武蔵転生記   作:masasoukoku

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第八十三回 【ナーちゃんが強すぎる】

ナザリック、第九階層。

 

プレアデス控え室。

 

戦闘メイド六人が整列し、その前にユリ・アルファが立っていた。

 

「みんな、集まったわね。」

 

静かな声に全員が姿勢を正す。

 

「アインズ様から武技の習得を命じられて、しばらく経ったわ。」

 

「でも、いまだ習得した者はいない。」

 

ユリは小さく息をつく。

 

「これは由々しき事態よ。」

 

ルプスレギナが笑いながら手を挙げた。

 

「ナーちゃんは集中すれば一応できるっす。」

 

「この前は失敗したっすけど。」

 

「ギヒヒ。」

 

ソリュシャンも苦笑する。

 

「集中が続かないのですよね。」

 

シズは淡々と。

 

「成功率、〇パーセント。」

 

エントマもこくりと頷いた。

 

そんな中――

 

ナーベの姿をした武蔵だけが首を傾げる。

 

「武技?」

 

「そんなもの。」

 

「簡単じゃろ。」

 

……

 

部屋が静まり返る。

 

「え?」

 

ルプスが目を丸くする。

 

「ナーちゃん?」

 

武蔵は平然としていた。

 

「見せてやる。」

 

「ついて参れ。」

 

そう言って歩き出す。

 

プレアデスたちは顔を見合わせた。

 

「……。」

 

ルプスが小声で呟く。

 

「今日のナーちゃん。」

 

「武蔵みたいっす。」

 

ユリも違和感を覚える。

 

「確かに……。」

 

「でも、とりあえず見ましょう。」

 

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ナザリック地下闘技場。

 

誰もいない広い空間。

 

武蔵はナーベの身体で中央へ歩く。

 

くるり。

 

振り返る。

 

「武技とは。」

 

「精神を一点に集中し。」

 

「己の肉体と意思を一致させる技。」

 

プレアデス全員が真剣な顔になる。

 

武蔵は腰に差した短剣を抜いた。

 

「よく見ておれ。」

 

一歩踏み出す。

 

「集中。」

 

「呼吸。」

 

「そして。」

 

「放つ。」

 

ヒュン。

 

短剣を軽く振っただけだった。

 

しかし――

 

ゴォォォォォッ!!

 

巨大な風圧が闘技場を駆け抜ける。

 

ズガァァァァン!!

 

闘技場の石壁が一直線に砕け散った。

 

砂煙が舞う。

 

静寂。

 

武蔵は短剣を鞘へ戻した。

 

「このように。」

 

……

 

誰も喋れない。

 

「え……。」

 

ルプスが口をぱくぱくさせる。

 

「ええええええっ!?」

 

ソリュシャンが驚く

 

「短剣で……壁を?」

 

エントマは触角をぴくぴく震わせた。

 

「すごい、です。」

 

シズは珍しく瞬きを繰り返す。

 

「……規格外。」

 

ユリですら絶句していた。

 

(ナーベが……。)

 

(こんな技を?)

 

(昨日まで集中も満足にできなかったのに?)

 

ルプスは武蔵をじーっと見つめる。

 

(やっぱり変っす。)

 

(しゃべり方。)

 

(立ち方。)

 

(説明の仕方。)

 

(全部武蔵っす。)

 

(でも。)

 

(武技が本当に使えてる……。)

 

ルプスはにやりと笑った。

 

(これ。)

 

(絶対面白いことになるっす。)

 

-------------------------------------------------------------

ナザリック地下闘技場。

 

先ほどの一撃で壁が崩れ、砂煙がまだ舞っている。

 

プレアデスは呆然と立ち尽くしていた。

 

ルプスレギナだけは、腕を組みながらニヤニヤしている。

 

(やっぱり怪しいっす。)

 

(ナーちゃんがこんな落ち着いてるなんてありえないっす。)

 

(試してみるっす。)

 

ルプスは何気ない調子で声を掛けた。

 

「ナーちゃん。」

 

「もう一回見せてほしいっす。」

 

武蔵(ナーベの姿)は頷いた。

 

「うむ。」

 

「武技は何度も見て覚えるもの。」

 

「よく見ておけ。」

 

今度は先ほどよりも少しだけ長く目を閉じる。

 

呼吸を整え。

 

精神を一点に集める。

 

周囲の空気が静まり返る。

 

ルプスの口元がにやりと吊り上がった。

 

(さあ。)

 

(ナーちゃんならここで――。)

 

突然、大声を張り上げる。

 

「あーーっ!!」

 

「大変っす!」

 

武蔵は動かない。

 

「武蔵とクレマンがいるっす!」

 

プレアデスが一斉に振り向く。

 

ルプスはさらに畳み掛けた。

 

「武蔵が!」

 

「クレマンにキスしてるっすよーー!」

 

……

 

静寂。

 

武蔵は微動だにしない。

 

集中は乱れない。

 

「むん。」

 

ヒュォォォッ!!

 

短剣が振られる。

 

次の瞬間。

 

ズガガガガガァァァン!!

 

風圧が一直線に闘技場を貫いた。

 

崩れたのは壁だけではない。

 

その後ろにあった観覧席までまとめて吹き飛ぶ。

【挿絵表示】

 

 

巨大な石柱が倒れ、

 

客席が半壊し、

 

砂煙が天井近くまで巻き上がった。

 

「…………。」

 

プレアデス全員が固まる。

 

シズが静かに分析する。

 

「破壊規模。」

 

「約二倍。」

 

ソリュシャンが呆然と。

 

「さっきより威力が増してるわ……。」

 

エントマは目を丸くした。

 

「すごい……。」

 

ユリは額に手を当てる。

 

「これは……武技というより災害ね。」

 

その横で、

 

ルプスだけが「うんうん」と何度も頷いていた

「やっぱりっす。」

 

「間違いないっす。」

 

全員が振り向く。

 

「何が?」

 

ルプスはナーベを指差した。

 

「このナーちゃん。」

 

「武蔵っす。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「……は?」

 

ユリが眉をひそめる。

 

「何を言っているの?」

 

ルプスは自信満々だった。

 

「前にナーちゃんへ武蔵が女と腕組んでるって嘘ついたら、集中が切れたっす。」

 

「でも今は。」

 

「武蔵がクレマンとキスしてるって言っても全然反応しなかったっす。」

 

「つまり。」

 

「武蔵本人だから反応しないっす。」

 

武蔵は「?」という顔で首を傾げる。

 

「何を言っておる。」

 

「わし……いや。」

 

思わず言い直す。

 

「私が武蔵とな?」

 

しまった、と武蔵は心の中で思う。

 

しかし遅かった。

 

ルプスの目がキラリと光る。

 

(今。)

 

("わし"って言ったっす。)

 

(完全に武蔵っす。)

 

にやぁ……。

 

口元が三日月のように歪む。

 

「面白くなってきたっすねぇ。」

 

ルプスはゆっくり笑った。

 

「ナーちゃん。」

 

「いや。」

 

「武蔵さん?」

 

その一言に、武蔵は内心で頭を抱えた。

 

(……しまった。)

 

(ばれたかもしれんの。)

 

 

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