魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3―   作:神谷萌

14 / 18
第13話

 ピュア・エレメンツとミクセリクサーたちの7人は、さらに扉を1枚くぐった。

「ここは……」

 ミクセリクサーたち3人がキョロキョロと周囲を見る。

 左海市とは異なる、水辺の市街地。広大な水面が部屋の奥の方へ向かって続いているが────

「海……────」

 ファニートリックはそう言って、広がる水面の方を見るが、

「── にしては、波がありませんね……」

 と、凪いだそれを見て、そう言った。

 ヨットマリーナの埠頭につながる路地から、そのとなりを河口に流れ込むそこそこの太さの橋を渡ったところで、ミクセリクサーが声を上げる。

「……ここは! わたしのアパートのちかくです!!」

「あ、そうだ」

 プリズムスプリントも反応した。

「名深の新マリーナのあたりじゃないか、ここ」

「あかねぇも知ってるの?」

 テンペストが質問する。クェイクとインフェルノもプリズムスプリントに視線を向けた。デリュージは橋の河口とは反対側を注視している。

「あたしも小学校の最後の頃の方まで市内に住んでたからな。ここからはだいぶ離れてるけど」

 プリズムスプリントも周囲を見回しながら答えてから、

「ここ、お前んちの近くなのか?」

 と、ミクセリクサーに訊ねた。

「はい! 行ってみますか?」

 ミクセリクサーの提案を聞いて、プリズムスプリントは、振り返るようにしてファニートリックやクェイクに視線を向けた。

「寄り道している場合ではないと思いますが……」

 そう言ったのはデリュージだった。

「でも、今だったらなにかあるかも!」

「何があるってんだよ……ゲームじゃないんだぞ」

 テンペストの声に、プリズムスプリントは片手で目元を覆った。

「…………行ってみた方がいいかも知れないぽん」

 ミクセリクサーの左肩の上で、ネドがそう言った。

「え!?」

 ミクセリクサーが訊き返す。

「シャッフリンの反応があるぽん」

「あ」

 ミクセリクサーより先に、ファニートリックが反応した。デリュージの隣に並んで、市街側を見る。

「……後ろから襲われるのは避けたいですね」

「はい」

 デリュージの言葉に、ファニートリックが同意した。

「かと言ってあてもなくぐるぐるするわけにも行かないけど、ちっとこいつんち見に行く程度だったら、まぁいいか」

 後頭部に両手を充てる仕種をしながら、プリズムスプリントが言った。

「では、ご案内しますー」

 ニコニコと、いつにも増して妙に楽しそうなミクセリクサーに連れられ、7人はミクセリクサーが住むアパートがある、北渚の住宅街へと入っていった。

 ハートのトランプ兵4体に周囲を守らせつつ、まるで街中を散策するかのように、目的地まで歩いてきたが ────

「はれ?」

 ミクセリクサーが、緊張感に乏しい驚きの声を出した。

「わたしのアパートと違います!」

 そこには、平成の初期の頃のデザインの木造アパートが建っていた。規模自体は、ミクセリクサーの住んでいるアパートとほとんど変わらない。

「建て替えでもしたでしょうか……?」

 クェイクが、スケッチするかのように両手の親指と人差し指で枠をつくって建物を観察しつつ、そう言った。

「そうでした!」

 ミクセリクサーが声を上げる。

「2年前にリフォームしたばかりだと言ってました!」

 手を挙げて言ったその言葉を聞いて、ミクセリクサー本人とよく解っていない様子のテンペスト以外の5人が、脱力するようなリアクションをした。

「で、でも……────」

 姿勢を直しつつ、インフェルノが言う。

「── 私達が募集されたのは、少なくとももっと最近のことですが……」

「単純にデータが古かったんじゃないか?」

 プリズムスプリントが言う。

 デリュージは目を細めて建物を見ていた。

「この研究所の規模を考えれば、施設のデータを収集するのが2年以上前でも不思議じゃないぽん」

 ネドが言った。

「と、そんな話をしている場合じゃないぽん。シャッフリンの反応がごく至近距離にあるぽん。ここから ────」

 その声を聞いて、一同の表情が引き締まる。

