魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3―   作:神谷萌

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第15話

「もう一度! みんな、お願い!」

 ミクセリクサーは、自分のハートとスペードのトランプ兵を()び出した。

 それぞれのハートとスペード同士が、再び小競り合いを始めた、ときだった。

 ヒュッ、ヒュッ!!

「わっ!?」

 管制室に押し込んできたスペードとハートのシャッフリンの背後から、それを飛び越えて、クラブのシャッフリンが侵入してくる。棍棒を振りかぶり、ピュア・エレメンツやプリズムスプリント、ファニートリックに襲いかかろうとする。

「流石に甘く見過ぎです!!」

 インフェルノが、2体のクラブのシャッフリンを焼き払った。それを踏み台にして、更に深くに侵入しようとしたクラブの6のシャッフリンは、デリュージの三叉槍(トライデント)に貫かれた。

「ファニートリック!」

 ネドが声を上げた。

「はっ!?」

 ファニートリックが振り返ると、クラブのシャッフリンが自分に襲いかかろうとしてきていた。

「ファニートリック様!!」

 ドガァッ!!

 その声とともに、ミクセリクサーが何かをハンマーのように扱って、ファニートリックに襲いかかろうとしていたシャッフリンに叩きつけた。それは、ミクセリクサー自身に襲いかかってきたところを、カウンターを打ち込んで気絶させた別のクラブのシャッフリンだった。

「ミクセリクサー! データのコピー完了したぽん!」

「はい! 撤退しましょう!」

 ネドの言葉に、ミクセリクサーは言い、ファニートリックと頷きあう。

「みなさ ────」

 ミクセリクサーが声を発しようとした時。

「た、助け……助けて……!!」

 そう、途切れつつも張り上げられた声が聞こえてきた。

 シャッフリン達をかき分けて、そこから抜け出そうとする、ヴェールを顔にかけた魔法少女が、ミクセリクサー達に向かって、必死に手を伸ばしている。

 すでに、下半身の自由を奪われているようだった。

「ど、どうしましょう!?」

 当惑して動きが止まるファニートリックの傍らで、ミクセリクサーは四次元ポーチlightの中を探り、

「先生からの大切なお下がり、こんなところで使いたくありませんでしたが……」

 と、言いながら、少し褪色した青色のベッドシーツを取り出した。

「ファニートリック様、これを!」

「えっ!?」

 ミクセリクサーが何を言っているのか、一瞬理解できなかったファニートリックだが、ミクセリクサーがそれを、自分の手元でノビているクラブのシャッフリンに被せたことで、理解した。

「ふぁっ!?」

 シーツをかき分けて、中から黒いヴェールの魔法少女 ──── カフリアが出てきた。

「逃げます! 急いでください!」

 ミクセリクサーはそう言いながら、トランプ兵のハートの6と5、クラブのクィーンとジャックを、改めて喚び出した。

 以前も説明した通り、ミクセリクサーは、トランプ兵が失われてもほぼノータイムで再召喚できる。ただし、数分単位のサイクルで再召喚を繰り返すことまでは想定していない。

「皆さん、急いで!」

 飛びかかってくるクラブのシャッフリンを、自ら殴り、跳ね除けながら、ミクセリクサーはファニートリック、カフリアと共に、トレーニングルーム側の出入口から隣へ移ろうとする。

 この時、インフェルノは少し、通路側の出入口に近い場所にいた。(かのじょ)が踵を返しかけた時、

「うわっ!?」

 と、前につんのめるように転びかけた。

 身を起こして、とられた足を反射的に振り返る。

「なっ!?」

 細いロープが自分の左足首に巻き付いていた。先程カフリアを捉えようとしていた魔法の紐だった。

「この!」

 槍の炎の穂先で細いロープを断ち切る。流石に、プリンセス・インフェルノの灼熱に耐えられるものではなかった。

 逃すまいと飛びかかってきたスペードのシャッフリン2体を、インフェルノは伸ばした炎の穂先で薙ぎ払う。低ナンバーのスペードだった。ミクセリクサーとの戦闘のために高ナンバーのスペードは出し惜しみせざるを得なかった。クラブはすでに損耗がひどい。

