魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
「魔法少女には二種類いる。戦う魔法少女と戦わない魔法少女だ」
「だからといっtt ────────
ザザッ……ザザザッ……
「戦わない魔法少女なんていない」
「戦うというのは、武器を振るうことだけじゃない。抗うこと」
「誰だって、抗ってんだろ。理不尽から、暴力から、運命から」
「困っている人を助けることだって、相手の理不尽に抗うことだよ」
「ヒトはただ立ってるだけでも、地球の重力に抗ってるっす」
「まして、
「だから、誰かの理不尽の前で立ち続けている魔法少女を、戦ってないなんて、ボクは言いたくない」
「私は、戦っているだろうか?」
1年前 ────
トゥルルルルル……トゥルルルルル……
『もしもし……どうしたの朱里? いつもみたいにメッセでいーじゃん』
「いや、ちょっと、声が聞きたくてさ……」
電話口の向こうから、いかにも年頃といった口調の、ハイティーンの少女の声が聞こえてくる。
それに対して、スマートフォンから電話をかけている主は、やはり同年代の少女の声だが、やや中性的な話し方をしている。
『ふーん……なんかあったの?』
「うん、ちょっと」
『……なんだ、オトコにでも振られたかー?』
「そんなんじゃないって」
『ジョーダンよ、ジョーダン。朱里そんなの縁なさそうだもんねー』
「まぁ、ね」
『お、今日は認めちゃうんだ』
「え?」
『朱里だったら「おいふざけんなよ!」ぐらい言うじゃん』
「あ、まぁ、うん」
『なんか今日の朱里、変』
「そうかな?」
『うん』
「そっか……」
気落ちしたような声が出てしまうが、話題を続かせようと、少し声の張りを戻す。
「ああ、そうだ、
『うん、みんな元気』
「それは良かった」
『あ、でも……そうそう、そうだ』
「うん?」
『朱里、アンタ岸辺って知ってるでしょ?』
「岸辺? あたしがそっちから離れるまで、小学校で一緒だった?」
『そう。その岸辺』
「そりゃ覚えてるけど……」
『それがさ、なんか、中学の途中からずっと学校来てなかったっぽいんだけど』
「あいつが……不登校か?」
『それが、身体になんかあったみたいなんだけどさ』
「身体? あいつ
『ん?』
「……あ、いや、あいつ
『そうってことになってるんだけど……』
「なんか、あるのか? まさか、死んだってわけじゃないんだろ?」
『それはない……んだけど、うーん……ちょっと、これ城南中卒のコが言ってるヨタかもしれないんだけどさ』
「なんだよ、それ」
『いやさ、岸辺が学校に来なくなったのは、実は、魔法少女になって、戻れなくなったから、なんて噂があるの』
「ハァ!?」
流石に、呆れ混じりの声を高く上げてしまう。
「魔法少女って……」
『まぁ、噂っていうか、なんかの冗談なんだと思うけど』
「そりゃな……あーあいつ、好きだったからなー」
『そうそう。小5あたりから隠すようになったけど』
「お前それ隠してる意味ないってな」
『バレバレだもんね』
「小雪見てデレデレしてたのとかな」
『えっ、そうなの? それは初耳』
「あれ? そうなのか」
『うん。へー、岸辺ってああいうのが好みなんだ』
「ま、それももう何年も前の話だ。今は違ってるかもしれないだろ」
「はくしっ」
「どうしたの? 風邪?」
「多分違う」
「…………じゃ、まぁ、これ以上遅くまで付き合わせちゃ悪いだろ」
『そんなこと…………って、あ、もうこんな時間なんだ! ごめん朱里』
「いいよ、本当に、ちょっとすぐに会えないやつと話したくてさ」
『なにそれ……ま、いいや。じゃ、この後なんかあったらメッセで』
「うん、おやすみ」
通話終了。
すぐにはスマートフォンの『終話』をタップせず、「ツーッ、ツーッ……」という発振音が聞こえてくる。
────────
まだ消灯時間には早い。病床はガラ空きには程遠いはずだが、今日に限っては妙に静かだ。
スマートフォンでWebサーフしておこうかと思うと、そのスマホのブラウザからのオススメ記事の通知が溜まっている事に気づいた。
順に消去していく。そのうちのひとつで、一瞬、指が止まる。
『
盤洞市も同じ県内にある。ただし、同じJR幹線で結ばれた左海市・名深市とは、そのJR線の系統が違う。