 ネドのナビゲーションに従って、トランプ兵の、ハートのエースとクィーンが先頭になり、その後ろにミクセリクサーとクェイクが続く。

「── この部屋の中だぽん」

 1階のその部屋は、リフォーム後にミクセリクサーの自宅になる場所だった。

「私が……」

 インフェルノが言い、槍を構えかけたが、

「火を使って燃え上がったら困るでしょ」

 と、デリュージがそう言って、三叉槍(トライデント)を両手で握り直しながらインフェルノの前に出る。

「私がやる」

 ハートのクィーンが扉の前に立つ。デリュージが、扉の蝶番の反対側の、壁に背中をつけた。

 デリュージが頷くと、トランプ兵が扉を開ける、その瞬間にデリュージが扉の開口部の正面に立つ。扉の開口部に向かって突っ込まれたトライデントの先から、水が一直線に放出されたかと思うと、一瞬後にそれは氷となって、トライデントの穂先の延長部となった。

 そして、そのデリュージの正面に、その氷の穂先にシャッフリンが2体、貫かれていた。スートはどちらもクラブ、ナンバーは3と2だった。

 デリュージが発生させた氷の槍はすぐに砕け散って消える。シャッフリンはすでに声をだすこともなく、その場に倒れた。

「……シャッフリンの反応、消えたぽん」

 ネドがそう言った。

「何が目的でここに隠れてたんだ……?」

 プリズムスプリントが、怪訝そうな表情で言った。

「多分、ここに隠れ潜んでいて、私達が次の部屋に移動しようとしたところを背後から襲うつもりだったんだと思うんですが……」

 ファニートリックはそう言うが、その自身の眉も険しい。

「ここを選んだのは意図的かも知れないぽん」

 ネドが言った。

「ミクセリクサーさんの情報が知られている?」

「その可能性は否定はできないぽん」

 ファニートリックが聞き返した言葉に、ネドはそう答える。

「データが流出してる可能性は低いケド……ラ・ピュセルやリップルの住所はもともと割れてるぽん」

「どっちかを尾行すりゃいつかこいつに出くわすってことか」

 プリズムスプリントが、納得したように言い、ミクセリクサーの頭をぽんぽん、とした。

「まぁ、直接名深だとスノーホワイトが出没するから奇襲が難しいんだケド……」

 スノーホワイトの魔法は “困っている人の声が聞こえるよ”。ただし、その対象の善意と悪意を問わない。住宅地で奇襲をかけようとしている人間は、

「見つかったら困る」

「経路を第三者に塞がれたら困る」

 と、いうような思考をしているため、近くにスノーホワイトがいると読まれてしまう。

 以前、昨年の “ラ・ピュセル最初の魔法少女選抜試験” 事件の時は、そのスノーホワイト自身が、 “名深の4人組” の中で自身の役割を特化させすぎていて、襲撃者に対し弱点にもなっていたのだが、その事件のときの反省から自身を鍛え直して、今では一部界隈で、

『殴ってくるレーダーサイト』

 と、呼ばれるようになっている。 ──── 閑話休題。

「後ろには充分警戒した方が良さそうですね」

 デリュージが言うと、

「はいっ!」

 と、ミクセリクサーはタクトを持った手を上げる。

「お願い、ハートの10!」

 すでに出現しているエース、キング、クィーン、ジャックに加えて、5体目を()び出した。

「じゃあ……進むか」

「はい」

 プリズムスプリントの言葉に、クェイクが声に出して同意した。

 

 

 管制室前。

 グリムハートは、シャッフリンの群体を取り出した袋から、今度は玉座を取り出して、隔壁のど真ン前に陣取っていた。

「クラブの3と2がやられました」

 そのグリムハートに、シャッフリンジョーカーが報告する。

 グリムハートは、手にしていた鉄扇の要と先端を両手でそれぞれ持ち、鉄扇をへし曲げてしまいそうな勢いで、苛立ちを露わにする。

「落ち着かれよ、王。被害は出ても、こちらの思惑は予定通りに進んでいるはずです」

「そうか……」

 囁くジョーカーに対して、グリムハートは短くそう言って、ため息を吐く。

「彼奴らがノコノコと管制室に侵入したら、管制室の制御を奪い、隔壁を上げてそこから一気呵成に……と」

 ジョーカーがそう説明する。

 グリムハートは視線を移す。その先では、果報は寝て待てとでも言わんばかりに、ウッタカッタがハートのシャッフリン達とシャボン玉遊びをしていた。

 

 