「インフェルノ、大丈夫!?」

 テンペストが、インフェルノを気遣って声をかけた。そのために、一瞬動きが止まった。

「大丈夫です!」

「早く脱出しろ!」

 トレーニングルーム側の出入口に立っていたプリズムスプリントが、叫ぶ。

 インフェルノは出入口のところまで、跳躍した。

「っ!?」

 インフェルノを追って脱出しようとしたテンペストが、クラブのシャッフリンが手にしていた魔法のロープで身体を絡め取られた。足だけだったインフェルノと異なり、腕も封じられて、武器を振るうことができない。

「テンペスト!」

 トレーニングルーム側の出入口に立った、インフェルノが声を上げる。

 すでにファニートリックとプリズムスプリント、デリュージは脱出している。扉口に立っているのはミクセリクサーとインフェルノだ。

「インフェルノ、先に行って!」

 クェイクが叫ぶ。

「えっ、ですが!?」

「ここは私がなんとかする!」

 ミクセリクサーとともに驚いた顔をし、訊き返すインフェルノに、クェイクはそう言う。そして、2人をトレーニングルームに向かって突き飛ばした。

「あのっ、クェイク様っ ────」

 ミクセリクサーの声を振り切り、クェイクはロック部分が切り欠けた隔壁扉を閉じた。

「この!」

 返す勢いで、クェイクはハンマーを振り上げ、そのまま強烈に床に叩きつけた。

 テンペストをどこかへ運ぼうとしていたクラブのシャッフリン、自分を取り囲もうとしていたスペードのシャッフリンが、足元をもつれさせて床に転がる。

「テンペストを返せ ────」

 クェイクがそう言って構えた時、

「!」

 光の板が6枚、シャッフリンからクェイクを遮るように出現した。ハートの4と3、スペードの10、9、5、4の、トランプ兵になった。

 ここの管制室のシステムは敵に落ちる。脱出行の護衛は必要なはずだが、ミクセリクサーはそれでも出せる分だけの戦力をクェイクにつけた。

 クェイクは、唇の端を吊り上げる。状況は絶望的なのに、一騎当千の味方を得た思いだ。

 片手を一度ハンマーから離し、ティアラに嵌ったプリンセス・ジュエルに人差し指と中指をあてる。

「ラグジュアリーモード・オン」

 ピュア・エレメンツの魔法少女がもつ短時間高能力モードだ。魔力の消耗が跳ね上がるため、使用には制限がつくが、身体能力が跳ね上がる。

 気分が高揚する。神経の分解能が上がり、低ナンバーのシャッフリンの動きが鈍くさく見えるようになる。

 クェイクがトランプ兵とともに戦闘に入る直前、別の場所でもプリンセス・ジュエルの輝きが閃いた。テンペストもラグジュアリー・モードに入った。つまり、テンペストもまだ抵抗している。

 クェイクがハンマーを持ち上げ直す。合図だとばかりに、トランプ兵も槍を構え直した。

 

 その扉の、トレーニングルーム側。

「シーツ! もう1枚シーツないんですか!?」

「えっと、えっと!!」

 ファニートリックの要求に、ミクセリクサーが四次元ポーチlightを漁る。ポーチの中だけで整理がつかず、片っ端から外に出す。アルマイトやかん、室田つばめの実家で使い古した黄アルミ鍋、シチズンのフリップ日付表示付目覚まし時計、汎用風防つけっぱなしのスノーピークのギガパワーストーブ、キャンピングガスのバーチカルスタンド型OD缶機器用CB缶変換アダプタ、初代キューティーヒーラーのキューティーオニキスのぬいぐるみ、ただのけん玉、ただのヨーヨー、ただのビー玉が詰まった布袋、鈴入りお手玉、大きなビニールボール、つばめの同級が親子でやっている車検屋の名前が入った白タオル、家庭用流しそうめん機、ヤマダ電機オリジナルのアルミ土鍋、ラ・ピュセルに譲ってもらったAM/FMポケットラジオ、ラズリーヌIIに頼まれていた交換用シャワーヘッド、────────

 それを見ていた、プリズムスプリントが片手で目元を覆った。

 ガンッ、ガシッ

「!」

 扉の切り欠きに誰かが手をかけた。クェイクやテンペストの手ではなかった。赤いグローブをしている。ダイヤかハートのシャッフリンだ。

「このっ!」

 

【挿絵表示】

 

 切り欠きの穴の向こうにいるシャッフリンを、プリズムスプリントが魔法の風を纏わせた足で蹴飛ばした。その直後、

 ベチャッ、ズンッ!

