魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
第01話
雨が降っている。
昼間だが、雨雲のせいで薄暗い。
斎場に流れる読経の声。祭壇の上、多くの花に囲まれて、無邪気な笑顔の少年の写真が、遺影として掲げられている。
告別式会場で焼香を済ませ、斎場の建物から出ようとする。
「あんだけ魔法少女好きだったやつが中2で死んだのかよ。現実は夢も希望もねーな……」
そう、つぶやいた。
傘をさした。視線を斎場の門の方へ向けようとしたところへ、その姿を見つけた。
だいぶ会っていなかったが、思い出の中の人物に面影のある顔だ。
向かいの建物から、斎場の中に視線を向けつつ、こちらへ入ってくるわけでもなく、ただ立ち尽くしている。
その人物にジト目を向けて、軽くため息を吐いた。
「惚れられてることぐらい気づいてただろうに。薄情な……いや、あいつ結構そういうところあったな……」
そう呟きつつ、その相手には声もかけずに、斎場を後にしようとする。
敷地の出口で、振り返る。
「じゃあな、きsh ────」
目を覚ました。
「この夢、確か……────」
2度目だ。
前に見たのは、そうだ、
前に見たときは、学校に行ってもソワソワして落ち着かなかった。
── あたし、あいつとそこまで仲良かったっけ?
そう思いつつも、放課後、他の誘いを一切断って、帰宅した。
帰宅して、小学校の ──── 自分が途中で転校する前の級友で、今でも付き合いのある相手を何人か経由して、そいつに電話をかけた。
『──── 覚えてるけど……あ、ううん、久しぶりだね』
電話口のそいつは、ケロッとした様子だった。
『死んだ!? ボクが!? ちょっと縁起でもないこと言わないでよ』
まったくだ。なんであんな夢見たんだ、と、自分でもそう思った。
それから、二言、三言、他愛もない思い出話をして、通話を終えようとした。
別れを言いかけたところで、────
「なぁ、お前、魔法少女って本当にいると思うか?」
『さぁ、いるかもね』
歯切れ悪い答えだとは思ったが、まぁ、あいつの趣味考えれば無理もないか。
そうして、今度こそ別れて、電話を切った。
切ってから、気づいた。
「なんで、あいつ、
その時のことを思い出して、軽くため息を吐いた。
「この夢、見るってことは、
─☆──☆──☆──☆─
左海駅、改札から南口へ向かう通路。
長期休業期間中の高校生、緋山朱里は、散策するように歩いていた。パトロールしている、と言ってもいいだろう。
── 今日は、まぁ平和だな……
ひったくりだの置引きだのが起きている気配もない、平和な日本の地方都市の光景。それはそれで、いいものだと思った。
しかし ────
「うわ、ぁあぁぁぁぁんっ!」
と、子どもの泣き声が響き渡った。
「も、もう! ちゃんと持ってないから!」
母親らしき女性が、男児に向かって、慌てたような、憤ったような声を出している。
男児の前に、コーンに載せた形のアイスクリームが逆さまになって落ちていた。アイスが半分ほど潰れて、八方に飛び散っている。
── ああいうのは、どうしたもんかな……
朱里がそう考えたとき。
「はーい、泣いちゃだめでーす」
そう言いながら、白い衣装の少女が、男児に声をかける。
「!?」
白い衣装の少女は、まるで童話の『不思議の国のアリス』に出てくるような、トランプの兵士を1体、連れていた。
スート(トランプの記号)はダイヤ、ナンバーは3。
「はいっ!」
