武蔵転生記   作:masasoukoku

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第五十三話

中央。

 

 審判が叫ぶ。

 

「両者、構え!」

 

 ゴ・ギンは巨大な鉄棍を構える。

 

 武蔵は櫂を片手でぶら下げたまま。

 

「武器を構えんのか!」

 

 ゴ・ギンが怒鳴る。

 

 武蔵は笑った。

 

「いるか?」

 

「?」

 

「おぬし程度なら」

 

 ゴ・ギンの額に青筋。

 

 観客席が沸騰する。

 

「殺せ!!」

 

「武王!!」

 

 ゴ・ギンは地を踏み抜いた。

 

 ドゴン!!

 

 突進。

 

 速い。

 

巨体に似合わぬ速度。

 

 武蔵へ一直線。

 

 その鉄棍が振り下ろされる。

 

 轟音。

 

 地面が砕けた。

 

 砂煙。

 

「終わった!」

 

 観客が叫ぶ。

 

 だが。

 

「ほお」

 

 煙の中。

 

 武蔵は櫂一本で受けていた。

 

 片手で。

 

「……軽いの」

 

 ゴ・ギンの目が見開かれる。

 

「な……」

 

 櫂がしなる。

 

 武蔵の足が沈む。

 

 しかし折れない。

 

受け流す。

 

 力を横へ逃がした。

 

 ゴ・ギンの体勢が崩れる。

 

「ぬっ!?」

 

 その瞬間。

 

 武蔵の櫂が唸った。

 

 横薙ぎ。

 

 ゴォッ!!

 

 ゴ・ギンの巨体が吹っ飛ぶ。

 

観客席に激震。

 

「武王が!?」

 

 ジルクニフが立ち上がる。

 

「馬鹿な」

 

 バジウッドも目を見開いた。

 

 フォーサイトは呆然。

 

 ヘッケランだけが震えながら笑った。

 

「やっぱりだ……」

 

 モモンは静かに言った。

 

「始まったな」

 

 武蔵は櫂を肩に戻す。

 

「さて」

 

「どこまで楽しませてくれるかのう、武王殿」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おのれぇぇぇッ!!」

 

 土煙の中から、ゴ・ギンが立ち上がった。

 

 その眼には怒り。

 

 いや、歓喜すら混じっていた。

 

 強敵。

 

 久しく味わっていなかった感覚。

 

 口元を歪める。

 

「いい……!」

 

「いいぞ人間!」

 

「ここまで俺を吹き飛ばした奴は初めてだ!」

 

ゴ・ギンは背中の武器架から得物を引き抜いた。

 

 一本。

 

 二本。

 

 それぞれに異なる武器。

 

 魔法剣、マジックメイス、

 

 人間なら持つだけで腰を痛める重量。

 

観客席がどよめく。

 

「武王の本気だ!」

 

「あれを出させた!」

 

 武蔵は櫂を肩に担ぎ、目を細めた。

 

「ほお」

 

「二刀流か」

 

 ゴ・ギンは牙を剥く。

 

「俺を飛ばしたお前に敬意を表して――」

 

「これで始末してやる!!」

 

 地を割る咆哮。

 

 そして。

 

「うおおおおおッ!!」

 

 両方の腕が一斉に振り下ろされる。

 

 しかもただの力任せではない。

 

武技。

 

 身体能力を極限まで高める技術。

 

 衝撃 神技一閃 流水加速

 

 ふたつの武器すべてに重ねている。

 

 空気が裂けた。

 

 次の瞬間。

 

 ドゴオオオオオン!!

 

 闘技場中央が爆砕。

 

 石畳が吹き飛び、地面が大きく陥没する。

 

 衝撃波が観客席まで届く。

 

 ナーベが思わず叫んだ。

 

「変態!!」

 

 目をぎゅっと閉じる。

 

 その横でモモン――アインズ・ウール・ゴウンが低く言う。

 

「ナーベ」

 

「見よ」

 

 主命。

 

 ナーベは逆らえない。

 

「……っ」

 

 うっすらと目を開く。

 

 そこにあったのは。

 

 空振り。

 

ゴ・ギンの得物が地面に突き刺さっていた。

 

 だが。

 

 武蔵はいない。

 

 ゴ・ギンの顔が歪む。

 

「ど、どこだ!?」

 

 観客席から悲鳴のような声。

 

「あ!」

 

「上だ!!」

 

 全員が空を見る。

 

 そこにいた。

 

 宮本武蔵。

 

 空高く跳んでいた。

 

 櫂を両手で握りしめ。

 

 その姿はまるで天から落ちる雷。

 

 武蔵は笑っていた。

 

「隙が大きいの」

 

 ゴ・ギンが見上げる。

 

「しま――」

 

 遅い。

 

 櫂が落ちる。

 

 一直線。

 

 ゴ・ギンの脳天へ。

 

 ゴン!!

