闘技場の空気がまだ張り詰めている中。
武蔵は顎を撫でながら言った。
「ただし――」
ジルクニフが眉を上げる。
「なんだ」
武蔵は平然としていた。
「首は重い」
「運ぶのが面倒じゃ」
その場にいた全員が一瞬固まる。
バジウッドが思わず眉をひそめる。
「……そこか?」
武蔵は続ける。
「代わりに、その姫が“国から消えれば”よいのじゃろ」
ジルクニフは少し考えたあと、口元を歪めた。
「まあ……そうだな」
「消えればよい」
「その証さえ持ってくればな」
武蔵は頷いた。
「そうか」
「では行こう」
その瞬間。
くるりと背を向ける。
ジルクニフが目を瞬かせる。
「……ん?」
武蔵はもう歩き出していた。
「おい」
「どこへ行く」
武蔵は振り返りもせず答える。
「だから」
「王都じゃ」
ジルクニフの顔が引きつる。
「い、今からか!?」
もう夕刻。
普通なら準備を整え、情報を集め、数日かける案件。
だが武蔵はそんなものを知らぬ。
「思い立ったが吉日じゃ」
次の瞬間。
ドン!!
石畳が砕けた。
武蔵が駆け出したのだ。
その加速。
まるで砲弾。
一瞬で闘技場の出口へ。
「は!?」
フォーサイトが呆然とする。
ヘッケランが叫ぶ。
「早っ!?」
アルシェが慌てる。
「ちょ、待ってください武蔵さん!」
当然追いつけない。
すでに点だった。
ジルクニフは額を押さえる。
「……なんだあれは」
バジウッドが苦笑する。
「化け物ですな」
観客席の影。
モモンがそれを見ていた。
「……まずいな」
隣のナーベラル・ガンマが聞く。
「何がです?」
「王都だ」
「ラナーがいる」
ナーベの顔色が変わる。
「あの女ですか」
モモンは深くため息をつく。
「しかも武蔵さんは“姫本人に興味がない”」
「つまり周囲の強者を探して暴れる」
「……最悪だ」
ナーベが小さく呟く。
「また面倒事ですね」
その頃。
帝都の城壁を飛び越え。
街道を疾走する武蔵。
風を裂く。
背後の影からシャドウデーモンが必死についていく。
(また王都!? またナザリック!? もう嫌だ!!)
だが武蔵は上機嫌だった。
「ほほう」
「王都にはどんな強者がおるかの」
その目は獲物を探す獣のそれ。
再び王都へ。
嵐が戻る。
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武蔵は走った。
帝都から王都へ。
夜の街道を一直線。
森から飛び出してくる狼型の魔獣。
沼から這い出るアンデッド。
空を舞う怪鳥。
だが――
「邪魔じゃ」
武蔵は一瞥もくれない。
ただ風のように駆け抜ける。
追いつけるものなど一つもない。
背後の影で、シャドウデーモンが必死についていく。
(なんでこの人、移動だけで災害なんだ……!)
武蔵は走りながら考えていた。
「さて」
「ああは言ったものの」
「どうするかの」
ラナー暗殺。
いや、“消えればいい”。
だが具体案はない。
「まあ」
「そのうち思いつくわ」
結論が雑だった。
さらに速度を上げる。
カッツェ平野を突っ切り、
エ・ランテルを通過し、
ついに――
深夜。
王都リ・エスティーゼの城門へたどり着いた。
当然。
閉まっている。
巨大な門。
分厚い鉄と木。
武蔵は立ち止まり、見上げた。
「ふむ」
そして。
優しく叩く。
トントン。
「すまぬが」
「火急の用事じゃ」
「開けてくれまいか」
返事なし。
武蔵は首をかしげる。
少し強めに。
ドンドン!
「すまんな」
「開けてくれい」
返事なし。
武蔵の眉がぴくりと動く。
さらに強く。
ドーンドーン!!
