陽光聖典。
スレイン法国が誇る対異形・対英雄用の精鋭部隊。
今回の任務は明確だった。
王国最強、ガゼフ・ストロノーフを討つこと。
その死によって王国内部に混乱を生み、
貴族派と王派の均衡を崩し、
隙あらば王国そのものを侵略する。
盤上の一手としては極めて合理的だった。
その指揮を執るのは
ニグン・グリッド・ルイン。
村外れの広い野原。
すでに術式は展開済み。
空には幾体もの上位天使が浮かび、淡い光を放っている。
槍を携えた天使。
剣を構える天使。
すべてが一斉にガゼフを討つための布陣。
ニグンは笑う。
「来るぞ」
遠くに土煙。
一直線にこちらへ向かう騎馬。
「王国最強……今日ここで終わる」
その一方。
カルネ村の集会所。
生き残った村人たちが身を寄せ合い震えていた。
その中で宮本武蔵は立ち上がる。
「では行ってくる」
アインズ・ウール・ゴウンを見る。
「戦は物見をせねばな」
武蔵らしい理屈だった。
まず見る。
相手を見る。
強さを見る。
それが戦いの始まり。
言い終わるや否や――
ドン!!
床板が割れるほどの踏み込み。
一瞬で姿が消える。
村人たちが息を呑む。
アインズの仮面の奥の眼光が鋭くなる。
「アルベド!」
アルベドが即座に膝をつく。
「行け!」
「武蔵の後を追え」
「状況を見極めろ」
「御意!」
爆風。
アルベドもまた一瞬で飛び出した。
村長がその光景を見送りながら震え声で言う。
「アインズ様……だ、大丈夫でしょうか」
武蔵とアルベド。
どちらも人の理を超えている。
そのぶつかり合いすらあり得る。
アインズは落ち着いた声で答えた。
「なあに」
「大丈夫」
「……あの二人なら」
その言葉には奇妙な確信があった。
強さへの信頼。
(むしろ問題は、向こうがどこまで持つかだ)
アインズはそう考えていた。
その頃――
ガゼフはすでに罠の中心へ足を踏み入れていた。
空を埋める天使の軍勢を見上げながら。
「……やはり来たか」
そして、そのさらに後方。
草原を裂くように駆ける武蔵の笑い声が響いていた。
「はは」
「ようやく面白くなってきた」
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カルネ村の集会所。
アインズ・ウール・ゴウンは村人たちを落ち着かせながら、伝言魔法で遠方のアルベドへ意識を飛ばしていた。
「どうだ、アルベド」
すぐに返答が来る。
「はい、アインズ様」
アルベドは今、宮本武蔵と共に戦場後方の丘から状況を見下ろしている。
視界の先では、
ガゼフ・ストロノーフが天使の軍勢と激突していた。
アルベドの報告は冷静だった。
「どうやら陽光聖典」
「召喚術を使う一団のようです」
「所属は……スレイン法国らしいと思われます」
アインズの眼窩の光が揺れる。
(スレイン法国か)
新しい情報 陽光聖典 スレイン法国
どのような組織 国か見極めなければならぬ ナザリックにとって敵か味方か
重要情報だった。
「ふむう……」
思考が巡る。
国家勢力図。
戦力。
敵対可能性。
価値は大きい。
アインズは続けて問う。
「それでガゼフは?」
アルベドが答える。
「はい」
「自ら囮となり部下を逃がそうとしておりましたが――」
少し間。
「部下たちが戻ってきております」
アインズは黙った。
戦術的には愚策。
生存率を自ら下げるだけ。
だが――
(忠誠、か)
その感情は理解できる。
ナザリックの守護者たちもそうだ。
理屈を超えて主のために命を捨てる。
その在り方には共感があった。
アインズは少しだけ声を低くした。
「それで……武蔵はどうしている」
アルベドが珍しく言い淀む。
