魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
管制室。
「……ブリーフィングルーム捜索に向かわせたダイヤとクラブが全滅させられました」
「なに?」
シャッフリンジョーカーの報告に、グリムハートが、あからさまに不快そうに眉を
「隔壁はすべて閉鎖したはずではなかったのか?」
グリムハートは、メインサーバ操作用のPCに向かっていたシャッフリンを見て言った。ダイヤの7だ。
すると、シャッフリンジョーカーは、
「あれ」
と、トレーニングルーム側につながる出入口の隔壁扉を指した。
隔壁扉のロック部分が、綺麗な四角形にくり抜かれ、欠けてしまっている。
「廊下の上下式隔壁はともかく、トレーニングルーム間の隔壁は当てにならないと考えた方がよいでしょうな」
「むむむっ……」
グリムハートの表情は更に険しくなる。閉じた鉄扇の
「この戸棚に入ってたはずなんですが……」
インフェルノが言う。
デリュージより積極的に力を振るっていたからだろう、インフェルノは自分だけで立っているのも辛いようで、デリュージに肩を貸されている。
インフェルノが言った書類棚は、最初にエントランスからブリーフィングルームに逃げ込んだときのバリケードに使ってしまい、あちこち歪んだ状態で倒れている。
扉は開いていたが……────
「下から3段目……が、置き場だったのですが……」
インフェルノが言う。確かにそこに錠剤のパッケージを入れておく浅型のバスケットがあったのを、ミクセリクサーも覚えていた。
そのバスケット自体は存在していたが、カラになってしまっている。
「やっぱり持ち去られていたか……」
険しい表情でプリズムスプリントが言ったが、
「まだ、周辺に落ちているかも知れません。探してみましょう」
と、ファニートリックが言う。
ミクセリクサーたちは周囲の床に散乱した品物を持ち上げて退かしながら、床を探す。クラブのトランプ兵もそれに加わった。
「…………あ、これかしら?」
カフリアが言った。崩れたバリケード越しに、ミクセリクサーがひょこん、と覗き込んだ。ファニートリックとプリズムスプリント、それにクラブのトランプ兵も顔を上げる。デリュージとインフェルノもそちらに視線を向けた。
「それです!」
特徴的な外装箱を見て、ミクセリクサーが声を上げた。
ミクセリクサーはヒョイっとバリケードの残骸を飛び越えて、カフリアの近くに来る。ファニートリックとプリズムスプリントも駆け寄ってきた。
「少し箱がひしゃげているけど、もうひとつあるわ」
カフリアはそれを拾い上げて、両手にそれを持った。
プリズムスプリントは、一瞬デリュージとインフェルノの方を見てから、
「おい、まだ、水あるか?」
と、ミクセリクサーに訊ねる。
「あ、はい、あります!」
ミクセリクサーは、そう言って四次元ポーチlightを探り、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。
プリズムスプリントは、カフリアから凹んでいない薬の箱、ミクセリクサーからミネラルウォーターのペットボトルを、それぞれひったくるようにして、デリュージとインフェルノの元に駆けていった。
「これで、間違いないな?」
「は、はい」
インフェルノの確認が取れてから、プリズムスプリントは箱の封を切る。
「何錠だ?」
プリズムスプリントが訊ねるが、
「あ、後はやります」
と、インフェルノが言った。デリュージが手を伸ばしてプリズムスプリントから開封された箱を受け取る。
「多分、この程度じゃ
デリュージは錠剤を2錠取り出し、口に放り込んだ。それを見てしまってから、インフェルノも2錠を取り出し、同じように口に運ぶ。
「ほれ水」
プリズムスプリントは、2lのペットボトルを、キャップを開けてから差し出す。インフェルノが先に手にとって、
「あ」
と、失敗した、という様子で、デリュージを見る。
「ちょっと、早く頂戴」
「え、でも」
急かすデリュージに、インフェルノは少し躊躇ったようにする。
「こんな時にこだわってる場合じゃないでしょう?」
「は、はい」
デリュージは、インフェルノが差し出したペットボトルを手にとって水を呷り、錠剤を流し込む。
「ふぅ……」
「これで、少なくとも丸24時間は持ちます」
内服薬だからか、自分で立てるようになったものの、まだ少し弱々しい様子で、インフェルノはそう言った。
