武蔵転生記   作:masasoukoku

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第五十九回

フェメール伯爵邸の広大な中庭。

 

 そこには帝国各地から集められたワーカーたちが、それぞれの仲間と談笑しながら出発を待っていた。

 

 重装戦士。

 

 魔法詠唱者。

 

 神官。

 

 弓兵。

 

 盗賊。

 

 まさに精鋭の集まりである。

 

 周囲を見回したヘッケランが思わず口笛を吹いた。

 

「ほお……すげえな。」

 

「名の知れた連中ばっかりだ。」

 

 イミーナも視線を巡らせる。

 

「ヘビーマッシャー……。」

 

「龍狩り……。」

 

「天武までいるわ。」

 

 その顔ぶれに少し驚いたようだった。

 

「それに冒険者も多いわね。」

 

ロバーデイクが頷く。

 

「依頼書には、道中は冒険者が護衛を担当するとありました。」

 

「それだけ重要な任務なのでしょう。」

 

 そう言って静かに神へ祈る。

 

 一方。

 

 武蔵だけは別のことを考えていた。

 

「強いやつはおらぬかのう。」

 

 きょろきょろと辺りを見回す。

 

 その時だった。

 

「……ん?」

 

 空気が違う。

 

 圧。

 

 武蔵だけが感じ取れる、強者の気配。

 

視線を向ける。

 

 黒い全身鎧。

 

 漆黒の大剣。

 

 その隣には黒髪の美女。

 

「おお!」

 

 武蔵が笑顔になる。

 

「モモン殿ではないか!」

 

 一直線に歩いていく。

 

 一方。

 

 黒い鎧の中では。

 

(え。)

 

(げ!)

 

(武蔵さん!?)

 

モモン――その正体であるアインズ・ウール・ゴウンは、内心で固まっていた。

 

(なんでいるんですか!?)

 

(帝国から追放されたんじゃ!?)

 

 横ではナーベラル・ガンマも目を丸くしている。

 

「ナーベもおるのか。」

 

 武蔵は気さくに声を掛けた。

 

ナーベはぷいっと横を向く。

 

「……なんでここにいるのよ。」

 

「変態。」

 

 口ではそう言う。

 

 だが。

 

 耳までほんのり赤い。

 

 武蔵は首を傾げた。

 

「また変態と言われた。」

 

「わしは何かしたかの。」

 

 モモンは咳払いを一つ。

 

「武蔵殿。」

 

「奇遇ですな。」

 

「おう。」

 

「また会ったの。」

 

あまりにも自然に話しかけてくる武蔵に、アインズは内心で冷や汗を流す。

 

(頼むからこれ以上予定を狂わせないでください……。)

 

 その願いとは裏腹に、武蔵は嬉しそうだった。

 

「モモン殿もこの遺跡へ?」

 

「ええ、依頼を受けまして。」

 

「ほう。」

 

「ならまた一緒に戦えるかもしれんの。」

 

「……そうですね。」

 

 アインズは乾いた笑みを返すしかない。

 

 その時。

 

 屋敷の大扉がゆっくりと開いた。

 

 黒い燕尾服姿の執事が姿を現す。

 

 集まっていたワーカーたちが静まり返った。

 

 執事は一礼する。

 

「皆様。」

 

「お待たせいたしました。」

 

「これより主人に代わりまして、今回の依頼について改めてご説明いたします。」

 

 誰も知らない。

 

 この場に集った者たちの多くが。

 

 ナザリック地下大墳墓へ自ら足を踏み入れようとしていることを。

 

 そして。

 

 そこにいる黒騎士モモンこそが。

 

 その墓所を統べる主、アインズ・ウール・ゴウン本人であることも。

 

 ただ一人。

 

 武蔵だけは退屈そうに執事の説明を待ちながら、心の中で別のことを考えていた。

 

(強い者がおるなら、それでよい。)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

フェメール伯爵邸の中庭。

 