 と、何かを潰しつつ、床に重々しい音を叩きつけた衝撃が響いてきた。まだクェイクが戦っている。

「クェイクが ────」

 デリュージが言いかけた、その時。

 シャァッ

「!?」

 トレーニングルームの砂漠側から、クラブのシャッフリンが2体、現れた。

「こんの野郎!」

 クラブのシャッフリンが棍棒を振り上げたところで、プリズムスプリントの足に魔法の風を纏わせたキックとデリュージの三叉槍(トライデント)の刺突が、ほぼ同時に2体のシャッフリンに突き刺さった。

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

「ネド、メインシステムに入れる!?」

 ミクセリクサーが訊ねると、ネドはその左肩に出現するが、

「ついさっき制御できなくなったぽん」

 と、言った。

「パスナンバーが変更されたみたいだぽん。ギリギリでログアウトするのが間に合わなかったぽん」

「ってことは……」

 そう言いながら、プリズムスプリントがデリュージとインフェルノを見る。

「部屋のロックや隔壁の制御も乗っ取られた……」

 インフェルノが、乾いた声で言った。

「さ、砂漠のステージで、シャッフリンのクラブに囲まれたら……」

「それはいけません!」

 ファニートリックが顔色悪くそう言うと、インフェルノが緊張した声を上げた。

「いったん、隣のトレーニングルームに移動しましょう!」

「だけど、クェイクが、テンペストがまだ!」

「でも、このままだと私達も共倒れです!」

 デリュージの言葉に返したのは、ファニートリックだった。

「ミクセリクサー!」

「お願い、クラブのみんな!」

 デリュージの手を引っ張って阻止しているプリズムスプリントの合図を受けて、ミクセリクサーが、クラブのキング、クィーン、ジャック、10、9、8のトランプ兵を喚び出した。来たときと同じように、移動目標に向かって、砂漠に飛び込んでいく。

「とにかく一旦仕切り直すにしても、砂漠で取り囲まれるわけにはいかないだろ!」

 プリズムスプリントは、デリュージを抱きかかえつつ、魔法の風を纏った足で、砂漠を駆け抜け始めた。

「私達も!」

 ファニートリックが言った。

「あ、あの……私は」

 カフリアが、この場に来て初めて、か細く声を出す。すると、

「悪いと思っているんなら、一緒に来てください!!」

 そう言って、インフェルノがカフリアの腕を掴む。

 最後にミクセリクサーが後ろ髪を引かれるように一旦後ろを振り返ってから、その場を一旦立ち去った。

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

「今から、どこか行くのか?」

 後ろから声をかけられ、室田つばめは、自宅マンションの玄関口で立ち上がりつつ、まずは振り返らずに、

(わり)ぃ、ちっとほっとけねぇんだわ」

 と、言った。

 それを聞いて、彼女の配偶者、昇一は、一瞬だけ面食らったような表情になった。

 つばめは普段、家庭の中では “いかにも可愛らしい若奥様” といった言葉遣いをしている。そちらも演じている、とまではいかない。レディース(婦人珍走団)時代のケバケバヤンキーメイクを落とせば、タレ目のかわいい系の顔つきだというのは、つばめ自身も自覚している。女性(にょしょう)とは化けるものだ。

