魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3―   作:神谷萌

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第16話

「っ、つ、う……」

 管制室の中、クェイクとテンペストはトレーニングルーム側の出入口のある隅に追い詰められていた。ただし、出入口はハートのシャッフリン複数とスペードのクィーンのシャッフリンが固めていた。

 未だ2人の周囲に、シャッフリンの復活直後にミクセリクサーが喚び出したうちのハートのエースとキング、クェイクのために()び出されたハートの4と3、その4体のトランプ兵が残っていたが、すでにカードの面積の大半が破れていて、どうにか維持されているといったところだった。

「テンペスト……」

 クェイクが小さく声をかける。テンペストはクェイクの衣装を握り、今にも泣き出しそうな、いや、すでに半分泣いている。

「うっ……うっ、うっ……」

「テンペスト、最後に一撃、かませる?」

 テンペストに、クェイクは、母親が言い聞かせるかのような口調で問いかけた。

「…………やる」

 テンペストは、か細い声でそう答えた。

 2人は立ち上がった。

 周囲は、スペードを中心に無数のシャッフリンが取り巻いている。

 テンペストは泣き顔をクシャクシャにしつつも、ブーメランを振り上げ、構える。

 ジョーカーシャッフリンが、シャッフリンの包囲列の後ろに立つ。ニタり。他のシャッフリンがしない、不気味な笑みを浮かべた。一拍置いて、振り上げた左手を、クェイク達に向かって振り下ろした。

 包囲していたシャッフリン達が、槍を構えて一気に突撃を開始する。

「ハートさん達、私達のすぐ傍まで退()がってください!」

 クェイクが叫ぶ。

 トランプ兵がその言葉に従った。彼らはあくまでミクセリクサーの命令に従う存在で、完全に自律して考えることはできないが、最低限の状況判断はできた。

 トランプ兵の圧力がないと見るや、シャッフリンの包囲線は更に狭まってくる。

 ── そうだ、近付いてこい!

 クェイクは、逆に唇の端を吊り上げていた。私は子どもだったことがなかった大人だ。プリンセス・クェイクになって、初めて “ヒロイン” になれた気がした。だから、最後もヒロイックに決めよう。

「今!」

 必殺技名について、口上を上げるかどうかについては未だ結論が出ていなかった。特にデリュージとテンペストが対立していた。クェイクとインフェルノはどちらでもいいという態度だった。デリュージはわざわざなにをするのか敵に教えなくていい、と主張していた。

 でも、ここにいるのはテンペストだ。これが最初で最後になるかも知れない。だからテンペストの主張に従おう。

 クェイクとテンペスト、2人の動きと言葉が重なる。

「アルティメット・プリンセス・エクスプロージョン!!」

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……」

 デリュージとインフェルノ、ミクセリクサーとファニートリック、プリズムスプリント、そしてカフリアの一行は、砂漠のトレーニングルームの反対側の扉の前に行き着いていた。

「どうした? お前ら」

 インフェルノとミクセリクサーは息を上げていた。プリズムスプリントはそれを怪訝に思った。確かにこのトレーニングルームは砂漠らしく乾いた熱波が再現されていたが、いくらなんでも管制室側の扉からここまでは何百mもあるわけでもない。