王都中に響き渡る轟音。
深夜の街がざわつく。
窓が開く。
「な、なんだ!?」
「攻城戦か!?」
「魔物か!?」
だが城門は開かない。
武蔵は耳を澄ませた。
「……ん?」
いびき。ZZZ
門番が寝ていた。
「……」
しばし沈黙。
シャドウデーモンが影で震える。
(嫌な予感)
武蔵は肩を回した。
「まったく」
「初めからそう言ってくれればよいものを」
城門に向かって構える。
一歩踏み込む。
拳を引く。
空気が震える。
そして――
ドゴォン!!
拳が城門を貫通した。
鉄がひしゃげ、
木が爆ぜ、
巨大な穴が開く。
内側で寝ていた門番たちが吹き飛ぶ。
「ぎゃあああ!?」
「な、なんだぁ!?」
武蔵はその穴から中へ入る。
「初めからこうすればよかったわい」
納得顔。
シャドウデーモンは影から顔だけ出して呆然。
(犯罪のスケールが毎回でかい!!)
その頃。
王城深部。
ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフが静かに目を開けた。
「……?」
遠くで聞こえた轟音。
その隣室でクライムが飛び起きる。
「姫様!」
「今の音は!?」
ラナーは微笑んだ。
だがその目だけは笑っていない。
「何か」
「面白いものが来たのかもしれませんね」
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深夜の王都リ・エスティーゼ。
城門を拳でぶち抜いた武蔵は、そのまま王城へ向かって歩いていた。
堂々と。
隠れる気など一切ない。
通りには兵士たちが次々と集まる。
「止まれ!」
「侵入者だ!」
「囲め!」
槍と剣を構えた兵たちが武蔵を包囲する。
数十。
さらに増える。
だが武蔵は止まらない。
ゆっくりと歩きながら言う。
「お前たち」
「死ぬぞ」
それだけだった。
だが――
空気が変わる。
武蔵から放たれる圧。
殺気ではない。
もっと純粋な“格”。
生物としての絶対的な差。
兵たちの喉が鳴る。
「う……」
「な、なんだ……」
足が震える。
汗が止まらない。
一歩も踏み出せない。
武蔵はそのまま歩く。
兵たちは自然と道を開けた。
まるで巨大な獣の前の小動物。
武蔵は少し感心したように呟く。
「ふむ」
「あの時の機動隊もこうすればよかったか」
昔を思い出し、少し後悔した。
影の中でシャドウデーモンが震える。
(何を後悔してるんだこの人)
王城へ続く大通り。
月明かりの下。
武蔵は進む。
すると。
ぴたり。
足を止めた。
「お」
前方。
道の真ん中。
一つの影。
だが、圧が違う。
兵士たちとは比べものにならない。
武蔵の目が細まる。
「強者」
嬉しそうだった。
影が一歩前へ出る。
月光が照らす。
白銀の鎧。
赤いマント。
剣を携えた男。
ガゼフ・ストロノーフ。
王国最強の戦士長。
王都を守る剣。
ガゼフは武蔵を見据える。
「……なるほど」
「門を壊したのはあなたか」
武蔵は笑う。
「そうじゃ」
「開けてくれんかったのでな」
ガゼフは額を押さえる。
「理由になっていない」
武蔵は刀の柄に手を置く。
「おぬしとは約束をしていたな」
ガゼフも剣に手をかける。
「そうでした」
「だが、ここから先へは通さん!」
武蔵の口元が吊り上がる。
「よい」
「それでこそじゃ」
背後で兵士たちが息を呑む。
シャドウデーモンは影の奥で頭を抱える。
(また始まった……)
王都の真夜中。
月下。
最強と最強が向かい合う。
モモンとナーベはこの後 ナザリックに戻って帝国の件をデミウルゴスに伝えます
もちろん ラナーの件も
そのとき デミウルゴスは瞬間 呆然としました
武蔵が絡むとロクなことにならないことがわかっているのに
シャドウデーモンから連絡がなかったからです