魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
管制室。
「いったい、一体何をしたっ!?」
グリムハートが、ラ・ピュセルをこれ以上ないほどに憎らしく見つめながら、恨めしげな声で問い質す。
「奥の設備級UPSのバッテリーに、さっきボクの剣で切れ目を入れてきた」
ラ・ピュセルはあっさりと答える。
ピュア・エレメンツたちには詳しくは説明されていなかったが、商用電源途絶時の設備維持のため、300kWhのバッテリーを抱えるUPSと、非常用LPG発電機を備えていた。当然、2.9トンのLPGも蓄えている。
「損傷したスマートフォンやモバイルバッテリーが発火することがあるぐらいは、知ってるだろ?」
ラ・ピュセルは、グリムハートに視線を向けたまま、リップルとともにグリムハートに近づきながら、説明する。
「スマホの1万5000台分のリチウムイオン電池があって、それに剣で傷をつけてきたわけ。さっき一瞬停電しただろ? あれボクがやった時に起きたの」
ジリジリと近づくラ・ピュセルは、メインサーバ操作用のPCの所まで来た。グリムハートは、2台のメインサーバを横にして、ラ・ピュセルと対峙する形になった。
バツンッ、バチッ、バスンッ!
ラ・ピュセルが説明している間にも、大きな破裂音が響いてくる。
「電極が短絡したりガスが発生したりした電池パックが、破裂したり爆発したりしてるんだよ。この部屋のすぐ隣、君の背中の壁の向こう側でね」
「な…………!?」
グリムハートは、それまでの不遜な態度はどこへやら、慌て恐れた様子で、左右に首を振って、UPS室、非常用発電機室のある方の壁を振り返る。
「莫迦なことを、お前たちも道連れだぞ!」
「だからやったんだ」
グリムハートの言葉に対し、ラ・ピュセルがそう返す。
「ここはもうすぐ、UPS室からの可燃性高温ガスのジェットで満たされる。いずれは非常発電機の燃料室にも高温ガスが行き渡る。そうすればここは ────」
ラ・ピュセルはそこまで言って、右手に剣を握ったまま、左手を握った状態で手のひら側を上に向け、
「── ドカン、パー」
と、左手を開きながら言った。
「ル◯゚ン三世の劇場版第1作」
リップルがラ・ピュセルの背後で、呆れて呟くように言った。ラ・ピュセルの動きが一瞬止まり、目を見開いた表情になる。
ラ・ピュセルは、すぐに気を取り直して、
「キミの魔法の能力は知ってる。だけど、地下施設全体が高温ガスに満たされてもなお耐えられるものなのか、試してみるか?」
と、グリムハートを険しく睨みつつも、口元で笑いながら言った。
「なにが……何のためにこんなことをしている!?」
焦れた様子のグリムハートが問い質す。
「
ラ・ピュセルは、笑みを消して言う。
「
「痴れ者が!!」
ラ・ピュセルの怒声に、グリムハートも怒声で応じる。
「下賤な魔法少女風情が、王に命令するなど許されぬぞ!!」
「なら、このままにするか?」
これはリップルの言葉だった。
「ぬぅ……」
グリムハートの顔は、恥辱に染まり、しかし恐怖も反映され、これ以上ないほどにくちゃくちゃに歪んだ。
「し……し……仕方がない……」
憤怒のあまりに泡を吹きそうな様子で、グリムハートは言い、メインサーバ操作用のPCを指して、
「ロックを解除する。入力しろ」
と、シャッフリンジョーカーに命令した。
シャッフリンジョーカーは言われるままに、メインサーバ操作用PCに近付いていって……────
ズバシャァッ!!