 

 鈍い音。

 

 金属と骨と肉をまとめて打ち抜く重い音だった。

 

武王の甲冑がひしゃげる。

 

 頭部がめり込み。

 

 鎧の隙間から血が流れた。

 

 ゴ・ギンは立ったまま止まる。

 

 数秒。

 

 静寂。

 

 そして。

 

 ドサァン――

 

 巨体が倒れた。

完全沈黙。

 

 審判が震える声で叫ぶ。

 

「しょ、勝者――」

 

「宮本武蔵ッ!!」

 

 一瞬の静寂の後。

 

 闘技場が爆発した。

 

「うおおおおお!!」

 

「武王が負けた!!」

 

「百倍賭けた奴誰だ!?」

 

 観客席の隅。

 

 ナーベは呆然としていた。

 

「……あの変態」

 

 モモンは腕を組む。

 

「やはりか」

 

ジルクニフは玉座で笑った。

 

 心から。

 

「面白い」

 

「これは使える」

 

 バジウッドは冷や汗を流していた。

 

(俺では……勝てん)

 

 フォーサイトは飛び上がる。

 

「勝った!!」

 

「武蔵さん!!」

 

 アルシェは涙目で拳を握る。

 

 武蔵は倒れたゴ・ギンを見下ろし、櫂を肩に戻した。

 

「うむ」

 

「櫂でも十分じゃな」

 

 そして空を見上げる。

 

「さて」

 

「次は誰じゃ?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

担架に乗せられたゴ・ギンが運ばれていく。

 

 全身から血を流し、虫の息。

 

 だが、あの怪物じみた生命力ならまだ生き返るかもしれない。

 

 熱狂の去った闘技場。

 

 観客たちは勝敗を肴に騒ぎながら三々五々帰っていく。

 

「ありゃ伝説だぞ」

 

「武王が負けた……!」

 

「しかも櫂で!」

 

 ざわめきが遠ざかる。

 

 観客席の隅。

 

 モモンは、窓口で受け取った戻り金の袋を持ちながらため息をついていた。

 

(……余計なことをしてくれたなあ、武蔵さん)

 

 横でナーベラル・ガンマが袋を覗く。

「ずいぶん増えましたね」

 

「百倍だ」

 

「……変態に感謝するしかないですね」

 

「複雑だな」

 

 二人は苦笑する。

 

 一方。

 

武蔵は堂々と玉座へ向かっていた。

 

 帝都の皇帝――ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの前へ。

 

 血一つ浴びぬまま。

 

「約束通り」

 

「ゴ・ギンを始末した」

 

 ジルクニフは顎に手を当て、満足そうに頷く。

 

「ふむ」

 

 そして指を鳴らした。

 

 カチャリ。

 

 鎖の音。

 

兵たちに拘束されていたフォーサイトが解放される。

 

 ヘッケランが肩を回しながら言う。

 

「助かった……」

 

 アルシェが駆け出す。

 

「武蔵さん!」

 

 だが。

 

「――だがな」

 

ジルクニフの声が場を凍らせた。

 

 アルシェの足が止まる。

 

 皇帝は玉座から武蔵を見下ろす。

 

「武蔵」

 

「お前の罪は消えていないぞ」

 

 武蔵は眉一つ動かさない。

 

「ほう」

 

「我が帝国の役人を斬った」

 

「重大な罪だ」

 

 バジウッドが横で腕を組む。

 

 兵たちも殺気を帯びる。

 

「普通なら公開処刑」

 

 ジルクニフは静かに笑った。

 

「だが」

 

「依頼を一つこなせば、その罪は帳消しにしてやる」

 

ヘッケランたちが息を呑む。

 

 武蔵だけが自然体だった。

 

「その依頼とは」

 

 ジルクニフは口角を上げる。

 

 獲物を追い詰めた獣のような笑み。

 

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ」

 

「リ・エスティーゼ王国第三王女」

 

「その首を取ってこい」

 

 空気が止まった。

 

「なっ!?」

 

 アルシェが青ざめる。

 

 ヘッケランも言葉を失う。

 

「王族暗殺……!」

 

 ロバーデイクが顔をしかめる。

 

「これは……戦争の火種です」

 

バジウッドは武蔵を見据える。

 

 断ればここで殺す。

 

 そういう圧。

 

 だが武蔵は。

 

 静かに笑った。

 

「ほお」

 

「姫か」

 

 刀の柄に手を置く。

 

「その姫は強いのか?」

 

 全員が絶句した。

 

 ジルクニフですら目を見開く。

 

「……強さを聞くか」

 

 武蔵は当然のように言う。

 

「弱いなら興味はない」

 

 ジルクニフは笑った。

 

 腹を抱えて。

 

「はははは!」

 

「面白い!」

 

 涙をぬぐいながら答える。

 

「姫本人は弱い」

 

「だが、その周りは面白いぞ」

 

「王都には、強者が集まる 知ってるだろう」

 

 武蔵の目が光る。

 

 にやり。

 

「なら行く価値はあるの」

 

 アルシェが慌てる。

 

「受けるんですか!?」

 

 武蔵は笑った。

 

「姫の首には興味はない」

 

「だが」

 

「強者がおるなら話は別じゃ」

 

 ジルクニフもまた笑う。

 

(これで王国は揺れる)

 

(そして、もし武蔵が死ねばそれもよし)

 

 皇帝の策。

 

 だが武蔵には関係ない。

 

 彼の頭にあるのはただ一つ。

 

 強者との立ち合い。

 

 その時。

 

 影の中でシャドウデーモンがぶるぶる震えた。

 

(またナザリック案件になる気がする……)

 

 嫌な予感しかしなかった。

 

 




ゴ・ギン なんとか生きてます トロールなのでHP1でも復活します

訂正 読者様からコキュートスと勘違いされているとご指摘がありました
イラストやwikiで確認したつもりでしたが間違ってました 
一部訂正いたします
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