魔法少女育成計画2-o-H ―La Pucelle: Alive Chronicles 3― 作:神谷萌
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魔法の国 魔法少女部門・外交部。
事務長室。
「ええ、はい……いえ、市民に人的被害がなくて何よりです……」
事務長である魔法少女レディ・プロウドは、何かに堪えていると言うか、気まずくてしょうがないと言うか、とにかく嫌な汗をかきつつ恐縮しながら、電話口の相手と会話している。
「ええ、はい。具体的な補償は、後ほど部門長から改めて……はい。それでは一旦失礼します」
そう言って、レディ・プロウドは電話機の受話器を戻すと、
「──── ッ、魔法少女ってのはどいつもこいつも! 犯罪者か問題児しかおらんのか!!」
と、そう言って、2本生えているツノの根本、その外側あたりを、両手で激しく掻き毟る仕種をした。
ひとしきりそうしてから、レディ・プロウドは事務机の引き出しを開け、自身の血液を数ccずつ保存してあるミニボトルをひとつ、取り出した。
レディ・プロウドの魔法、 “自分の血を好きな液体に変えられるよ” で、その血液をスクラルファート系内用液に変化させる。そのフタを開けて口に運ぶ。魔法少女に日本の第2類医薬品相当の胃薬が効くのかという話だが、こんなものは気分だ。魔法少女は想いがすべて! ってなもんである。
── プロウドは、魔法少女じゃないんだろうか……?
レディ・プロウドを指導役とし、補佐役として傍につく魔法少女アンブレンは、そう思いつつも口には出さず、ただ、レディ・プロウドの為に水を汲みに行った。
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_名深北_
6 ↖出口_
カチャッ、チャッコッチャッコッチャッコッ……
これは、聞き慣れた音。
スチャッ、スコンッ!!
「なんだ? 今の音…………」
──── 約十分後。
名深市北渚地区。ミクセリクサーのアパート。
♪~
折りたたみ脚の円い卓袱台の上で、ミクセリクサーのスマートフォンが着信音を鳴らし始めた。本人が手にとり、発信元を確認して、通話をタップした。
「はい! もしもしです先生!!」
「ちょっ、おまっ」
傍にいたつばめが、慌てた声を出した。掃き出しの窓から外を見ていた燈、その隣りにいた小雪も、ギョッとして振り返る。
「お前、戸建じゃないんだから、もっと静かに……────」
つばめが横から言うものの、ミクセリクサーには、
「はい! こっちはみんなだいじょうぶです!」
と、まったくの暖簾に腕押しだった。
「はい、駐車場はだいじょうぶだと思います!」
『食べるものとかある?』
「ご飯ならすぐに炊きますが!」
『これから8人着くけど』
「その人数だとおかずと飲み物がないです!」
『だよね。なんか買ってく』
「はい!」
『じゃあ、もうすぐ着くから』
「はい! お待ちしております!」
そう言って、終話する。
「ミクセリクサーちゃん、もうちょっと声抑えるようにしようか?」
立ったまま、小雪が苦笑しながらそう言った。そのとなりで、燈も気まずそうに苦笑して頬を掻く仕種をしている。
「ほへ?」
ミクセリクサーは、小雪がなぜそう言っているのか解っていない様子で、キョトン、とした表情で小雪を見た。
「…………よく今まで苦情が来なかったな……」
つばめが、前髪を掻く仕種をしながらそう言った。
更に約十数分後。
陽の長い季節。既に白んだ空の下、アパート前の駐車スペースで、
パラッパッパッパッパッ……
アイドリングの回転数を維持する程度のアクセルの吹かし方で、瑠璃はジムニーを駐車区画に入れる。エンジンを切って、ドアを開けて降車する。助手席ドアからはミキが下り、助手席シートを前に倒して、カフリアと佳代が降りようとしている。
その時はすでに、華乃のセルボは瑠璃のジムニーの隣に駐車して、乗っていた4人は既に降車していた。
「気になる人間には気になるっすからね、2ストのパラパラ音……」
瑠璃が、アパートの建物を振り返りながら、言う。
買った時点で着いていたトルクフル系の社外チャンバーは穏やかな音のものだが、言う通り現役の2スト4輪車がもう旧車しかない現代、気になる人間には気になる音だ。
「この時間は気を使うっすよ」
「ラズリーヌ、そういうの気にするんだ」
マクドナ◯ドの大きな手提げ袋を2つ提げて、颯太が言う。