ファニートリックがほっと胸を撫で下ろすように息を
が、その直後。
「あ、デリュージ!?」
インフェルノが驚いた声を出した。
デリュージが、シャッフリン達によって突破されたバリケードを乗り越え、通路側の出入口から外に出る。
「バカ野郎、どこへ行く気だ!」
咄嗟に飛び出したプリズムスプリントが、2人が通路に踊り出たところで追いつき、問い質す。
「決まってるでしょ!? クェイクとテンペストを助けに行くのよ!」
「待て! 焦るのは解るがきっちり仕切り直せ!」
「アンタたちには解んないでしょうよ! 2人が今にも殺されるかも知れないのよ!?」
「そりゃ解ってる! でも無計画に突っ込んでどうする!?」
ブリーフィングルーム区画とトレーニングルーム区画を仕切る隔壁は、ちょうどヒトがくぐれる程度に上がっていた。先程のシャッフリン達が侵入するために半開にしたのだろう。
プリズムスプリントの制止を振り切り、デリュージは隔壁をくぐってトレーニングルーム区画側に入ってしまった。
「デリュージ様!」
ミクセリクサーを先頭にして、他の面子もブリーフィングルームから通路に飛び出してくる。
「デリュージが、1人で……」
プリズムスプリントがそう言いかけたときだ。
ビィイィィィィィッ……
警告音が鳴り、半開になっていた隔壁が下りて、閉じようとする。
「お願い、みんな!」
隔壁が閉じきる寸前、ミクセリクサーが隔壁の向こう側にトランプ兵を
「どうにかして追わないと……」
プリズムスプリントが、左手の親指を噛みながら言う。
「トレーニングルームと通路の間の隔壁は、トレーニングルーム同士をつないでいた扉のものと同じだったはずでしょう?」
カフリアが、訊ねるような口調でそう言った。
「そ、そうか、私の魔法で、また ────」
ファニートリックがそこまで言ったところで、そのファニートリックが真っ先に、ブリーフィングルームへと引き返す。インフェルノ、ミクセリクサーとカフリア、トランプ兵、プリズムスプリントが続いた。
バリケードの残骸を踏み、ブリーフィングルームとトレーニングルーム間の出入口をくぐり、トレーニングルームの通路側の出入口に向かう。
その扉は、やはり分厚い隔壁扉が覆い被さっていた。
「はい!」
ミクセリクサーがAmaz◯nの空き段ボール箱を差し出す。それをバケツリレーでもするかのように、インフェルノが受け取り、ファニートリック側に向ける。
その間に、ミクセリクサーがタクトを振り上げた。
「お願い! ハートの2!」
「!!」
それを聞いて、ミクセリクサー本人以外の全員がギョッとした。ちょうど、ファニートリックが箱に布を被せたところだった。
「お、おいまさか!?」
「います! スペードのエースです! もう、わたしのスペードのエースとクラブのクィーンがやられました!!」
光の板がミクセリクサーのハートの2のトランプ兵になる一方で、ファニートリックが、魔法で隔壁扉のロック部分を段ボール箱と入れ替えてくり抜く。
「まずい……」
「え?」
妙に焦れているプリズムスプリントを見て、カフリアが不思議そうな声を漏らす。
「
「それは……────」
「さっき、
そんな事を言っている間にも、ファニートリックが扉を開こうとしていた。
バシュッ
デリュージの
「この!」
バシュンッ
相手が後ろに
「!!」
それは、デリュージにも意外な形で発生した。
だが、相手 ──── スペードのエースのシャッフリンは、それを今度は横に身を捩って躱し、 ──── そのまま、デリュージに向かって飛びかかってくる。
ハートの8のトランプ兵が、スペードのエースのシャッフリンとデリュージの間に割って入ってくる。そのカードの身体には、既にいくつもの破れ目があった。
ザシュッ
トランプ兵に新たな破れ目ができる。それと引き換えに、ハートの8のトランプ兵はスペードのエースのシャッフリンに上段から槍を突き立てようとするが、
バシュッ
それより早く、スペードのエースのシャッフリンは、ハートの8のトランプ兵の首を撥ね飛ばした。
スペードのエースの背後目掛けて、ハートの7のトランプ兵が突撃してくる。既に両腕を斬り飛ばされていて、頭突き以外に攻撃手段がなかった。
スペードのエースのシャッフリンはその頭突きを簡単に躱すと、ハートの7のトランプ兵の頭部に向かってトドメの一撃を入れようとする。
ガバッ!
