武蔵転生記   作:masasoukoku

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第五十七回

王都を発った一行は――

 

 まっすぐ帝都へは向かわなかった。

 

 まず立ち寄ったのはエ・ランテル。

 

 城壁都市。冒険者の街

 

 王女ラナーの来訪に、都市長と冒険者ギルド長が表敬に訪れた。

 

「これは……ラナー殿下」

 

「ようこそエ・ランテルへ」

 

 礼儀正しく迎える二人。

 

 だがその視線は自然と馬車の横へ向く。

 

 そこには。

 

 馬車と同じ速度で平然と走っていた武蔵。

 

 しかも汗一つかいていない。

 

 二人は察した。

 

(何をしたんだこいつ)

 

(絶対こいつが原因だ)

 

 ラナーはにこにこと笑っている。

 

 クライムは疲れた顔。

 

 説明を求める気力もなかった。

 

 その後。

 

 一行はカルネ村へ。

 

 かつての寒村。

 

 今ではゴブリンたちの働きによって大きく発展し、小都市に近い規模になっていた。

 

 代表として現れたのはエンリ・エモットとンフィーレア・バレアレ。

 

「武蔵さん!」

 

「お久しぶりです!」

 

 二人は再会を喜んだ。

 

 武蔵も笑う。

 

「おお、元気そうじゃな」

 

 ラナーも気品ある笑みで挨拶する。

 

「初めまして」

 

「ラナーですわ」

 

カルネ村側は困惑していた。

 

(なんで王女がこんなところに)

 

 そして。

 

 ナザリックのお目付け役として控えていたルプスレギナ・ベータ。

 

 彼女は遠目に見て凍りついた。

 

(な、なんでラナーがここへ来るっす!?)

 

(聞いてないっす!!)

 

 いつもの愉悦顔が完全消失。

 

 冷や汗。

 

 ナザリックへ即座に連絡しようとしたその時。

 

「あ」

 

 影の隅。

 

 ぶるぶる震えているシャドウデーモンを発見。

 

 ルプスレギナはすっと寄った。

 

 笑顔。

 

 でも目が怖い。

 

「おい」

 

「こんな大事なこと、なんで連絡しないっすか?」

 

 シャドウデーモンは必死に首を振る。

 

(知らない知らない知らない!!)

 

(俺だって知らねえ!!)

 

 ルプスレギナの目がさらに細くなる。

 

「あとで詳しく聞くっす」

 

 デーモンは絶望。

 

 カルネ村で歓待を受けた後。

 

 一行はカッツェ平野へ。

 

 死の平原。

 

 そこで武蔵は大声を上げた。

 

「グレルネ!」

 

 霧が渦巻く。

 

 闇が裂ける。

 

 巨大な幽霊船が現れる。

 

 クライムが青ざめる。

 

「ゆ、幽霊船!?」

 

 船長グレルネが甲板から飛び出し、即座に土下座した。

 

「武蔵様ァ!!」

 

 ひたすら平身低頭。

 

 ラナーは目を輝かせた。

 

「まあ!」

 

「お船に乗るのは初めてですわ!」

 

 楽しそうだった。

 

 馬車ごと船に積み込む。

 

 クライムはもはや何も考えないことにした。

 

 シャドウデーモンは隅で縮こまる。

 

 そして。

 

 幽霊船は帝都近郊へ。

 

 到着。

 

 帝都民たちが幽霊船に騒然となる。

 

 王女が馬車から身を乗り出した。

 

「みなさーん!」

 

「よろしくねー!」

 

「ラナーと申します!」

 

 帝都民、唖然。

 

「え?」

 

「王国の黄金姫?」

 

「なんで?」

 

 混乱のまま帝城へ。

 

 一方 帝城では

 

 報告を受けたジルクニフが。

 

「……は?」

 

 理解が止まった。

 

「武蔵に首を取ってこいと言ったよな?」

 

 報告官が震えながら答える。

 

 「は、はい……ですが」

 

「武蔵がラナー本人を連れてきました」

 

 ジルクニフは天を仰いだ。

 

(どうしてそうなる!?)

