魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
「っ、つ、う……」
管制室の中、クェイクとテンペストはトレーニングルーム側の出入口のある隅に追い詰められていた。ただし、出入口はハートのシャッフリン複数とスペードのクィーンのシャッフリンが固めていた。
未だ2人の周囲に、シャッフリンの復活直後にミクセリクサーが喚び出したうちのハートのエースとキング、クェイクのために
「テンペスト……」
クェイクが小さく声をかける。テンペストはクェイクの衣装を握り、今にも泣き出しそうな、いや、すでに半分泣いている。
「うっ……うっ、うっ……」
「テンペスト、最後に一撃、かませる?」
テンペストに、クェイクは、母親が言い聞かせるかのような口調で問いかけた。
「…………やる」
テンペストは、か細い声でそう答えた。
2人は立ち上がった。
周囲は、スペードを中心に無数のシャッフリンが取り巻いている。
テンペストは泣き顔をクシャクシャにしつつも、ブーメランを振り上げ、構える。
ジョーカーシャッフリンが、シャッフリンの包囲列の後ろに立つ。ニタり。他のシャッフリンがしない、不気味な笑みを浮かべた。一拍置いて、振り上げた左手を、クェイク達に向かって振り下ろした。
包囲していたシャッフリン達が、槍を構えて一気に突撃を開始する。
「ハートさん達、私達のすぐ傍まで
クェイクが叫ぶ。
トランプ兵がその言葉に従った。彼らはあくまでミクセリクサーの命令に従う存在で、完全に自律して考えることはできないが、最低限の状況判断はできた。
トランプ兵の圧力がないと見るや、シャッフリンの包囲線は更に狭まってくる。
── そうだ、近付いてこい!
クェイクは、逆に唇の端を吊り上げていた。私は子どもだったことがなかった大人だ。プリンセス・クェイクになって、初めて “ヒロイン” になれた気がした。だから、最後もヒロイックに決めよう。
「今!」
必殺技名について、口上を上げるかどうかについては未だ結論が出ていなかった。特にデリュージとテンペストが対立していた。クェイクとインフェルノはどちらでもいいという態度だった。デリュージはわざわざなにをするのか敵に教えなくていい、と主張していた。
でも、ここにいるのはテンペストだ。これが最初で最後になるかも知れない。だからテンペストの主張に従おう。
クェイクとテンペスト、2人の動きと言葉が重なる。
「アルティメット・プリンセス・エクスプロージョン!!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……」
デリュージとインフェルノ、ミクセリクサーとファニートリック、プリズムスプリント、そしてカフリアの一行は、砂漠のトレーニングルームの反対側の扉の前に行き着いていた。
「どうした? お前ら」
インフェルノとミクセリクサーは息を上げていた。プリズムスプリントはそれを怪訝に思った。確かにこのトレーニングルームは砂漠らしく乾いた熱波が再現されていたが、いくらなんでも管制室側の扉からここまでは何百mもあるわけでもない。
「いえ、その、そろそろ……私達……」
まず、デリュージが言った。砂漠のトレーニングルームをプリズムスプリントに抱えられて渡ったはずのデリュージまで、インフェルノと同じように息を上げている。
「その、魔力が、危なくて……」
「……ッ!」
プリズムスプリントとファニートリックが表情を険しくした。
ピュア・エレメンツはそもそも、変身を維持するのにも、外部から魔力を取り入れなければならないのだ。
「お、おい、あの薬は、持ってないのか……?」
プリズムスプリントが、デリュージとインフェルノに問いかける。
「すみません、今は……」
インフェルノが、申し訳無さそうに答える。
「あるとすれば……ブリーフィングルームですが……」
プリズムスプリントは、考え込むように口元に手を当てる。
「あそこか……あいつらが全部奪っていなければ、残ってるかもしれんが……」
回収なり処分なりされてしまっている可能性の方が高いだろう。
「他にあるとしたら、どこだ?」
プリズムスプリントが、インフェルノに訊く。
「後は下層の倉庫ですが……」
「それはどこだ?」
「管制室の前を通らないと……」
その答えに、プリズムスプリントは片手で顔を覆った。
「なんとか見つけるとしたら、ブリーフィングルームしかないようですね……」
ファニートリックが言う。だが、そこも完全に敵がいないと言えるわけではない。
プリズムスプリントは、足を投げ出すようにして座り込んでしまっているミクセリクサーを見た。
「お前も魔力切れか?」
「は、はい」
ミクセリクサーは、荒い息をしながら答えるが、続けて、
「ですが、私の場合は大丈夫です。時間をかければ回復しますので」
と、言った。
「そうか……」
プリズムスプリントは、そう言うものの、表情は晴れない。
