魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
通路には出ず、各々のトレーニングルームをつなぐ扉を渡っていく。
オーソドックスな体育館のようなトレーニングルームからひとつ隣へ入ると、
「ここは……」
ファニートリックが呟き、ミクセリクサーと共にあたりをキョロキョロとする。
左海市の駅前を通る二桁国道、市街中心部からは少し外れて、住宅街だが、道路沿いは商店が多い、そんな場所を再現している。
市内電車の停留所がある。少し大きめで、駅前側に上下線間の渡り線があり、その反対側では複線が単線に変わって、急カーブのクランクを描いて国道から外れていく。実際のこの場所には、平日でもよく、所謂 “撮り鉄” が周囲に集まっていることで良くも悪くも有名だった。
「なんだ? 大工町二丁目の停留所のあたりだな」
プリズムスプリントが言った、その言葉を聞いて、ファニートリックが、
「市街戦も想定してたってことですか!?」
と、些か険しい表情でそう言った。
「…………」
デリュージは、眉を険しく
「今までディスラプターがそういう場所に出たことはありませんが、可能性としては捨てきれない、ということでしたので」
そのクェイクの説明はまぁ、ファニートリック達も納得ができなくもなかった。誰がなんのために
「いるぽん! 反応あるぽん! シャッフリンっていうやつだぽん、複数!」
ネドが警告を発した。
「お願い、スペードのキング、スペードのクィーン!」
ミクセリクサーが2体のトランプ兵を追加で喚び出す。
7人は再現されたカフェを背後にして、約180°を警戒する。ピュア・エレメンツは武器を構え、ファニートリックは空手風の構えをとり、プリズムスプリントもそれらしい構えをつくった。
さらにその外周を、6体のトランプ兵が囲んでいる。
だが ────
「後ろだぽん!!」
それに意識で一番最初に反応したのはクェイクだった。身体ごと後ろを向きながらハンマーを横薙ぎに振り回す。
背後から棍棒でミクセリクサーに殴りかかろうとしていたシャッフリンが、ハンマーヘッドに薙ぎ払われる。
グワッシャ、ガシャ、べちゃん!!
ガラス張りのカフェのエントランスを粉砕しながら、シャッフリンも壁に叩きつけられて潰され、血と肉の塊に変えられた。
バンッ、バンッ!
カフェからの奇襲が合図とでも言うように、棍棒を持ったシャッフリンが四方の建物から襲いかかってくる。いずれもスートはクラブ。それをハートのトランプ兵が槍と腕を振り回して振り払い、道路に着地したシャッフリンにスペードのトランプ兵が槍で鋭い一撃を加える。
「さっき、トレーニングルームの通路側の出入口は全部閉鎖したはずなのに!」
「多分、閉鎖する直前に何体か侵入したのよ!」
インフェルノの憔悴した声に答えつつ、デリュージはトランプ兵が討ち漏らしたシャッフリンの1体を三叉槍で貫いた。
「逃げるな!」
スペードのトランプ兵の刺突を逃れた2体のシャッフリン、ナンバーでジャックと9が、併用軌道の単線
「クェイクさん! 建物ごと潰してくれ!」
プリズムスプリントが追っていた1体が、外板が波トタンの倉庫だかガレージだかに逃げ込んだ。プリズムスプリントが言った通り、クェイクが魔力込みの打撃を建物の正面に入れる。シャッターをぶち抜いて建物内の床面を強打した。
ズシン!! バキ! バキッ!! ガラララララ……
プリズムスプリントが言ったとおり、建物の梁や柱があちこちで粉砕され、建物はくしゃりと潰れた。
ガサガサッ
外板を構成していた波トタンが音を立てる。
「この!」
それを、プリズムスプリントが、足に魔法の風を纏わせながらジャンプして、両足で踏み潰す。ベチャッ、という感触があって、波トタンの継ぎ目から血が吹き出した。
──── 先程、出入り口付近での戦闘ではテンペストに遺体を見せないようにしたが、この状況ではもうそんな余裕はなかった。
「付近のシャッフリンの反応、なくなったぽん」
ネドが告げる。
「まずいですね……」
尚も憔悴した表情で、ファニートリックが言う。
「トレーニングルーム内のコンピューターから、管制室の隔壁も開けられるかも知れません」
「いえ、それなら大丈夫です」
ファニートリックの懸念に対して、インフェルノが、表情までは崩さずに
「隔壁を閉鎖することは各部屋のパソコンから緊急操作としてできますが、解除するには管制室のコンピューターにログインして操作しないとできません。情けないことに私達もいつの間にかパスナンバーが設定された状態になってしまって、それができなくなっているんですが……」
「と、いうことは、どのみち管制室に行って直接コンピューター触んないとどうしようもねぇってことか」
プリズムスプリントが言った。
パスナンバー自体はネドが勝手に設定しているので遠隔ログインは可能だったが、どのみちトレーニングルームのPCからはすべての機能は使えなかった。それが可能なブリーフィングルームのPCは、グリムハートやウッタカッタたちに操作されないように、トレーニングルームへの移動の際にネドがOSを吹っ飛ばしてある。
「次の部屋、行きましょう」
デリュージが言い、7人はトランプ兵とともに移動を開始する。
「クラブが8人、やられました」
シャッフリンジョーカーが、グリムハートに報告する。
彼らは、ピュア・エレメンツとミクセリクサーたちより先に、通路の最奥近く、管制室の前まで来ていた。
ただし、管制室区画との間の隔壁が閉鎖されてしまっており、管制室に入ることはできない。
本来、こうした隔壁は、ブリーフィングルーム区画とトレーニングルーム区画との間にも存在していたが、インフェルノとデリュージは迂闊にもそれを閉鎖しそびれていた。
