魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3―   作:神谷萌

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第10話

「なんだこれ!?」

 プリズムスプリントが声を上げた。

 グリムハートは、袋から次々に、カードドレスの魔法少女を取り出している。ただその表情には、些かの焦りが見て取れた。

「みなさん、ごめんなさい!」

「え?」

 ミクセリクサーの言葉に、ファニートリックとピュア・エレメンツが訊き返すが、それより早いか、

「みんな! お願い!」

 と、ミクセリクサーは先端にスペードのシンボルが付いたタクトを手に、トランプ兵たちに号令をかけた。

 出現しているトランプ兵は、ハートが3体、スペードが3体。いずれも石突にそれぞれのスートのシンボルが付いたシンプルな槍を手にしている。その中のスペードのクィーンが、先陣を切って飛び出していく。

 カードドレスの魔法少女の1体がそれに対峙する。スートはスペード、ナンバーはキング。こちらは穂先がスペード型になっている。

 トランプ兵のスペードのクィーンがカードドレスの魔法少女のキングに向かって槍を突き出す。だが、カードドレス魔法少女のキングはそれを素早く躱し、トランプ兵のクィーンを貫いた。トランプ兵は光の粒子になって分解する。

 カードドレス魔法少女のスペードのキングは、その勢いをかってプリズムスプリントとテンペストに向かって襲いかかってこようとする。そこへ、トランプ兵のハートのキングが立ちはだかった。

 ドスッ、ドシュッ!

「ああ!?」

 インフェルノが、その光景に嘆くような声を出す。

 カードドレス魔法少女は、スペードのキングに加えてスペードの10が出現し、2本の槍でトランプ兵のハートのキングを貫いた。

 だが、

 ブンッ

 槍が突き立ったまま、ハートのキングは槍を豪快に振り回してカードドレス魔法少女2体を振り払う。

 床に叩きつけられたカードドレス魔法少女のスペードのキングを、トランプ兵のハートのキングが槍で貫く。返す刀ならぬ槍の勢いで、石突をカードドレス魔法少女のスペードの10の鳩尾に叩き込んだ。

「ゴフッ!」

 スペードの10は血の混じった反吐を吐き出す。

 ミクセリクサーのトランプ兵のスートごとの役割は、スペードが突撃兵、ダイヤは手先が器用な工兵、クラブは潜入・浸透役。

 そしてハートが主力戦闘員だ。高い耐久力で相手の攻撃を受け止めながら確実に敵を仕留める。

 だが、そのトランプ兵のハートのキングが薙ぎ払った相手は────

「あ、あ……」

「見るな! めいちゃん!」

 一瞬凍りついたテンペストに対し、プリズムスプリントがその目元を手で覆った。

 トランプ兵と違い、カードドレス魔法少女は斃れた後も死骸が残った。血に濡れ、自ら吐いた血反吐に(まみ)れ、不気味に白目を剥き、床に倒れ伏している。

 倒されたトランプ兵のスペードのクィーンが、改めてミクセリクサーの隣に出現する。ハートのキングは、破れ目を残しながらも何事もなかったかのように、カードドレス魔法少女軍団の方に向かって突撃する。残りの5体がそれに続いた。

「これはまずいでございますね!」

 ウッタカッタの声が聞こえてきたかと思うと、そのラッパのようなものを咥える。そこから大量の巨大なシャボン玉が吹き出し、それがトランプ兵を遮った。

 トランプ兵はシャボン玉を薙ぎ払って消そうとする。だが、ただのシャボン玉かと思いきや、ぶよんぶよんとしなやかにも強靭で、槍の柄で薙ぎ払ったぐらいでは消えない。

 さらにシャボン玉は増える。テンペストとプリズムスプリントも包み込まれそうになった。2人がミクセリクサー達のところまで退()がってくる。

「こ、これは……」

 シャボン玉に遮られて、7人は構えつつも立ち尽くしかけた。

「っ!?」

 そのシャボン玉の一部を割りながら、カードドレス魔法少女が飛び出してきた。スペードの9。

「!?」

 飛び出した時点でその正面にいた、ファニートリックに向かって突進してくる。対応が一瞬遅れた。

 ザッ

「あぐっ!」

 ファニートリックはカードドレス魔法少女の槍を躱そうとしたが、わずかに遅く、その左の上腕に槍の穂先を受けた。ファニートリックは反射的に右手で左腕を押さえてしまいながら、バランスを崩して倒れかける。

