魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
「大丈夫か、めいちゃん!?」
プリズムスプリントが声を上げる。
「そんな! 外はミクセリクサーさんのトランプ兵が!」
インフェルノが緊張した声を上げる。
「クラブが2体ともやられてます ──」
「ハートは動きがそこまで素早くないぽん!」
ミクセリクサーが戦慄した声を上げ、それにネドが続いた。
「すり抜けられた ────」
プリズムスプリントも緊迫と憤りの混じった表情で言う、その瞬間、
「キィッ」
クラブのエースのシャッフリンが、先程までミクセリクサーを伺っていた6人を跳び越えようとする。
「この野郎!」
プリズムスプリントが足に魔法の風を纏って跳び上がった。ミクセリクサーに注意が向いていたシャッフリンの足をプリズムスプリントが掴む。
「クェイクさん!」
プリズムスプリントはそう言いながら、シャッフリンを足で振り回して床に叩きつける。クラブのエースのシャッフリンが起き上がろうとしたが、そこへクェイクのハンマーが直撃した。
「通しませんっ!」
ダイヤのシャッフリン2体がすり抜けようとする。ダイヤのキングのシャッフリンに対しては、インフェルノが片手で槍を伸ばして突こうとする。燃える穂先が壁に向かって伸びる。
シャッフリンは、屈んで頭を低くしてそれをやり過ごそうとしたが、戦闘出力のインフェルノの槍の穂先はその周囲にも灼熱を放っている。
シャッフリンのスート型の頭飾りと髪の毛が燃え上がった。その炎が全身に回り、立ったまま正体なくフラフラとしたところへ、インフェルノが槍でとどめを刺す。
「キィッ」
「あっ、しまっ……」
反対側を回り込んだダイヤのエースのシャッフリンに対して、デリュージが声を上げた。デリュージはテンペストを介抱しようとして屈んでしまっていた。
「この!」
そのテンペストが起き上がってブーメランを投擲しかけて、止まる。
「逸れたらミクセちゃんに当たる!」
ミクセリクサーの反応も遅れた。パソコンのディスプレイとシャッフリンの動きとを交互に見ていた。そこへ、ダイヤのエースのシャッフリンが飛びかかる。
「──── ッ」
ミクセリクサーがタクトを振ろうとするが、
バキッ
と、それより早く、ダイヤのエースのシャッフリンは、手に持っていたスパナでミクセリクサーを殴りつけた。
「ぐぅっ!」
ミクセリクサーがメインサーバの方に吹っ飛ばされる。
「ミクセリクサーさん!」
ファニートリックの声。
ダイヤのエースのシャッフリンが、パソコンに取り付き、マウスを手にとる。何かを素早く操作したが、その最中に、
ドゴッ、ズゴッ!
と、頭部にファニートリックのハイキックが、腹にミクセリクサーのパンチが突き刺さる。ダイヤのエースのシャッフリンは首がS字に曲がり、そのまま床に崩れ落ちた。
だが……────
ゴウン……
「あっ!?」
クェイクが驚く声を上げた。
通路につながる出入口の方から、シャッターの上がる駆動音がする。
やがて、バン、バカン、と、扉を向こう側から殴打する音が聞こえてきた。
「これはまずいです! ネド!」
「データの転送はつながったままだぽん!」
ネドは、ミクセリクサーにそう答えると、
「ファニートリック! キミのマジカルフォンに一旦間借りするぽん! パソコンのそばにいるぽん!!」
と、言って、ミクセリクサーの左肩の上から姿を消した。
「は、はい!」
ファニートリックが答えるのを待たず、ミクセリクサーは、通路と管制室を仕切っている4連扉の前に移動し、タクトを手に仁王立ちになった。
バカンッ、バリバリバリッ、グシャッグシャッ!!
扉が破壊され、その向こうから、最前列にハート、その後ろにスペードがズラッと横に並び、シャッフリンが突入してくる。
「お願い! みんな!!」
対するミクセリクサーもトランプ兵を呼び出す。こちらも最前列にハート、後列にスペードを横一列に並べる。ナンバーはどちらもエース、キング、クィーン、ジャック、10。槍を構え、横隊を保ったままシャッフリンの横隊めがけて突撃する。
バキッ!
ザシュッ!!