スペードのエースのシャッフリンに、クラブのキングのトランプ兵が組み付いた。スペードのエースのシャッフリンでも簡単には振りほどけない。
そこへ、デリュージとスペードの2のトランプ兵が突進してくる。
ダンッ、ガシッ!
デリュージのトライデントとトランプ兵の槍、双方を、スペードのエースのシャッフリンが躱すと、その2つの柄を掴み、それを持ち上げて軽々とデリュージ、トランプ兵を背中の方向へ叩きつける。
ドカッ、グシャッ!
スペードのエースのシャッフリンは、背中に組み付いているクラブのキングのトランプ兵をそのまま壁との間に挟み込むように叩きつける。背中からそのトランプ兵が剥がれたところで、それから槍を奪い取って、その頭部を貫いた。
「この!」
デリュージがシャッフリンに向かって突進するが、スペードのエースのシャッフリンはそれを躱すと、落ちていた自分の槍をつま先で掬って拾い上げ、デリュージに向かって突き返す。
「うぐ!」
デリュージの左肩が抉られた。
シャッフリンは返す刀ならぬ槍で、後ろから飛びかかってきたスペードの2のトランプ兵の右腕を切り落とす。トランプ兵が槍を取り落としたところへ、スペードのエースのシャッフリンがその顔面に槍を突き立てた。
── 管制室に着くまでは余裕を取りたかったけど……!
ミクセリクサーが護衛につけてくれたトランプ兵は全滅した。もう手段を選んでいる場合ではない。
デリュージは左手の人差し指と中指を揃えて、ティアラのプリンセス・ジュエルに触れる。
「ラグジュアリーモード・オン」
アドレナリンが一気に吹き出したかのような感覚がある。視界がクリアに、感覚が研ぎ澄まされる。肩の痛みが消える。
デリュージと、スペードのエースのシャッフリンが、お互い相手に向かって一直線に突進する。スピードはなお、シャッフリンの方が上だったが、その槍をギリギリでデリュージが躱す。
── 貰った!
デリュージは、トライデントの先にスペードのエースのシャッフリンを捉えた、ときだった────
『それは多分、あのスペードのエースを失ってから回復するつもりだったのよ』
『多分、今度もスペードのエースが失われるまでは、デッキの回復をしないぽん。そのために、ストックしておくはずだぽん』
── こいつをやると、つまり、クェイクかテンペストが……
それが脳裏に走り、デリュージの攻撃が一瞬止まる。
スペードのエースのシャッフリンは、くるん、と自身の槍を回して、石突でデリュージの背中を打ち据えた。
「がはっ……」
デリュージは、強烈に床に叩きつけられて、一瞬身動きが取れなくなる。
スペードのエースのシャッフリンが、デリュージにとどめを刺そうと、槍を構え直した時だった。
バカンッ!!
ドカッ!!
トレーニングルームの扉が、まるで滑りのいい
ファニートリックはそのままデリュージとの間に着地して構える。シャッフリンは素早く跳ねるように起き上がり、そちらへ向けて槍を構えようとしたが、
ドガッ!