 執事は集まったワーカーや冒険者たちを見回し、一礼した。

 

「それでは、今回の依頼内容についてご説明いたします。」

 

 その声とともに、数人の使用人が大きな地図を広げる。

 

 目的地は帝国西方、未調査遺跡。

 

 執事は一本の指で街道をなぞった。

 

「まず冒険者の皆様には、この遺跡まで伯爵一行の護衛をお願いいたします。」

 

「道中は魔獣や盗賊が出没する可能性があります。」

 

「護衛対象は調査団です。」

 

頷く者。

 

 退屈そうに聞く者。

 

 様々だった。

 

 続いて遺跡の見取り図らしき紙が広げられる。

 

「到着後は、調査団が内部を確認いたします。」

 

「その間、皆様には周囲の警戒、ならびに遺跡内部の安全確保をお願いいたします。」

 

「危険な罠、魔物などが確認された場合は、速やかに排除してください。」

 

説明はさらに続く。

 

 隊列。

 

 食糧。

 

 野営地点。

 

 連絡方法。

 

 撤退の合図。

 

 非常に細かい。

 

 だが。

 

 ワーカーたちが本当に興味を示したのは別だった

 

 一人の男が手を挙げる。

 

「報酬は?」

 

 執事は微笑む。

 

「契約通り。」

 

「成功報酬は通常依頼の五倍。」

 

 どよめきが起こる。

 

 さらに別のワーカーが聞く。

 

「遺跡で見つけたアイテムは?」

 

 これが一番重要だった。

 

執事は答える。

 

「調査終了後。」

 

「伯爵家が学術的価値のある品を優先的に買い取ります。」

 

「それ以外については、発見者へ所有権が認められます。」

 

 その瞬間。

 

 あちこちで笑みが浮かんだ。

 

「五倍報酬に遺跡の財宝か。」

 

「こりゃ当たりだ。」

 

「運が良ければ一生遊んで暮らせる。」

 

ヘッケランも頷く。

 

「悪くない仕事だ。」

 

 イミーナも珍しく笑う。

 

「これなら本当に最後の仕事にできるかも。」

 

 アルシェは小さく拳を握った。

 

「妹たちにもっといい暮らしをさせられる……。」

 

 ロバーデイクは静かに祈る。

 

「神よ、この旅路に加護を。」

 

 その横で。

 

 武蔵だけは腕を組み、難しい顔をしていた

 

「……。」

 

 ヘッケランが不思議そうに聞く。

 

「武蔵さん?」

 

「どうしました?」

 

 武蔵は首をかしげる。

 

「報酬や宝など、どうでもよい。」

 

「それより。」

 

「強いやつは、おるんじゃろうな。」

 

 ヘッケランは苦笑した。

 

「たぶん、遺跡の主でもいれば。」

 

「ほお。」

 

 武蔵の目が輝く。

 

「それなら十分じゃ。」

 

 執事は最後に深く一礼した。

 

「以上となります。」

 

「皆様のご武運と、よい報告をお待ちしております。」

 

 そう言って屋敷の中へ戻っていった。

 

 入れ替わるように、冒険者側の世話役が前へ出る。

 

「全員、聞いたな!」

 

「それじゃあ――」

 

彼は腕を振り上げた。

 

「出発!」

 

 その号令とともに。

 

 数十人に及ぶワーカーと冒険者の一団が動き始める。

 

 帝都を後にし。

 

 街道を西へ。

 

 目的地は、"新発見の遺跡"。

 

誰もが報酬を夢見て歩き出す。

 

 ただ一人、黒い鎧の下のモモン――アインズ・ウール・ゴウンだけは複雑な心境だった。

 

(始まったか。)

 

(……頼むから武蔵さんだけは、予想外のことをしないでください。)

 

 その願いが、これまで一度も叶ったことがないとも知らずに

 

 

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