接触と同時に、トランプ兵はシャッフリンめがけて槍で刺突する。
対するハートのシャッフリンは、トランプ兵に攻撃してこない。武器を持っている様子もなかった。
ハートのトランプ兵の槍を受け、ハートのシャッフリンは血を流し、身体を貫かれ、裂かれ、それでも絶命に至らず、ただ立たされている。
そのハートのシャッフリンの隙間から、スペードのシャッフリンがトランプ兵に槍で攻撃してくる。その刺突はトランプ兵のカードの身体を貫くが、いくら貫かれ、破れても、シャッフリンの列に立ちはだかり、シャッフリンに対して槍を振るう。
トランプ兵の方も、ハートがどっしりと立ってガードしている隙間から、シャッフリンに向かって刺突する。
「! ハートのみんな! 相手のスペードを攻撃して!」
ミクセリクサーが指示する。それまでミクセリクサーのトランプ兵は目前の敵を攻撃していたが、ハートのシャッフリンが血を流そうが死のうが肉壁になってしまって、スペードのシャッフリンの数を減らせずにいた。
破れ目だらけのハートのトランプ兵が槍を持ち直す。槍を掲げるようにすると、ハートのシャッフリンの頭越しに、スペードのシャッフリン目掛けて重い一撃を打ち下ろす。
「ハートの役割が違うみたいね……」
その様子を見て、クェイクが息を呑みながら言う。
破れ目、裂け目だらけになってなお、ハートのトランプ兵は止まらない。
しばらくの間拮抗したかに見えたトランプ兵とシャッフリンだが、ハートのシャッフリンが絶命して壁役を果たせなくなってくると、徐々にトランプ兵が管制室の外へ向かって押し返し始める。
「おい、お前ら見てろよ……」
呆然としてしまっていたデリュージとインフェルノに、やはり自分も半ば呆然とした様子のプリズムスプリントが、言う。
「人造魔法少女ってのは、こういう戦いに使われるってことだろ……」
プリズムスプリントの言葉に対しては2人とも何も言えずにいたが、インフェルノがハッとして、戦闘の前線に向かって飛び出した。
「あ、おい!」
プリズムスプリントが声を上げる。
「ハートのみんな、もっとお願い!」
ミクセリクサーが、ハートの9、8、7のトランプ兵を
シャッフリンが出入口まで押し返されたところで、そのシャッフリンの隙間から、無数のシャボン玉が吹き込んできた。トランプ兵がシャボン玉に包まれかかる。
「させませんっ!」
シャボン玉が吹き込んでくるシャッフリンの頭上に向かって、インフェルノは槍の炎を伸ばした。
ウッタカッタのシャボン玉だろうが、耐熱性、不燃性は考慮していなかったのだろう、シャボン玉はインフェルノの炎で焼き払われる。
ザザザザッザッザッ!!
戦線の真ん中で戦っていたハートのエースが、素早く繰り返される刺突を受けてボロボロにされた。手足、首をもがれ、ついに力尽きて光の粒子に分解していく。
「!」
ドガァッ!!
そこを突破口にし、シャッフリンの死骸もトランプ兵も蹴飛ばして、1体のシャッフリンが入ってきた。スートとナンバーは……スペードのエース。
群体を強みに ── ミクセリクサーに通用しているかどうかはともかくとして ── しているシャッフリンの中にあって、漂う雰囲気が違った。歴戦の戦士のそれを感じさせた。
ミクセリクサーは、それはラ・ピュセルよりもリップルのイメージだと感じた。だがそれよりもさらに戦闘員として研ぎ澄まされている。
スペードのエースのシャッフリンは、あっという間にハートのキングとクィーンのトランプ兵を切り裂いて光の粒子に帰し、ついでスペードのトランプ兵は鎧袖一触とばかりに次々と貫き、引き裂いた。
だが ────
「お願い ────」
スペードのエースがシャッフリンの中で別格のカードなら、ミクセリクサーも切り札を切る。
「──
現れた光の板が、ミクセリクサーデッキ最強の札の姿になる。
こちらもまた、スートとナンバー以外は他のトランプ兵と寸分
トランプ兵を蹂躙しようとしていたスペードのエースのシャッフリンに、ハートの2のトランプ兵が槍を振りかぶる。
ドスッ、ドスッ!
「あ、あぁ!」
誰かわからない嘆きの声が聞こえた。少なくともミクセリクサーのものではなかった。
ハートの2のトランプ兵が一撃を放つ寸前、スペードのエースのシャッフリンが3度、4度と、ハートの2のトランプ兵を貫いた。
だが ────
何度目かの刺突を受けた時、ハートの2のトランプ兵は、スペードのエースのシャッフリンの槍をその左手で捕まえた。
ブンッ! ドガッ!!
ハートの2のトランプ兵は、相手の槍ごと振り回す。そのままスペードのエースのシャッフリンは壁に叩きつけられた。
ガッ!