「ここは……」

 ファニートリックの声。ミクセリクサー達が扉を越えると、目の前には黄色い砂の大地が広がっていた。

「砂漠……を再現した場所、ということですか」

「はい」

 クェイクが肯定の返事をした。

 ゆらゆらと陽炎が漂うのを再現しているのか、20mも離れていない筈の反対側の壁や扉が見えない。

「つったって、建物、それも地下の施設の中なんだ。何km(キロ)も離れてるわけじゃあるまいし、とっとと渡っちまおう」

 プリズムスプリントがそう言って、歩き出そうとするが、

「待ってください!」

 と、ミクセリクサーが声を上げた。

「ネド!」

「いるぽん。シャッフリンの反応があるぽん」

 ミクセリクサーが名前を呼ぶと、ネドはそう答えた。

「ちょっと待て……ここ、遮蔽物らしい遮蔽物ないぞ!?」

 プリズムスプリントが驚いたような声を出す。

「砂と陽炎に紛れてるんだぽん」

「ですので!」

 ネドが言うと、それに続いて、ミクセリクサーがタクトを振る。

「お願い、クラブの2、クラブのエース!」

 光の板が出現し、ミクセリクサーが唱えた通り、クラブの2とクラブのエースのトランプ兵になった。

 クラブのトランプ兵は、まるでプールにダイビングするかのように、砂漠に飛び込んだ。

 しばらくして ────

 ザザザザァッ

 7人がいる場所から数m離れたところで、まるで砂の噴水のように盛り上がったかと思うと、シャッフリンのクラブのキングと、ミクセリクサーのトランプ兵2体とが、武器の打ち合いを始めている。

 2対1だが、それでもシャッフリンは棍棒でトランプ兵の槍を跳ね除け続けている。

「っ、しょうがねぇな!」

「あ、プリズムスプリント様!」

 ミクセリクサーが止めるのが早いか、プリズムスプリントは、3体が戦っている場所めがけて飛び出した。

 足に魔法の風を纏い、直接砂に足をつけずに疾走していく。

「!」

 ガキッン!!