地域のニュースだけに、一瞬、気にはなったものの、結局それもスライドして消した。
ため息を吐く。
「魔法少女……か……」
かつて、
あえて特筆するなら、魔法少女が好きだった。
それが3年前、その運命に転機が訪れた。
『魔法少女育成計画』。
ソーシャルゲームを通じて勧誘され、本物の魔法少女、ラ・ピュセルになった。
ただ、思い描いていた、憧れた世界はすぐに破綻する。
名深市の16人の魔法少女に突然に告げられたバトルロイヤル、脱落は死を意味するデスゲーム。
そんな中、ラ・ピュセルは、自身が指導役でもあり、現実社会における幼馴染でもある魔法少女、スノーホワイトを守って立ち回り、戦ったが ────
その戦いぶりが、加害性の高い戦闘狂であり、実際の黒幕の1人だった、森の音楽家クラムベリーに目をつけられた。
絶望的に圧倒され、身体のあちこちを破壊され、死の直前の状態で、道路に捨てられた。
そして、荷物を満載したガソリンエンジンの2t積みトラックに撥ねられ ────
──────── なんの奇跡か因果か、そこで尚、一命を取り留めた。
ただし、 ──── 岸辺颯太、生来の姿の喪失と引き換えに。
以降、かつて彼と呼ばれた彼女は、魔法少女ラ・ピュセルの姿でのみ生きていくことになった。
Prelude
緋山朱里の入院から約半年後 ────
名深市の市街地は、気の早すぎるクリスマスの装いに染まりつつあった。
「うちは不要魔法少女回収業者でも少年院でも姥捨山でもありません!!」
颯太は、通話相手に向かって声を大きく上げた。
通話が終了したところで、颯太は思わず、通話端末 ──── 魔法少女の本山、 “魔法の国” の通信端末、マジカルフォンを、ベッドの上に放り投げていた。
「誰?」
岸辺家、岸辺颯太の自宅。
訪れていた、
「レディ・プロウドさん」
颯太が答える。レディ・プロウドは、縁あってラ・ピュセル達と関係がある、魔法の国、魔法少女部門外交部の、実務トップを務めている魔法少女だ。
「何の話?」
華乃が重ねて問いかける。
「
「ああ……」
どんなやり取りがあったのか想像ついたのか、華乃も自身の目元を手で覆った。
「『冗談だ』とは言ってたけど、多分、半分くらい本気だったと思う。多分、パムもそんなノリなんじゃないかな」
ラ・ピュセルの顔で眉を歪ませながら、颯太はそう言った。
細波華乃、魔法少女リップルは、 “クラムベリー最後の魔法少女選抜試験” と “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験”、2つの事件を戦友として、そして思慕で通じ合った相手として乗り越えた今は、もう “恋人” というより “夫婦” だ、と、仲間内で最年長の魔法少女が指摘するところだった。 ────が。
「せめて受験が終わるまでは、追加の厄介事持ち込まないでほしいんだけどな」
そう言いながら、颯太は学習机の椅子に座った。
「じゃあ、続き」
「うん」
身体がラ・ピュセルの姿に固定された混乱もあり、その後もまともに中学校へ通えない時期が続いた。結果、高校進学の機会を逃して浪人生となった颯太にも、1年遅れの受験時期が近づいていた。
指導者としては向いているとは言い難いものの、高校をすでに卒業している華乃を講師役に、颯太が受験勉強をしているところだった。
本来なら1人だけが生き残るデスゲームと化した、クラムベリーとそのマスコット・電脳妖精ファヴの魔法少女選抜試験を、紆余曲折あって4人が生還した。
ラ・ピュセル、岸辺颯太。
リップル、細波華乃。
スノーホワイト、
トップスピード、
黒幕のクラムベリーとファヴが死んだ後、魔法少女の本山、魔法の国は、この2人が野放しになっていた不始末を詫びるため、4人が正式な魔法少女になることを認めた。
成績上位だったラ・ピュセルとトップスピードには、活動継続に必要な、認識阻害の効果を持つ護符が贈られた。
また、後に僅かではあるが金銭的な補填も約束された。
その2年後、今度はそのラ・ピュセルをマスターに据えて、電脳妖精ネクをマスコットに迎えて催された魔法少女選抜試験。
しかしその本当の目的は、能力を発揮できない人造魔法少女に “死の圧力” をかけるためのフィールドの用意だった。
