武蔵転生記   作:masasoukoku

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しばらく武蔵は登場しません
9/18 挿絵挿入


第九十回 【武蔵を探せ】

ランポッサは何度も手紙を読み返した。

 

娘らしい丸みのある文字。

 

最初こそ孫ができたという報せに頭が真っ白になったが、その後に続く文章は、それ以上の衝撃だった。

 

帝国がナザリックへ手を出した。

 

報復として帝城には地震が起き、四騎士にも犠牲者が出た。

 

そして皇帝ジルクニフは、ナザリックとの友好へ舵を切ろうとしている――。

 

静かな部屋に、紙の擦れる音だけが響く。

 

「……ザナック。」

 

「はい。」

 

王太子ザナックも手紙を読み終え、深く息を吐いた。

 

「ラナーの見立ては正しい。」

 

珍しく迷いのない口調だった。

 

「我が国には、帝国とナザリックを同時に相手取る力はありません。」

 

ランポッサも頷くしかない。

 

ガゼフはいない。

 

武王に匹敵するものもいない。

 

ザナックは続けた。

 

「エ・ランテルからカルネ村までを国境と認め、その代わりに友好を結ぶ。」

 

「……領土を差し出せと?」

 

「悔しいですが、失う土地より失う国の方が大きい。」

 

部屋が静まり返る。

 

ランポッサも、それが最善策であることは理解していた。

 

だが王として、自ら領土を譲る決断はあまりにも重い。

 

やがて彼は、手紙の最後に目を落とした。

 

『交渉役には武蔵殿がよろしいかと。』

 

「武蔵……。」

 

その名を口にする。

 

あの帝国最強と謳われた武王を倒し、

 

ガゼフも再起不能にした

 

そしてナザリックの王アインズとも縁を持つ男。

 

「ラナーは、武蔵ならアインズと話ができると言いたいのだな。」

 

ザナックは静かに頷いた。

 

「武蔵は力だけの男ではありません。」

 

「ラナーを帝都に連れて行ったあの手段 またヤルドバオトを叩きのめしたと聞いております」

 

「今、この世界でアインズ・ウール・ゴウンと対等に言葉を交わせる人間は、武蔵だけでしょう。」

 

ランポッサはゆっくり椅子にもたれた。

 

「……ならば、その家臣から詳しい話を聞こう。」

 

「武蔵とはどのような人物なのか。」

 

「ナザリックとは、どのような関係なのか。」

 

窓の外では、冷たい風が王都を吹き抜けていた。

 

王国の運命を左右する新たな外交が、静かに動き始めようとしていた。

 

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王城・謁見の間。

 

玉座の前に二人の男女がひざまずいていた。

 

一人は戦士風の青年。

 

もう一人は長い耳を持つエルフの女性。

 

「顔を上げよ。」

 

ランポッサの声に、二人は静かに頭を上げた。

 

「私はヘッケラン。」

 

「イミーナと申します。」

 

「私どもは現在、ラナー様に仕える家臣でございます。」

【挿絵表示】

 

 

ザナックが二人を観察する。

 

「手紙には、お前たちは武蔵殿を知る者とあった。」

 

「まず聞こう。」

 

「武蔵殿は今どこにいる。」

 

その問いに、ヘッケランは苦い表情を浮かべた。

 

「……申し訳ありません。」

 

「私たちにも現在の居場所は分かりません。」

 

「何?」

 

玉座の間にざわめきが広がる。

 

ヘッケランは続けた。

 

「私たちはナザリックで武蔵さんと別れました。」

 

「あの時、武蔵さんはアインズ・ウール・ゴウンの元に残り、私たちだけが地上へ送り返されたのです。」

 

「その後、どこへ向かわれたのかまでは……。」

 

ランポッサは残念そうに息を吐いた。

 

「そうか……。」

 

だがイミーナが一歩前へ出る。

 

「ですが、一つだけ確かなことがあります。」

 

「申してみよ。」

 

「武蔵さんは帝国にはおりません。」

 

「皇帝ジルクニフから所払いを受けています。」

 

ザナックの目が鋭くなる。

 

「つまり、帝国には戻れぬということか。」

 