「ファニートリック様!」

 ミクセリクサーが声を上げる。彼女とインフェルノがほぼ同時に動いていた。

 ミクセリクサーが倒れる直前でファニートリックを受け止めた。

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

「この!」

 インフェルノがカードドレス魔法少女に、炎の槍の穂先を突き立てる。一瞬血飛沫が飛び散りかけたが、

 ゴワァッ

 と、それが床に落ちる前に、カードドレス魔法少女のスペードの9は全身が炎に包まれ、その次の瞬間には全身が炭化しきっていた。

「インフェルノ!」

「大丈夫です!」

 デリュージの声に、インフェルノが即答する。

 ミクセリクサーはファニートリックを抱きとめつつ、インフェルノとシャボン玉の間にトランプ兵を2体、ハートの10と9を()び出す。

「こりゃダメだ」

 プリズムスプリントが言う。

 シャボン玉の隙間から、クラブの10のカードドレス魔法少女が出現する。手にしていた棍棒(クラブ)でトランプ兵のハートの9に殴りかかった。

 ガキン!

 トランプ兵はそれを槍で受け止めると、そのままクラブを弾き飛ばし、仰け反りかけたカードドレス魔法少女に槍を突き立てた。

「ここは狭すぎる! 立てこもれる場所に行かねぇとどうしようもない!」

「一旦、ブリーフィングルームへ!」

 プリズムスプリントの言葉に、クェイクが声を上げた。

 クェイクとデリュージから動きはじめる。ミクセリクサーはトランプ兵のハートの8と7を追加で喚び出して盾役にさせつつ、ファニートリックをやや高く横抱きにしてデリュージ達に続く。それをプリズムスプリントが追い、インフェルノとテンペストが殿(しんがり)になって、通路をブリーフィングルームに向かって駆けて撤退する。

 シャボン玉の壁が弾けた。その向こう側から、無数のカードドレス魔法少女が雪崩を打って押し寄せる。流石に多勢に無勢で、ハートのトランプ兵達は何体かを返り討ちにしたものの、無数の槍に貫かれ棍棒で頭部や肩、脚を叩き潰され、光の粒子に分解して消える。

 ブリーフィングルームの入口まで行き着いたクェイクは、そこで自分達が走ってきた通路の方を振り向き、自分はハンマーを手にしつつ、

「入って! 早く!」

 と、後続にそう促した。

「クェイク!」

 テンペストが声に出す。

「大丈夫!」

「無茶しないでください!」

 応じたクェイクに対し、インフェルノがそう声をかけて、ブリーフィングルームに駆け込んだ。

 追手のカードドレス魔法少女、それに、ウッタカッタの姿も見える。

「このぉ!」

 クェイクは、振りかぶったハンマーを、カードドレス魔法少女達が迫りくる通路の床に向かって叩きつけた。

 ズズンッ! ビリビリビリビリッ!!

 カードドレス魔法少女達が迫ってきている通路の方に向かって、施設の構造物を伝って衝撃波が放たれた。

「うぉっ!?」

 ウッタカッタの声が聞こえた。彼女とカードドレス魔法少女達が脚をもつれさせ、通路の床に転ぶ。転んだ彼女たちは絡み合って、すぐに立ち上がれない。

 その隙に、クェイクもブリーフィングルームに飛び込んだ。

 ブリーフィングルームの中では、デリュージとプリズムスプリントが準備していて、戸棚を扉に叩きつけるように置き、さらにジュースサーバーやら会議机やら椅子やらをそこに押し付けるように置き、バリケードにした。

 

「あちちちちち……」

 カードドレス魔法少女とともに転んでいたウッタカッタが立ち上がる。

「…………」

 カフリアが、口元だけでも解るほど怪訝そうにした。

 グリムハートは、まだ起き上がれずにいるカードドレス魔法少女を蹴飛ばしながら、ブリーフィングルームの出入口まで歩いてきた。

 それに、少し毛色の違うカードドレス魔法少女が付き従っている。カードドレスの柄はジョーカー。死神のような鎌を持ち歩いていた。

「計算違いが生じた」

「…………」

 カフリアはグリムハートを見ている。自分達が何か声をかけても「クビヲハネヨ」としか言わなかった彼女が、意味のある言葉を口にしていた。

「まさかここにあれがいるとは」

「これから……どうするでございますか?」

 グリムハートの呟きに対し、ウッタカッタが声をかける。が、しかし、

「クビヲハネヨ」

 と、ウッタカッタには今まで通り、相手にしているのかいないのか、お決まりの言葉だけを言う。

「どうしましょうか、と、こちらの者が訊ねておりますが」

 ジョーカーのカードドレス魔法少女は、グリムハートに問いかける。 “シャッフリン” を始めカードドレス魔法少女は、たまにキィキィと鳴き声のように発声する以外は、言葉を発さなかったが、このジョーカーは口がきけるようだ。イメージも少し違う。少し歪んだ表情をして、ニヤニヤと笑っているように見えた。