「……それが」
「横になって寝ております」
「え?」
アインズの思考が止まる。
アルベドは続ける。
「“弱いからツマラン”と」
場面は丘の上。
武蔵は草むらに寝転がり、片膝を立てて空を見ていた。
下では王国最強と聖典部隊が命懸けで戦っている。
だが武蔵には退屈だった。
召喚された天使は強くない。
兵も弱い。
技も浅い。
「……あくびが出る」
アルベドはその姿を見て呆れていた。
「信じられません」
「ガゼフほどの戦士が死力を尽くしているというのに」
武蔵は片目だけ開ける。
「いや」
「ガゼフは悪くない」
「敵が弱い」
それだけだった。
アインズは遠隔越しに沈黙した。
(……この男の基準、どこにあるんだ)
アルベドが付け加える。
「ですが」
「隊長格の男……ニグンとかいう者」
「何か切り札を隠しているようです」
アインズの眼光が鋭くなる。
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野原の中央。
ガゼフ・ストロノーフは息を荒げていた。
全身に傷。
鎧は裂け、血が滲む。
それでも剣は止まらない。
「六光連斬!」
武技が閃く。
一瞬で天使を数体斬り伏せる。
さらに踏み込み、
「流水加速!」
地を滑るように移動し、包囲を崩す。
だが――
数が多すぎる。
空を埋める上位天使。
さらに
陽光聖典の術者たち。
多勢に無勢。
ガゼフの部下たちも次々倒れ、押し込まれていく。
「隊長……!」
「くっ……!」
ガゼフは歯を食いしばる。
守れない。
押し返せない。
このままでは全滅。
丘の上から見ていた武蔵はあくびをした。
「粘るな」
退屈ではあるが、ガゼフの剣筋だけは悪くない。
その一方。
カルネ村の集会所。
アインズ・ウール・ゴウンは計算していた。
(そろそろかな)
脳裏に浮かぶのは、先ほど渡した奇妙な人形。
ナザリック製でも何でもない。
ユグドラシル時代の安物。
500円ガチャの外れ品。
だが効果は確実。
装着者のHPが一定以下まで減れば、渡した者と強制交代する。
この世界では十分すぎる性能。
戦場。
ニグン・グリッド・ルインが勝利を確信していた。
ガゼフは満身創痍。
天使の包囲は完成。
逃げ場はない。
ニグンが腕を振る。
「いけぇ!」
「ガゼフを倒せ!」
天使たちが一斉に槍を突き出し、剣を振り上げる。
四方八方からの必殺。
回避不能。
ガゼフは目を細めた。
(ここまでか)
脳裏に王の顔。
仲間たちの顔。
守れなかった村々。
そして――
あの奇妙な仮面の魔術師と武蔵
「……すまぬ」
その瞬間。
胸元の人形が光った。
眩い閃光。
ガゼフの身体を包む。
「な――」
ニグンが目を見開く。
次の瞬間。
ガゼフの姿は、消えていた。
天使たちの槍が空を貫く。
沈黙。
誰も理解できない。
ニグンの額に汗が浮かぶ。
「……!?」
消えた。
死んでいない。
跡形もなく 消えた
転移魔法なのか
しかも詠唱なし。
道具発動。
それが意味するものをニグンは理解していた。
(そんな高位魔法具を持つ者が、この辺境に……!?)
丘の上。
武蔵が寝転んだまま笑った。
「ほう」
アルベドも目を細める。
カルネ村。
集会所の中央に、光が弾けた。
その中から血まみれのガゼフが膝をついて現れる。部下たちも一緒だ
村人たちが悲鳴を上げる。
アインズは静かに立ち上がった。
「無事でしたか」
ガゼフは荒い息の中で顔を上げる。
理解した。
あの人形が、自分を救った。
「……恩に着る」
だが戦いは終わっていない。
そして――
武蔵はゆっくり起き上がる。
「さて」
ようやく。
面白くなる予感がしていた。