白い衣装の少女が言うと、トランプ兵がジャグリングを始めた。
「わぁ!」
男児の目が、それを凝視する。
「では、次です!」
「はーい」
白い衣装の少女が言うと、そこへ、ややステレオタイプな、ハイレグスーツに網タイツという女性の手品師の姿をした少女が、ひらひらとハンカチを揺らしながら、母子連れの前に現れた。
「はいっ」
手品師の少女は、屈んで、足元に落ちていたアイスクリームに、そのハンカチを被せた。
「ワン・ツー・……スリー!」
手品師の少女がそう言ってハンカチを退かすと、アイスクリームがあったはずの場所に、折り紙に乗せられた、ひねり包装の飴玉5つが置かれていた。
「わぁ!」
男児が、また興奮した声を上げる。
手品師の少女は、それを両手ですくい上げるように持ち上げると、それを男児に差し出した。
「はい、これを差し上げますから、もう泣いちゃダメですよ」
「うん!」
手品師の少女からそれを受け取りつつ、男児は元気よく返事をした。
「申し訳ありません。お礼はいたしますので……」
そう言って、母親が財布を取り出そうとした。
手品師の少女は、慌てて、手を振ってそれを制する。
「あ、お気になさらないでください! 私達の好意ですので!」
「子どもが笑ってくれていれば充分ですー!」
白い衣装の少女もそう言った。
「どうも、ありがとうございます」
母親は、何度も頭を下げてから、
「それでは、失礼します」
と言って、男児の手を引いて、立ち去ろうとする。
「おねーちゃん達、ばいばーい」
「はーい、ばいばいでーす!」
男児の声に白い衣装の少女が反応する。母子連れは今度こそ立ち去っていった。
「じゃあ、行きましょうか」
白い衣装の少女が言い、手品師の少女が頷いた時、
「おい」
と、手品師の少女の背後から、声がかけられた。
2人がその声のした方を見ると、ツーサイドアップの髪、パステルグリーンのトレーニングウェアに黒のスパッツ、そこにピンクの飾りをあしらい、シースルーのウェストケープを着けたような衣装の、魔法少女が立っていた。
「お前ら、余所者だろ。どこから来たのか、目的はなんなのか、ぐらい、聞いてもいいよな?」
トレーニングウェア風衣装の魔法少女に2人が連れられる形で、場所を移動する。
左海駅の前後をしばしJR線と並走し、左海市と隣の
その川を越えて、生保と旅行会社が入っている中型雑居ビルの屋上まで来た。
「まず名乗っとくか。あたしはプリズムスプリント。この左海市を縄張りにしてる、見ての通りの魔法少女だ」
トレーニングウェア風衣装の魔法少女はそう名乗った。
「これはごていねいにありがとうございます、プリズムスプリント様!」
白い衣装の魔法少女が、不貞腐れもせず好奇心旺盛そうな目の笑顔でそう返す。
「様付けは……それに、長いから、スプリント、でいいぞ」
「わかりました! スプリント様!」
「だから様付け……まぁいいや。それで、お前さんたちは?」
トレーニングウェア風の魔法少女、プリズムスプリントは、処置なしと呆れつつ、問い返した。
手品師の少女は、苦笑している。
「はい! わたしはミクセリクサーともうします! 名深市から来ました!」
「名深市?」
ミクセリクサーの答えを聞いて、プリズムスプリントは、少し怪訝そうにしながら鸚鵡返しにした。
「はい!」
「名深市ってあれだろ、名物の魔法少女4人組がいるところだろ?」
「いまは一時的に6人いますが!」
「ちょ……」
自分の呟きに反応したミクセリクサーの言葉を聞いて、プリズムスプリントは、驚愕の声を漏らす。
「6人って、名深だろ?