「ミクセリクサーと同じ程度の認識だと思ってた」
「スマホ越しで、クルマが高速走ってる中で、前の席から後ろのあたしまで聞こえてきてたからな……」
「どういう意味っすか!?」
颯太に続いて、同じくマ◯ドナルドの袋2つを提げた朱里がそう言うと、瑠璃が憤ったように抗議の声を上げた。
「あ、小雪来てるな」
1階のミクセリクサー宅の入り口前に、小雪の自転車が置いてあるのを、颯太が見て言った。だが、チェーンが外れた
颯太たちが扉の前に立った時、ガチャッと内側から鍵を外す音がして、玄関扉が開いた。
「お待ちしてましたー! です!」
別になにか特別マジカルなことをしたわけではない。瑠璃が駐車している間にスマホで「今着いた」とメッセージを送ってあったから、タイミングがあっただけだ。
ミクセリクサーの後ろに、朱里に見覚えのある顔がいた。
「お、小雪は小雪のままか」
「あ、やっぱり朱里ちゃんだったんだ」
颯太に続いて入ってきた朱里と、ミクセリクサーの頭越しの小雪とが、そう言い合った。
「あ、あの」
颯太がDKに入ったところで、燈がおずおずと声をかけてきた。
「えっと、キミが……」
「はい! プリンセス・インフェルノ様です!」
本人が自己紹介する前に、颯太の背後からミクセリクサーが声を張り上げた。颯太は、ちらりとミクセリクサーに視線を移し、すぐに燈の顔に向け直す。
「キミの事情は聞いてるけど……ああ、ごめん……」
苦笑しつつ言いかけて、颯太は言葉を途切れさせた。
「いえ、言いたいことは解ってます……ホントに珍しいのか、って話ですよね?」
燈の方も、きまり悪く苦笑しながらそう言った。
「うん、まぁ、そう……そう言うこと」
「充分広めの部屋なんだが、この人数だと流石に狭っ苦しく感じるな……」
苦笑しながら、つばめがそう言った。
DKの方にも小さめの折りたたみ脚の卓袱台を出して、6人・6人に分かれている。
DKで、持っていた四次元袋から、コンビニで買ってきた1.5l・2lペットボトルの清涼飲料水類を取り出して分配しつつ、
「この人数いると蒸すっすね……ミクセっち、こっちのエアコン入れてもいいっすか?」
「はい、どうぞです!」
と、訊ねる瑠璃に、居室の方からミクセリクサーが答えた。
居室にはDKに “お裾分け” できる程度のパナソニック製エアコンがついていて、既に稼働していたが、DKを充分冷暖房できるように、これまたつばめがどこからか見つけてきた中古整備品の、松下時代末期のウィンド型エアコンが後から取り付けられていた。
瑠璃は立ち上がると、エアコン背面の分だけ窓を開けて、エアコンの電源を入れる。
「で、だ、小雪」
卓袱台の上に “店” を広げていく中、朱里が小雪と颯太の近くに来て、声をかけた。
朱里は、ぽん、と颯太の肩に手を置く。
「改めて確認なんだが、
訊かれて、小雪は一瞬キョトン、としたが、すぐに朱里の意図を理解して、なにかを堪えるようにしつつ、
「うん、そう」
と、答えた。
すると、朱里は、
「岸辺、先に謝っとくな?」
と、真面目な、深刻そうな表情で、軽く俯きがちになりつつ、颯太にそう言った。
「え?」
その意味するところがわからず、颯太は訊き返すような言葉を出す。
「ムッ……グググ……さ、流石にもう限界だわ」
朱里は、そう言うと、それまでの深刻そうな表情が一気に崩れる。
「ブッ、ハ、アハハハハハハハ、ハハハハハ、あの岸辺が、あの魔法少女大好きだった岸辺が、マジで魔法少女になって戻れなくなってるとか、ちょ、もうだめ……ンハハハハハハ……」
壁に手を突き、ゲラゲラと笑い出した。
「ちょっ!?」
息ができなくなって苦しそうにしてまで笑う朱里に、流石に颯太が顔を歪ませる。
「そこまで笑わなくたっていいじゃない!?」
「ハハハハハハ……ハッ、わ、悪い、でも、こんなの笑わずにいられないだろ、ックククク……ハハハハハ……」
颯太の抗議の声に、朱里は言葉では悪いと言うものの、笑いが止められずにいた。
「あ、ハッ、あ、あたしが引っ越す直前には、ヒッ、ま、まわりには、『魔法少女は卒業しました』、みたいな顔してたのに……それだから余計に……ヒッ、ヒッ、クククククク……」
「え? それどういう意味……」
朱里の言い種が聞き捨てならないと、颯太が問い質す。
「小雪じゃなくてもみんな解ってたよ! 単に、 “岸辺と魔法少女” は
「なっ……なっ……!?」