「いえ、その、そろそろ……私達……」

 まず、デリュージが言った。砂漠のトレーニングルームをプリズムスプリントに抱えられて渡ったはずのデリュージまで、インフェルノと同じように息を上げている。

「その、魔力が、危なくて……」

「……ッ!」

 プリズムスプリントとファニートリックが表情を険しくした。

 ピュア・エレメンツはそもそも、変身を維持するのにも、外部から魔力を取り入れなければならないのだ。

「お、おい、あの薬は、持ってないのか……?」

 プリズムスプリントが、デリュージとインフェルノに問いかける。

「すみません、今は……」

 インフェルノが、申し訳無さそうに答える。

「あるとすれば……ブリーフィングルームですが……」

 プリズムスプリントは、考え込むように口元に手を当てる。

「あそこか……あいつらが全部奪っていなければ、残ってるかもしれんが……」

 回収なり処分なりされてしまっている可能性の方が高いだろう。

「他にあるとしたら、どこだ?」

 プリズムスプリントが、インフェルノに訊く。

「後は下層の倉庫ですが……」

「それはどこだ?」

「管制室の前を通らないと……」

 その答えに、プリズムスプリントは片手で顔を覆った。

「なんとか見つけるとしたら、ブリーフィングルームしかないようですね……」

 ファニートリックが言う。だが、そこも完全に敵がいないと言えるわけではない。

 プリズムスプリントは、足を投げ出すようにして座り込んでしまっているミクセリクサーを見た。

「お前も魔力切れか?」

「は、はい」

 ミクセリクサーは、荒い息をしながら答えるが、続けて、

「ですが、私の場合は大丈夫です。時間をかければ回復しますので」

 と、言った。

「そうか……」

 プリズムスプリントは、そう言うものの、表情は晴れない。

 プリズムスプリントとファニートリックが、扉に視線を移す。

 隣のトレーニングルームに移る扉は、先程とは異なり、分厚い隔壁扉が通常の扉を覆い隠してしまっている。

「とりあえず、隣に移動しよう。砂漠はシャッフリン(向こう)のクラブが出てきかねん」

 プリズムスプリントはそう言って、視線をファニートリックに向ける。

「ファニートリック、またあれ、できるか?」

「はい!」

 ファニートリックは返事をすると、今度は彼女がミクセリクサーに視線を向け直す。

 ファニートリックが言う前に気がついたのか、四次元ポーチlightからAmaz◯nの空きダンボール箱を取り出して、ファニートリックに渡す。

 ファニートリックは、自分の腰飾りから取り出した布を、その箱にかぶせる。先程、管制室に進入したときのように、段ボール箱と隔壁扉のロック部分を入れ替えた。

 扉を開け、隣の、名深市沿岸地区を模したトレーニングルームに移る。

 プリズムスプリントが扉を閉めるが、当然再度ロックはできない。プリズムスプリントはその扉のど真ん中を背にして、どっかとあぐらをかいて座った。

 ミクセリクサーは、ぽてん、と、壁際に、足を投げ出すようにして腰掛けた。はぁはぁと息をしているが、熱に浮かされたような表情に変わってきている。

「こういう時は……────」

 ミクセリクサーはそう言って、四次元ポーチlightを探り始める。

「── これです」

 そう言って取り出したのは、500mlペットボトルのドクターペッパーだった。スクリューキャップを開けて、口をつけて一気に煽る。

 プリズムスプリントは脱力したようなリアクションをとり、ファニートリックはなぜか気まずそうに苦笑した。

 一方、強い疲労感で息を継いでいる、といった様子のデリュージとインフェルノだったが、やがてデリュージが、

「なんで ────」

「えっ?」

 と、出した声に、インフェルノが反射的に聞き返した。

「なんで、こんなやつ連れてきたの……クェイクやテンペストを置いて…………!」

 声に力が入りきっていない様子だが、デリュージはカフリアを睨みつける。

「落ち着いてください、デリュージ……!」

 インフェルノが、デリュージの背後から肩に手をかけて制する。言葉にはやはり力が入りきっていない。

「あの場で、この方が助け出されたことと、クェイク、テンペストが虜になったことは、直接関係ありません」

「でも…………!」

 デリュージは言葉を詰まらせるものの、表情は未だ忌々しそうにしている。

「クェイクとテンペストのことを言っているのなら、私を責めてください。こちらの(かた)をミクセリクサーさん達が助けようとしていたことより、私が足を取られて逃げ遅れた方が大きいんです」

「…………ッ」

 インフェルノの言葉に、デリュージは言葉を失い、下唇を噛み締めた。

「すみません、お騒がせしました」

 インフェルノが、ファニートリックとプリズムスプリントの方を向いてそう言い、軽くお辞儀をした。

 ファニートリックの傍らに、カフリアがいる。

「失礼を重ねますが、よろしければお名前を」

 インフェルノがカフリアに訊ねる。

「…………」

 カフリアは、僅かに考えるようにした後、

「私はカフリアよ。魔法少女カフリア」

 と、告げた。

「カフリアさん、ですか。よろしく、というような空気ではなくてすみません」

 インフェルノは僅かに苦笑してそう言った。

「話、聞かせてもらっていいよな?」

 プリズムスプリントが、カフリアに話を()()()

「ええ、もっとも、答えられることは少ないと思うけれど」

「それは、隠さなければならないということですか?」

 カフリアの答えに対し、ファニートリックから更に訊ねる。

「いいえ、そう言うわけではないわ。そもそも私は普段、フリーランスで、魔法の国やらそれ以外やらの仕事を引き受けているものですから。グリムハートやシャッフリンも、魔法の国の()()()()()()()()と目星をつけて、売り込んだまでのことよ」

 カフリアの説明を聞いて、ファニートリックが、

「その、()()()()()()()()の正体というのは、解っているのですか?」

 と、重ねて聞いた。

「さあ。詳しい話はまだ聞き出す前だったわ」

 カフリアのその言葉を聞いて、ファニートリックとプリズムスプリントが顔を見合わせた。デリュージと異なってカフリアを悪し様には見ていないものの、あからさまに期待はずれだった、という表情をしてしまう。

「ただ……────」

 自身はヴェールで表情の窺えないカフリアだが、ファニートリック達の表情を見て、言う。

「あのシャッフリンが何をしたか、は、少しだけヒントを出せると思う」

「えっ?」

 さっきの反動で、ファニートリックとプリズムスプリントは、今度は一転して期待した眼を向けてしまう。

「本当に些細なヒント、よ?」

「かまいません!」

 カフリアの念押しに、ファニートリックが即答する。

 カフリアは小さく息を()いてから、話し始める。

「…………基本的にシャッフリンは言語で話すことはない、これは気づいてた?」

「あれ? そうだったか?」

「はい、そうでした」

 プリズムスプリントは咄嗟に思い出せない、といった様子だったが、ファニートリックはカフリアの言葉を肯定した。

「ただ、唯一、ジョーカーだけは会話できていたわ」

「ジョーカー……」

「しかも、グリムハートとは、まるで参謀のように会話していたの、グリムハートも私達が何をいっても『クビヲハネヨ』としか言わなかったのに、シャッフリンのジョーカーとは流暢に会話していたのよね」