プリズムスプリントは呆れ返った声を出した。
「ええと、元からおられた先生、リップル様、トップスピード様、スノーホワイト様、そこに先生の試験で魔法少女になったリフレッシングブリーズ様…………あれ!? 5人しかいません!」
指折り数えながら名前を呼んで、ミクセリクサーは困惑した声を上げる。
「もう1人はお前だろ」
プリズムスプリントが呆れ混じりに指摘する。
「そうでした!」
「ははは……」
手品師の少女は、また乾いた苦笑を浮かべた。
「あと、普段一緒にいますが、村民のラピス・ラズリーヌ
「村民?」
ミクセリクサーの言葉に、プリズムスプリントは一瞬怪訝そうにするものの、すぐに納得した顔になった。
「あ、
「はいです!」
「
「はい!」
「とすると、実質的にひとつのエリアに7人か。魔法少女のバーゲンセールかよ」
「リフレッシングブリーズ様は、高校を卒業されたら、大阪に行ってみたいと言っておられましたが」
呆れたように言うプリズムスプリントに、ミクセリクサーはフォローするように言った。
「でもまぁ、それだけ魔法少女がいたら、
プリズムスプリントは、腕を組んで、どこかヘラっと笑いながら言った。
「あいつですか!?」
ミクセリクサーが訊き返す。
「ああ、名深にいるんだよ、岸辺って言って、男のクセに魔法少女大好きなやつが」
プリズムスプリントは、ヘラヘラとした笑顔のまま言う。
だが、それを聞いて、
「……………………」
「ミクセリクサーさん?」
と、ミクセリクサーは、三白眼が四白眼になるかのように目を
「どした?」
プリズムスプリントも、ふと気づいたように声に出した。
「きしべ……なんていう方ですか?」
「フルネーム? 岸辺ソータだ。漢字は覚えてないけど」
プリズムスプリントが答えると、ミクセリクサーの目が更に円くなった。
「それ、先生です」
それまでよりテンションを抑えつつ、しかしはっきりと聞こえる声で、ミクセリクサーがそう言った。
「へ? 先生って……」
プリズムスプリントが、一瞬、理解しきれない様子で訊き返す。
「ラ・ピュセル先生の、人間としてのお名前です!」
「なっ!? ちょっと待て、そいつ男だぞ!?」
ミクセリクサーの言葉に、プリズムスプリントは驚いたように声を出す。
「はい! 先生の人間の姿は男だったとお聞きしています!」
ミクセリクサーの答えを聞いて、プリズムスプリントは面食らった様子になる。
「男が魔法少女になれんのかよ!?」
「まれにだけどあるそうです。他にもう1人、ステラ・ルル様にお会いしたことがあります!」
「それって
「どうなんでしょう?」
苦笑しながらのこれは手品師の少女。
「いや、ちょっと待て」
プリズムスプリントが、急に顔を
「今、『人間の姿は男
「はい、言いました!」
「過去形で正しいのか?」
「はい!」
「どういうことだ? あ、いや、別になんか疑ってるってわけじゃないんだが」
プリズムスプリントは、訊き返してしまってから、決まり悪そうに言い訳する。
「先生は、ご自身の魔法少女選抜試験の際に、犯罪魔法少女の “森の音楽家クラムベリー” と戦って殺されかけたときに、人間の姿を喪って、基本的にラ・ピュセルの姿のままになっておられます」
「そんなこともあるんだな……可哀想に……」
ミクセリクサーの説明を聞いて、プリズムスプリントは、どこかしみじみとした表情になって、呟いたが、
「トップスピード様に言わせると『この野郎! 全力で喜んでやがる!!』だそうですが」
「ああ、そう」
と、ミクセリクサーの言葉を聞いて、プリズムスプリントはがくんと崩れるようなリアクションをした。
「で」
プリズムスプリントは、気を取り直しつつ姿勢も直して、
「そっちのあんたは?」
と、手品師の少女に訊ねた。
「あ、はい。私はファニートリックと言います。その……」
名乗るところまではハキハキと言えたファニートリックだったが、そこから先が詰まりがちになる。
「その、盤洞市から来ました」
「盤洞市」
プリズムスプリントが鸚鵡返しにする。
「連続爆発事件のあった?」
「…………はい」
ファニートリックは、深く頷くようにして俯きつつ、答える。
「……その反応だと、なんか関係あるのか?」