と、スペードのエースのシャッフリンは、寸でのところでそれを躱した。
その背後に、ミクセリクサーのハートの2のトランプ兵が立っている。
スペードのエースのシャッフリンは、ハートの2のトランプ兵の頭を真っ先に狙った。
「ああっ!?」
その場にいた、当人以外の全員が、驚愕と落胆の声を出した。
スペードのエースのシャッフリンの槍は、ハートの2のトランプ兵の頭部を貫いた。
──── が、それだけだった。
頭部を貫かれているはずのハートの2のトランプ兵は、その頭部に突き刺さっている槍の柄を掴むと、
ブンッ、ドガッ!!
と、振り回し、スペードのエースのシャッフリンを壁に叩きつける。シャッフリンは一撃では槍を手放さなかったものの、それを見るや、トランプ兵は、
ドガッ、ドガッ、ドガッ!!
と、何度もシャッフリンを壁に叩きつけた。
槍を手放して廊下に転がったスペードのエースのシャッフリンに、ハートの2のトランプ兵が、上から槍を突き立てようとする。
「殺しちゃダメ!」
デリュージが悲鳴のような声を上げるが、トランプ兵はそのまま槍を突き立てる。
「キィィッ!!」
スペードのエースのシャッフリンが甲高い悲鳴を上げた。ハートの2のトランプ兵の槍は、シャッフリンの右肩を貫いていた。
トランプ兵が槍を引き上げると、シャッフリンは身を捩り、起き上がって逃走を試みるものの、
ドカッ!!
スペードのエースのシャッフリンが、身を回しながら僅かに頭を上げかけたところへ、ミクセリクサーのエルボードロップが降ってきた。
ドスッ!!
のたうち回るスペードのエースのシャッフリンの左肩を、ハートの2のトランプ兵の槍が貫いた。
「殺さないようにしました!」
ミクセリクサーは、戦闘中の険しい表情からコロッと笑顔になって、片手を挙げながらそう言った。
「人のこと言えたもんじゃないけど、お前、シャッフリン相手になるとエゲツない真似フツーにするな……」
プリズムスプリントが、かなり
「え、そ、そうですか?」
「…………」
と、珍しく、ミクセリクサーが誤魔化すように
「とにかく、このまま……」
インフェルノがそう言いかけた時だった。
バッ
「!?」
天井から、降ってきた。
クラブのエースのシャッフリンが、落下そのままの勢いで、スペードのエースのシャッフリンを殴った。棍棒を受けて、スペードのエースのシャッフリンの頭部は、スイカのように叩き割られてしまった。
「っ、 ──── ぁあぁぁぁぁァァァァッ!?」
デリュージが恐慌の声を上げた。かと思うと、管制室の方へ向かって、遮二無二に駆け出す。
「お、おい、待てっ!?」
プリズムスプリントが真っ先に、そしてミクセリクサーたちもその後を追う。
「ふん、また失敗したか」
面白くもなさそうに、グリムハートがそう言った。
「今のは計算のうちです。こちらの体勢を万全にしつつ、あの魔法少女どもをここにおびき寄せるための……」
「解っている」
不気味な笑みを浮かべながら言うシャッフリンジョーカーに、グリムハートはしかし、苛立ちは晴れる様子がない。
「…………大地の被検体と、風の被検体、どちらを使うか」
「そうですなぁ ────」
2人は、値踏みするようにクェイクとテンペストを見た。
「ひっ!」
テンペストが悲鳴を上げる。
「やだ、やだぁっ!」
本来の年齢相応にいやいやと首を横にふるテンペストに対して、上半身を魔法のロープで縛られたままのクェイクが前に出る。
「私からやれっ」
憎々しげな視線をグリムハートとシャッフリンジョーカーに向けつつ、言う。
「大地の被検体が、自らを先に使えと願い出ておりますが」
「好きにせよ」
グリムハートが言うと、シャッフリンジョーカーは鎌を振り上げる。
「ダメーッ、やめてーっ!」
悲鳴を上げているのはテンペストだった。
クェイクは、覚悟を決めたかのように目を閉じ、軽く俯いている。
「クェイクーッ!!」
グリムハートが、指揮棒のように鉄扇を振るった。
「クビヲハネヨ」
マジでどっちが悪役なんだこれ。
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