 

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帝城、謁見の間。

 

 重々しい空気の中。

 

 その中心でラナーは満面の笑みを浮かべていた。

 

「お久しぶりですね、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス様」

 

 ジルクニフは固まった。

 

「あ、ああ……」

 

 心の中では大混乱である。

 

(なんでいる!?)

 

(なんで生きてる!?)

 

(なんで笑ってる!?)

 

 必死に平静を装いながら聞く。

 

「ところで……ラナー姫はなぜここへ?」

 

 ラナーは小首を傾げた。

 

「あら?」

 

「わたくしの首が欲しいとおっしゃったのは皇帝ではありませんか」

 

「いや、それは!」

 

「単なるたとえで!」「モノのはずみで」

 

ジルクニフの目が泳ぐ。

 

 冷や汗が止まらない。

 

 ラナーはにこやかに続ける。

 

「わたしが王国からいなくなれば王国が乱れる 乱れれば付け入るスキが そうと思って、なされたのでしょう?」 

 

「ま、まあ……」

 

 図星だった。

 

(くぅ……だから嫌いなんだこの女!)

 

 

全部見透かしてくる。

 

 しかも楽しそうに。

 

 だが。

 

 ラナーはぱん、と手を叩いた。

 

「まあ、それはそうとして」

 

「わたくしとクライムの愛の巣はどこです?」

 

「……は?」

 

ジルクニフの思考が止まった。

 

「わたくし、ここ帝国で過ごす予定ですの」

 

「そんな大きな屋敷はいりませんわ」

 

「ただ、お風呂は二人が入れる大きさ」

 

「寝室は一部屋で構いませんことよ」

 

「ベッドはダブルで」

 

 そばにいるクライムが真っ赤になった。

 

「ラ、ラナー様!?」

 

 ジルクニフは処理不能。

 

 問題を隣にいるフールーダ・パラダインへ丸投げした。

 

「あ、あの……爺、頼む」

 

 フールーダは興味なさそうに頷く。

 

 彼にとって恋愛事情などどうでもいい。

 

 今、彼の関心はただ一つ。

 

 武蔵。

 

 肉体のみで守護者級に届く異常存在。

 

 その理を知りたい。

 

 「そうですな」

 

「たしか、お取り潰しされた貴族の館がありますな」

 

「少し手を入れれば住めるかと」

 

「そ、そうか!」

 

 ジルクニフは飛びつくように頷いた。

 

「聞いたか姫」

 

「手配する。それまでは宮廷の部屋を用意する そこで過ごしてほしい」

 

「はーい♪」

 

ラナーは上機嫌。

 

 鼻歌まじりで謁見の間を出ていく。

 

 慌ててクライムも追いかける。

 

「ラナー様!お待ちください!」

 

 静かになった謁見の間。

 

 ジルクニフはゆっくり武蔵を見る。

 

「……で?」

 

「で?」

 

 武蔵はきょとんとしている。

 

「どうしてラナーを連れてきた」

 

「いかんのか?」

 

「いかーん!!」

 

 ジルクニフが珍しく叫んだ。

 

 武蔵は平然。

 

「お主の依頼通りじゃろ」

 

「王国からラナーは消えたぞ」

 

「そ、それはそうだが……」

 

 確かに条件は満たしている。

 

 政治的には悪くない。

 

 王国の内訌は激化するだろう。

 

 そう思うことにした。

 

 だが。

 

 武蔵が次の言葉を放つ。

 

 「まあ1年くらいはここにいるから面倒を見てやってくれ」

 

「……え?」

 

「だから最低1年はここにいる」

 

「どうして?」

 

「1年くらい消えたら文句はないじゃろ」

 

 「ここにいると聞いた」

 

「ラナーが」

 

「おう、帝都にな」

 

ジルクニフの顔色が消えた。

 

 手を髪にやる。

 

 ばさっ。

 

 十本ほどまとめて抜けた。

 

「……爺」

 

「なんですかな」

 

「……もう武蔵に依頼はせん」

 

 フールーダは小さく頷いた。

 

(賢明ですな)

 

 武蔵は首を傾げる。

 

 「そうか?」

 

 ジルクニフは思った。

 

(こいつは人の形をした災害だ)




シャドウデーモン君の雑な話からルプスは詳細な報告書を作って
アルベドへ送りました
デミウルゴスの頭痛ネタがまた増えます
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