魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
デリュージは真っ直ぐに管制室へと向かう。
各トレーニングルームの出入口からシャッフリンが出現する可能性は、頭から抜け落ちていた。もっともこれはたまたまだが、シャッフリンのデッキを再生したばかりで、まだ管制室から展開していなかったのだが。
正面は、管制室の扉のはずだが、上下式の隔壁が下りている。
デリュージは、突き当たるより少し前、通路の、名深沿岸地区を模したトレーニングルームの前で立ち止まった。
隔壁が開き始めている。この状況でわざと開けるということは……────
「!?」
デリュージは目を剥く。
── クェイクかテンペストが!!
絶望の表情になりつつ ────
── こうなったら、狩り尽くしてやる!!
ラグジュアリーモードはあくまで短時間の
ガバッ!
「バカ野郎!」
腹に手を回されて抱えられ、デリュージは逆方向に引き戻された。
「中がどうなってっか想像つくだろ!」
プリズムスプリントが、抱えたデリュージの耳元の傍で構わずに怒鳴る。
「離して! クェイクが! テンペストが!!」
尚ももがくデリュージだったが、それに対して、プリズムスプリントが、
「お前の友達は、お前が無駄死にするのを喜ぶやつらなのか!?」
と、怒鳴りつけた。
一旦デリュージを抱えて引き返していたプリズムスプリントに、ミクセリクサー達が追いついてくる。
「だいじょうぶですか!?」
ミクセリクサーが、デリュージとプリズムスプリントに、緊張した顔で訊ねる。
そのミクセリクサーの背後に、
「ミクセリクサーさん!
と、ファニートリックが声をかけた。
「わかってます!」
ミクセリクサーはそう言って、険しい表情を向けつつ、タクトを振り上げるが……────
「みん……は……────」
トランプ兵召喚の光の板が数枚出現したところで、ミクセリクサーの足元がふらつく。
「お、おい!」
そのまま、脚をもつれさせて倒れかけたミクセリクサーを、咄嗟にプリズムスプリントが支えた。ファニートリックとカフリアも駆け寄る。
立ち眩み、というより、意識を失いかけていた。
「まずいぽん!」
ネドが、ぴょんぴょん飛び跳ねるようにしながら、言う。
「魔力炉として
「な!?」
プリズムスプリントとファニートリック、それにインフェルノが声を上げた。カフリアも口元を歪めている。
「なんとかならねーのか!? この場じゃ……」
プリズムスプリントが管制室の方を見る。閉鎖時と違って引き上げはゆっくりとしていたが、破壊された扉の開口部がすべて露わになるまでもう少しだ。
インフェルノが、
「ここは私達で支えるしかありません……デリュージ!」
と、そう言って、デリュージを叱咤するような声を上げる。
デリュージはだいぶ情緒不安定だった。インフェルノ自身もかなり精神は乱れている。でも、今は自分たちが戦うしかない。プリズムスプリントとファニートリックは、1対1なら拮抗できても、多数を相手にする能力がない。
インフェルノは ──── 燈は自分を奮い立たせて、炎の穂先の槍を構える。
一方 ────
「…………!!」
プリズムスプリントは、それに気づいた。
『といっても、わたしも起動初期の調整のときに使っただけです』
── なら、こいつにも、使えないわけじゃ!