「8人もか」
「はい、その中にはジャックが含まれます」
「おのれ」
苛立った表情のグリムハートは、その視線をウッタカッタとカフリアに向ける。
ウッタカッタは隔壁に手を当ててなにか調べているようだった。カフリアは、何が楽しいのか、ハートのシャッフリン数人と一緒にいる。まるで会話をしているようだった。
「!」
だが、そのカフリアが、ふっとウッタカッタの方を振り向いたとき、一瞬動きが止まった。
カフリアは一緒に過ごしていたハートのシャッフリン達に手を振って離れ、ウッタカッタの近くまで歩いてきた。
「ねぇ、ウッタカッタ」
「はい、なんでござんしょう、カフリア?」
カフリアに声をかけられて、ダイヤのシャッフリンとともに隔壁を調べていたウッタカッタが、それを中断して振り返る。
「アナタ、ここが突破できたとして、先陣争いに加わることを考えているのなら、やめた方がいいわよ」
カフリアは、ウッタカッタにそう告げた。
「へっ?」
最初はすっとぼけた返事をしたウッタカッタだったが、
「ああ、そういうことでございますか。アタシに死相が出ていると。そりゃゾッとしませんですねぇ、なら手柄争いは程々にしておきましょうです」
と、どこまでが戯けているのかわからない様子で、そう言った。
カフリアの魔法は “誰が一番早く死ぬのかわかるよ”。自身の周囲にいる中で一番先に死ぬ人物の頭上に髑髏マークが浮いて見えるというものだ。ただ、それだけだ。その死因や死亡時期まで解るわけではない。
どこぞの自分の武器を大小させる事ができるだけの魔法少女のそれと比べても、カフリア自身も「しょぼい」と感じていた。
ただ、見える死の運命は絶対ではない。カフリアや他者の介入によって、割と簡単に変わる。だから、カフリアは死なせるべきではないと思った相手には、今のように声をかけたり介入したりしてそれを変えるきっかけをつくっている。
一方。
「いえ、いえ、まだ早いでしょう。この先、決定的な切り札を失ってからにしなければなりません」
ウッタカッタたちに視線を向けていたグリムハートに、ジョーカーシャッフリンは、そう言って宥めた。
左海の住宅街を模したトレーニングルームの次は、先程一度訪れた雑木林のトレーニングルームだった。
ここも伏兵を隠しやすそうだったが、次の部屋との扉に辿り着くまでに、シャッフリンは現れなかった。
「拍子抜けですね……」
周囲に対する警戒は緩めないようにしつつも、デリュージはそう言った。
「多分、クラブの残りがいないんだぽん」
ネドが返す。
「ミクセリクサーと同じ……という前提で話すケド、クラブは潜入・浸透役だぽん。だから、扉が閉鎖される直前にトレーニングルームに侵入させたんだぽん」
「そっか、それを先にやっつけちゃったから!」
テンペストが声を上げた。
「たしか、7体か8体潰したはずだ。トランプの記号ごとの数は13だから、半分以上削ったってことか。なるほど、迂闊に仕掛けてこれないってのはあるかも知れないな」
プリズムスプリントは納得したように言ったが、
「でも、補充できるんですよね?」
と、デリュージは緊張したまま重ねて問う。
「ミクセリクサーさんは、ハートのキングやクィーンを何度か出し直してるはずですし!」
「そのことなんだケド」
決して楽観視はしない様子で、ネドがさらに言う。
「多分、ミクセリクサーみたいにノータイムでぽんぽん補充できるわけではない可能性はかなり高いと思うんだぽん」
「それは、どうして?」
インフェルノが訊ねた。
「ミクセリクサーがそれを可能なのは、自身が魔力を蓄積・増幅する魔力炉だからだぽん。ただ、それを制御して、その上で指揮・統率個体としての能力を持たせるために、ミクセリクサーは高度な人格が必要だったんだぽん。そしてそれが、ミクセリクサーを “失敗作” にしたんだぽん」
「失敗作!?」
プリズムスプリントが反射的に素っ頓狂な声を出した。他の面子も驚愕の表情をしている。ミクセリクサー自身はケロッとした表情をしている。
「これだけ完全に、しかも強力な魔法少女として造られててか!?」
「ピュア・エレメンツの皆さんとは違う、
「つまり……それって」
今度はデリュージが問いかけるように声を出した。
「ミクセリクサーは普通の、人間からの魔法少女と同じように、1人に完全服従はしないぽん。命令以外のことも考えるぽん。使役者以外と社会関係を成立させられるぽん。善性と優しさがあって自分の価値観を持つぽん。不快なことは不快だと言うぽん。でも都合よくその戦力を使いたい使役者にとってそれは不都合だぽん」
「要するにあれか、文句言わない機械が欲しかったけど、こいつはそういうふうに動かないってことか」
プリズムスプリントが、ミクセリクサーの頭をぽんぽんとしながら、どこか呆れたようにそう言った。
「そういうことだぽん」
ネドがそれを肯定する。
「またあかねぇちゃんが鋭いこと言ってる」
「あんだと」
テンペストとプリズムスプリントがそう言い合う中、デリュージは他の面子から少し
「ああ、解りました」
インフェルノが言う。
「シャッフリンがミクセリクサーの “
「そういうことだぽん。従順にさせるために人格を弱くしたり歪ませたりしているなら、多分真っ先に削ることになるのが魔力炉の機能だぽん。ミクセリクサーと同等の人格じゃないと制御できずに崩壊するぽん」
「それで、補充には別の条件が必要になる、ということですか」
「そのとおりだぽん」
インフェルノの結論づけに、ネドはそれを肯定した。
「では! 次に進みましょう!」
ミクセリクサーは複雑な顔など一切せずに、そう言って、先頭のクェイクを促した。
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