翌日。
バハルス帝国闘技場。
巨大な円形闘技場は満員だった。
観客席は熱狂に包まれている。
中央上段、黄金の玉座には皇帝ジルクニフが腰掛けていた。
その隣にはバジウッド。
その少し離れた場所。
兵たちに囲まれたフォーサイトの面々。
ヘッケランが呟く。
「……まさか武蔵さんが闘技場送りとはな」
イミーナは眉をひそめる。
「しかも相手が武王ゴ・ギンとか」
アルシェが不安そうに闘技場を見下ろす。
「大丈夫かな……」
ロバーデイクだけが静かだった。
「武蔵殿なら……」
だが、その言葉にも確信はない。
なにせ相手は帝国最強。
八代目武王。
ゴ・ギン。
闘技場中央では審判役が声を張り上げる。
「本日の特別試合!」
「武王ゴ・ギン!」
「対するは――帝国重罪人! 宮本武蔵!」
歓声が爆発する。
「うおおおお!」
「ゴ・ギン! ぶっ殺せ!」
「重罪人をミンチにしろ!」
審判はさらに続けた。
「この一戦! まだ賭けていない方はお早めに窓口へ!」
観客たちが一斉に賭場へ走る。
「俺はゴ・ギンだ!」
「当然だ!」
「十枚!」
「二十枚!」
賭け率は一方的だった。
武王ゴ・ギン――1倍。
宮本武蔵――100倍。
「酒代にもならねぇ」
「まあ、処刑試合だからな」
誰も武蔵の勝利など考えていない。ただ罪人を処刑される様を楽しみたいだけ
その時だった。
窓口に。
ドン。
大きな革袋が置かれる。
金貨が詰まった重い音。
受付係が顔を上げる。
そこに立っていたのは――
漆黒の鎧を纏った大男。
その隣には絶世の美姫。
観客たちがざわめく。
「おい……」
「あれ……まさか」
「王国の英雄……」
男が低い声で告げる。
「宮本武蔵に全額だ」
受付係が凍る。
「ぜ、全額……?」
美姫――ナーベラル・ガンマが腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「当然でしょう」
「あの変態が負けるわけないもの」
黒鎧の男――モモンは内心で頭を抱えていた。
(なぜ、ついて来たナーベ……)
(いや、私も気になるが)
(武蔵さん対ゴ・ギン……)
(純粋に見たい)
モモンが帝都にやってきたのは帝国の情勢をこの目で見るため
まさか 武蔵が武王と戦うとは思いもよらなかった
ナーベはそっぽを向く。
「べ、別に変態を心配して来たわけじゃありません」
「ただの金儲けです」
ナーベの耳が赤い
モモンは苦笑した。
その頃。
地下控室。
武蔵は静かに座っていた。
膝の上に無銘の刀。
その刃に指を滑らせる。
「今日は強いのかのう」
刀が微かに震える。
すると。
地響き。
ズシン。
ズシン。
控室の奥から巨大な影が近づいてくる。
鉄格子の向こう。
身長三メートルを超える巨体。
筋肉の塊。
灰色の皮膚。
赤い眼。
巨大な棍棒を担いだ怪物。
武王ゴ・ギン。
ゴ・ギンは武蔵を見る。
「……お前か」
低く響く声。
武蔵は立ち上がった。
にやりと笑う。
「ほう」
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闘技場中央。
先に姿を見せていたのは武王。
ゴ・ギン。
八代目武王。
巨大なトロール。
全身が岩のような筋肉で覆われ、両腕は丸太より太い。フルプレートで装備している
観客たちは総立ちだった。
「武王!!」
「ぶっ潰せ!!」
「重罪人なんかミンチだ!!」
ゴ・ギンはその歓声を浴びながら笑った。
一瞥しただけの男 宮本武蔵
(武蔵、か)
(どんな男か知らんが……皇帝がわざわざ用意した刺客)
(叩き潰してやる)
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だが。
開始時刻になっても来ない。
「おい!」
「逃げたんじゃねえか!」
「金返せ!」
野次が飛ぶ。
ゴ・ギンも鼻を鳴らす。
「つまらん」
その時だった。
闘技場入口の扉が開く。
ギギギギギ……
現れた。
宮本武蔵。
しかし。
肩に担いでいたのは――巨大な船の櫂だった。
一瞬、静まり返る観客席。
次の瞬間。
爆笑。
「なんだありゃ!」
「船乗りかよ!」
「武器ですらねえ!」
「ふざけてんのか!」
ブーイングが飛ぶ。
ゴ・ギンも眉をひそめた。
「……舐めているのか」
武蔵は気にも留めない。
櫂を肩に乗せたまま、闘技場を見回す。
「ん~」
「ここが闘技場か」
「なかなかのものじゃのお」
観光気分だった。
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観客席の隅。
黒い鎧を纏ったモモンと、その隣のナーベラル・ガンマ。
ナーベは顔をしかめた。
「何やってるのよ、あの変態……」
声は呆れていたが、目にはわずかな焦り。
モモン――中身はアインズ・ウール・ゴウンは腕を組む。
「ふむ」
「興味深いな」
「あの櫂……ただの櫂ではない」
「武器として完成している」
ナーベが目を丸くする。
「え?」
「重心、長さ、しなり」
「間合い制圧用として理想的だ」
「武蔵は最初からそれを理解している」
ナーベは小さく舌打ちした。
「……変態のくせに」