「そう……ですか」

 説明を聞いて、ファニートリックは再度落胆しかけたが、カフリアは構わず続ける。

「それで、此処から先はまだ推測が大部分なんだけど……────」

 そこで、カフリアの表情が、口元だけでも解るほど怪訝そうなものになった。

「あの子たち、死の印が出ていなかったのよ」

「死の印?」

 ファニートリックが聞き返した。

「ええ、私の魔法は、視界の中、あるいはその少し周辺で、一番早く死ぬ者が解るというものなの。その対象になっている相手の頭の上に、死の印が見えるのよ」

「そいつぁ、また……」

 プリズムスプリントが微妙に顔を歪ませた。

 デリュージは相変わらず憤りを隠しきれていない。インフェルノは誤魔化すように笑っていた。

「それが、シャッフリンには見えなかった、と?」

「ええ」

 ファニートリックが問うと、カフリアはまず肯定の返事をする。

「でもそれは、たまたま一番先に死ぬシャッフリンの個体を見なかっただけ……では?」

 ファニートリックが重ねて問う。

「いいえ。私の魔法はそのあたりが必ずしも厳密ではないのね。ちょっとした介入で運命が変わってしまったりする。それに、時間の分解も粗くて、最短でも1秒以内に死亡する複数の相手は、同時に死の印が見えてしまう」

「それでも、シャッフリンのどの個体にも死の印が見えなかった……ということですか」

「ええ」

 ファニートリックが確認するように言うと、カフリアは頷いて肯定する。

「それどころか、ずっと死の印はウッタカッタに出ていたのよ」

「えっ……」

 ファニートリックは一瞬固まったように唖然とする。プリズムスプリントもだった。

「それで、 ────」

 そこで、カフリアは一瞬だけ言葉に詰まった。フリーランスとして行きずりの暮らしをしていて、ウッタカッタとも長く組んでいるわけではない。それでも、多少なりとも気にするものはあるようだった。

「── ウッタカッタの首を、ジョーカーが撥ねた直後に、それまでのジョーカー以外のシャッフリンが、生きているのも死体も全て消えて、新たにシャッフリンの軍勢が現れたの」

「それは……」

 ファニートリックが戸惑ったような声を出し、その直後、

「多分それぽんね」

 と、ネドの声が聞こえてきた。

 カフリア、ファニートリックとプリズムスプリントが視線をミクセリクサーの左肩に向ける。解消されない疲労感に膝抱き座りで蹲っていたデリュージとインフェルノも顔を上げる。

「ミクセリクサー型の魔力炉省略をそれで補ったんだぽん」

「それって、つまり」

 その先を聞きたくない、といったように戦慄した表情で、プリズムスプリントが言った。

「ジョーカーが魔法少女から魔力を吸い取って、デッキ再生用に使うシステムなんだぽん!」

「──────── ッ!!」

 ファニートリックとプリズムスプリントも驚愕に口を大きく開いた。だが、それ以上に愕然とし、戦慄したのは、デリュージとインフェルノだった。当然だった。

「じゃ、じゃあ、クェイクとテンペストが、もし捕まったら!?」

 デリュージがネドに問い質す。

「その可能性はあるぽん!」

「そんな! それじゃすぐ助けに行かないと!」

「いえ、逆に殺されていないなら時間稼ぎができるわ!」

 デリュージの言葉とともに(はや)る2人に、カフリアが言った。

「それは、どういう?」

「その方法があったのにも関わらず、そっちの子……────」

「ミクセリクサーでーす!」

 カフリアの言葉を聞いて、手を挙げて声を上げるものの、まだ回復しきっていないのか、声の勢いがどこか間延びしている。

「── その、ミクセリクサー相手に大損害を出していたのに、すぐには回復しなかったわ。それは多分、あのスペードのエースを失ってから回復するつもりだったのよ」

 スペードのエースのシャッフリンは、管制室の戦いではミクセリクサーのハートの2のトランプ兵にてんで敵わなかったように見えたが、それまでのシャッフリン不利に陥り始めていた下位ナンバー同士の戦いを、一気に覆したのは、見た。

「多分、今度もスペードのエースが失われるまでは、デッキの回復をしないぽん。そのために、ストックしておくはずだぽん。楽観的推測で、絶対とは言えないケド……」

「じゃあ、先に魔力の薬があるかどうか、ブリーフィングルームを探してみましょう!」

 ファニートリックが、提案しつつ立ち上がる。

「なきゃないで……ミクセリクサー(こいつ)とあたしとファニートリックでなんとかするっきゃねぇか!」

 プリズムスプリントはそう言って、バシン、と、左の掌に右の拳を打ち付ける仕種をした。

「頼りないかも知れないけれど、命の恩程度の働きはするわよ」

 カフリアも言う。

「フリーランスは、借金は背負うべきではないから」

 言って、唇の端を吊り上げた。

 





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