ラ・ピュセルは、シャッフリンジョーカーを躊躇なく袈裟斬りにした。
「な・な!?」
「ボクは
ラ・ピュセルはそう言いながら、シャッフリンジョーカーの亡骸を剣から振り払った。
そして、グリムハートを睨みつける。
「キミがやるんだ」
「うぬぬぬぬ……うぎぎぎぎぎぎ……!!」
グリムハートは、それだけで憤死してしまいそうな、恨めしく、くぐもった声を漏らす。
だが、
バスゥウゥン……
ガタガタガタガタッ
と、これまでの破裂音とは明らかに規模と質の違う爆発音が聞こえてきた。衝撃で管制室内のキャビネットが音をたてた。
「ぐぬぬぬ……」
渋々、本当に渋々、グリムハートは自分が助かるためだと胸中で自分に言い聞かせて、PCに向かおうとする。
キーボードにグリムハートの手が触れそうになった時、
「…………操作する前に、お前の魔法を完全に切れ」
と、ラ・ピュセルが、グリムハートを睨みつけたまま、半オクターブ低い声でそう言った。
「その要求は、不遜にすぎるぞ、下郎!!」
「応じないなら、このパソコンを今すぐ壊す」
グリムハートの怒声に、ラ・ピュセルは静かな声で言い返した。
「…………ぐぐぐ……ぐぐぐぐ……」
屈辱に
── このような者が、本当に “死なば諸共”、などと考えているはずがない。死にたくなどないはずだ。あくまで、虚勢だ。
と、結論づけた。
「解った…………」
ラ・ピュセルにそう言ってから、グリムハートは、キーボードに手を伸ばす。
テンキーでログイン画面にパスナンバーを入れようとして────
ドガァッ!!
「!?」
「やっぱり、魔法を切っていなかったね」
ラ・ピュセルが言った。
ラ・ピュセルは背後からグリムハートの頭部に斬りかかった。グリムハートの頭部はラ・ピュセルの剣を受け付けなかった。剣はPCのモニターを真っ二つにした。
「ミクセリクサーからの報告は届いてる。最初からお前を許すつもりなんかなかった」
ゴミを見るような目で、ラ・ピュセルはグリムハートを見下ろしている。
「な……な……た、
「それはお互い様だけど、まぁそうだよ。そもそも、このパソコンを操作しても意味ないんだ」
「なに…………」
「設備級UPSを壊したって言ったろ。施設管理用のコンピューターも、構内LANの中継器も、もう動いてないんだ。このパソコンだけ、机の下の小型UPSで動いているんだよ」
最初に設備単位の非常装置を破壊したのだ。本来なら、最後に、脱出するだけの最低限が、区画単位で作動していた。照明も、各区画の直流電源で点灯しているだけだった。
「本当の下種はお前だ、せいぜい最後まで苦しめ」
そうとだけ言うと、ラ・ピュセルは、リップルとともにその場をゆっくりと離れ始める。
「ラピュっち、こっちっす」
終わった、と感じて、ラズリーヌIIが、砂漠トレーニングルーム側の出入口から顔を覗かせた。テンペストも一緒だ。
ラズリーヌIIがテンペストの肩を抱え、ラ・ピュセルとリップルがラズリーヌIIの上腕部に掴まる。そのまま、ラズリーヌIIたちの姿が消えた。
バスッ、バスン、バスッ……バズゥウゥゥゥゥンッ!!
UPS室から高温の可燃ガスのジェットが吹き出し、管制室を一気に満たした。室内の空気が燃えている状態から、グリムハートはそれでも、トレーニングルーム側の出入口から管制室を脱出する。
── あの者が、自身の一味を巻き添えにするはずがない! すでに、すでに出入口は開いているのだ!
