三人の奴隷エルフは、自由になったことがまだ信じられない様子だった。
首輪を外された首筋を何度も撫でながら、武蔵の前へ膝をつく。
「あ、ありがとうございます……!」
「命まで救っていただいて……。」
「私たち、これから貴方様にお仕えいたします。」
三人そろって深く頭を下げた。
武蔵は困ったように頭をかく。
「うーむ。」
「わしは家臣を持たぬ。」
「誰かを従える趣味もない。」
三人は顔を見合わせた。
「で、ですが……。」
武蔵は少し考えると、離れた場所で様子を見ていたフォーサイトを指差した。
「とりあえず、あそこにおる連中と一緒に行動せえ。」
「気のいい連中じゃ。」
「悪いようにはせん。」
突然話を振られたヘッケランは目を丸くしたが、すぐ笑みを浮かべた。
「もちろんです。」
「困っている人を放っておくほど薄情じゃありません。」
イミーナも肩をすくめる。
「食事くらいなら何とかなるわ。」
ロバーデイクは三人へ穏やかに微笑んだ。
「神の御加護がありますように。」
アルシェは嬉しそうに三人の手を握る。
「よろしくね!」
「今日から仲間だよ!」
三人のエルフは涙ぐみながら何度も頭を下げた。
「ありがとうございます……!」
「ありがとうございます!」
その光景を少し離れた場所から見ていたナーベは、腕を組んだまま不満そうに鼻を鳴らした。
「なによ……。」
「あの変態。」
「女と見ればすぐ助けて。」
そう呟く。
しかし、その声にはどこか拗ねたような響きが混じっていた。
モモンは隣でため息をつく。
(ナーベ……嫉妬しているのか。)
(いや、落ち着け。今はそんな場合ではない。)
武蔵はそんな視線などまるで気づかず、焚き火の前へ腰を下ろした。
「さて。」
「腹が減ったのお。」
「まだ飯はあるか。」
フォーサイトの面々が苦笑する。
ヘッケランが笑った。
「ありますよ。」
「武蔵さんは食べる量が多いから、多めに作ってあります。」
「それはありがたい。」
武蔵は豪快に笑う。
その和やかな空気を見計らったように、一人の黒い鎧の男が静かに近づいてきた。
モモンだった。
「武蔵さん。」
武蔵は振り返る。
「おお。」
「モモン殿ではないか。」
モモンは軽く会釈する。
「ありがとうございます。」
「……少し、お時間をいただけますか。」
武蔵は笑みを浮かべた。
「構わん。」
「ちょうど酒も切れたところじゃ。」
「何の話じゃ?」
二人は焚き火から少し離れた場所へ歩いていく。
その背中を、ナーベはじっと見つめていた。
「……また二人で。」
小さく呟くその横顔は、どこか面白くなさそうだった。
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焚き火の明かりも届かない、野営地の外れ。
木々の影だけが二人を包んでいた。
武蔵は適当な岩に腰を下ろす。
向かいには黒い全身鎧の戦士――モモン。
しばらく沈黙が続く。
やがてモモンは静かに口を開いた。
「武蔵さん。」
「実は、お話があります。」
「うむ。」
「なんじゃ。」
モモンは周囲を一度見回す。
誰もいない。
ナーベも近づいていない。
シャドウデーモンもいない
確認すると、ゆっくりと兜へ手をかけた。
金属の擦れる音。
かぽり、と兜が外れる。
そこから現れたのは、生者の顔ではなかった。
白骨。
青白い光を宿す眼窩。
骸骨の王。
武蔵は少し目を細める。
「これは……。」
「モモンではなく。」
「アインズ殿として話をするということか。」
アインズは静かに頷いた。
「ええ。」
しばらく沈黙が流れる。
やがてアインズは本題へ入った。
「武蔵さん。」
「お願いがあります。」
「このままフォーサイトから抜けてもらえませんか。」
武蔵は眉を上げる。
「足抜けをしろということか。」
「ええ。」
「今回の依頼から降りてください。」
武蔵は顎に手を当てる。
「理由は。」
アインズは静かに答えた。
「これから向かう遺跡。」
「あれは遺跡ではありません。」
「私の居城。」
「ナザリック地下大墳墓です。」
武蔵は「ああ」とだけ言った。
「ほお。」
「やはりか。」
アインズは少し驚いた。
「……驚かないのですね。」
「なんとなくそんな気がしておった。」
「初めから妙な気配じゃった。」
「普通の遺跡ではないとな。」
アインズは頷く。
「その通りです。」
「では。」
武蔵は真っ直ぐアインズを見る。
「どういうことじゃ。」
「なぜそんな場所へ人を誘い込む。」
「しかも依頼まで出して。」
アインズは言葉を失った。
「それは……。」
答えに詰まる。
デミウルゴスの計画。
皇帝の思惑。
すべてをどう説明すればいいのか。
沈黙が重く流れる。
やがてアインズはゆっくりと口を開いた。
「……あのワーカーたちは。」
一度,目を伏せる。
「生贄なのです。」
風が吹いた。
木々が揺れる。
武蔵は何も言わない。
ただ静かにアインズを見つめていた。
「ナザリックへ侵入した者は。」
「生きて帰す予定はありません。」
「これは既に決まっていることです。」
「私が覆すことは……非常に難しい。」
アインズの声には、わずかな苦さが混じっていた。
「だからこそ。」
「せめて武蔵さんだけでも、この依頼から降りていただきたいのです。」
「あなたまで敵としてナザリックに入って来られることは……。」
そこで言葉を切る。
武蔵は静かに問い返した。
「自分の敵になるのが嫌か。」
アインズは少し考え、正直に答えた。
「はい。」
「あなたとは、できれば剣を交えたくありません。」
「勝敗以前に、お互いが傷つく未来しか見えないのです。」
武蔵はしばらく黙っていた。
やがて夜空を見上げ、小さく息を吐く。
「……なるほどのお。」
その一言だけが、静かな夜に溶けていった。