 昇一の方も、このつばめの口の聞き方を知らないわけではない。むしろ、生活態度と合わせて何度も矯正を試みた側だ。

 昇一はしかし、すぐに真摯な表情に戻る。

「いよいよ、離婚でもしょうがねぇか?」

 半ば冗談、つまり半分はあり得る、そんな苦笑で、つばめはそう言った。

 すると、昇一は盛大に溜息を吐く。

「馬鹿なこと言うな」

 昇一は、そう言って呆れ返った表情で、つばめと視線をあわせる。

「戻ってこい。母親が子どもを置いて失踪するなんて許さないぞ」

「わかった。行って、戻ってくる」

 そう言って、つばめは、手をひらひらと振りながら昇一に見送られて自宅を出た。

 

 

 数十分後。名深市内。

 ファミリーマート名深大室川店。以前、名深市に来たばかりのメルヴィルが、久慈真白の姿で、ラピス・ラズリーヌII(2)nd()と鉢合わせた場所だ。

 その駐車場に、メタリックブラックのCP22S型 スズキ セルボ・モード(セルボとして4代目)と、赤のJC74W型 スズキ ジムニーノマドが()まっている。

 セルボの方は、ミッションオイル漏れで不動になった5ドアXを、事故廃車のSRターボを部品供出車(ドナー)として再生し、その際にF6Aターボエンジンは過給器を機械式スーパーチャージャーに換装した、というキメラだ。ボンネットフードもターボグレードのインテーク付きになっている。

 その2台の周りに、室田つばめ、細波華乃、姫河小雪、(かざ)(たに)ミキがいた。

 華乃は、ペットボトルのドクターペッパーを煽っている。

 そこへ、

 ヴィヴィヴィーン……パラッパッパッパッパッ……

 と、特に煩いというわけではないが、あまりに特徴的な軽く高い破裂するような爆音のクルマが入ってきた。純正色ではない、ディープブルー・メタリックにオールペイントされた、SJ30V型 スズキ ジムニー。

 頭入れで、ジムニーノマドの隣の区画にそのまま駐車するが、

 ガチャッ

「あれーっ」

 と、運転席ドアを開けて降りながら、米田瑠璃は少し間の抜けた声をだした。

「私達が最後っすか」

「まぁ、距離的には一番遠いからな。オレはミキちゃん拾うのに少し早く出たし」

 意外そうに言う瑠璃の言葉に、つばめは、リフレッシングブリーズこと風谷ミキを示しつつそう返した。

 そのSJ30Vの助手席から、魔法少女の時と同じ顔と身体の、岸辺颯太が降りた。

「現状どうなってる?」

 つばめが、颯太に向かって問いかける。

 すると、

『ラズリーヌIIと合流する直前に、ネドとのリンクが切れたぽん。ミクセリクサーとファニートリックの、スマートフォン、マジカルフォンも圏外になったぽん』

 ラ・ピュセルのマスコット、ネドが声だけでそう答え、

「朱里ちゃんのスマホも圏外になったよ」

 と、小雪が付け加えた。

「良い状況、とは思えない兆候だな……」

 颯太が呟く。

「しゃあないな。ひとまず現地に入っちまった方がいいだろ」

 つばめが言った。ジムニーノマドのバンパーに下ろしていた腰を上げる。

「華乃、先頭頼むわ。オレが最後尾走る」

「わかった」

 つばめの言葉に、華乃が了解の返事をする。

「小雪、悪いけど留守番頼むね」

「うん、任せて!」

 颯太の言葉に、小雪は自信有りげに反らした胸を叩きながら言う。

「1人だけじゃ手に余ると思ったら、無理になんとかしようとせずに、希さんでもレディ・プロウドさんでもさっさと連絡するんだよ?」

「わ……解ってるって!」

 小雪は最初から見送りのために来ていた。小雪の女性向けの実用型自転車が置いてあった。

「よっしゃ、でっぱーつ!」

 つばめが言い、オーナードライバー組はそれぞれの愛車の運転席に向かう。

 颯太は、今度は華乃のセルボの助手席に乗り込む。代わりに瑠璃のSJ30ジムニーの助手席には、ミキが乗り込んだ。

 セルボが最初に動き出し、駐車場に面した国道を左折で出る。

 ちょっとクルマに詳しい人間には、スズキ4輪珍車集団にしか見えない車列をつくって、高速道路の桃梅(とうばい)・名深インターチェンジに向かった。

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 





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