を持って戻ってくる。

 

「これだ」

 

 ごとり、と台の上に置いた。

 

 布を外す。

 

 現れたのは一振りの刀だった。

 

 武蔵の目が光る。

 

「ほお」

 

 派手な装飾はない。

 

宝石もない。

 

 金銀もない。

 

 黒塗りの鞘。

 

 落ち着いた柄。

 

 実に質実剛健。

 

 だが。

 

 武蔵にはわかった。

 

 その場に立つだけで。

 

 空気が変わっている。

 

 まるで呼吸しているような。

 

生き物のような存在感。

 

「持ってもいいかの」

 

 武蔵が聞く。

 

 ヴィトゥルは頷いた。

 

「ああ」

 

 武蔵に刀を渡す。

 

手にした瞬間。

 

 ずしりとした重み。

 

 だが不思議と手に馴染む。

 

 まるで最初から己のものであったかのように。

 

「これは……」

 

 武蔵が低く言う。

 

「生きているようじゃな」

 

「ああ 生きてる」

 

「抜いてみな」

 

 武蔵はゆっくり鯉口を切る。

 

 すう、と抜いた。

 

 瞬間。

 

 空気が鳴った。

 

ヒュン――

 

「!」

 

 ヘッケランたちが息を呑む。

 

「す、すごい」

 

 イミーナが目を見開く。

 

「見たことがないぜ」

 

 ロバーデイクも呆然とする。

 

「こんな刀……初めてだ」

 

 アルシェは刃に見入った。

 

美しい。

 

 直刃。

 

 澄んだ銀色。

 

 刀身には細かな彫りが刻まれている。

 

 文字とも紋様ともつかぬ不思議な意匠。

 

 武蔵はじっと見つめる。

 

軽く振る。

 

 空気が切れる。

 

 それだけで。

 

 店内の剣が一斉に震えた。

 

 ヴィトゥルが目を丸くする。

 

「す、すごい……」

 

 声が漏れる。

 

「あんたが初めてだ」

 

「この刀を抜けたのは」

 

 武蔵が見る。

 

「ほう?」

 

 ヴィトゥルは刀を見つめた。

 

「この刀は、わしの先祖が打ったものだ」

 

「昔、“ぷれいやー”の知識を取り入れて鍛えたと聞いている」

 

 武蔵の眉がぴくりと動く。

 

「またぷれいやーか」

 

 ヘッケランたちも顔を見合わせる。

 

 ヴィトゥルは続けた。

 

「だがな」

 

「この刀は誰にも抜けなかった」

 

「英雄と呼ばれた者でもだ」

 

「名のある戦士も」

 

「帝国騎士団長ですら駄目だった」

 

 ヴィトゥルは武蔵を見る。

 

「だが今」

 

「あんたが抜いた」

 

 刀身が微かに震えた。

 

 まるで喜ぶように。

 

「この刀があんたを主と認めたんだ」

 

武蔵は静かに刀を撫でる。

 

 刀もまた答えるように鳴った。

 

「だからいい」

 

 ヴィトゥルが言った。

 

「持っていけ」

 

 ヘッケランたちが驚く。

 

「え!?」

 

「タダ!?」

 

 ヴィトゥルは鼻を鳴らす。

 

「武器ってのはな」

 

「使い手を選ぶ」

 

「こいつはずっと待ってたんだ」

 

「今までな」

 

 武蔵はしばらく黙る。

 

 そして。

 

 深く頭を下げた。

 

「ありがたい」

 

 ヴィトゥルは目を見開いた。

 

 この男。

 

 礼を知る。

 

 ただの化け物ではない。

 

 武人だ。

 

武蔵は刀を眺める。

 

 ふと問う。

 

「ところで銘は」

 

 ヴィトゥルは答えた。

 

「ない」

 

「ない?」

 

「無銘か」

 

「ああ」

 

ヴィトゥルは笑った。

 

「だからあんたが付けてやってくれ」

 

 武蔵はしばし考えた。

 

 刀身を見つめる。

 

 まだ。

 

 まだ足りない。

 

この刀と自分。

 

 まだ出会ったばかり。

 

「今は思い浮かばん」

 

「だがいつか思いつく」

 

 その時。

 

 刀がぶるっと震えた。

 

「!」

 

 アルシェが声を上げる。

 

「今……動いた?」

 

 ロバーデイクが青ざめる。

 

「意思がある……?」

 

 武蔵は笑った。

 

「気が早いのお」

 

「名は急がんでもよい」

 

刀を鞘に納める。

 

 カチリ。

 

 その音が妙に心地よい。

 

 ヴィトゥルは満足そうに頷いた。

 

「いい主を見つけたな」

 

 武蔵は腰に差す。

 

 その姿。

 

 まるで昔からそこにあったように自然だった。

 

 影の中。

 

 シャドウデーモンが震える。

 

(また強化イベント……)

 

(ナザリックのみんなに報告したくない……)

 

 絶望の色が濃くなる。

 

 ヘッケランが笑う。

 

「よし!」

 

「今度こそ酒だ!」

 

 武蔵も笑った。

 

「うむ」

 

「祝い酒じゃな」

 

 新たな刀を腰に。

 

 宮本武蔵は帝都の夜へ歩き出した。




武蔵の強化装備回でした 銘は考えてつけようと思います
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