だからこそ、クラムベリーを覚えている生存者で、もっともその人生を損ない、尊厳を傷つけられたろうラ・ピュセルを選んだ。負の連鎖を起こすために ────
「は? 計画したやつは何考えてたんだよ。こいつ全力で喜んでんぞ」
あとから事情を知ったトップスピードが、呆れてそう言った通り、ラ・ピュセルは負の連鎖を選ばなかった。
焦れた黒幕側は、2人の殺戮者を送り込んできたが、犠牲は出したものの、どちらもラ・ピュセル達 “名深の4人組” によって止められた。
結果から言えば、被害が小さいとは言い難かったが、そこまでされても候補生16人中12人を生かして選抜試験を終え、候補生リフレッシングブリーズが正式の魔法少女になった。
そして、 “名深の4人組” に、2人の魔法少女が合流した。
1人は、自身の師匠筋から観察役として送り込まれたが、最終的に自身の正義に従って師匠と袂を分かった、ラピス・ラズリーヌ
そしてもう1人は、この選抜試験の裏の目的として送り込まれた、人造魔法少女ミクセリクサーだった。
──────── そして、現在。
『
自動放送が告げているが、その最中にはすでに発車メロディが鳴らされている。
ステンレスの車体に群青の帯を巻いた、5両編成の電車の、12号車、先頭から3両目。5両編成なのに “12号車” なのは、名深駅までは15両で走ってきて、そこで起点駅寄り10両を切り離しているからだ。
この駅から乗り込んできた、一見、どこにでもいそうな、高校生ぐらいの少女が、スマートフォンを見ながら、キョロキョロと車内を見回している。
スマートフォン操作をしながらの所謂 “ながらスマホ” というわけでもない。スマートフォンに表示させた写真を元に、誰かを探しているようだった。
『発車いたします。閉まるドアにご注意ください。駆け込み乗車は ────』
電車は扉を閉めて、発車する。
「!」
起動加速の慣性が働く中、少女はそれを見つけたと言う様子で、歩いていった。
白いフリフリの衣装、ホワイトプラチナブロンドの髪、紫のボンネット(柔らかい素材でできたヘアバンドみたいなもの)、全体的にふんわりしたイメージの中で、黒と赤のオッドアイだけが、キツめの三白眼で玉に瑕となっている。
そんな小柄な少女が、電車内のロングシートに座っていた。
その少女の前に、先程の少女が歩いてきた。
白い衣装の少女が、それに気づいて顔を上げる。
「あ……えっと、その」
前に立った少女が、声をかけようとして、僅かに言葉を詰まらせたところで、
「ファニートリック様ですね!」
と、白い衣装の少女が、満面の笑顔になって、先に声を上げた。
「その! 声が大きいです」
ファニートリック、と呼ばれた少女は、驚いたように周囲を見回してから、慌てつつ、白い衣装の少女にそう言った。
車内の乗客はさほど多くない。今の声で一瞬は視線を向けたが、その後は我関せずと言った様子で、スマホを弄ったり、ぼーっとしたりしている。
ファニートリック、と呼ばれた少女は、白い衣装の少女の隣に腰を下ろした。
「ミクセリクサーさん、ですね?」
そう、白い衣装の少女に問い返す。
「はい!」
白い衣装の少女、人造魔法少女ミクセリクサーは、元気よくそう答えた。
「パムさんのところからの依頼で、あなたの補佐をしなさい、と頼まれました」
ファニートリックこと、
「はい。わたしもそう聞いています。よろしくお願いします」
ミクセリクサーの方は、それでもニコニコと笑顔で、そう返した。
「…………」
緊張した面持ちの佳代が、しばらく言葉を発しないでいると、
「どうか、しましたか?」
と、ミクセリクサーが問いかけた。
「いえ……その……この
その答えとして、佳代が訊く。
左海市に、魔法の国が関与していない人造魔法少女研究所がある。それを捜索し、
「だいじょうぶです! むゎーかせてください」
ミクセリクサーはそう言った。
「ファニートリック様を危ない目には遭わせないと、わたしがお約束します」
──── 電車は、間の2つの駅に止まり、左海駅へ到着しようとしていた。
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