朱里の答えに面食らったようにしながら、颯太は視線を小雪に移す。すると、小雪はいつの間にか颯太に背中を向けて、正座して肩を震わせていた。
颯太が後ろを振り返ると、つばめが卓袱台に突っ伏すようにしてゲラゲラ笑い、華乃は壁に両手を突いてなにかを堪えるように震えていた。
「みんなしてそこまで笑わなくてもいいだろ! 小雪、こっち向け!!」
ガヤガヤと、朝食というよりは遅い夜食を摂る中、
「先生」
と、バーガーを食べ終えてポテトをつまんでいた颯太に、ミクセリクサーが、正座して真摯な表情で声をかけた。
「ごめんなさい。それに、ありがとうございました」
「え?」
ミクセリクサーが軽く頭を下げると、颯太が、その意図を理解しきれずに訊き返す。
「テンペスト様のこと……────」
「ああ……」
それで、ミクセリクサーの言わんとする所を理解して、颯太は、ミクセリクサーに対して身体ごと向き直した。
「最初の管制室のところまでは、リアルタイムでネドからネクに届いてたからな……テンペストのところは……うーん……気にするなってのとはちょっと違うんだけど、ミクセリクサーが気に病んでもな……」
颯太が言い難そうに言う。
「ミクセリクサーが反省するべきなのは、2回目に突入したときのことだけど……」
「はい……」
ミクセリクサーが、珍しく落ち込みきった声を出す。
「デリュージ様のことですね……」
「うん」
2人がそこまで言った時、開け放たれたままの引き違い戸のDK側から、
「その、デリュージは!?」
と、隣にいた鳴とともに、燈が振り返り、緊迫した表情で問いかけてくる。
すると、
『プリンセス・デリュージは、多分 ────、いや
と、ネクの声が聞こえてきた。
『ラ・ピュセル』
「あ、うん」
ネクの促す声に、颯太は自身のマスター仕様マジカルフォンを取り出し、フリップを開いた状態にして、引き違い戸のレールの上に置いた。
ポンッ、と音を立てるようにして、ネクが姿を表す。ネドとは異なり、上が黒、下が白の配色に、その塗り分けの境界に赤い帯の入った、どこぞの空港連絡特急を思い起こさせる色になっている。
「あの、デリュージが死んでいない、というのは!?」
燈がネクに問い質す。
「ラ・ピュセル達が脱出する直前、ネクがあの地下施設全体をスキャンしたんだぽん」
「そんなことができるの!?」
鳴が訊く。
すると今度は、
『“NE-X” には造作も無いことだぽん』
と、そう言いながら、今度はミクセリクサーの左肩にネドが姿を表した。
「グリムハート達が設備のシステムを乗っ取って魔法ジャマーを作動させるまでに、ネドがあの施設全体の構造を走査して把握して、ネクとも共有してたんだぽん」
「で、ラ・ピュセルがUPSぶっ壊して魔法ジャマーが解けてから、脱出するまでネクが何回かにわけて施設をスキャンしてたんだぽん。脱出する直前にはデリュージの反応がなかったぽん。これは死んだんじゃないぽん。もし死んだなら “NE-X” には把握できるぽん。その場から姿を消してたんだぽん」
ネドに続けて、ネクがそのときの状況を説明した。
「じゃ、じゃあ、デリュージも!」
興奮した様子で、燈が問い質す。
「脱出した可能性が90%以上のはずだぽん。ただ……────」
「ただ!?」
燈と鳴が、声を重ねて問う。
「最後のスキャンの直前、下層側に、別の
「魔法少女っぽい?」
と、そう訊き返したのは颯太。
「似た感覚としては、ラズリーヌ
ネクがそう言うと、それまでDKの方で、佳代やミキ、カフリアと談笑してなにかゲラゲラ笑っていた瑠璃が、急に表情を険しいものにして、立ち上がり、燈と鳴の背後まで歩いてきて、
「3代目っすね」
と、覗き込みながらそう言った。
「言い切れるの?」
颯太が、眉を
「多分っす。けど初代があんなとこリスク承知でウロウロしてたはずないっすし、
「そ、それじゃ!」
燈が、鳴とともに期待を持った表情で、瑠璃に問い質す。
「連れ出したと思うんすけど……」
それを聞いて、燈と鳴はぱっと表情を綻ばせて顔を見合わせるが、瑠璃や颯太たち “名深の4人組” +1の表情は逆に一層険しくなる。
「オールド・ブルーの方に連れて行かれたか……めんどくさいことにならなきゃいいけどな……────」
具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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