胸中で言いながら、ミクセリクサーの四次元ポーチlightに視線を向けた。
「開けるぞ!」
プリズムスプリントは、意識のはっきりしないミクセリクサーにそう断って、四次元ポーチlightの口を開き、中を漁る。キャンピングムーンのガスランタン(OD缶/CB缶アダプタセット売り)、細波華乃が勤めている工場の社名が入った団扇、地デジチューナーがガムテープで貼り付けられた6インチブラウン管ポータブルカラーテレビ、と飛び出したところで、
「あった、これだ」
と、顔をぱっと明るくして、魔力の薬の箱と、飲みかけのミネラルウォーターを取り出した。
「この!」
──── 後に、幼馴染2人とその婚約者と、その周辺にいる賑やかし担当の青い魔法少女に詰められて、プリズムスプリント ──── 朱里は、
「飲ませても4錠だった! こいつは消費量がでかいんだから、それぐらい大丈夫だろ!!」
と、答えている。
とにかく、慌てる中で、魔力の薬を何錠か取り出し、
「背中支えててくれ!」
と、ミクセリクサーを挟んでその背中側にしゃがみこんでいたカフリアにそう言った。ファニートリックは前衛に向かったようだった。
カフリアが両肩の後ろ側に手をあてて支える。ミクセリクサーが少し上向きになる。口がわずかに開く。意識が完全に無いわけではないが、力が入っておらず目がうつろだ。
「ほら、飲み込んでくれ!」
プリズムスプリントに対して、カフリアは、
「この姿勢じゃ、危ないんじゃ……」
とも言うが、そのときにはプリズムスプリントは既に、錠剤をじゃらっとミクセリクサーの口に入れ、そこへ水を流し込んでいた。
「…………」
「…………」
「…………」
強張った顔のプリズムスプリント、口元だけでも戸惑った様子が解るカフリア、そしてミクセリクサーは────
ビクンッ!
最初に一度、身体を跳ねさせた後、二度目の跳ねでそのままカエルのように跳び上がって、そのまま立ち上がった。
「お、おい……」
プリズムスプリントが声をかけるが、ミクセリクサーは目の焦点が合わない様子で、ガクガクと震えつつ、
フシューッ……
と、比喩でもなんでもなく鼻と耳から蒸気を噴き出した。
「行きます!!!!」
「え、ちょ、ま!?」
まだ吐息に蒸気が混じっている状態でタクトを振り上げるミクセリクサーに、プリズムスプリントがうろたえる声を出す。
グロッキー状態のはずのミクセリクサーの大声が響いて、何事かと、デリュージとインフェルノ、ファニートリックも振り向く。一様に唖然とした表情をしていた。
その間にも、ミクセリクサーの周囲に、多数の光の板が出現する。ミクセリクサーのボンネットの青いバラまで、普段の半開きから、全開になってしまっていた。
「ソレーっ! とつげきーッ!!」
どこぞの青い自称猫型ロボットが、主題歌の2番で言っている合いの手の声を叫びながら、ミクセリクサーは、鋭い表情をしつつもまだ目の焦点が定まっていない状態のまま、管制室に向かって駆け出す。光の板が次々にトランプ兵に変わり、ミクセリクサーを追っていく。
「お、おい、待て! 待て!!」
プリズムスプリントが戸惑った声を出す。トランプ兵の濁流に流されるかたちで、彼女も、ファニートリックも、デリュージとインフェルノも、管制室の方へ向かわされる。
管制室の隔壁が上がりきった。
傍らでは、グリムハートが苛立っている。
風の被検体が、大地の被検体の亡骸の近くでグズグズと泣くのが気に障ったようだ。彼女を、最初のシャッフリンを連れ込んだり、玉座を持ち運んだりするのに使った四次元袋の中に片付けてしまった。
こうなったら物量戦だ。生死不明の被検体2体を奪還し、システムの制御も取り戻そうとしてくるはずだ。こちらはシャッフリン1デッキ52体をまとめて投入し、相手を圧倒する。
ゴウン……
隔壁が上がりきったところで、遊撃手のスペードのエースを除いた、51体のシャッフリンはエントランス・ブリーフィングルームの方へ向けて行進し始めて────
その正面に、ミクセリクサーのトランプ兵、こちらも切り札のハートの2と特殊カードのジョーカーを除いた51体が、
ドドドドドドドド…………
と、被検体が力を奮っても耐えられるはずの通路の床を響かせながら、突進してくる。
一瞬戸惑った様子を見せたシャッフリン軍団だが、スペードとクラブが足の止まったハートを飛び越え、トランプ兵軍団に向かって突撃を敢行する。
よりによって、と言うべきか、ミクセリクサー自身がトランプ兵軍団の先頭に立っていた。スペードのキングのシャッフリンがそれに向かって槍を振るおうとするが、ミクセリクサーは這うような高さまで姿勢を低くして、逆に懐に飛び込み、
「ふんっ!!」
バキャァアァッ!!
