――ナザリック地下大墳墓・人事評価会議室。
重苦しい空気。
長机の向こうには三人。
評価員。
デミウルゴス。
アルベド。
シャルティア。
そして机の前には、小さく縮こまるシャドウデーモン。
(……帰りたい。)
-------------------------------------------------------------
人事評価会議
デミウルゴスが眼鏡を掛け直す。
「では始めましょう。」
「被評価者、シャドウデーモン。」
「……。」
返事も小さい。
第一項目
エ・ランテルでの監視活動。
デミウルゴスが一枚の報告書を持ち上げる。
「まずこれです。」
読み上げる。
『武蔵、今日も元気。
ご飯いっぱい食べた。
強かった。』
沈黙。
アルベドがゆっくり聞く。
「……以上?」
デミウルゴス。
「以上です。」
シャルティア。
「小学生の日記でありんすか?」
シャドウデーモン。
(´・ω・`)
第二項目
王都での活動。
アルベドが別の報告書を読む。
『セバスチャンを倒した姿、
格好良かった。』
アルベド。
「……。」
デミウルゴス。
「……。」
シャルティア。
「感想文でありんす?」
アルベドが冷たい笑みを浮かべる。
「報告書とは、あなたの感想を書くものではありません。」
シャドウデーモン。
(´;ω;`)
第三項目
帝都への道中。
デミウルゴス。
「カッツェ平野で幽霊船と遭遇。」
「船長グレルネを配下に加える。」
「……。」
「報告。」
「ありません。」
シャルティア。
「なんででありんす?」
シャドウデーモン。
(……船酔いしてました。)
「「「……。」」」
第四項目
帝国闘技場。
アルベド。
「武王ゴ・ギン撃破。」
「帝国中を揺るがす大事件。」
「……。」
「報告。」
「ありません。」
デミウルゴスが額を押さえる。
「なぜです?」
シャドウデーモン。
(……いい勝負だったので。見入ってました)
シャルティア。
「見入ってたでありんすね?」
コクコク。
「「「……。」」」
第五項目
ラナー王女誘拐……失礼。帝国移住事件。
デミウルゴスが机を叩く。
「これです!」
「これが最大の問題です!」
「王国第三王女が突然帝国へ!」
「私が考え抜いた作戦、全面修正!」
「おかげで私は眼鏡を割りました!」
眼鏡を掲げる。
パキッと割れたレンズ。
「報告。」
「ありません。」
シャルティアが付け加える。
「ちなみに。」
「ルプスレギナから全部報告来てたでありんす。」
シャドウデーモン。
「……。」
(終わった。)
総評
デミウルゴス。
「報告能力。」
「E。」
アルベド。
「文章能力。」
「E。」
シャルティア。
「危機管理能力。」
「E。」
デミウルゴス。
「監視能力だけは……。」
少し考える。
「B 」
シャドウデーモン。
(・∀・)!
