武蔵転生記   作:masasoukoku

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第九十二回 【ガゼフ 復活】

ガゼフの声を聞いた瞬間、会議場の空気が変わった。

 

「武蔵殿は現在、カルネ村に滞在中とのことです。」

 

「すでに蒼の薔薇を迎えに向かわせております。」

 

その言葉に、ザナックが顔を上げる。

 

「本当か!」

 

「はい。」

 

ガゼフは力強く頷いた。

 

「私は武蔵殿と立ち会った際、武技を無理に重ね掛けした影響で長らく床に伏しておりました。」

 

「世間では再起不能との噂まで流れておりますが……。」

 

ガゼフは静かに笑う。

 

「その噂はあえて否定しませんでした。」

 

「武蔵殿の行方を探す時間を稼ぐためです。」

 

会議場の者たちは黙って耳を傾ける。

 

「武蔵殿ほどの人物ならば、いずれ王国最大の危機に力を貸してくださる日が来る。」

 

「私はそう信じておりました。」

 

ランポッサは静かに目を閉じた。

 

「……さすがはガゼフ。」

 

「余より先を見ておったか。」

 

しかし、その言葉を聞いたボウロロープ侯爵は鼻で笑う。

 

「武蔵だと?」

 

その声には露骨な侮蔑が込められていた。

 

「ラナー殿下をかどわかした男ではないか。」

 

「そのような得体の知れぬ流浪人を頼りに国政を行うとは。」

 

侯爵は肩をすくめる。

 

「やはり、この会議にこれ以上付き合う価値はありませんな。」

 

くるりと踵を返す。

 

「参りましょう。」

 

その一言で貴族派の面々も次々と立ち上がった。

 

「失礼いたします。」

 

「話にならん。」

 

「王国も終わりだ。」

 

捨て台詞を残しながら、ぞろぞろと会議場を後にしていく。

 

やがて広い会議場には、国王派の貴族たちだけが残った。

 

……いや。

 

一人だけ、貴族派の席に座ったまま動かない男がいた。

 

レエブン侯。

 

彼は腕を組み、静かに目を閉じて考え込んでいる。

 

ザナックが声を掛けた。

 

「レエブン卿。」

 

「貴公は帰らぬのか。」

 

レエブンはゆっくりと目を開き、静かな口調で答えた。

 

「私は貴族である前に、この王国の臣です。」

 

「王国がどうすれば生き残れるのか。」

 

「それを最後まで聞かずに席を立つほど愚かではありません。」

 

その一言に、会議場の空気は再び静まり返った。

 

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静まり返った謁見の間で、ランポッサ三世はゆっくりとレエブン侯へ視線を向けた。

 

「レエブン卿。」

 

「はっ。」

 

レエブンはその場で膝をつき、頭を垂れる。

 

王は静かに告げた。

 

「では、国王として命ずる。」

 

その一言に、場の全員が姿勢を正す。

 

「武蔵殿とともにナザリックへ赴き、余が提案する国境の件を交渉してまいれ。」

 

「エ・ランテルとカルネ村を結ぶ線を新たな国境とし、王国とナザリックの友好を取り結ぶ。」

 

「これが余の望みである。」

 

レエブンはしばらく黙したままだった。

 

やがて深々と頭を下げる。

 

「……それが国王陛下のご意志であるならば。」

 

「レエブン・デイル・アインドラ、謹んでお受けいたします。」

 

その返答には迷いはなかった。

 

ランポッサは静かに頷く。

 

「頼んだぞ。」

 

「王国の未来は貴公にかかっておる。」

 

「身に余る光栄にございます。」

 

再び頭を下げるレエブン。

 

その姿を見て、ザナックは小さく息を吐いた。

 

「これで交渉役は決まった。」

 

「問題は……。」

 

窓の外へ視線を向ける。

 

「武蔵殿か。」

 

ガゼフもうなずく。

 

「蒼の薔薇ならば、必ず見つけ出してくるでしょう。」

 

「しかし……。」

 

ザナックは苦笑した。

 

「武蔵殿は風のような御仁だ。」

 

「カルネ村にいると聞いた時には、もう別の土地へ旅立っているかもしれん。」

 

ランポッサも穏やかに笑う。

 

「それも武蔵殿らしい。」

 

「うまく蒼の薔薇たちが連れてきてくれればよいのだが。」

 

その言葉に、ガゼフもレエブンも静かに頷いた。

 

王国の命運は今、一人の流浪の剣豪と、ナザリックへの使節団に託されようとしていた。

 

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街道を土煙を上げながら、一団がカルネ村へと駆けていた。

 

先頭を走るのは、白銀の鎧をまとったラキュース。

 

その後ろをガガーラン、イビルアイ、ティア、ティナが続く。

 

「よく見つけたわね。」

 

走りながらラキュースが振り返る。

 

ティアが肩をすくめた。

 

「エ・ランテルで聞き込み。」

 

ティナも続ける。

 

「情報屋に大金使った。」

 

二人は同時にラキュースを見た。

 

「だから、あとで請求な。」

 

「わかった、わかった。」

 

ラキュースは苦笑いする。

 

「経費として王国に請求できればいいんだけど。」

 

「無理だろ。」

 

ガガーランが即座に切り捨てる。

 

「どうせラナー様案件だ。」

 

「あとで泣くのはラキュースだけだな。」

 

ティアとティナがくすりと笑う。

 

「……笑い事じゃないわ。」

 

ラキュースは肩を落とした。

 

そんなやり取りを聞きながら、イビルアイだけは前を見据えていた。

 

「問題は……。」

 

「武蔵が今もカルネ村にいるかどうかだ。」

 

その言葉で全員の表情が引き締まる。

 

ガガーランも腕を組む。

 

「あいつ、風来坊だからな。」

 

「昨日いた場所に今日もいる保証なんてねぇ。」

 

「いることを祈るしかないな。」

 

イビルアイが短く答えた。

 

やがて、一同の前方に村が見えてくる。

 

しかし。

 

「……なんだ、あれ。」

 

ガガーランが思わず足を止めた。

 

ラキュースも目を見開く。

 

「カルネ村……よね?」

 

以前訪れたことのある小さな開拓村とはまるで違っていた。

 

村を囲む柵は倍以上の高さとなり、丸太を何重にも組み合わせた分厚い防壁へと変わっている。

 

見張り台が等間隔に建てられ、その上では武装した見張りが周囲を警戒していた。

 

外周には掘まで設けられ、簡単には近づけそうもない。

 

もはや村というより、小規模な砦である。

 

ティアが口笛を吹いた。

 

「情報より、ずっと発展してる。」

 

ティナもうなずく。

 

「ちょっとした要塞。」

 

ラキュースは驚きを隠せない。

 

「いつの間にここまで……?」

 

ガガーランは周囲を見回す。

 

「人も増えてるな。」

 

畑では多くの農民が働き、その周囲では武装したゴブリンたちが巡回している。

 

荷馬車が何台も出入りし、活気に満ちていた。

 

イビルアイは静かに呟く。

 

「ただの農村ではないな。」

 

その時、見張り台の上から声が飛んだ。

 

「止まれ!」

 

「何者だ!」

 

ゴブリンの見張りが弓を構え、一斉に蒼の薔薇へ視線を向ける。

 

ラキュースはゆっくりと両手を上げ、敵意がないことを示した。

 

「私たちは王国の冒険者チーム『蒼の薔薇』です。」

 

「この村に滞在している宮本武蔵殿に、お会いするため参りました。」

 

 

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