と、瞬時に脚を伸ばしてその勢いのまま、スペードのキングのシャッフリンの顔面に全力パンチを叩き込んだ。スペードのキングのシャッフリンは
その間にも、ハートを前衛にトランプ兵軍団がシャッフリン軍団に接触する。そこからはもう、ムチャクチャだ。戦術もクソもない大乱戦になった。
天井に張り付いたのはトランプ兵のクラブの方が先だった。最前列より後ろ側、混乱状態にあったシャッフリン軍団に奇襲をかける。
そのトランプ兵のクラブに紛れて、デリュージとインフェルノも後方の乱戦の場に飛び下りようとしている。
「インフェルノ!」
「はいっ!」
「ラグジュアリーモード・オン!」
起動の際のプリンセス・ジュエルの光を放ちながら、混乱して押し合いへし合いのラッシュアワー状態のシャッフリン軍団の真ん中やや後方に、2人は降り立つ。その際にインフェルノが鋭いハイヒールでシャッフリン2体の顔面を潰した。スートとナンバーはどれだったか構っていられない。
ゴワァッ!!
インフェルノが槍の炎の穂先を伸ばし、まごついていたシャッフリンを薙ぎ払う。燃え上がったシャッフリンがのたうち回る中、デリュージは自ら発生させた水霧で炎を遮りつつ、管制室内へと突破する。
「!」
そのデリュージの目の前に、スペードのエースのシャッフリンが立ちはだかった。
「ッッ!」
スペードのエースのシャッフリンが、デリュージに向かって鋭い槍の一撃を繰り出す。デリュージはそれを寸でのところで躱した。
ガキンッ!!
シャッフリンの槍を弾こうとデリュージが
「インフェルノ! 早く!」
「待ってください!」
インフェルノはまだ、クラブとダイヤのシャッフリンに囲まれ、排除している途中だった。
「ミクセリクサー! 目を覚ませ!!」
管制室の、まだ出入口の近くで、プリズムスプリントの声が上がったのが聞こえてきた。
「スペードのエースが中にいるぞ!
「目は覚めてます!」
ミクセリクサーは声を上げた。だが、転んで障害物と化しているハートのシャッフリンに足元をとられ、襲いかかってくるスペードのシャッフリンを片っ端からぶん殴るのに忙殺されていた。
「
「くそっ!!」
2人が毒ついている間にも、デリュージは追い詰められかけていた。先程トライデントを弾き飛ばされかけたときの動きで、デリュージは、シャッフリン軍団とトランプ兵軍団の乱戦とは、スペードのエースのシャッフリンを挟んで反対側に出てしまっていた。
トライデントを構えつつ、ちらりと後ろを振り返る。
そこには本来、下層の倉庫と繋がる
── なにかを探して、こじ開けたのかしら?
と、考えたが、実際にはクェイクとテンペストが放った
「インフェルノ! 早く!」
2人で至近距離からUPEを使えば、スペードのエースのシャッフリンでもひとたまりもないはずだった。
だがインフェルノはなかなか動けない。ハートのシャッフリンが必死にその足元にしがみついていた。
頼みの綱のミクセリクサーのハートの2も、本人がハートのシャッフリンを蹴散らし、スペードとクラブのシャッフリンを排除するのに手一杯だった。
ゴワッ、と、インフェルノが自身にも炎が絡むのを覚悟で周囲のシャッフリンを焼き払った。
だが、
「──── ッ!!」
合流はさせまい、とするかのように、スペードのエースのシャッフリンが、一気にデリュージに向かって突進する。
ガキンッ、ガキッ!!
デリュージは、トライデントでシャッフリンの槍を弾こうとしたが、スペードのエースのシャッフリンは勢いを殺されずにデリュージを押し込んでくる。
「あ」
ガツン、デリュージの腰の後ろ側に何かが当たった。スペードのエースのシャッフリンと、トライデントと槍とで圧し合っていたデリュージは、そのまま、ぐいと押し込まれた。その結果────
「え、あ!?」
シーソーのように上半身と下半身がひっくり返り、搬器のないダムウェーターの開口部へと落下していった────────
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