「…………はい。私達は、主犯格の妖精に騙されて魔法少女になって……────」
プリズムスプリントに問われ、ファニートリックは、どこか怯えた様子で説明しかけた。
「あー、いい。いい。話しづらいことまで言わなくていいわ」
プリズムスプリントは、手を振ってそれを制した。
ファニートリックは、ふぅ、と軽くため息を吐く。
「で、お前ら何が目的でここに来たの?」
プリズムスプリントが、それを訊ねる。
「人造魔法少女の研究所がここにあるということで、その捜索の依頼を受けてきました」
ファニートリックが告げた。
「人造魔法少女?」
プリズムスプリントは、急に眉を険しくする。
「そりゃ、ゾッとしないな……」
「そうですか?」
ミクセリクサーが言う。
「わたしも人造魔法少女ですが!」
「え!?」
言われて、今度はプリズムスプリントが目を円くした。
「そうなの?」
「はい!」
答えるミクセリクサーの顔には、些かの屈託も呵責も窺えない。
「じゃあ、問題はなんなんだ?」
プリズムスプリントが訊ねる。
「つまり、その研究所は、魔法の国のどこかの組織が関与していないもの、らしくてですね」
ファニートリックがそこまで説明すると、プリズムスプリントの表情が急に険しくなった。
「つまり、密造ってことか」
「そういうことになるかと思います」
ファニートリックが肯定の返事をすると、
「わかった。そういうことならあたしもほっとけないけど、協力させて貰っていいか?」
「えっと……」
「はい! それはありがたいです!」
プリズムスプリントの言葉に、戸惑った様子を見せたファニートリックの言葉を遮って、ミクセリクサーが快諾と感謝の声を上げた。
左海第一ホテル。
また翌朝、と言って、プリズムスプリントと別れ、ミクセリクサーとファニートリックは、本日の宿泊予定地に来た。
左海駅からはほど近いが、旅行サイト経由で予約すると、2人で¥6,500を切る、そこそこリーズナブルなホテルだった。
「確認ができました。楽天トラベルからお申し込みの細波様、おふたり様ですね」
ホテルのフロントで、チェックインを済ませる。
「大丈夫ですか?」
エレベーターの中で、変身を解いた佳代が、少しだけ眉を
「何がですか?」
ミクセリクサーは、あっけらかんとした様子で訊き返す。
「プリズムスプリントさんのこと……」
「はい、あの
「本当に?」
佳代は更に訊き返すものの、ミクセリクサーは快活に答える。
「はい! こう見えても、ひとを見る目には自信がありますので!」
──── エレベーターを降りる。
リップルの本名、細波華乃で予約されていたのは、2名用の和室だ。
まだ外が明るい部屋の窓の前に立ち、身体を伸ばす。
ミクセリクサーは、スマートフォンで電話をかけ始めた。そこそこに旧いスマートフォンは、auマーク入りなのに回線はY!mobileだ。颯太が中学時代に使っていたものに改めてSIMを入れたものだった。
「あっ、もしもし、先生ですか!?」
『もしもし、ミクセリクサー? なにかあった?』
その颯太が、電話口の向こうにいる。
「先生! プリズムスプリント様はご存知でらっしゃいますか?」
『…………誰!?』
名前を出されるものの、颯太はわけも分からず訊き返してくる。
「プリズムスプリント様です!」
『知らないな……ボクの名前が?』
「はい! ご存知でした!!」
『ボク達より後から魔法少女になった子……? でも左海でボクの名前知ってるってのは……え、何? 小雪』
そばに小雪がいるようだった。とすると、居場所は華乃の2Kの賃貸戸建だろうか。
小雪や華乃となにか話している声が聞こえた後、
『ミクセリクサー、もし何かあったら、なんだけど』
と、颯太が言ってきた。
「はい」
『その子に、本名は緋山朱里じゃないか、って聞いてみてくれ』
「はい! わかりました!」
『一応、メールでも送っておくから。優先度高くして保存しといて』
「はい! 先生からのメールはすべて最高優先度になるように設定してあります!」
それを言う時、ミクセリクサーはどこか恍惚とした表情になっていた。それが
『…………じゃあ、この後も気をつけてね』
「はい!」
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。