グリムハートは、そう確信して、出入口の方へと急ぐ。
だが、事態はもう、それを待ってくれなかった。
グリムハートが、名深市沿岸部を模したトレーニングルームに入った時────
発電機室の燃料庫にも、リチウムイオン電池からの高温ガスジェットが侵入した。非常用の冷却・消火装置はもう作動しない。
秘密研究所だったため、誤作動で周囲に知られることが無いよう、燃料庫のブローオフバルブも電磁式のみで、電力不足で固渋していた。
2.9トンのLPGが燃え盛りながら、ファニートリック達が開けたままにしたことで、圧力の逃げ場になっている出入口目掛けて、地下研究所内のあらゆる経路を走り、満たした。
フッ
少年野球場の駐車場に置かれた、人造アメジストのところへ、ラズリーヌIIが、ラ・ピュセル、リップル、それにテンペストを連れて現れた。
「ラ・ピュセルさん!」
待っていたリフレッシングブリーズが、その姿を見て声を上げた直後、
ゴォオォォォォン……
と、いう響きとともに、東の方で2ヶ所、既に陽が落ちている夜空が赤く明るくなった。
出入口のあった廃工場から炎が吹き出し、廃工場の構造物を一部、空高くまで跳ばした。もう1ヶ所、低層ビルに偽装していた給排気塔からも炎が吹き出した。
「さ、師匠、これどうやって収拾つけるか、見ものっすねぇ」
「ヒーローの言葉と顔じゃない」
妙にニヤニヤと楽しそうなラズリーヌIIの背後から、リップルがそうツッコんだ。ラズリーヌIIは、顔をそのままで肩を回すようなリアクションで崩れる。
給排気塔の方は、廃工場から西南西の方角にある、和菓子店の隣に低層ビルに偽装して建てられていた。通行人からは、一般客向けのテナントが入っていないと言うだけの、ただのビルにしか見えなかったはずだ。
「空から他に出入りできる場所探せったって……」
まだ陽が空にあった頃、この時はまだロックの掛かっている出入口を開ける手段がなく、ラ・ピュセルとリップルは扉の前で悪戦苦闘していた。
少しでも隙間があれば、小さくしたラ・ピュセルの剣を差し込んで巨大化させることで扉ごと破壊できるのだが、そういった部分だけは銀行の金庫扉のようにキッチリしていて、隙がない。
非常用にミクセリクサーがラズリーヌIIの宝石を持ち歩いていたが、魔法に対してもジャミングがかかっていて、そこへテレポートすることができない。
何より、できればミクセリクサーが大暴れして相手の注意を引いている間に、別ルートから侵入して、奇襲して確実に仕留めたかった。
「地下研究施設なんだぽん、データで送られてきた出入口の他に、資材搬入口や、換気のための給排気塔がどこかにあるはずだぽん!」
ネクがそう言い、それを探すため、トップスピードがラピッドスワローで上空から周囲一帯を探索していたのだが……────
「県営球場か……自販機で飲み物でも買うかな」
少し徒労感を感じ始めていたトップスピードが、そのあたりで少し高度を下げた時だった。
「!?」
それを見つけた。
「何だありゃ……ビルのかたちが上から見るとまるでエアコンの室外機……ああ! そうか! 見つけた、見つけたぞ! これだ! 給排気塔だ!! ネク、マークしろ!」
『了解だぽん!』
そして、
『ラ・ピュセル! トップスピードがそれらしい建造物を見つけたぽん! その位置までナビするぽん!』
と、ネクに知らされ、ラ・ピュセルとリップル、ラズリーヌIIがそのビルまで、文字通りに跳んできた。
『それは大丈夫です。インフェルノがガンガン燃やしても大丈夫な程の換気設備が動いてますから』
そう言うだけあって、給排気塔をビルに偽装したまでは良かったが、屋上を完全に偽装で覆うことはできなかったのだろう。吸気側のファンが見えるガードメッシュが上空からは丸見えだった。もっとも、地下に秘密施設がある、と知らなければ、Google Earthなどで見かけたとしても、「なんか変な建物があるな」止まりではあるだろう。
ラ・ピュセル達が侵入するために吸気ファンの1つを脱落させた時、当然、管制室のメインサーバ操作用PCには、吸気ファン1基停止の警告が出た。
しかしこの頃、クェイクとテンペストが
その上、
「煩い、その耳障りな音を止めよ」
と、グリムハートがシャッフリン達に指示していた。