少し嬉しい。
デミウルゴス。
「しかし総合評価。」
「E。」
シャドウデーモン。
(´;ω;`)
-------------------------------------------------------------
その時。
廊下から武蔵の声が聞こえた。
「おーい。」
「シャドウデーモン。」
「どこじゃ。」
シャドウデーモン。
(;゚Д゚)
シャルティア。
「行ってきていいでありんす。」
デミウルゴス。
「ええ。」
「ですが。」
「帰ってきたら報告書の書き方講座を百回受けてもらいます。」
アルベドも笑顔で頷く。
「もちろん実習付きです。」
シャドウデーモンは武蔵のもとへ一目散に逃げ出した。
その背中を見送りながら、デミウルゴスは深くため息をつく。
「……。」
「私はなぜあのような者を監視役に選んだのでしょうか。」
その疑問だけは、誰にも答えられなかった。
-------------------------------------------------------------
翌朝。
第二階層。
恐怖公の部屋の前で、シャルティアは満面の笑みを浮かべていた。
「ふふふ……。」
「武蔵。」
「今ごろ泣きべそをかいているに違いないでありんす。」
恐怖公の部屋。
ナザリックでも屈指の精神攻撃部屋。
虫嫌いなら一晩ともたない。
まして恐怖公本人までいるのだ。
(さあ、どんな情けない顔をしているでありんすか。)
そう思いながら扉を開けた。
ギィ……
「おはようであり――」
言葉が止まる。
「……。」
部屋の中央。
小さな卓が置かれていた。
向かい合って座る二人。
恐怖公。
そして武蔵。
二人とも湯飲みを手にしている。
しかも。
和やかだった。
「……何をしてるのでありんす。」
武蔵が振り返る。
「おお。」
「シャルティア殿。」
「起きたか。」
まるで友人を迎えるような笑顔である。
「お主もどうじゃ。」
武蔵は湯飲みを持ち上げる。
「この虫の糞からできた茶。」
「なかなかによい香りじゃ。」
シャルティア。
「…………。」
頭の処理が追いつかない。
恐怖公は嬉しそうに胸を張る。
「武蔵殿は茶にも造詣が深いのであります。」
「吾輩、とても気に入ったであります。」
武蔵も頷く。
「うむ。」
「最初は驚いたが。」
「発酵の香りがよい。」
「後味もすっきりしておる。」
恐怖公は感激していた。
「わかっていただけるのでありますか!」
「この風味を理解する者はナザリックにも少ないのであります!」
「茶請けの幼虫も絶品であります!」
「うむ。」
「香ばしい。」
「酒にも合いそうじゃ。」
「でありましょう!」
二人は完全に意気投合していた。
昨日まで「食われる」と怯えていた恐怖公の姿はどこにもない。
今では茶飲み友達である。
シャルティアはその光景を見て顔を引きつらせた。
(どうしてでありんす。)
(なんで仲良くなってるのでありんす。)
(恐怖公の部屋で泣かせる計画だったのでありんすよ!?)
虫たちは武蔵の周囲で穏やかに蠢き、まるで歓迎しているかのようだった。
恐怖公など、すっかり上機嫌で新しい茶葉――いや、茶虫の説明を始めている。
シャルティアは深くため息をついた。
「……そ、そうでありんすか。」
気を取り直して咳払いをする。
「アインズ様が。」
「あなたが旅立つ前に。」
「一緒に朝食を取ろうとおっしゃっておられます。」
武蔵は湯飲みを置いた。
「そうか。」
「それはいかんな。」
立ち上がる。
恐怖公も慌てて頭を下げる。
「またいつでも遊びに来てほしいのであります!」
「うむ。」
「今度は山菜でも持ってこよう。」
「それを天ぷらにして食おう。」
「おお!」
「楽しみにしているのであります!」
二人は固く握手を交わした。
その様子を見ながら、シャルティアは心の中で呟く。
(ナザリック五大最悪の一角と、一晩で茶飲み友達になる人間なんて。)
(……やっぱり。)
(この変態だけは理解できないでありんす。)
虫のフンから作られるお茶は「虫糞茶(ちゅうふんちゃ)」や「虫秘茶(ちゅうひちゃ)」と呼ばれ、植物の葉を食べた蛾などの幼虫の糞を乾燥・焙煎して淹れる伝統的かつ革新的なお茶です
幼虫が植物の葉を食べて消化・代謝する過程で、虫の体内や腸内で発酵に似た反応が起き、元の葉にはなかった豊かな香りや深い味わいが生まれます
中国の山岳少数民族の間で古くから作られてきたほか、明代の薬学書『本草綱目』にも記載がある歴史あるお茶です。近年では京都大学の研究から生まれた国産の虫秘茶なども注目を集めています
嫌な臭いはなく、ほうじ茶やルイボスティー、烏龍茶などに似た香ばしさと、原料の植物(桜や栗など)に応じた上品な風味が楽しめます
通常のお茶と同様に、急須に茶葉(粒状の糞)を入れてお湯を注ぎ、1分前後蒸らして抽出します。
【グーグルAI】