ハートの2のトランプ兵は、自身の槍でスペードのエースのシャッフリンに容赦なく強烈な追撃を加えようとした。スペードのエースのシャッフリンはそれを既のところで躱す。
バキィッ!!
スペードのエースのシャッフリンは、斃れている別のスペードのシャッフリンから槍を拾って立ち向かおうとしたが、ハートの2のトランプ兵は身をぐるっと回して、自分の槍でその槍を弾き飛ばした。
── このようなことが、あっていいものか……!!
グリムハートは怒り狂っていた。
シャッフリンの中でも、スペードのエースは、王に与えられる最強の切り札だ。 ──── そのはずだった。そのスペードのエースが、ミクセリクサーのトランプ兵の前に、無様に転げ回っている。槍を奪われ、ろくに反撃もできないでいる。しかも相手はよりにもよってハートの2だ。シャッフリンでは、ハートの2は最弱の存在だった。
ミクセリクサーを建造する時、誰かが洒落たことを思いついたのだろう。カードの強さに、ゲームの “大富豪” のものを適用した。
シャッフリンのスート別の優秀度は “
さらに光の板が出現するのが、グリムハートのところからも見えた。ミクセリクサーが追加のトランプ兵を喚び出したのだ。
まだ息のあった、エース以外のスペードのシャッフリン、支援の為に侵入しようとしていたダイヤのシャッフリンが、ミクセリクサーのトランプ兵に追われ、管制室から叩き出されようとしている。
カフリアは複雑そうな表情で戦場を見ていた。
隔壁を開放することに成功するまで、自分やウッタカッタはハートのシャッフリンと遊んでいた。無表情が基本のシャッフリンの中で、ハートはいくらか感情を感じさせてきた。おちょくり混じりだったのは確かだが、短いながらも楽しい時間を過ごしたつもりでいた。
そのハートのシャッフリンが、無残に斃れ、屍になって管制室の床に転がっている。
「いやはや、これはどうしたものでございましょうかねぇ」
ウッタカッタは、この光景を見ても飄々とした様子で苦笑している。もっとも、本心までは解らない。
しかし、カフリアは、同時に純粋で重大な疑問にぶつかってもいた。
今、斃れているハートのシャッフリンの中には、自分達と接触している個体もいた。だが、カフリアの魔法の “死のマーク” は見えなかった。これはどういうことなのか……
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン!!
ハートの2のトランプ兵が槍を突く。スペードのエースのシャッフリンは、武器もなく転げ回るしかできなかった。彼女にマトモな情緒があったら、理不尽だと叫んでいたかも知れない。
ただ、相手の素早さは自分に劣る。その攻撃は躱し続けることができた。だが、そのうえでどうする? スペードのエースのシャッフリンには逃げ帰る後方は用意されていなかった。
「たぁっ!!」
何度目かのハートの2のトランプ兵の攻撃を躱したときだった、その着地した目前にミクセリクサー本人がいた。拳がスペードのエースのシャッフリン目掛けて放たれる。
ミクセリクサーのパンチには驚きつつも、身を捩って躱した。
それが、命取りだった。
ドスッ、バキン!!
ハートの2のトランプ兵の槍が、スペードのエースのシャッフリンの顔に突き立った。その顔面は破壊され、後頭部まで貫き、頭蓋骨の一部を粉砕した。
だらりと手脚を下げたスペードのエースのシャッフリンを、ハートの2のトランプ兵は槍から払い、落とした。
出入口は、管制室の室内側からトランプ兵が取り囲んでいる。残りのシャッフリンもいつでも殲滅できる、そんな状態だ。 ──── そう見えた。
「しかし……どちらが悪役かわからんな、これは……」
プリズムスプリントが、笑顔にも見える引き
ピュア・エレメンツにしても似たような気持ちだった。後味の悪さがある。だが、敵が無力化された、その安堵があるのも確かだった。
「クビヲハネヨ」
「ひ、ひっ!?」
短い悲鳴が聞こえてきた。
カフリアが尻をついてへたり込んでしまっていた。
グリムハートの号令とともに、シャッフリンジョーカーがこともなげに、ウッタカッタの首を、手に持った巨大な鎌で切り落としていた。
「な、何を……────」
ミクセリクサーが、その行動に理解ができず、転がるウッタカッタの首と身体を凝視してしまった。
「な、な!?」
ほとんど倒した筈のスペードとハートのシャッフリンが、再び群れを成して、管制室内に押し寄せてくる────────
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