その為、吸気ファン停止の警告は埋もれてしまい、ファン脱落跡からラ・ピュセル達が侵入したことに気づかなかった。人が楽々通れる大口径のダクト内で、それも少し身を屈めれば通れてしまうダクトダンパーの動作をラ・ピュセル達が妨げても、その警告も現状に関係ないものとして無視された。
もっとも警告を正しく理解していたとしても、この頃のグリムハートとシャッフリンたちにできることは限られていた。肝心のシャッフリンがUPEで半壊していた上、ミクセリクサー達を追うことを至上命題にしてしまっていたからだ。
低ナンバーのシャッフリンを少数向かわせたところで、ラ・ピュセル、リップル、ラズリーヌIIに対処できるはずもないことは記しておく。
そうして、ラ・ピュセル達はまんまと、これ自体は流石に閉鎖されている資材搬入口の踊り場に出た。UPS室、非常発電機室はその向かい
それはちょうど、ミクセリクサーがプリズムスプリントに魔力の薬をODされ、51体のトランプ兵を引き連れて管制室に突っ込んできた時だった。
インフェルノが燃やし、クェイクが暴れても平気な耐久度を持っている地下施設だけあって、2.9トンのLPGが爆燃を起こしても、構造物が崩落して地上が陥没するようなことはなかった。
ただ、出入口と、給排気塔からの火炎は止まらない。
市内の全部の消防署、全消防車両に出動命令が出ていた。5km弱離れているはずの、ラ・ピュセル達の現在地にも、消防車のサイレンが鳴り響くのが聞こえてきていた。
「後は……でも正直、オールド・ブルーに言い訳考えてもらうしかないんだよなぁ」
ラ・ピュセルは盛大に溜息を吐きつつ、そう言った。
オールド・ブルーが直接関係しているかはともかく、魔法の国、魔法少女部・研究部が関係していることについては、物証がある。ミクセリクサーの四次元ポーチlightの中に、研究部が使っていた魔力の薬の残りが、そのパッケージごとあるのだ。
左海消防本部は火災発生中の
魔法少女たちは、住宅などへの “飛び火” に備えて、その時まで待機していた。災害臨時放送を流していた地元ラジオ局が鎮火の判定を報道するのを、奇しくもと言うか必然と言うか、セルボとジムニーの両方に着いていたサンヨーFXCD系カーオーディオから聞こえてきたところで、彼女達は引き上げにかかった。
5ドアのボディを持つ華乃のセルボに、運転席に変身を解いた華乃、助手席に “本来、変身を解除している状態” の颯太が乗り込むと、その後部座席に、鳴と朱里が乗り込んだ。
「へっ?」
朱里まで乗り込んできたことに、少し慌てたような様子で颯太が後部座席を振り返る。
「いいだろ! この後どうなんのか最後まで付き合わせろ!」
「あ、う、うん……」
抗議するように荒く言う朱里に、颯太は、困ったような、気勢の削がれたような声を出す。
「出すぞ」
既にF6A型エンジンは始動されている。華乃がそう言って、MTのギアを1速に入れ、セルボを発進させる。
一方────
「すいませんっすねぇ、このクルマ後ろに人乗っけるようにできてないもんで」
瑠璃が、ジムニーを発進させつつ、ルームミラーで車内後方を見て、
「あ、いえ、大丈夫です!」
「気にしなくて大丈夫よ」
と、佳代と、変身したままの姿のカフリアが、それぞれそう返した。
タニグチのリアシートスライドステーを装着した上、完全にベンチそのもののSJ30系純正
「私が後ろ乗ったほうが良かったですか?」
助手席のミキが振り返り、申し訳無さそうに言うものの、
「あ、いえ、全然……大丈夫です!」
佳代は、恐縮した苦笑で、手を振りながら返した。
「私は居候みたいなものだし、気を遣わないで」
カフリアはそう答えた。
セルボにジムニーが続行し、つばめのジムニーノマドが通ったのと同じ経路で、高速道路の左海インターチェンジへと向かっていった。
出番はあったのに絵になるシーンがなかったのでここでリフレッシングブリーズ(真コスチューム)3連発
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ああスッキリ。高解像度版は後ほどpixivにて。
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