プリズムスプリントとファニートリックが、扉に視線を移す。
隣のトレーニングルームに移る扉は、先程とは異なり、分厚い隔壁扉が通常の扉を覆い隠してしまっている。
「とりあえず、隣に移動しよう。砂漠は
プリズムスプリントはそう言って、視線をファニートリックに向ける。
「ファニートリック、またあれ、できるか?」
「はい!」
ファニートリックは返事をすると、今度は彼女がミクセリクサーに視線を向け直す。
ファニートリックが言う前に気がついたのか、四次元ポーチlightからAmaz◯nの空きダンボール箱を取り出して、ファニートリックに渡す。
ファニートリックは、自分の腰飾りから取り出した布を、その箱にかぶせる。先程、管制室に進入したときのように、段ボール箱と隔壁扉のロック部分を入れ替えた。
扉を開け、隣の、名深市沿岸地区を模したトレーニングルームに移る。
プリズムスプリントが扉を閉めるが、当然再度ロックはできない。プリズムスプリントはその扉のど真ん中を背にして、どっかとあぐらをかいて座った。
ミクセリクサーは、ぽてん、と、壁際に、足を投げ出すようにして腰掛けた。はぁはぁと息をしているが、熱に浮かされたような表情に変わってきている。
「こういう時は……────」
ミクセリクサーはそう言って、四次元ポーチlightを探り始める。
「── これです」
そう言って取り出したのは、500mlペットボトルのドクターペッパーだった。スクリューキャップを開けて、口をつけて一気に煽る。
プリズムスプリントは脱力したようなリアクションをとり、ファニートリックはなぜか気まずそうに苦笑した。
一方、強い疲労感で息を継いでいる、といった様子のデリュージとインフェルノだったが、やがてデリュージが、
「なんで ────」
「えっ?」
と、出した声に、インフェルノが反射的に聞き返した。
「なんで、こんなやつ連れてきたの……クェイクやテンペストを置いて…………!」
声に力が入りきっていない様子だが、デリュージはカフリアを睨みつける。
「落ち着いてください、デリュージ……!」
インフェルノが、デリュージの背後から肩に手をかけて制する。言葉にはやはり力が入りきっていない。
「あの場で、この方が助け出されたことと、クェイク、テンペストが虜になったことは、直接関係ありません」
「でも…………!」
デリュージは言葉を詰まらせるものの、表情は未だ忌々しそうにしている。
「クェイクとテンペストのことを言っているのなら、私を責めてください。こちらの
「…………ッ」
インフェルノの言葉に、デリュージは言葉を失い、下唇を噛み締めた。
「すみません、お騒がせしました」
インフェルノが、ファニートリックとプリズムスプリントの方を向いてそう言い、軽くお辞儀をした。
ファニートリックの傍らに、カフリアがいる。
「失礼を重ねますが、よろしければお名前を」
インフェルノがカフリアに訊ねる。
「…………」
カフリアは、僅かに考えるようにした後、
「私はカフリアよ。魔法少女カフリア」
と、告げた。
「カフリアさん、ですか。よろしく、というような空気ではなくてすみません」
インフェルノは僅かに苦笑してそう言った。
「話、聞かせてもらっていいよな?」
プリズムスプリントが、カフリアに話を
「ええ、もっとも、答えられることは少ないと思うけれど」
「それは、隠さなければならないということですか?」
カフリアの答えに対し、ファニートリックから更に訊ねる。
「いいえ、そう言うわけではないわ。そもそも私は普段、フリーランスで、魔法の国やらそれ以外やらの仕事を引き受けているものですから。グリムハートやシャッフリンも、魔法の国の
カフリアの説明を聞いて、ファニートリックが、
「その、
と、重ねて聞いた。
「さあ。詳しい話はまだ聞き出す前だったわ」
カフリアのその言葉を聞いて、ファニートリックとプリズムスプリントが顔を見合わせた。デリュージと異なってカフリアを悪し様には見ていないものの、あからさまに期待はずれだった、という表情をしてしまう。
「ただ……────」
自身はヴェールで表情の窺えないカフリアだが、ファニートリック達の表情を見て、言う。
「あのシャッフリンが何をしたか、は、少しだけヒントを出せると思う」
「えっ?」
さっきの反動で、ファニートリックとプリズムスプリントは、今度は一転して期待した眼を向けてしまう。
「本当に些細なヒント、よ?」
「かまいません!」
カフリアの念押しに、ファニートリックが即答する。
カフリアは小さく息を
「…………基本的にシャッフリンは言語で話すことはない、これは気づいてた?」
「あれ? そうだったか?」
「はい、そうでした」
プリズムスプリントは咄嗟に思い出せない、といった様子だったが、ファニートリックはカフリアの言葉を肯定した。
「ただ、唯一、ジョーカーだけは会話できていたわ」
「ジョーカー……」