「人造魔法少女の技術や情報が他に存在しているのは看過できぬ。すべてを我々が回収し、独占する、この目的は変えられぬが」

 グリムハートはそう言った。

「── だ、そうでございますが、お二方は?」

「アタシたちは、報酬さえ貰えればそれで構いませんでございます。ええ、ここで見たことも他言いたしませんですとも」

 ジョーカーの問いかけに、ウッタカッタはそう言った。

 それを聞いて、ジョーカーはニタリ、と少し不気味に笑んだ。ただ、こんな歪んだ笑顔をする魔法少女はさして珍しくもないので、ウッタカッタはそれを気にしなかった。

「最初からだいぶ削られてしまったのう」

 グリムハートが、ジョーカーに向かって言う。

「ええ、まさかミクセリクサーがここにいるとは思いませんでしたからね」

「ミクセリクサー」

 ジョーカーの言葉を、ウッタカッタが鸚鵡返しにした。

「いずれあれも回収しなければならないと思っていたが、今はよろしくないのぅ……」

「では、一旦撤退いたしますか?」

 忌々しそうに言うグリムハートに、ジョーカーはそう問いかける。

「否。こうして態々(わざわざ)出向いておきながら、目的も達せずおめおめ帰るとは、王の名に(きず)がつく」

「御意に」

 グリムハートの言葉に、ジョーカーはそう返してから、ウッタカッタとカフリアを見る。

「そういうわけですな。お二方、この先も同道願えますかな?」

「報酬を約束していただけるのであれば、どこへとも参りますでございます」

 ジョーカーに対して、ウッタカッタはそう答えた。

 

「ファニートリック様、大丈夫ですか?」

 ブリーフィングルーム内部。

 ファニートリックの腕の傷は、かすり傷、とは言えないようだった。肉を少し削がれていた。

 問いかけるミクセリクサーの声には、流石にいつもの覇気がない。

「すみません、安全を保証すると言いましたのに」

「いえ、大丈夫ですよ、これぐらい」

 ファニートリックは、ミクセリクサーが罪悪感を抱かないように笑みを作って言うが、その笑みが直後にまた痛みに歪む。

 ミクセリクサーは、ファニートリックを抱えたまま、クェイクとデリュージの方を見た。

「あの! ファニートリック様の治療と回復をしたいのですが!」

「あ、待ってください」

 言ったのはインフェルノの方だった。

「ここの扉はそれほど頑丈じゃありません。魔法少女相手ではさほど保たないでしょう」

 言ってるそばから、

 ガン、ガキン!!

 と、扉を激しく叩き、破壊しようとしている打撃音が聞こえてきた。

「トレーニングルームへ。こちらの扉は私達が無茶をしても保つようになっていますから」

「けど、通路は連中に占拠されてるぞ?」

 プリズムスプリントが訊き返した。

「こちらから。隣のトレーニングルームに直接つながっていますので」

 インフェルノとクェイクが、通路側とは別の扉を手で示した。

 ミクセリクサーとプリズムスプリントが顔を見合わせ、頷く。

 開いた扉から、インフェルノ以外のピュア・エレメンツ、プリズムスプリント、ファニートリックを抱えたミクセリクサーの順で扉をくぐっていく。

 その間際、ミクセリクサーが、

「ネド」

 と、肩に乗っているネドに小さく声をかけた。

「わかってるぽん」

 ネドの答えを聞いてから、ミクセリクサーは隣室に入った。

 最後にインフェルノが扉の向こうに消えて、僅かな後に、

 ドガァッ!!

 通路側の扉を塞いでいた調度品類が弾け飛んだ。破壊された扉から、カードドレス魔法少女と、ウッタカッタとカフリアが入ってきた。

 ウッタカッタとカフリアは室内を見回す。

 ウッタカッタは、トレーニングルームに続いている扉を見て、そこへ向かう。何人かのカードドレス魔法少女がそれに続いた。

 ドン、ドン、とウッタカッタが扉を拳で叩いたが、今破ってきた通路側の扉と異なり、反響音がしない。かなり分厚く、頑丈な扉だった。

「魔法耐性も付与されている様子……力ずくでは破れそうにないでございます」

 カフリアは、ブリーフィングルームのパソコンに向かった。パソコンの電源は入っていたが、黒い画面に白い文字で “System Not Found_” とだけ表示され、最後のカーソルが点滅していた。

 





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