 それはどちらかと言うとシャッフリン側の僥倖だったろう。トランプ兵のクラブのエースの槍がうまく弾き飛ばされた。

 一瞬、トランプ兵2体が受け身に回ったところで、

「このやろーっ」

 と、トランプ兵の直後方で足の魔法の風を強め、ホップしたプリズムスプリントが、トランプ兵の頭上を飛び越えつつ、今度はシャッフリンの棍棒を空中で蹴飛ばして弾いた。

 シャッフリンがその勢いで崩れた体勢を立て直したところで、そのシャッフリン・クラブのキングの胴を、トランプ兵・クラブのエースの槍が貫いた。

 トランプ兵が槍を引き戻すと、シャッフリンはその場に仰向けに崩れ落ちた。

 そこへ、ミクセリクサーとファニートリック、ピュア・エレメンツが駆けてくる。

「プリズムスプリント様! 大丈夫ですか!?」

 ミクセリクサーが声をかける。

「ああ、ま、このくらい、軽い軽い」

 プリズムスプリントは、答え、軽く言う。

「ありがとうございます。すみません、わたしの失敗です」

 ミクセリクサーはそう言った。

「もっと数を出して、有利を確保しておくべきでした!」

「ま、でも、なんとかなったんだから、いいじゃん」

 プリズムスプリントは、かえって気恥ずかしそうにしながらそう言う。

「確か、11体か、12体はもう潰してるはずだろ? クラブは」

「はい、そうだったと思います」

 これはファニートリック。

「ネド!」

「…………うーん、まだいるぽん。()()2体」

 ミクセリクサーが声をかけると、ネドはそう答えた。

「気をつけて、進みましょう」

 クェイクが言った。

 7人は、ハートの5体とクラブの2体のトランプ兵に左右をガードされながら、自身達でも構え気味に左右を警戒しつつ、管制室につながる扉の前まで移動した。

 近くに環境操作用のPCが設置されている。インフェルノがそれを操作するが、

「ダメです……この扉の解放は、一度隔壁を下ろしてしまうと、やっぱりこちらのパソコンからはできないようになっているようです」

 と、困った言葉で言う。

「ああ、そりゃまずいな……」

 そう言って、プリズムスプリントが頭を掻く仕種をする。クェイクとデリュージも、腕を組んで険しい表情をしていた。

「この扉の構造は、ブリーフィングルームとトレーニングルームの間のものと同じですか?」

 ファニートリックが訊ねる。

「はい、そのはずですが……」

 インフェルノがそう答えると、ファニートリックは、扉に触って調べた後、ミクセリクサーのところまで戻って、

「ミクセリクサーさん、ちょうど良さげなダンボール箱、とか持ってたりしませんか?」

 と、訊ねる。

「ありますよ! どれくらいの大きさですか!?」

 ミクセリクサーが、早速四次元ポーチlightを探り出し始めながら問い返す。

「先程の炊飯器が入る程度でいいかと」

 ファニートリックが言うと、ミクセリクサーは、

「うーんと、えっと……はい、ありました!」

 と、解体していない状態の、Amaz◯nの箱を取り出した。『名深市中宿1-20-35 細波華乃様方 岸辺颯太様』『内容物:DVD』と書かれた送り状シールが貼られている。

「では、これをお借りしてと」

 ファニートリックはそれを、床に置く。さらに、自分の腰飾りの中から、風呂敷と呼んでいいサイズの布を取り出した。

「あの、何を……」

 デリュージが怪訝そうに問いかける。

「さて、何が起きますかはお立ち会い」

 ファニートリックは、口元でニコッと笑うと、箱を完全に覆うように布を被せた。

 周囲は7体のトランプ兵が立ち、シャッフリンを警戒している。

 

「──── ネド、ここまでのデータを先生達に転送しておいて」

「了解、ぽん」

 

「ワン・ツー・スリーッ!」

 ファニートリックは、()()()()()()()()共に、自らの魔法、 “隠したものと別のものを入れ替えるよ” を発動させた。

 ファニートリックが、箱に被せた布を取り去ると、そこには、箱と同じくらいの大きさと形状の金属塊があった────

「こ、これ、扉の材質なんじゃ……って!?」

 インフェルノが慌てふためいた声を出し、ピュア・エレメンツは驚愕の表情で視線を扉に移す。

 そこには、ロック部分が先程のAmaz◯nの箱に置き換わった扉があった。

「よーし、それじゃあ……────」

 

「皆さん、ごめんなさい!!」

 プリズムスプリントの声を、ミクセリクサーが遮った。

 ミクセリクサーは一目散に扉に駆け寄り、段ボール箱を管制室側に弾き飛ばし、ファニートリックがつくった切り欠きに手をかけて、重厚な隔壁扉を住宅の襖のように軽々と開けた。

 そのまま管制室内に侵入する。中は暗かったが、暗視能力のある魔法少女にはどうということはなかった。ミクセリクサーは、一瞬だけ中を見回してから、2台のメインサーバが置いてある直ぐ傍のパソコンに向かい、取り付いた。

「ネド!」

「始めるぽん!」

 パソコンのディスプレイにメインシステムのログイン画面を表示させる。ミクセリクサーはキーボードを触っていなかったが、25桁のパスナンバーが打ち込まれ、ログイン状態になる。そのまま、メインシステムの設定画面が呼び出された。

「な、何をやっているんですか!?」

 デリュージの声。他の6人が、何事があったのかと一気に室内に入ってきている。

「ごめんなさい!!」

 そう言うミクセリクサーの表情は、切羽詰まり、そしてどこか悲しんでいるようにも見えた。

 『データのアーカイブ』メニューが表示される。『ストレージ内にアーカイブファイルを作成する』『外部ストレージにアーカイブする』が表示される。後者が選択される。

 『外部ストレージの承認を行います。再度パスナンバーを入力してください』と表示されるが、再び25桁の数字が打ち込まれる。すると画面の手前に小さなウィンドウが出現し、『外部ストレージにデータをアーカイブしています』という文字と、進捗グラフが表示された。

 

【挿絵表示】

 

「みなさんを助けるためにも! これが必要なんです!」

 ミクセリクサーが声を上げた。

 6人は立ち尽くした。僅かにあって、デリュージがミクセリクサーの方に動き出しかけたところだった。

 バキッ

「ぎゃんっ!」

 衝撃音とともに、テンペストが吹っ飛ばされ、近くの機器に叩きつけられた。

 プリズムスプリント達が振り返ると、そこにクラブのエースと、ダイヤのエースとキング、3体のシャッフリンが立っていた。

 





具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。