「はい。」

 

「ですから、行動範囲は自然と王国側になります。」

 

イミーナは王国南部の地図を指し示した。

 

「武蔵さんは基本的に、強い相手がいる場所へ向かいます。」

 

ヘッケランも頷いた。

 

「王都から南、西……。」

 

「あるいは未開の地や危険な地域。」

 

「そういった場所を旅している可能性が高いでしょう。」

 

「強い者を探して歩く。」

 

ランポッサは呟く。

 

「まるで風のような男だな。」

 

ヘッケランは思わず笑みを浮かべた。

 

「ええ。」

 

「武蔵さん自身、『風任せ』と言っていました。」

 

「行き先を決めて旅をする人ではありません。」

 

玉座の間に静寂が訪れる。

 

ザナックは腕を組みながら言った。

 

「つまり、こちらから探し出すしかない、ということだな。」

 

「はい。」

 

ヘッケランは力強く答える。

 

「ですが、一つだけ言えることがあります。」

 

「武蔵さんは困っている者を放っておけない人です。」

 

「もし王国で大きな事件が起これば、その噂を聞いて姿を現すかもしれません。」

 

その言葉に、ランポッサとザナックは顔を見合わせた。

 

武蔵という男は、もはや一国に縛られる武人ではない。

 

その存在自体が、王国とナザリック、そして帝国の均衡を左右し得る「一枚の札」となりつつあった。

 

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感謝の意を表し国王はヘッケランとイミーナを下がらせた

 

ヘッケランとイミーナが退出すると、重厚な扉が静かに閉じられた。

 

玉座の間には、ランポッサとザナックだけが残る。

 

しばらく誰も口を開かなかった。

 

やがて国王が深く息を吐く。

 

「……さて。」

 

「どうする、ザナック。」

 

ザナックは窓の外へ目を向けた。

 

遠くに広がる王都。

 

平和そうに見えるその景色とは裏腹に、この国は大きな岐路に立たされている。

 

「まずは、貴族会議でしょう。」

 

「領土割譲の件を議題として提出します。」

 

ランポッサは苦く笑う。

 

「揉めるな。」

 

「確実に。」

 

ザナックも苦笑した。

 

「ええ。」

 

「ナザリックなど恐れる必要はないと叫ぶ者。」

 

「王国の領土を一歩たりとも渡すなと声高に主張する者。」

 

「武力で取り返せと言い出す者。」

 

「必ず現れるでしょう。」

 

「……だが。」

 

ランポッサは玉座の肘掛けを静かに握る。

 

「これからの王国の行く末を決める、大事な会議でもある。」

 

「避けては通れぬ。」

 

ザナックは父の横顔を見つめた。

 

「父上は。」

 

「腹を決めておられますか。」

 

その問いに、ランポッサはしばらく黙り込んだ。

 

そして静かに答える。

 

「決めていない、と言えば嘘になる。」

 

「国を残すためなら、領土を差し出すことも王の務めだ。」

 

「……しかし。」

 

「独断で進めることはできぬ。」

 

「王国は、そのような国ではない。」

 

ザナックはゆっくりとうなずいた。

 

「ええ。」

 

「だからこそ、貴族会議を開くしかありません。」

 

父子の間に重い沈黙が流れる。

 

やがてザナックは小さく息を吐き、苦笑した。

 

「こういう時だけは、帝国が羨ましい。」

 

「皇帝ジルクニフなら、自ら決断し、そのまま国策として実行できる。」

 

「反対する貴族がいても押し切れるでしょう。」

 

ランポッサも静かにうなずく。

 

「王国は違う。」

 

「貴族の理解を得ねば、一歩も前へ進めぬ。」

 

「それが長所でもあり、短所でもある。」

 

ザナックはゆっくり立ち上がった。

 

「ですが。」

 

「だからこそ、説得しましょう。」

 

「この国を残すために。」

 

ランポッサもまた立ち上がる。

 

「うむ。」

 

「王国の未来を決める会議を開く。」

 

父子は静かにうなずき合った。

 

その決断が、王国の運命を大きく左右することを、二人は十分に理解していた。

 

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