「しかも、グリムハートとは、まるで参謀のように会話していたの、グリムハートも私達が何をいっても『クビヲハネヨ』としか言わなかったのに、シャッフリンのジョーカーとは流暢に会話していたのよね」
「そう……ですか」
説明を聞いて、ファニートリックは再度落胆しかけたが、カフリアは構わず続ける。
「それで、此処から先はまだ推測が大部分なんだけど……────」
そこで、カフリアの表情が、口元だけでも解るほど怪訝そうなものになった。
「あの子たち、死の印が出ていなかったのよ」
「死の印?」
ファニートリックが聞き返した。
「ええ、私の魔法は、視界の中、あるいはその少し周辺で、一番早く死ぬ者が解るというものなの。その対象になっている相手の頭の上に、死の印が見えるのよ」
「そいつぁ、また……」
プリズムスプリントが微妙に顔を歪ませた。
デリュージは相変わらず憤りを隠しきれていない。インフェルノは誤魔化すように笑っていた。
「それが、シャッフリンには見えなかった、と?」
「ええ」
ファニートリックが問うと、カフリアはまず肯定の返事をする。
「でもそれは、たまたま一番先に死ぬシャッフリンの個体を見なかっただけ……では?」
ファニートリックが重ねて問う。
「いいえ。私の魔法はそのあたりが必ずしも厳密ではないのね。ちょっとした介入で運命が変わってしまったりする。それに、時間の分解も粗くて、最短でも1秒以内に死亡する複数の相手は、同時に死の印が見えてしまう」
「それでも、シャッフリンのどの個体にも死の印が見えなかった……ということですか」
「ええ」
ファニートリックが確認するように言うと、カフリアは頷いて肯定する。
「それどころか、ずっと死の印はウッタカッタに出ていたのよ」
「えっ……」
ファニートリックは一瞬固まったように唖然とする。プリズムスプリントもだった。
「それで、 ────」
そこで、カフリアは一瞬だけ言葉に詰まった。フリーランスとして行きずりの暮らしをしていて、ウッタカッタとも長く組んでいるわけではない。それでも、多少なりとも気にするものはあるようだった。
「── ウッタカッタの首を、ジョーカーが撥ねた直後に、それまでのジョーカー以外のシャッフリンが、生きているのも死体も全て消えて、新たにシャッフリンの軍勢が現れたの」
「それは……」
ファニートリックが戸惑ったような声を出し、その直後、
「多分それぽんね」
と、ネドの声が聞こえてきた。
カフリア、ファニートリックとプリズムスプリントが視線をミクセリクサーの左肩に向ける。解消されない疲労感に膝抱き座りで蹲っていたデリュージとインフェルノも顔を上げる。
「ミクセリクサー型の魔力炉省略をそれで補ったんだぽん」
「それって、つまり」
その先を聞きたくない、といったように戦慄した表情で、プリズムスプリントが言った。
「ジョーカーが魔法少女から魔力を吸い取って、デッキ再生用に使うシステムなんだぽん!」
「──────── ッ!!」
ファニートリックとプリズムスプリントも驚愕に口を大きく開いた。だが、それ以上に愕然とし、戦慄したのは、デリュージとインフェルノだった。当然だった。
「じゃ、じゃあ、クェイクとテンペストが、もし捕まったら!?」
デリュージがネドに問い質す。
「その可能性はあるぽん!」
「そんな! それじゃすぐ助けに行かないと!」
「いえ、逆に殺されていないなら時間稼ぎができるわ!」
デリュージの言葉とともに
「それは、どういう?」
「その方法があったのにも関わらず、そっちの子……────」
「ミクセリクサーでーす!」
カフリアの言葉を聞いて、手を挙げて声を上げるものの、まだ回復しきっていないのか、声の勢いがどこか間延びしている。
「── その、ミクセリクサー相手に大損害を出していたのに、すぐには回復しなかったわ。それは多分、あのスペードのエースを失ってから回復するつもりだったのよ」
スペードのエースのシャッフリンは、管制室の戦いではミクセリクサーのハートの2のトランプ兵にてんで敵わなかったように見えたが、それまでのシャッフリン不利に陥り始めていた下位ナンバー同士の戦いを、一気に覆したのは、見た。
「多分、今度もスペードのエースが失われるまでは、デッキの回復をしないぽん。そのために、ストックしておくはずだぽん。楽観的推測で、絶対とは言えないケド……」
「じゃあ、先に魔力の薬があるかどうか、ブリーフィングルームを探してみましょう!」
ファニートリックが、提案しつつ立ち上がる。
「なきゃないで……
プリズムスプリントはそう言って、バシン、と、左の掌に右の拳を打ち付ける仕種をした。
「頼りないかも知れないけれど、命の恩程度の働きはするわよ」
カフリアも言う。
「フリーランスは、借金は背負うべきではないから」
言って、唇の端を吊り上げた。
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。